坂本慎太郎が語る「いい曲」のかたち。キャリアを通じて貫く美学

坂本慎太郎の約1年ぶりとなるニューシングル2枚が、相次いでリリースされた。『好きっていう気持ち / おぼろげナイトクラブ』(2020年11月11日)、そして「ツバメの季節に / 歴史をいじらないで」(2020年12月2日)。この4曲の新曲は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されていた時期に書かれたものだという。

2020年初頭に発表されていた国内外でのツアースケジュールがほぼ白紙となり(姫路文化センターでの燻裕理、ゑでぃまぁこんとのライブ『ぎゃふん!』のみ9月に延期のうえ行われたが)、表立った活動ができなくなった時期に生まれたこの4曲。シンプルさを極めたサウンドにはアルバム『できれば愛を』(2016年)、シングル『小舟』(2019年)をさらに推し進めたバンドグルーヴを感じさせつつ、外の空気にほのかに漂う傷みを負った気配や、かつての日常が幻になってしまった現状に反応したような歌詞がいつになく耳に残る。

この新曲群でとらえた気配とはどんなものだったのか、そして表現者が感じたままを言葉や音楽にすることが難しいこの時代にあって、坂本が一貫して求めている感覚とは何なのか。2020年現在の坂本慎太郎のありようを聞いた。

坂本慎太郎(さかもと しんたろう)
1967年9月9日大阪生まれ。1989年、ロックバンド・ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。2010年、ゆらゆら帝国解散後、2011年に自身のレーベル、「zelone records」にてソロ活動をスタート。2020年、2か月連続シングル『好きっていう気持ち』『ツバメの季節に』を7inch / デジタルでリリース。様々なアーティストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。

コロナ禍に坂本慎太郎の4つの新曲はいかにして生まれたのか。ツアーも中止になるなか、当初はリズムボックスを使ったホームデモ風の作品をリリース予定だった

―2020年は、コロナウイルスによる影響がなければ4月は日本国内、6月はアメリカ西海岸ツアーが予定されていたわけですが。

坂本:2月くらいは「いくらなんでも6月のアメリカツアーくらいには大丈夫だろう」と思ってたんですけど、どんどん状況は悪くなって、結局もう無理だなとなっていきましたね。

―だんだんライブができなくなっていった状況をどのように受け止めていました?

坂本:2018~19年は自分としてはたくさんライブをやりましたけど、それ以前は7年くらいやってなかったですからね。そもそも普段は引きこもりっぽい生活をしてるので、あんまり生活スタイルは変わってなくて。でも、3月頃はあんまりやる気がしなくて1か月くらいはだらだらしてました。

そのうち、暇だし宅録でもやるかと思って、自分のやる気を奮い立たせるために前から欲しかったリズムボックスを買ったんですよ。ひとつはスライ(・ストーン)が使ってたMaestro「Rhythm King Mark I」、もうひとつはACE TONE「Rhythm Ace FR-1」っていう最初のモデル。そしたらやる気が出てきて、リズムボックスを使った宅録アルバムを1枚作ろうという気になったんです。

―そうだったんですか。

坂本:リズムボックスを使ったホームデモみたいな音源を聴くのも好きなんで、カセットテープでリリースするようなイメージのちょっとしたアルバムを自宅で仕上げようと思って、結構その作業をやってました。

ところがそのうち、4月に予定していたLIQUIDROOM公演の振替やツアーを7月にやれるかもという話になり、スタジオにメンバーで集まって練習をはじめたんです。やっぱり人と実際に音を一緒に出すと楽しいから、それで宅録モードはいったん中断になりました。だけど、結局7月の振替公演も中止になって、練習してたのが無駄になってしまった。

ただ、ライブは中止になっても練習スタジオの予約は残ってたし、その時点で歌詞までできていた新曲が4曲あったんです。なので、それをメンバーに聴かせて、練習していたら、やっぱり宅録でやるより生のドラムでやったほうがいいなと思うようになりました。

―それが今回のシングル2枚の4曲ですね。もともと宅録音源のつもりだったんですね。

坂本:そうなんですけど、まあどうせ(このコロナ禍で)みんな宅録やるだろうし、今後そういうのばっかり出るんじゃないかと思って(笑)、メンバーとも練習したのでそれを録って出すことにしました。

