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谷賢一『福島三部作』を語る。これは日本人が選び取ってきた物語

谷賢一『福島三部作』を語る。これは日本人が選び取ってきた物語

『TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

毎年2月に横浜を舞台に開催される『TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜』。例年は、海外から多数のカンパニーや舞台関係者が集い、作品を観ながら活発な意見交換がなされる。だが、コロナ禍が猛威を振るう今年は、その方針を変換。劇場上演作品数を縮小し、オンラインや展示形式の作品の割合を増やした。

そんななか数少ない上演形式で届けられるのが、DULL-COLORED POPを主宰する谷賢一の『福島三部作』だ。福島県における原発問題を全3部、計6時間の上演で描いたこの大作は、2018年に第1部を先行上演、2019年に3作品を一挙上演し10000人以上を動員。2020年度の『岸田國士戯曲賞』を受賞するなど、高い評価を得た。

1961年に始まり、2011年の原発事故までを追う同作は、演劇的な喜びと同時に、日本が歩んできた不条理に満ちた戦後史を骨太に描いている。全世界に向けたオンライン上演も行う同作を、いま、この時代に見る意味とはなんだろうか? 再演を控えた谷に、同作について訊いた。

一体何が正しいのか、簡単には結論の出ない問題について対話するのが演劇

―『福島三部作』は、それぞれ長男、次男、三男を主人公にしたクロニクルです。こういった構成にしようと思った理由はなんでしょうか。

:2011年の東日本大震災を機に、福島は「フクシマ」「原発」というキーワードで世界中に知れ渡ってしまいましたが、多くの人にとっては遠い土地のイメージだったでしょう。

でも、母が福島出身で、父が原発に出入りしていた技術者だった僕にとってはとても身近で、原発にまつわる巨大な利権構造や経済や雇用に与えるインパクトもなんとなくイメージできました。ただそれはあまりに複雑な政治と経済の話であり、普通の人にはやはり伝わりづらい。

そこで、ある家族の50年の生活や人生と、原発を結びつける構成にしようと思いました。それは『福島三部作』のためのリサーチを始めた2016年から一貫しています。

谷賢一(たに けんいち)<br>作家・演出家・翻訳家。福島県生まれ、千葉県育ち。明治大学、イギリス・ケント大学で演劇学を学び、2005年に劇団DULL-COLORED POPを旗上げ。2016年にセゾン文化財団ジュニア・フェローに選出される。シルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレ、シディ・ラルビ・シェルカウイなどの作品にも脚本や演出補などで参加している。2020年『福島三部作』にて第23回鶴屋南北戯曲賞、第64回岸田國士戯曲賞受賞。
谷賢一(たに けんいち)
作家・演出家・翻訳家。福島県生まれ、千葉県育ち。明治大学、イギリス・ケント大学で演劇学を学び、2005年に劇団DULL-COLORED POPを旗上げ。2016年にセゾン文化財団ジュニア・フェローに選出される。シルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレ、シディ・ラルビ・シェルカウイなどの作品にも脚本や演出補などで参加している。2020年『福島三部作』にて第23回鶴屋南北戯曲賞、第64回岸田國士戯曲賞受賞。

―おおよそ3年にわたる本当に長いリサーチの時間ですよね。文献や行政文書の掘り起こし、現地での長期調査も何度も重ねたと聞きましたが、リサーチでの印象に残った出来事はありましたか?

:会った人や物事全部がそれぞれに印象深いので1つを選ぶのは難しいんですが……、つい最近、ある俳優に話していて思い出したエピソードが、震災直後の福島を取り巻いていたものをギュッと凝縮しているのでお話します。

郡山に住んでいる僕の親戚に、リサーチを兼ねて挨拶に行ったんですが、家中の壁という壁をすべて真っ黒い布で覆ってるんです。住宅街のなかに暗幕で覆われた家が突然現れるわけですが、実に異常な光景です。

その親戚は、放射能が恐ろしくてそんなことをしていたんですね。布を巻いておけば、ちょっとでも軽減されるだろう、と言って。科学的に言ってそんなことは、まったくあり得ないんですが……。

