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門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

すべての建築は本来的に、みんなの協働制作物と言えます。

―解体された高見澤邸の部材は、どのようなプロセスを経てヴェネチアに運ばれたのでしょうか?

門脇:バラバラにされた部材は、順次、高田馬場の保管スペースに運ばれました。その後、現地での組み立てができるように、3Dスキャンしてデータ化し、さらに一つひとつの材質と大きさを調べ、リストを作ってヴェネチアに持っていきました。

一つひとつの調査を終えヴェネチアへ運搬されるのを待つ部材たち ©ヤン・ブラノブセキ
一つひとつの調査を終えヴェネチアへ運搬されるのを待つ部材たち ©ヤン・ブラノブセキ

―すさまじい手間ですね……。

門脇:(パソコンで部材のデータを見せながら)高見澤邸には全部でおよそ2000個の部材が使われていましたが、あまりに膨大でしたから、3Dデータ化できたのはその10分の1ほどです。リスト化はすべての部材に対して行いました。

現地に運ばれた部材は、日本の建築家チーム(長坂常、岩瀬諒子、木内俊克、砂山太一、元木大輔)と地元の職人の協働によって、映像投影用のスクリーンや展示用の壁など、住宅とは異なる用途を持つものとして、その場に馴染むようなかたちで転用されます。元木さん(DDAA)が手がけた、屋根の部材を利用したベンチがわかりやすい例ですね。

門脇:当初は、日本から建築家チームと職人がともに現地入りする予定でしたが、COVID-19の流行で渡航が叶わなくなったため、職人を現地で集め、建築家がオンラインで彼らとコミュニケーションを取りながら作っていくかたちになりました。「職人と一緒に作る」ということは、今回、とくにこだわったことのひとつです。

―「協働」という視点を重視する理由は何でしょうか?

門脇:ひとつには、そもそも建築は建築家の手によってのみ作られるわけではない、ということがあります。現代の設計者と施工者の関係について、僕は疑問を抱いていました。

たとえば建物が完成した際、実際はいろんな関係者がいるにも関わらず、署名をするのは建築家だけ。職人はその建築についてどんなに知恵を出していても署名できないんです。そこには、建築家が描いた図面通りに職人が作ることを求められる、つまり形式的には職人が知恵を出せないことになっている業界の構造があります。

しかし、本来はいろんな人が知恵を出し合い、その結果、良い建物になるのがベストですし、良い現場は実際にそうなっています。今回のプロジェクトでは即興的な協働作業を通して、その先の可能性を見せたいんです。

プロジェクトのミーティング風景
プロジェクトのミーティング風景

―いろんな人の知恵が集まって建物ができていることの可能性を、今回の現場では強調して提示しているんですね。

門脇:また、やや抽象的な話になりますが、さきほど建築家は部材の選択を通して、その奥にある産業のあり方にも関与できると話しましたが、そうした営みが可能なのは、背景にある産業にじつに多くの人々が関わっているからにほかなりません。

こうした視座に立てば、すべての建築は本来的に、建築家や工事に関わる人のみならず、あらゆる人が関わって作られる、みんなの協働制作物と言えます。そして、建築がそのようなものとして見えてくると、街も当然、協働制作物ということになりますよね。

―当たり前に見えていた街の見え方も変わりますね。

門脇:さらに言うと、ある建築の部材は、いまはその建築に使われているけれど、以前は別の場所に使われていたかもしれない。実際、今回、我々は展示に使用した部材を会期終了後に別のかたちで再利用しますが、そう考えると、部材も一種の社会的な共有物だと言えます。

建築物とは、多様な来歴を持ち、時間と空間を飛び交うたくさんの部材が、あるとき多くの人の手によって、住宅なら住宅という一時的な姿を与えられた「キメラ的混成体」なのだ、ということ。建築とは、広大な空間と時間の広がりのなかに生きているのだということ。そうした視点の変換自体を、今回のプロジェクトでは提示したいのです。

門脇耕三

―建物を解体して、部材を移動させて、大勢の手で変化させ続けると聞くと突拍子なくも聞こえますが、じつは身の回りの建物にもそうした側面があるんだ、と。

門脇:我々自身が、高見澤邸について調べていくなかでそれに気づいたんですね。

日本館内では屋外の構築物に使わなかった部材を年代順に並べたのですが、そこを歩くと、多くの「時代ごとの当たり前」がこの建物のなかにあることがわかり、時間的なスケールを感じてもらえると思います。そのこと自体が、建築のひとつの「固まらなさ」みたいなものを表している。

だとすれば、解体された部材がヴェネチアに行って展示されるということも、高見澤邸にとってすごく自然なことのはずなんですよね。

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サイト情報

『ヴェネチア・ビエンナーレ』日本館
国際交流基金
『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』

高見澤邸の「建設」「解体」「ヴェネチアへの移動」「その後」が時系列で並んだ、設計図、記録映像、3Dデータ、施工指示書などの膨大なアーカイブを見ることができる。

プロフィール

門脇耕三(かどわき こうぞう)

建築家、建築学者。明治大学准教授、アソシエイツパートナー。博士(工学)。1977年神奈川県生まれ。2001年東京都立大学大学院修士課程修了。東京都立大学助手、首都大学東京助教などを経て現職。2012年に建築設計事務所アソシエイツを設立。現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などさまざまな活動を展開。建築の物的なエレメントに根ざした独自の建築理論も展開している。

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