―スタジオに入った時点でもう歌詞まで完成してたというのは、ちょっと驚きです。

坂本:前のアルバム(2016年発表の『できれば愛を』)を作ってからも、ちょこちょこデモを作ろうとはしていたんで曲の断片みたいなのは結構あって。リズムボックスのアルバムを作るにあたって溜まっていた音源をもう一度聴き直して、ちょっと手を加えたらいけそうなものに歌詞を付け加えたりしてたんです。そうやってできたのが4曲でした。

―デモの段階で歌詞までできていたというパターンは、坂本さんにとって珍しいことなんじゃないですか?

坂本:そうでもないですね。『できれば愛を』なんかは歌詞まで全部できてたし、最近は歌詞までできないと「できた」って感じにならないというか。よくなりそうだなと思った曲でも、ちゃんと歌詞が乗って初めて「いいのができた」と思える感じなんです。

―シングル2枚の両面、合計4曲の歌詞を読むと「コロナ禍四部作」とも思えるんです。実際、この状況になってから歌詞は書かれたんですよね。

坂本:そうですね。ずっとマスクして毎日散歩しまくってたんですけど、散歩中の頭のなかや家にいるときに歌詞を考えて、そんな感じでできました。

歌詞を書く、ということの難儀さについて。内容はテーマ先行ではなく、音としての違和感のなさと歌って嫌じゃないことを優先するという

―坂本さんのそういう作り方自体はコロナ禍以前とはあまり変わらないのかもしれないですけど、やっぱり街の空気だったり、ライブ周りの環境や遊び場の状況が変わりましたよね。

坂本:実際、お店やライブハウスをやってる友だちは直接的に被害がすごくて。クラウドファンディングのリターンをいろいろ作って協力したり、自分でも寄付したり支援しました。

―最初のシングルのA面“好きっていう気持ち”の歌詞は、こういう状況でも音楽をやめられないし、続いていくことへの思いがいつになく前に出てると思います。

坂本:そうですね。ただ、わざわざ歌詞にして自分が歌うときに「これならいいかな」と思える幅がどんどん狭くなってきていて。いちばん重視してるのは「音で聴いたときに違和感がない」ということで、内容に関しては「歌って嫌じゃないこと」。だからほとんど消去法で、こういう曲になりました。

―メッセージ性があると受け取る人もいるでしょうけど、シンプルに読むとダメな男の半日の描写でもあるという。

坂本:暗い感じとか重い感じにもしたくなかったし、かといって根拠のない前向きな感じとかも無理なんで。そうなるとこんな感じになります。

―「トホホ感」というワードでこの曲を紹介している人もSNSで見かけて、言い得て妙だなと思ったんです。このコロナの状況って、打ち勝ったり逃げ切れてる人はいなくて、みんな同じようにくらっているわけで、そのことをあらためて実感もしました。基本はトホホで前に歩いていくしかないというか。

坂本:自分では楽しい曲のつもりなんですけどね。やっぱり今は、歌詞のある曲を作るのは難しいと思います、いろんな意味で。だからいつもよりちょっと時間かかりました。

坂本慎太郎楽曲の独特のムードを下支えするリズムの存在。秘密は、「もっさり」感と研ぎ澄まされた間の抜け方

―“好きっていう気持ち”のリズムとか、あんまり聴いたことない感じだなとも思ったんですが。

坂本:そうですか。たぶん、自分のギターの弾き方にすごくクセがあって。それは昔から自覚してるんですけど、それに菅沼(雄太)くんのドラムに合わせてもらってるからだと思うんです。ちょっとよれたというか、もっさりした感じでぴったり合う、みたいなことをずっと練習してたので。

―その「もっさり」は、どう自覚されてるんですかね。

坂本:自分がいちばんしっくりくる感じは、昔から変わってないと思うんですよね。端的に言うと「ずれてる」と思うんです。走ったり、もたったりもしてるかも。

坂本慎太郎“好きっていう気持ち”を聴く(Apple Musicはこちら

―ソロ活動開始以降、菅沼さんのドラムがすごく重要だと感じていますが、そのリズム面の感覚は坂本さんのデモに忠実なんですか? 少し現場でアレンジも加わる?

