
網守将平が佐々木敦、永井聖一と語り合う「コロナ以降の音楽」
網守将平『Ex.LIFE』- インタビュー・テキスト・編集
- 金子厚武
- 撮影:豊島望
東京藝大の作曲科出身で、アカデミックなオーケストラ作品を手掛ける一方、ソロでは先鋭的な電子音響からポップスまで、実に多彩な作風を展開する音楽家・網守将平。近年では大貫妙子やDAOKOの作編曲を手掛けるなど、さらに活動の領域を広げ、その異才ぶりは多くの人に知れ渡っている。新作『Ex.LIFE』では自身の歌とビートを封印し、またしても新たな境地へと踏み込んでみせた。
今回CINRA.NETでは、網守が以前より影響を公言しているHEADZの佐々木敦と、DAOKOのバンドで活動をともにし、『Ex.LIFE』にも参加している相対性理論の永井聖一を迎えての鼎談を企画。『あいちトリエンナーレ』とコロナ禍を経て、普遍を目指したというアルバムを起点に、これからの音楽、芸術・文化のあり方について語り合ってもらった。

網守将平(あみもり しょうへい)
音楽家 / 作曲家。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。学生時代より、クラシックや現代音楽の作曲家 / アレンジャーとして活動を開始し、室内楽からオーケストラまで多くの作品を発表。また東京芸術大学大学院修了オーケストラ作品は大学買上となり、同大学美術館にスコアが永久保存されている。近年はポップミュージックからサウンドアートまで総合的な活動を展開。様々な表現形態での作品発表やパフォーマンスを行う傍ら、大貫妙子やDAOKOなど多くのアーティストの作編曲に携わる。またCMやテレビ番組の音楽制作も手掛ける。コラボレーションワークも積極的に行っており、大和田俊、梅沢英樹、小山泰介など音楽に限らず多くのアーティストとの作品制作を断続的に行っている。
藝大の付属高校に通う網守のアウトサイダー欲望に火を点けた、新宿タワーレコードと雑誌『FADER』
―最初にそれぞれの関係性について話していただけますか?
網守:まず僕はCINRA.NETの取材がこの3人になったことに感動してるんですよね。すごくいいバランスだし、すごく影響を受けている方々なので。
佐々木:最初に会ったのはいつでしたっけ?
網守:会ったのは藝大の授業ですね。
佐々木:藝大の音楽環境創造科で「音響表現論」という講義を何回か担当してるんです。

