
中島愛、楽曲に導き出された本当の自分らしさ 尾崎雄貴と語る
中島愛『green diary』- インタビュー・テキスト
- imdkm
- 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)
声優であり歌手の中島愛が、ニューアルバム『green diary』をリリースした。自らの原点に立ち返りながら、いまだからこそ表現できる歌に挑んだ、深くパーソナルでありつつも新しいチャレンジにも満ちたアルバムだ。
強い意志のこもった本作のリード曲“GREEN DIARY”を手がけたのは、バンド・BBHFや、ソロ名義warbearでの活動で知られる尾崎雄貴。緑色が想起させる瑞々しさと、その先に待つほろ苦さを凝縮したようなサウンドと詞は、まさに本作を象徴する一曲となっている。この度、中島愛と尾崎雄貴両氏に、その制作過程や、近年の新型コロナ禍での音楽活動について話を聞いた。
ランカ・リーが私のアイデンティティーの一部だと認めることから逃げてたな、って。(中島)
―最初に、タイトルにも使われている「緑(green)」という色について教えてください。
中島:私はTVアニメの『マクロスF』という作品で2008年に声優と歌手で同時にデビューしたんですね。私が担当したキャラクターというのが、歌が大好きでアイドルを目指しているランカ・リーという女の子なんですけど、髪が緑色で。彼女の象徴的なカラーなんです。

中島愛(なかじま めぐみ)
6月5日生まれ。A型。1980年代アイドルが大好きな、レコードマニア。2007年『Victor Vocal & Voice Audition』にて最優秀者に選ばれ、TVアニメ『マクロスF』にて声優・歌手デビュー。同作品ではランカ・リー=中島愛名義で数多くの楽曲をリリース。2009年、シングル“天使になりたい”にて個人名義での活動をスタート。2021年2月3日に3年ぶりとなる5枚目のオリジナルフルアルバム『green diary』をリリースした。
中島:その後、中島愛という本名でCDデビューもすることになったんです。とはいいつつも自分は二次元のキャラクター、ランカ・リーとイコールでもある、ということも受け止めながら活動をしてきました。
個人の活動のときはランカ・リーを切り離して、「私は彼女とは別のアイデンティティーを持っている!」という強い気持ちで活動しなくちゃいけないと思うようにしていたんですけど、デビューから時間が経てば経つほどに、ランカは私の大きな1つの分身だということにより深く気づいたんです。
なおかつ、ランカ・リーが私のアイデンティティーの一部だと認めることから逃げてたな、って思ったんです。それで、彼女に改めて真正面から向き合おうと思って、このアルバムで緑というテーマを掲げました。
―そういった心境に至るまでには、具体的なキッカケがあったんでしょうか?
中島:大きなキッカケがあったというよりは、徐々に変わっていきました。歳を重ねていくことと、青春時代のランカ・リーを演じなくてはいけないっていう気持ちの距離が遠くなっていくことに戸惑っていたんですね。
年齢を重ねていくことを肯定したいのに、しちゃいけない気もする。どんどん強まっていったそういう気持ちに、「答えが出なくても、しっかり向き合ってみよう」という心境でした。
中島愛『green diary』を聴く(Apple Musicはこちら)
―リード曲は、こうしたコンセプトを持ったアルバムにとってとても重要な1曲だと思うんですが、尾崎さんに依頼することになった経緯は?