坂本:バスドラとスネアの位置とアクセントはデモどおりなんですけど、そのなかにちょっと色をつけてくれたり、曲の展開につれてアレンジしてくれてると思います。菅沼くんは音色や音の作りでの貢献もでかくて、イメージで言っても本当にそういうふうにしてくれるんですよ。

たとえば「全部の音が伸びずに一つひとつ止まるようにしてほしい。単にミュートするんじゃなくて、スネアでスパッと終わるように」って言うと、チューニングとかマイキングとかで調整して再現してくれるんですよね。こっちの言ってることもだいたいわかってくれるし。菅沼くんがいなくなるとちょっと困りますね。

―そもそも、1stアルバム『幻とのつきあい方』(2011年)の時点では坂本さんと菅沼さん2人だけでのレコーディングでしたもんね。

坂本:そうですね。たぶん、菅沼くんは僕のギターのよれた感じにすごく合わせてくれてるんです。ただ合わせればいいわけじゃなくて、合わすだけだとバンドのみんながもたった感じになっちゃう。もたっているのを聴きながらもたらず、という、そういうのは長いこと練習しないとなかなか出せないなと思いました。

坂本慎太郎“できれば愛を”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―何か他の音源を参照してできたのではなく、練習という連続性のなかから生まれたものだと。

坂本:いわゆるバカテクの感じは目指してないんですけど、かといって下手でも困る。マヌケな感じは常に出したいなというのはあって。マヌケっていうのが、ちょっと笑っちゃうようなマヌケじゃなくて、間が抜けてるんだけどすごくかっこいいみたいな。「この抜けしかない」みたいな研ぎ澄まされた間の抜け方、そういうのをすごく意識してますね。

―この抜けしかない間の抜け方。

坂本:カチッとできたものがあって、そこから重要なものがごっそり抜けてるんだけど、その抜け方であれば成立してしまうような。あと、残ったものすべてが必要で、なくなったところに何かすごく宿るみたいな、そういうかっこよさを追求してます。

「すごくマヌケな状態でピシッと無重力状態にあるのが、僕の思うかっこよさなんです」

―そういう意味では、カップリングの“おぼろげナイトクラブ”もすごいですよね。歌詞も言葉遊びのようでもありますが、それだけではない深みというか沼っぽさがすごいです。<変な預言者と陰謀論者となんとか神社の信者と神父が喧嘩してる>とか。

坂本:これは、全部真ん中に「ん」がくる言葉だけで作ったんです。このリズムに合わせて、そういう言葉だけで文章にしたんですけど、これは結構うまくできたかな。

―クラブでDJパーティーがあって、夏の明け方くらいで、酔っ払ってソファーに寝てたりしてる客もいて、みたいな光景を思い出しますけど、ハッとさせられるのは、それも今では幻かもしれないと感じるからかも。ジャケットのイラストは、LIQUIDROOMの2階(LIQUID LOFT)ですよね。ああいう場所が失われないように、という思いも感じました。

坂本:まあ、そうなんですけど、別にそういう曲を作りたいわけじゃなくて。クラブとかライブハウスみたいな場所はもちろん心配だし、自分もそういうところにいたわけだからいろんな思いはあるんですけど、それを曲にしたかったわけじゃないんですよね。

坂本慎太郎『好きっていう気持ち』ジャケット

坂本:ただ、思ってもないことは歌詞にできないし、そういうことばかり考えてるから歌詞にそれが出ちゃったという感じなんです。だけど、それで感傷的な感じとか、「みんな頑張ろう」って感じにもしたくなかったので、自分なりにさじ加減をはかってできました。

―ただ、この曲の前半の歌詞は、ずっとナイトクラブの情景を描写してるんですけど、後半の<この世には思ってるようにいかないことばかり>からのフレーズではふっと内面的になって、ここだけ真ん中の「ん」もなくなる。そういうところのスリリングさも坂本さんらしさだと思いますね。

坂本:本当は「なんだかよくわかんないけどおもしろい」という歌詞にしたいんですけど、なかなかそこまでいってない、という感じですね。奇をてらった感じでもなくそれができればいいんですけど、まだ「こういうこと考えてるんだろうな」みたいなのを匂わせてしまうところで、自分はまだまだって感じです。