佐々木敦(ささき あつし)
文筆家。1964年、愛知県名古屋市生まれ。1995年、「HEADZ」を立ち上げ、CDリリース、音楽家招聘、コンサート、イベントなどの企画制作、雑誌刊行を手掛ける一方、映画、音楽、文芸、演劇、アート他、諸ジャンルを貫通する批評活動を行う。2001年以降、慶應義塾大学、武蔵野美術大学、東京藝術大学などの非常勤講師を務め、2020年、小説『半睡』を発表。
網守:もともと僕が高校生くらいのときに、普通にオーディエンスとして佐々木さんの文章を読んだり、紹介されている音楽を聴いたりしていて。最初に授業を受けたのは2010年くらいだったと思うんですけど、当時紹介してたのは、Raster-Notonなどのテクノミニマリズムのラインや、Thrill Jockeyなどのポストロックのライン、あとは一連の即興音楽とかでしたね。
―網守さんは1990年代後半から2000年代前半の電子音楽に強い影響を受けているとか。
網守:2000年代中頃に東京藝大の付属高校に通ってたんですけど、ガチガチのクラシック音楽教育機関なので……いろいろ省略して言うと、途中でアウトサイダー欲望が出てきて、上野で授業を受けた帰りは大体新宿に行く、みたいな生活が始まったんですよね。影響を受けた電子音楽なんかはそのことが関係してるかも。
例えば、当時の新宿のタワーレコードはバイヤーさんも熱くて、アヴァンポップとかエレクトロニカが真ん中にあって、その隣に現代音楽があって、みたいな感じ。その上の階の書籍コーナーで『FADER』(HEADZが発行していた音楽雑誌)にエンカウントしたんですけど、最初に知ったのが最終号だったんですよ。表紙がAutechreで、裏が(カールハインツ・)シュトックハウゼン?
佐々木:いや、最終号の表紙はシュトックハウゼンと、『よつばと!』って漫画なの。もっと前の号で「SOFTWARE ON DEMAND」っていうタイトルの特集をやって、それが『FADER』で一番長いAutechreのロングインタビューをやった号なんだけど、あの特集自体が、その後電子音楽を作る人にだいぶインパクトを与えたらしくて。いままた何度目かのAutechreレボリューションが来てますけど……。
網守:誰も俺のパーカーに触れてくれないですね。
佐々木:だからこの話してるんじゃん。『FADER』は2000年代の半ばくらいまでやってたのかな。
網守:そうです。出会ったのは2006年くらいなので、僕は何かの流れに準じてるとか、何かのシーンにドンピシャで影響を受けてるわけじゃなくて。
佐々木:遅れてきた青年ですよね。
網守:すごく遅れてるんだけど、遅れた状態をどこまで引っ張れるかということをやってますね。今回で言うと、永井さんに弾いてもらったアコギとかは、リファレンスがFenneszなんです。いまどき誰もやらないだろうなんて言って(笑)、葛西(敏彦 / エンジニア)さんにFenneszっぽいディレイをかけてもらいました。
「一人で作られた音楽の方が面白いなっていう所感がある」(網守)
―網守さんと永井さんが会ったのはDAOKOさんの現場が最初ですか?
永井:そうです。呼んでくれたんだよね? 最初はアコースティックなライブで。

永井聖一(ながい せいいち)
1983年生まれ、東京都渋谷区出身。相対性理論のギタリストとして活躍を続ける。SMAPや家入レオへの楽曲提供のほか、Spangle call Lilli line『dreamer』、バレーボウイズなどのプロデュースワーク、ムーンライダーズ、Buffalo Daughterのリミックス、UNIQLOやキューピーなどのCM音楽を担当。演奏者としても高橋幸宏、布袋寅泰、DAOKOなど様々なミュージシャンと共演。相対性理論の近作に『調べる相対性理論』。
―なぜ永井さんだったのでしょうか?
網守:何ででしょうね……まず、あんまりミュージシャンの知り合いがいないので(笑)、だったら、自分の好きな人、憧れの人をこの機会に召喚しようと思って。もともとそうやって人を巻き込んでいく傾向が強いんですよ。だから、今DAOKOのバンドのメンバーすごいことになってるし。
―1月31日にさくらホールで開催されるライブに参加するのは、網守さんと永井さんのほか、西田修大(中村佳穂BANDほか)、鈴木正人(LITTLE CREATURESほか)、大井一彌(DATS、yahyelほか)という非常に面白いメンバーですもんね。
網守:もともとあんまりミュージシャンミュージシャンしてないというか、一人で作られた音楽の影響をすごく受けていて、一人で作られた音楽の方が面白いなっていう所感があるので、自分も一人でやっていこうっていうのがあって。
それとは裏腹に、テン年代はコミュニケーションの時代だったじゃないですか? その前はメディアコンシャスだったのかもしれないけど、テン年代はコミュニケーションコンシャスというか。でも、この10年生きてきて、コミュニケーションコンシャスにはなれなかったし、これからもそうだろうなって所感があって。そういう人間的な傾向とか、音楽的な傾向から……永井さんがいいんじゃないかなって。
永井:それはありがたいです。「飲んで楽しかったから呼んだ」みたいな感じはまったくないじゃん? 最初は「何てぶっきらぼうなやつなんだ」って思ったけど(笑)、でも途中で網守将平という人を咀嚼してからは、音楽的なリクエストも、全部直球を投げてるだけなんだってわかって、それはすごくやりやすいし、それにちゃんと応えるべきだなって。結果として、それで面白いものができるので。
佐々木:DAOKOの曲(“anima” / 網守が作詞・作曲・編曲で参加)はめちゃめちゃいいですよね。最初にミュージックビデオを見て、網守くんが作った曲だってすぐ分かったし、DAOKOはあの曲で化けたと思いました。
DAOKO“anima”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
リリース情報