中島:以前から、ディレクターさんからの強い推薦で、いつか絶対尾崎さんには中島愛の楽曲を依頼したい、中島愛には尾崎さんの曲を歌ってほしいと提案がありまして、あとはタイミング次第だったんです。今回のアルバムでは、自分の物語だけではない客観性だったり、同世代の共感を軸にしたいと思っていたこともあって、「これは、アタックするならいまなんじゃないか?」と。
尾崎:お話をいただいてから、最初にまず中島さんとリモートでお話ししたんです。かなりダイレクトに、中島さんが表現したいことが最初から明確に伝わりました。
僕自身も聞いていてすごくシンパシーを感じるような内容の話をじかにできたというのが大きくて。特別なミーティングでしたね。

尾崎雄貴(おざき ゆうき)
札幌を拠点に活動する4人組バンドBBHFのヴォーカル&ギターを担当。2017年より自身のソロプロジェクトwarbearを始動。2020年9月にBBHFとして2枚目となるフルアルバム『BBHF1 -南下する青年-』をリリース。同年12月、warbearとして初の配信限定シングル“バブルガム”をリリース。
中島:最初にデモを2パターンいただけたんです、しかも光の速さで。それで、「天才ってやっぱりすごい!」って。
尾崎さんの曲って、メッセージは強くあるのに、押し付けられている感じがまったくしない。正直なんだけど軽やかな感じが、まさに「歌いたい」と思っていたものでした。どちらの曲もそのど真ん中をついていたんです。
中島愛“GREEN DIARY”を聴く(Apple Musicはこちら)
中島:だから、まず2つの内から1曲を選ばなくちゃいけないっていうのが難しかった。「これって、選ばなかったほうの曲、誰かが歌っちゃうんですかね……?」みたいな(笑)。冗談のように聞こえるけれど、それくらい素晴らしい曲をいただいて。
より自分の気持ちにフォーカスできるという意味で、今回の曲をセレクトしました。自分のくすぶってた思いとか、自分ひとりでは肯定できなかったような気持ちに光を差してもらえて、デモの段階から「この曲を歌えただけで私の人生大成功だな」と、大げさに聞こえるかもしれませんが、本当にそう思いました。
中島さんに対して、あまりうまく言えないんですけど、「かっこいいな」と思うんですよね。(尾崎)
―尾崎さんは、ミーティングの段階で曲想はすぐに浮かんでいましたか?
尾崎:僕はどっちかというとじっくり考えるタイプなので、あんまりぱっと浮かぶことはないんです。音楽だったり楽曲の成り立ちにとって、歌う人の人となりを知ることってすごく重要で、Zoomでお話した時点で、中島さんから強い印象を受けました。
なので、話していただいたことに対して僕が返答する、という会話のようなスピード感で、詞や楽曲ができてしまった、という感じです。本当に、呼び起こされたというか、引き出してもらったという感じでした。
―中島さんも、ウェブで公開されている制作日記で、「画面越しでも会話の温度が伝わるものだな」と書かれていますね。
中島:お話しているときの表情もそうですけど、一番はお声ですかね。尾崎さんが歌われる方だということもあると思うんですけど。どれだけそのときの打ち合わせに真摯に向き合ってくれて、どれだけ思いを尽くして曲を書こうとしてくださっているかが、語り口からあふれていたというか。
―バックトラックは尾崎さんが札幌ですべて制作されたんですよね。それにまた東京で中島さんがボーカル入れをする、と。ボーカルを入れる際、尾崎さんから中島さんへ具体的なリクエストはありましたか?
尾崎:僕自身、ボーカルとしてやってきたなかで、ある程度、第三者から指示されたほうが面白いものがでてくる人と、自分の感覚で歌うほうが素敵なものが出てくる人がいると思っていて。中島さんの場合は、ご自分の感覚で歌っていただいたほうが絶対に素晴らしいものになるという直感があったので、細かい話はあまりしませんでした。中島さんの表情が一番大事だと。
中島:説明だったりアドバイスがないということに、非常にドキドキしました。でも、尾崎さんからいただいた歌詞とメロディーとトラックと仮歌に、すべて込められてるんだろうな、と。だから、言葉で「これってどうしたらいいですかね?」とか聞くのは野暮かな、と。
あと、私はかなり頭でっかちなほうなので、練習する段階で「ここはこう歌う」と決めてからレコーディングにとりかかるほうなんですけど、この曲に関しては、深いことを考えずにメロディーが呼ぶままに歌おうと思っていました。
中島:歌ってみて印象的だったのは、サビの<永遠じゃなくてもいい>という箇所。サビの1行目のキメとなる歌詞の母音が、「い」だったのが面白かったです。
「い」の母音って口を閉じているので、ニュアンスがつけづらくて、その人の声質ひとつで押していくイメージがあって。しかも、尾崎さんが歌っているデモのその部分がすごくよくて、「勝てない!」と(笑)。モノマネをするのも違う気がして、そこは探りました。
―面白い視点ですね。尾崎さんはご自身で意識されていましたか?