坂本慎太郎“おぼろげナイトクラブ”を聴く(Apple Musicはこちら

―ありきたりな「かっこよさ」との線引きみたいなものも感じますが。

坂本:自分のなかではかっこいい感じになってるんですけどね。なんていうんですか、「簡潔で全部がピシッと決まってて、それ以外ない」みたいな状態になってる感じ。しかもそれが、あんまりそうとは思わせない、みたいな。その状態になるのはすごく難しくて、滅多にならないんですよ。

絶妙なバランスで成り立ってるんだけど、それがひとつでも違うとダメで、いろんな磁場のどこにも振れないまま真空状態にとどまってるみたいなイメージですね。だから、歌詞も意味がどうこうじゃなくて、音とか曲とか全部があって成立している。

ワンフレーズ違うだけでわかりやすい歌になっちゃったりするし、音色がちょっと変わるだけ違う感じに聴こえたりするものなんですけど、その寸前で踏みとどまってる。すごくマヌケな状態でピシッと無重力状態にあるのが、僕の思うかっこよさなんです。

坂本慎太郎“君はそう決めた”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

坂本慎太郎はどのように歌詞を形にしていくのかーー「いいこと言ってるからいい歌詞だってわけじゃないですからね」

―今回のリリースを7インチ2枚にするというアイデアは、最初からあったんですか?

坂本:もっと曲を作りためてアルバムにするというアイデアもあったかもしれないんですけど、やっぱり歌詞に時間がかかるなと思ったのと、9月に1本、姫路でライブ(9月21日に行われた『ぎゃふん!at 姫路文化センター』)をやることは決まったので、その練習でまた曲作りが中断するから、だったら今ある4曲をパッと出しちゃおうと。そうしたときに7インチ2枚というのがいちばんいいかなと思ったんです。

―2曲ずつの分け方としても?

坂本:そうですね。4曲入りのミニアルバムよりは7インチのほうがいいかなと思って。分け方は、どの組み合わせがいいかというのと、どっちを先に出そうか、くらいしか考えてなかったですね。

―最初が“好きっていう気持ち”になったのは?

坂本:それは、この曲が最初にできたからですね。

―ということは、2枚目のシングルになる“ツバメの季節に”“歴史をいじらないで”はそのあとにできた曲同士のカップリングということですよね。なんとなく“好きっていう気持ち”からの気持ちや時間の流れを感じるところもあります。やっぱり歌詞に苦労したという話を聞くと、1曲できたら、そのときのモードが次の曲の歌詞にも多少つながっていくのかなとも思いますし。

坂本:どうなんですかね。これは前からなんですけど、曲は完全にリズムとメロディから作って、歌詞はそこにぱちっとハマるフレーズを探すところから作りはじめるんですよ。なにかテーマがあって「こういう曲にしよう」と思って作ってるわけじゃなくて、最初にハマったフレーズの影響が全体的に大きいですね。それもだいたい歌い出しのフレーズが最初で、まあ何度も鼻歌で歌ってて部分的にぱちっとハマるときもありますけど。

―じゃあ、“ツバメの季節に”は<ツバメの季節にまた会えるかな?>ってフレーズから広がって?

坂本:そういう言葉がパッと口をついて出てきちゃったのは、あるかもしれないです。歌詞は、頭をなるべく使わずにフレーズがパッと浮かぶ状態にするのがまずは大事で。そうやってパッと浮かんだときに捕まえる状況に自分を持っていく。そうしないと、なかなかいいのはできないんですよね。

それに最初に浮かんだフレーズから辻褄が合いすぎていたり、理路整然と作っちゃうと、どんどん曲がしぼんでいっちゃうんです。ひとつフレーズがあったところに全然違うものがハマって化学反応が起きる。そういうことをいろいろ考えてやってます。

―この曲の<更地になれば最初が見れるよね?>ってフレーズがすごいです。今の時代がだんだんダメになっていくことは感じていても、そこから「最初が見れる」ってイメージを捕まえている。この提示はすごいですよ。

