インタビュー

俳優・山崎皓司が挑む百姓ライフスタイル。試行錯誤の実践を辿る

俳優・山崎皓司が挑む百姓ライフスタイル。試行錯誤の実践を辿る

インタビュー・テキスト
中島晴矢
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

みんな便利な生活を享受してるけど、この生活を後世に残す気は本当にあるんだろうか?

YAMAZAKI PARADISEを後にして次の場所に移動する車中、そもそも山崎さんが地元でこうした活動を始めたきっかけを聞いてみた。

山崎:ずっと東京で役者として売れたかったんです。錦を飾らずに地元に出戻ることへの負い目がありました。でも、そんなことがどうでもよくなったキッカケがあるんです。

当時、演劇の仕事がない時にアルバイトしていて、朝、田園都市線の満員電車に乗るのが苦痛で。そこで心のバランスを取るために、電車に乗る前に多摩川の河原でトランペットの練習をしてました。そこで、たまたまトマトが自生しているのを見つけたんです。

その時の興奮具合と言ったらなかったですね。最初、「ん、トマトかな?」ってところから、「やっぱりトマトだ!」「しかもいっぱい生えてる!」って気づいた時の興奮。

そこで、これはもう「喜び」だと認めていいだろうと確信しました。世間体なんかを気にするんじゃなくて、そのときの感覚が最高だと思えたから、「人の目を気にせずやってみよう」と決断できたんです。

山崎皓司の活動を描いたドキュメンタリー『Koji Return』より
山崎皓司の活動を描いたドキュメンタリー『Koji Return』より(Youtubeで見る

今にいたる山崎さんの活動を動機づけたのは、自生トマトとの強烈な出会いだった。

山崎:普段の生活からギアが1段階上がる感じで。それに触れたら、演劇とかも1回どうでもよくなっちゃって。

もともとボクシングをやってた頃の感覚も思い出しました。僕が本当に立ちたかったのは、演劇の舞台よりも後楽園のリングだったんじゃないか。同じ感覚は、地元に帰ってから狩猟をして、初めて自分の仕掛けた罠にシカがかかった時にも感じました。

そう、山崎さんは狩猟も行っている。神奈川県で狩猟免許を取得してから、ここ掛川で、地元の猟師たちと交流しながらシカやイノシシを仕留めてきた。狩猟の方法や獲物の捌き方は、猟師さんに頭を下げて教えてもらったそう。

「実際にやってみるまでは、何がわからないかがわからなかった」と、当時を振り返る。しかしその結果、意外とあっさり狩りが成功する。

獲ったイノシシを捌いている様子
獲ったイノシシを捌いている様子

「肉、いけるじゃん!」と思った矢先、豚コレラ(豚とイノシシが感染する熱性伝染病、正式名称「豚熱」)が流行。イノシシが激減し、早々に「肉」が獲れなくなってしまった。

山崎:「このままで地球は大丈夫なのかな、少なくとも僕の生きてる時代は大丈夫なんだろう」と思ってたけど、豚コレラで思ったより早くその余波に直面しました。みんな今の便利な生活を享受してるけど、この生活を後世に残す気は本当にあるんだろうか?

もちろん、僕は肉を買うし、牛の乳も絞らない。自分一人では生活できないから、お金に頼って生きています。その分どこかから何かを奪ってるわけで、「自給自足」なんてとても言えませんね……。

普段の生活を根本から見つめ直すほど、感じざるを得ない「環境へのうしろめたさ」。「完全に自立した生活」という幻想と、人間社会で生きていく上では避けて通れない消費や搾取。そんな理想と現実のジレンマを抱えながら、もがいている純粋で不器用な実践者──それが山崎さんに感じた素直な印象だ。

