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坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

『HOKUSAI』
インタビュー
九龍ジョー
構成:中島晴矢 撮影:タイコウクニヨシ 編集:井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

心も体も死なせないために。まずは日課の徹底を

坂口:少なくとも僕は長寿が前提というか、何ごともわざと時間をかけてプラクティスしていく。それが、ここ数年で自分のなかに芽生えてきたやり方ですね。

九龍:長寿が前提(笑)。

坂口:勝ち負けでいってしまえば、僕にとっての勝ちは「死なない」ということなんです。しかも体だけじゃなく、魂も死なせてはいけない。

いまだって、コロナウイルスの感染拡大がきっかけとはいえ「ライブなんてやらなくていい」とか「映画館は閉めろ」とか、芸術文化が平気でおざなりにされているわけでしょう。そういうことを暗に感じながら、僕たちは死なないために長い時間をかけて創作を続けていかなければならない。

坂口恭平

九龍:うまくしなりながら。

坂口:北斎も、「描き続けた」ってことが重要だから。

九龍:生涯で描いた作品数は3万点を越えるそうですね。

坂口:その数字って、描くことが日課になってないかぎり不可能だと思うもの。死ぬまでに、どんなしつらえのタイムスケジュールを組んで、どう投資するか。北斎の場合、それがこの世で生きのびることと直結していたんだと思う。

映画のなかで、娘のお栄が北斎の部屋の襖を開けるとき「お父さん、開けますよ」なんて言うシーンがあるじゃない? 襖を開けても開けなくても北斎が絵を描いているんだとしたら、そんなこと言わなくてもいいと思うんだよね(笑)。だけどわざわざ言うってことは、北斎のなかに時間割があるってことなんだろうなと思って。僕にとっては映画のそういう細かい描写がリアルだった。日常とは違う時間軸で立てられた「日課」という膜が、北斎を守ってる。

九龍:そこにリアリティーを感じるのは坂口恭平ならではですね。『家族の哲学』(2015年、毎日新聞出版)にもそんな場面があった気がする。

坂口:僕が大事にしているのは、「日課」を徹底するってことなんです。もちろん質も大事だけど、同時に量も大事。とにかく絵を1日に1枚描くってことを90歳まで続けたい。つまり、年間365枚描く。それを、あと47回繰り返そうと思っていて。

九龍:単純計算すると、約1万7,000点になりますね。そう考えると、3万点以上という北斎の数は、やはり日課の賜物にも思えてくる。

映画『HOKUSAI』イメージビジュアル ©2020 HOKUSAI MOVIE
映画『HOKUSAI』イメージビジュアル ©2020 HOKUSAI MOVIE

坂口:そういう数が、具体的な時間の厚みになっていくわけです。僕の活動なんて、ぜんぶそれ。「いのっちの電話」も1日に40から50件の電話に出てるけど、これをずっと続けていけば、最終的には、ほぼ日本の人口と同じぐらいの人数と喋ったことになる(笑)。

だから結論としては、会社の定年とか、世間体だとか、そういう枠を超えたところで「一生死ぬまで何をしていたいのか?」を決めることに尽きる。それを軸に24時間の時間割をつくったら、あとは始めるだけでしょ。それで人生なんて完成なんです。それが「生活」を見つけるってことだよね。みんな成功ばかり求めてるけど、大事なのは「生活」。

ポイントは、90歳になっても同じ時間割でいけるっていうくらいの、生きていける「生活」を見つけること。それができれば、きっとカネにはなるんでしょう。そのことは北斎が教えてくれてるよね。

坂口恭平
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作品情報

『HOKUSAI』
『HOKUSAI』

2020年5月28日(金)から全国公開

監督:橋本一
脚本:河原れん
出演:
柳楽優弥
田中泯
玉木宏
瀧本美織
津田寛治
青木崇高
辻本祐樹
浦上晟周
芋生悠
河原れん
城桧吏
永山瑛太
阿部寛
ほか
配給:S・D・P

書籍情報

『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』
『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』

2021年4月28日(水)発売
著者:坂口恭平
価格:1,760円(税込)
発行:新潮社

プロフィール

坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。

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