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売野機子が語るエリック・ロメール。自分の気持ちに素直な自由さ

売野機子が語るエリック・ロメール。自分の気持ちに素直な自由さ

ザ・シネマメンバーズ
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
撮影:前田立 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

根本的な悩みは100年前から変わらないことを知って、孤独じゃないって思う

―フランス映画の虜になってから、作風が変わることはありましたか?

売野:変わりはないですね。むしろ、自分のままでいいことを認めてもらったような気がします。日本だと、私らしさってあまり受け入れてもらえなかったんです。私は意見をはっきり言うし、批判もしますし、喜怒哀楽も激しい。日本では異質だったアイデンティティが、フランス文化だとむしろ合致して、生きやすくなったと感じます。あと、フランス語を学ぶ中で知ったことや価値観の広がりは、経験として私の作品全体に染み渡っていると思います。

―なにかを学ぶことは、自分の軸を強くして、拡張してくれる喜びがありますよね。それは作品ににじみ出てくるものだと思います。

売野:フランス語の学校に通って嬉しかったのは、ロールモデルができたことですね。私は平日に通っていたので、だんだん上級クラスになると周りは70~80代の人ばかりになります。そこにいる人は留学や仕事のためではなく、勉強したいからしよう、という人たちなんです。フランス語を習得した先になにか目的があるのではなく、ただ勉強が楽しいから勉強する。役に立たないことだろうが学んでいい、いつ始めたって構わない。おばあさんになっても勉強し続けていいんだと思える光景は、私にとって救いになりました。学生の頃は勉強が大好きなのに授業が苦手で苦労しましたが、それは授業のあり方が合わなかったのだと大人になってわかりました。

フランス語の授業ではいくらでも手をあげて、自分の意見を言っていい。「意欲がある学生」をやっても、誰にも揶揄されないし、むしろ歓迎されてとてもうれしかった。政治の話題など意見がわかれる話題も、いろんな立場の人がいていいというスタイルが心地いいですね。小中高の教育では、正しい答えが必要とされたけれど、フランス語の授業や教科書からは、それぞれの立場を表明して自分の意見を言うことが尊重されています。違う意見でも、その人が断罪されることはない。別の議題になったら、さっきまで意見が異なっていた人が同じ意見を発信していたり。フランス映画でもよく見る光景ですよね。

それまで私の漫画は窮屈な世界を描くことが多かったのですが、彼らのそういうあり方に影響を受けて、もう少し希望のある広い世界を描けるようになったかもしれません。

―フランスに行かれたときも、現地でそういった希望を感じる瞬間はありましたか。

売野:日本で、シングルマザーとして子どもを育てていると、絶句するようなことがたびたび起きるんですね。でも、フランスでは自分が尊重されていると初めて思えた。それは成熟した1人の人間として認められている嬉しさを感じます。

売野機子

―最後に、そうしたフランスの文化が色濃く反映されたロメールの作品が特集されている『ザ・シネマメンバーズ』ですが、実際にご覧になってみていかがでしたか。

売野:なかなか他のストリーミングサービスに入ってない、ミニシアター作品もラインナップにあるのが、嬉しいですね。人生を描いた素晴らしい作品である『サンドラの週末』(2014年)が好きなので、ダルデンヌ兄弟の作品もあるのがうれしいです。あと、マチュー・アマルリックが好きなので、『皆さま、ごきげんよう』(2015年)が配信されているのもいいですね。

―映画を見るときに参考にされているサイトや批評家の方などいらっしゃいますか?

売野:自分の感覚で選ぶんですけど、観終わった後にいい映画でも悪い映画でも「AlloCine(アロシネ)」というフランス語で書かれた映画の批評サイトをよく読んでいます。フランス人って、レビューが異様に長いんですよ(笑)。ひどい作品に対してはものすごく辛辣だし、いい作品だと言葉を尽くして褒めるんですよね。

売野機子

―以前までは現代の作品を観られることが多いとおっしゃっていましたが、過去の作品に触れる面白さとはどういったところにあると思いますか?

売野:若い頃って、古典作品が耐えられないことがありますよね。音楽も服も、ひと昔前のものだからダサく感じてしまう。でも、今はそういった価値観を乗り越えました。昔と今とはジェンダー観も、なにを大事にされているかの価値観も違っています。でも、根本的な悩みや心の動きは今と変わらない。相変わらず人と論じ合っているし、恋愛をしているんですよね。100年以上前の人も、今の私と同じことで頭を抱えているんだと思うと、孤独じゃないなって感じます。

『ザ・シネマメンバーズ』ABOUT画面
『ザ・シネマメンバーズ』ABOUT画面(サイトを見る

―たくさんフランスへの愛を語っていただき、今回はありがとうございました。

売野:(『ザ・シネマメンバーズ』担当者に向けて)あの、1点だけ最後にお願いがあって……デプレシャンの『イスマエルの亡霊たち』(2017年)を配信できるようにしてもらえませんか? 映画祭でしか上映されなかったんですが、そのときにちょうど観られなくて。このまま『イスマエル~』見られないで死ぬのかなと思って(笑)。『ザ・シネマメンバーズ』でぜひ配信してください、お願いします!

(ザ・シネマメンバーズ担当の方):時間はかかるかもしれませんが、なんとか頑張ります!

売野機子
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リリース情報

『ザ・シネマメンバーズ』

ミニシアター・単館系作品を中心に、 大手配信サービスでは見られない作品を「映画が本当に好きな人」へお届けする配信サービス。毎月お届けする作品は、 ごく限られた本数だが、 しっかりとセレクトした作品のみを提供。 500円(税別)で1カ月、 好きな時に好きな場所で見られる、 デジタル上のミニシアター。

プロフィール

売野機子(うりの きこ)

漫画家。東京都出身。乙女座、O型。2009年「楽園 Le Paradis」(白泉社)にて、『薔薇だって書けるよ』『日曜日に自殺』の2作品で同時掲載デビュー。『薔薇だって書けるよ―売野機子作品集』(白泉社)、『ロンリープラネット』(講談社)、『MAMA』全6巻(新潮社)、『かんぺきな街』(新書館)、『売野機子のハート・ビート』(祥伝社)、『ルポルタージュ』(幻冬舎)ほか、著書多数。

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