みんながとりあえずお腹いっぱいになれば、それが世界平和に通じると信じてる。

車で15分ほど走ると、辺りは徐々に山で囲われた農村の風景へと変化していく。平地には田畑が広がっていた。その一角が、山崎さんの管理している田んぼだ。

山崎さんの管理している田んぼ / 撮影:CINRA.NET編集部
山崎さんの管理している田んぼ / 撮影:CINRA.NET編集部

この田んぼでは、先述した福岡正信さんの提唱する「米麦連続不耕起直播」に挑戦している。田を耕さず、無農薬、無肥糧、無除草。クローバーを抑草と肥料がわりに使い、米と麦を連続して作るという農法である。

山崎さんは実際に愛媛の福岡正信自然農園に足を運んで、福岡正信が育成した品種「ハッピーヒル」の籾をわけてもらい育てている。ただ、この稲作もまた「思ってたほどうまくいってない」のが現状だ。

山崎:この農法では「代かき」をしないんですが、そうすると田んぼの水は地中に漏れてしまって水が貯まらないんですね。そこで上流にあるため池の水門を開きっぱなしにして、水を流し続ける。

何もかもが初めてなので、約1か月の間、毎日2回は水の調整に来ていました。めちゃくちゃ苦労して、なんとか収穫までこぎつけたんです。

2020年夏、収穫前の田んぼ
2020年夏、収穫前の田んぼ

さらに、それを脱穀するのにも大変な労力を要した。親戚の土地に放置されていた小屋から探し出した足踏み脱穀機を用いて、自力で脱穀。もちろん山崎さんはこうした作業をどこかで楽しめていたと言うが、「とてもじゃないが売る気にはなれない」と苦笑する。

収穫のために刈り取った稲
収穫のために刈り取った稲

そこからさらに車で移動。ちょっとした山道を登ると、丘の上に広がる小さな空き地が現れる。そこが、山崎さん曰く「山崎山」。

イノシシの住処になっていた笹藪を切り拓き、クローバーを播いて手を入れた広場だ。丸太のベンチとテーブルが置かれ、栗や柿の木があり、いろんな果樹の苗木が植えられている。5年後、10年後にここで果物が取れるようになったらいい、と考え植えたそうだ。

山崎:ここはもともと親戚が持っている、放棄された土地でした。果樹を植えているのは、みんながとりあえずお腹いっぱいになれば、それが世界平和に通じると信じてるからです。

本当は僕、河川敷なんかにも果樹を植えたいんです。市議会議員の友達にも、「果樹1本で周りの人が潤うんだから植えちゃえばいいのに」っていつも言ってます。法律的に難しいみたいなんですけどね。

山崎山にて / 撮影:CINRA.NET編集部
山崎山にて / 撮影:CINRA.NET編集部

山崎:福岡正信自然農園に行った時、「米は1年に1回しか出来ないから失敗したくない」と伝えたんです。でも、「1年に1回なら多い方だよ。果樹は何年も先を見据えて植えなきゃいけない」と返された。それで僕もハッとして、すぐやらなきゃと思って果樹を植えました(笑)。

「桃栗三年柿八年」ということわざがあるように、樹木が育ち果実がなるまでには、文字通り数年以上の時間的なスケールが必要になってくる。果樹のみならず、山崎さんは長大な年月のスケールで自身の生活を見つめ直しているのだろう。

2020年夏、山崎山にて
2020年夏、山崎山にて
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作品情報

山崎皓司(快快)のドキュメンタリー映像作品『Koji Return』
山崎皓司(快快)のドキュメンタリー映像作品
『Koji Return』

ウェブサイト情報

こーじ|note

2019年から活動拠点を東京から静岡県掛川市に移し、現在は何でもできる百姓を志し、俳優、狩猟、農業、養蜂等をしながら、世界平和への道を模索中。

プロフィール

山崎皓司(やまざき こうじ)

俳優。1982年静岡県出身。発想と身体で役を捉え、舞台の根源を取り戻すような力強いパフォーマンスに定評がある。快快以外の活動として、多田淳之介、杉原邦夫、糸井幸之介、篠田千明、木ノ下歌舞伎、鳥公園、範宙遊泳、ヌトミック、悪魔のしるし等の作品に出演。またプロボクサーとして試合経験がある。

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