坂本:そうですか。

坂本慎太郎“ツバメの季節に”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―それと、「ツバメの季節がきて、また春が来るよ」という希望の提示を、ドラマチックにならないギリギリで交差させてて。“歴史をいじらないで”もそうですけど、この2枚目のシングルで歌われている視点は、1枚目よりちょっと時間が経過していて、現状の風景や社会にインスパイアされている感じはします。

坂本:うーん、そうかもしれない。わかんないけど。歌詞は難しいですよ。いいこと言ってるからいい歌詞だってわけじゃないですからね。曲の要素でしかないから。

坂本慎太郎の楽曲が日本語のまま海外で受け入れられてきた要因を見つめる

―でも、リズムとメロディに合う、ギリギリの言葉を真剣に探してるから、聴き手にパッと乗り移るというのはあるかも。

坂本:そうですね、歌詞を気にしない人ってよくいるじゃないですか。歌詞は聴かない、サウンドだけ気にするって派と、歌詞重視派がいると思うんですけど、僕は歌詞にこだわってるって言われるんだけど音重視派というか。言葉が入ってきたときに音を邪魔しないことと、音として心地よくて聴いて嫌じゃないってことを意識して作ってるんです。だけど、意味がない言葉じゃなくて、内容があるようにも聴こえるというもの。

ダイレクトに頭に入ってきて、鼻歌で歌うとソラで聴いた人が歌えちゃうんだけど、歌詞の意味を考えることもない状態というか、言葉を意識させないというか、それくらいになってるのがかっこいいですよね。童謡とかCMソングとか、子どもの頃聴いてたものって意味わかんなくて頭に入っちゃってたじゃないですか。まあ、ずっとそういうことをやってるんですけど、だんだんうまくできるようになってきたとは思ってます。

―それでいうと、去年、アメリカツアーで観た“あなたもロボットになれる”でアメリカ人の観客が「ロボット!」って歌ってた光景を思い出します。英語の発音の「robbot」だと、ああはならない。あれも言葉として入っちゃってるってことですよね。

坂本:僕らも英語の意味わかんないまま洋楽を聴いてきたけど、歌い回しとか発音込みで聴いていて、語尾の響きとかテンポとかをかっこいいと感じるわけじゃないですか。自分の音楽もその逆になっていれば、言葉が通じない国でもちゃんと音楽は伝わると思っているんです。

日本語で聴いたときに歌の内容がいい曲でも、音だけで聴いたときに別によくないと、日本語がわからない人はいい曲と思わないから。日本語がわかってもわかんなくても、いいと思えるほうがいいじゃないですか。

坂本慎太郎“あなたもロボットになれる”聴く(Apple Musicはこちら

「音として」と意味の間を漂う歌詞と、坂本慎太郎の声の関係

―『できれば愛を』の頃のインタビューで、自分の声はマジメに思わせる声だと発言されていたのを読んだ記憶があります。

坂本:そこはもうどうしようもないんですよ。無垢な感じで歌ってみようとすると、僕が思ってるものと真逆な音楽になるので。本当は何も考えずに歌えたらいいんですけどね。

すごくかっこつけた感じが出ちゃったり、うまく歌えて自分に酔ってる感じが出ちゃったりするとダメなんで、なるべく気をつけてます。エフェクトを使うのも、そういう声の要素を消すためなのかもしれない。人が歌ってるのを見てて「今、気持ちよくなってるな」っていうのが見えちゃうと、すごく醒めたりする。逆にうまくなくても感動する場合もあるし。

坂本慎太郎“スーパーカルト誕生”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

坂本:たとえば、僕は1960年代のガレージパンクが好きなんですけど、ああいうのって子どもたちが何もわかんなくても、わーってやってるから成立してて。でも好きだからって真似しても絶対できないんですよね。作為があったら出ない声があるし、真似してアホっぽくしてるのと、心の底からアホなのと聴いたらわかると思うんですよね。

そうすると自分ではできないことが多すぎて、聴きたい音楽と自分が作る音楽とのギャップが出てくるんですけど、その差をいかになくして「これならいいか」と思えるところに持っていけるかを考えてますかね。