尾崎:いえ、あんまり考えてはいなくて。いま中島さんのお話を聞いて、とても面白いなと思いました。ただ、「いい」ってフレーズは自分の楽曲ですごくよく使うんです。
しかもフックとして使うことが多い。自分でもいま気づかされました。たしかに、歌うという行為が難しいフレーズだと思います。
―中島さんから戻ってきたボーカルを聴いての第一印象はいかがでしたか。
尾崎:当たり前のことを言ってしまうんですが、僕は声がすごく好きなので、なんていうんだろうな……、第一印象として声にすごく説得力があるなと思いました。いまお話をしていても、中島さんに対して思うのが、あまりうまく言えないんですけど、「かっこいいな」と思うんですよね。
中島:ええ!?(笑)
尾崎:出で立ちが、すごく。お話していることもふくめてかっこいいなと思っていて。強さだったり、凛とした感じをミーティングのときから感じていたので、「あ、歌もやっぱりそうなるんだな」と。
リリース情報

- 中島愛
『green diary』初回盤(CD+BD) -
2021年2月3日(水)発売
価格:5,500円(税込)
VTZL-1821. Over & Over
2. GREEN DIARY
3. メロンソーダ・フロート
4. ハイブリッド♡スターチス
5. 髪飾りの天使
6. 粒マスタードのマーチ
7. 窓際のジェラシー
8. ドライブ
9. 水槽
10. All Green

- 中島愛
『green diary』通常盤(CD) -
2021年2月3日(水)発売
価格:3,300円(税込)
VTCL-605431. Over & Over
2. GREEN DIARY
3. メロンソーダ・フロート
4. ハイブリッド♡スターチス
5. 髪飾りの天使
6. 粒マスタードのマーチ
7. 窓際のジェラシー
8. ドライブ
9. 水槽
10. All Green
サイト情報
- 特設サイト「recording diary」
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アルバム制作に対する思いや作家陣との打ち合わせの様子などが、中島愛自身の言葉で綴られている、ここだけのダイアリー
プロフィール
- 中島愛(なかじま めぐみ)
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6月5日生まれ。A型。1980年代アイドルが大好きな、レコードマニア。2007年『Victor Vocal & Voice Audition』にて最優秀者に選ばれ、TVアニメ『マクロスF』にて声優・歌手デビュー。同作品ではランカ・リー=中島愛名義で数多くの楽曲をリリース。なかでも“星間飛行”は、シングルでオリコン5位、収録アルバムはオリコン2位を記録し大ヒットとなる。2009年、シングル“天使になりたい”にて個人名義での活動をスタート。同年の『第3回声優アワード』にて歌唱賞を受賞。その後、歌手活動と並行して『セイクリッドセブン』(藍羽ルリ役)、『君のいる町』(枝葉柚希役)、『ハピネスチャージプリキュア!』(愛乃めぐみ/キュアラブリー役)など数多くのTVアニメでヒロイン役を射止める。2019年1月には、ソロデビュー10周年を記念して、1980年代アイドルミュージックをはじめとした自身初のセルフプロデュース・カバーミニアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』、6月には初のベストアルバム『30 pieces of love』、アナログ盤『8 pieces of love』をリリース。2020年9月には、これまでに中島愛がキャラクター名義で歌唱した楽曲を集めた、キャラクターソング・コレクション『FULL OF LOVE!!』をリリースした。現在、3年ぶり5枚目となるオリジナルフルアルバム『green diary』が好評発売中。
- 尾崎雄貴(おざき ゆうき)
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札幌を拠点に活動する4人組バンドBBHFのヴォーカル&ギターを担当。2017年より自身のソロプロジェクトwarbearを始動。2020年9月にBBHFとして2枚目となるフルアルバム『BBHF1 -南下する青年-』をリリース。同年12月、warbearとして初の配信限定シングル“バブルガム”をリリース。