僕が家に入るときも服を全部脱がされて、埃や汚れを全部落としてからでないと入れてもらえませんでした。外の空気や埃は放射能でやられていると思っている。

もちろんそんなに線量が高いわけ、ないんですよ。だけど本当だったら、シャワーも浴びてほしかったんじゃないですかね。

その親戚の叔母さんは、異常なまでの対応をしてはいましたが、性格はとてもいい人です。震災当時のこととか、今の生活のこととか、何でも話して教えてくれる。

ところが僕に食事を出しながら、「(この料理は)大丈夫。材料は全部県外のものだから!」なんて言うんで、びっくりしてしまいました。福島県民である叔母さん自身が、一番福島の食材を怖がっている。

第1部『1961年:夜に昇る太陽』 ©bozzo
第1部『1961年:夜に昇る太陽』 ©bozzo(サイトで見る

:この叔母さんのエピソードに限らず、福島県民自身に福島県産の食材や水を排除しようとする傾向、風評被害があることがわかった。県民同士でのいがみ合いや差別があることもわかった。原発事故が引き金となって地域が分断され、争わなくていい人たち同士が争っている、福島県民同士がお互いに敵対してしまっている状況にショックを覚えました。

―第3部の『2011年:語られたがる言葉たち』では、現代の福島県の人たちが登場しますが、まさにそういった衝突や摩擦が描かれていますね。さまざまな仲違いや衝突は三部作全体を貫いたモチーフでもあります。

:結果的に、口喧嘩や言い争いのシーンがやたら多くなっていますが(苦笑)、でもそれは、「演劇ってなんだろう?」という根源的な問いにつながっているんです。

第1部『1961年:夜に昇る太陽』 ©bozzo
第1部『1961年:夜に昇る太陽』 ©bozzo

:演劇とは基本的に、価値観や考え方や生き方の違う2人以上の登場人物が出会い、対話するものです。劇作家の木下順二はこのことを一言で「演劇とは対立である」と喝破しています。それぞれの主張がぶつかり合い、そしてどちらが正解ということもない。

生きていく上で一体何が正しいのかをめぐって、お互い立場の違う、簡単には結論の出ない問題について対話・対立するのが演劇の基本的な構造なんです。そして原発を取り巻く問題には、まさにお互い立場の違う、簡単には結論の出ない問題が非常に多い。

町の未来をどう選択すべきか、どう働き、どう家族を守っていくのか……というのは本当に答えの出ない問いですよね。『福島三部作』では原発から端を発したそんな問いと対立を描いている。だから喧嘩や議論のシーンが多くなるのも当然なんですね。

谷賢一
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イベント情報

『TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021』
『TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021』

2021年2月6日(土)~2月14日(日)
主会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場、BankART Temporary(ヨコハマ創造都市センター)、横浜市役所アトリウム、横浜⾚レンガ倉庫1号館

公演情報

『福島三部作』

神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ

第1部『1961年:夜に昇る太陽』
2月12日(金)11:15
2月13日(土)11:15
2月14日(日)11:15
オンライン配信
2月9日(火)19:30(ライブ配信)
2月10日(水)8:00(2月9日公演の録画)
上演時間 約120分

第2部『1986年:メビウスの輪』
2月12日(金)14:30
2月13日(土)14:30
2月14日(日)14:30
オンライン配信
2月10日(水)19:30(ライブ配信)
2月11日(木)8:00(2月10日公演の録画)
上演時間 約120分

第3部『2011年:語られたがる言葉たち』
2月12日(金)17:45
2月13日(土)17:45
2月14日(日)17:45
オンライン配信
2月11日(木)19:30(ライブ配信)
2月12日(金)8:00(2月11日公演の録画)
上演時間 約120分

オーディエンス
指定席 ¥3,500
オンライン配信 ¥3,500

プロフェッショナル
指定席 ¥1,000
オンライン配信 ¥1,000

文化庁令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『JAPAN LIVE YELL project』

主催:文化庁、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会、PARC – 国際舞台芸術交流センター、国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021 実行委員会

コロナ禍により失われた文化芸術体験の機会を全国規模で取り戻すとともに、人々の創造、参加、鑑賞を後押しするため、全国27都道府県の文化芸術団体と連携するプロジェクトです。

プロフィール

谷賢一(たに けんいち)

作家・演出家・翻訳家。福島県生まれ、千葉県育ち。明治大学、イギリス・ケント大学で演劇学を学び、2005年に劇団DULL-COLORED POPを旗上げ。2016年にセゾン文化財団ジュニア・フェローに選出される。シルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレ、シディ・ラルビ・シェルカウイなどの作品にも脚本や演出補などで参加している。2020年『福島三部作』にて第23回鶴屋南北戯曲賞、第64回岸田國士戯曲賞受賞。

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