- 網守将平
『Ex.LIFE』(CD) -
2021年1月22日(金)発売
価格:2,530円(税込)
NBL-2291. Falling on Earth
2. c4jet
3. Insulok
4. wabe
5. Slow up
6. Sarabande
7. Non-Auditory Composition No.0
8. Fossil move
9. Scanning Earth
10. kre
11. Yarn Phone
12. Aphorican Lullaby
13. Impakt
14. Next to Life

- 相対性理論
『調べる相対性理論』(CD) -
2019年7月24日(水)発売
価格:2,970円(税込)
QAMR-161901. ウルトラソーダ
2. キッズ・ノーリターン
3. ミス・パラレルワールド
4. 弁天様はスピリチュア
5. ペペロンチーノ・キャンディ
6. LOVEずっきゅん
7. 天地創造SOS
8. NEO-FUTURE
9. わたしは人類
10. FLASHBACK
プロフィール
- 網守将平(あみもり しょうへい)
-
音楽家 / 作曲家。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。学生時代より、クラシックや現代音楽の作曲家 / アレンジャーとして活動を開始し、室内楽からオーケストラまで多くの作品を発表。また東京芸術大学大学院修了オーケストラ作品は大学買上となり、同大学美術館にスコアが永久保存されている。近年はポップミュージックからサウンドアートまで総合的な活動を展開。様々な表現形態での作品発表やパフォーマンスを行う傍ら、大貫妙子やDAOKOなど多くのアーティストの作編曲に携わる。またCMやテレビ番組の音楽制作も手掛ける。コラボレーションワークも積極的に行っており、大和田俊、梅沢英樹、小山泰介など音楽に限らず多くのアーティストとの作品制作を断続的に行っている。
- 佐々木敦(ささき あつし)
-
文筆家。1964年、愛知県名古屋市生まれ。ミニシアター勤務を経て、映画・音楽関連媒体への寄稿を開始。1995年、「HEADZ」を立ち上げ、CDリリース、音楽家招聘、コンサート、イベントなどの企画制作、雑誌刊行を手掛ける一方、映画、音楽、文芸、演劇、アート他、諸ジャンルを貫通する批評活動を行う。2001年以降、慶應義塾大学、武蔵野美術大学、東京藝術大学などの非常勤講師を務め、早稲田大学文学学術院客員教授やゲンロン「批評再生塾」主任講師などを歴任。2020年、小説『半睡』を発表。同年、文学ムック『ことばと』編集長に就任。批評関連著作は、『この映画を視ているのは誰か?』(作品社、2019)、『私は小説である』(幻戯書房、2019)、『アートートロジー:「芸術」の同語反復』(フィルムアート社、2019)、『小さな演劇の大きさについて』(Pヴァイン ele-king books、2020)、『これは小説ではない』(新潮社、2020)他多数。
- 永井聖一(ながい せいいち)
-
1983年生まれ、東京都渋谷区出身。相対性理論のギタリストとして活躍を続ける。SMAPや家入レオへの楽曲提供のほか、Spangle call Lilli line『dreamer』、バレーボウイズなどのプロデュースワーク、ムーンライダーズ、Buffalo Daughterのリミックス、UNIQLOやキューピーなどのCM音楽を担当。演奏者としても高橋幸宏、布袋寅泰、DAOKOなど様々なミュージシャンと共演。相対性理論の近作に『調べる相対性理論』。