インタビュー

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:上澤友香 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

いつまでも落ち込み続けていられない大人の生き方が伝わる『After Life/アフター・ライフ』

―最近はAmazon Prime Videoの「ウォッチパーティ」のように離れた場所でチャットしながら同時視聴できる機能もありますしね。

柴田:えー、知らなかった! 『北の国から』の純くんとれいちゃんじゃないですか。純くんが上京しちゃって、2人が北海道と東京で離れ離れになったときに、それぞれが同じビデオを同時に再生して見るという遠隔デートをするんだけど、純くんのほうは途中からめんどくなってきちゃうんですよ。

入江:切ない……。

柴田:『北の国から』では、見始める前に電話をかけるんだけど、再生を始めると切っちゃって、という記憶です。あの頃ウォッチパーティがあれば、見ながらチャットもできるし、純くんも飽きずにもうちょっと2人の関係が続いていたかもしれない……。

―ウォッチパーティがあったら、『北の国から』の展開が変わっていたかも……。さて、今回もう1本おすすめしたい作品としてあげていただいたのが『After Life/アフター・ライフ』です。

『After Life/アフター・ライフ』予告編
妻を亡くし、生きる希望を失った新聞記者トニーは、周囲の人々に皮肉な態度をとっていた。人生に迷走気味のトニーが多くの問題を乗り越え、成長する。

入江:『After Life/アフター・ライフ』も、『THIS IS US/ディス・イズ・アス』も、音楽がすごくよかった。ポップスのど名曲がここぞとばかりにかかるんだけど、それをいいと思えた自分のことも「素直だな」と思って、ちょっと好きになるんですよね。作品自体にもそういう感覚があると思います。

柴田:これも入江さんに勧めてもらって知って、『THIS IS US/ディス・イズ・アス』と続けて見たので、私もすごく共通するものを感じて。人生について考えるという、当たり前といえば当たり前のテーマなんだけど。

入江:奥さんを亡くした主人公が、落ち込んでひねくれているんだけど、そのひねくれ方もブラックなユーモアがあって面白かったですね。

入江陽

柴田:ドラマの中でも言われていましたけど、傷ついたり落ち込んだりしたままでいることって、浮力がいらないから結構楽だと思うんです。

入江:いったん素直になったあとに悲しいことが起きたら、また傷つきそうですもんね。

柴田:でも、生きていくためには落ち込んだままでもいられないから、人生って大変だなあと、この作品を見ながら思っていました。大人になると落ち込み続けない癖がついたりもするじゃないですか。そういう自分に対して「変だな」とか、「図太くなったな」とか思いつつ、大人ってそうせざるを得ない部分があるんですよね。子どもや若者は、落ち込み続けていたら、心配したり守ってくれたりする人がいるけれど、大人はなかなかそうもいかないし。それに無意識に感情をぶん回す体力がなくなってくる分、大人は、悲しみ続けていること自体しんどくなっちゃうのかも。

柴田聡子

入江:長期にわたって落ち込むことって、なかなかなくなりましたね。有り余るエネルギーがあるから、若い人はいくらでも悲しめるのかもしれない。監督と脚本も手がけている主演のリッキー・ジャーヴェイスは、コメディアンなんですよね。コメディアンの人が作る人間ドラマってすごくいいなと思いました。笑いを織り交ぜることで、かえって感動するシーンもエモーショナルさが強くなって。リッキー・ジャーヴェイスが出演している作品だと、『デレク』や『ジ・オフィス』(リッキー・ジャーヴェイスが出演するイギリス版のほか、スティーヴ・カレル主演のアメリカ版もある)も面白いですよ。

『デレク』予告編
イギリスの老人ホームを舞台に、生真面目なヘルパーのデレク・ノックスをドキュメンタリークルーのカメラが追い続ける。ブラックユーモアと風刺たっぷりのドラマ。

柴田:確かにコメディアンらしい皮肉っぽさがありましたね。この作品に限らず、ドラマを見ていると、自分には実感としてわかり得ない出来事でも、現実にはいろんな人生があって、いろんな人がいるということが、よくわかるような気がする。リアルに体験することとは違うけど、経験が増えていく感じがします。

入江:ニュースで見るだけだとどこか遠く感じてしまうような社会問題も、お話のなかでキャラクターが酷い目にあっていると、一緒に怒ったり、悲しんだり、自然と心が動きますよね。同時に、自分の中にある偏見や差別心を強調したようなキャラクターが出てくると身につまされるし、そういうキャラクターが作品のなかでコテンパンにされると、自分の中の嫌な部分も治るような感じがする。それってフィクションのいい部分だと思います。

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連載情報

『2人は配信ヘッズ』

シンガーソングライターの入江陽と柴田聡子が、自身の気になる配信動画サービスの作品を語り合う。話題が逸れたり、膨らんだりするのも自由きままな、読むラジオのような放談企画。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。最新曲は“週末[202009]”。

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の新人賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。2020年7月3日、4曲入りEP『スロー・イン』をリリース。2021年3月24日、『がんばれ!メロディー』アナログ盤の発売が決定している。

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