「やっぱりいい曲作るってことを続けるくらいですかね、それはずっと変わんないです」

―サウンド的なイメージで特に意識したことは? 『できれば愛を』以降というか、音数を抑えたスカスカ感みたいな感じもありますし、もともと宅録前提だったと聞くと、その要素もよくわかる気はします。

坂本:サウンドは、『できれば愛を』でやろうとしたサウンドからあんまり好みは変わってなくて。ちょっとモコモコして、スペーシーじゃないディレイと、もっこり具体的なサウンド。幻想的じゃなくて具体的なんだけど、ぐにゃぐにゃしてる。

坂本慎太郎“歴史をいじらないで”を聴く(Apple Musicはこちら

―『できれば愛を』以降の変化で、いちばん大きいのはライブ活動の開始ですよね。ライブのための練習を重ねてきて、お互いの意思が通じやすくなっているというところもあるんですか?

坂本:ありますね。打ち込みじゃない、もっさりしたノリは意識してやってますけど、やっぱりすぐにはできないものなんだなというのはわかりました。「ただ合わせただけ」みたいな感じじゃできない。

―今のバンド4人(坂本、菅沼、AYA、西内徹)によるもっさり感は、今回のリリースでも純化されていると感じましたが。

坂本:もっさりさくさく、ですね。どよーんとしない風通しのよさがありつつ、もっさりする、って感じ。まあ、自分の頭のなかには好きな感じがあるので、それを目指してやってます。

―今回のシングル2枚は、坂本さんの考えている自分の作りたい音楽を連続性のなかで考えていくことと、ミュージシャンにとって難しい状況である現在との両方で生まれたものだと感じてます。このシングル2枚のあと、というのが気になります。アルバムに向かうのかどうか。

坂本:がっちりバンドでニューアルバムを作る気にはあんまりなってないですね。やっぱりいい曲作るってことを続けるくらいですかね、それはずっと変わんないです。それをどうするかはわかんないけど、とりあえずいい曲は常に作りたいので。

―また今回みたいにいい歌詞が思いついて、ポッと曲ができたらすぐリリースするというのもいいですし、聴きたいです。

坂本:ああ、いい曲ができたらすぐ出したいですけどね。ぽんぽんできたら出しますけど、頑張ったらすぐできるっていうわけじゃないので。

―でも、できたときに反応できる反射神経はキープしておきたいという。

坂本:そうですね、ひらめいたらすぐやりたいですけど、無理矢理絞り出すような感じでやってもね、って感じです。

リリース情報
坂本慎太郎
『好きっていう気持ち』(7インチアナログ盤)

2020年11月11日(水)発売
価格:1,430円(税込)
zel-023

[SIDE-A]
1. 好きっていう気持ち(The Feeling Of Love)

[SIDE-B]
1. おぼろげナイトクラブ(Obscure Nightclub)

坂本慎太郎
『ツバメの季節に』(7インチアナログ盤)

2020年12月2日(水)発売
価格:1,430円(税込)
zel-024

[SIDE-A]
1. ツバメの季節に(By Swallow Season)

[SIDE-B]
1. 歴史をいじらないで(Don't Tinker With History)

プロフィール
坂本慎太郎
坂本慎太郎 (さかもと しんたろう)

1967年9月9日大阪生まれ。1989年、ロックバンド・ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。2010年、ゆらゆら帝国解散後、2011年に自身のレーベル、「zelone records」にてソロ活動をスタート。今までに3枚のソロアルバム、1枚のシングル、9枚の7inch vinylを発表。NYの「Other Music Recording Co.」から、1stアルバム『How To Live With A Phantom』(2011年)と2ndアルバム『Let’s Dance Raw』(2014年)、「Mesh-Key Records」から3rdアルバム『Love If Possible』(2016年)をUS/EU/UKでフィジカルリリース。2017年、ドイツのケルンでライブ活動を再開し、国内だけに留まらず、2018年には4か国でライブ、そして2019年USツアーを行う。今までにメイヤー・ホーソーン、デヴェンドラ・バンハートとのスプリットシングルや、2019年、サンパウロのO Ternoの新作に1曲参加。2020年、2か月連続シングル『好きっていう気持ち』『ツバメの季節に』を7inch / デジタルでリリース。様々なアーティストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。



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