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スリランカ仏教の長老に聞く、SNS時代の自己とはなにか?

スリランカ仏教の長老に聞く、SNS時代の自己とはなにか?

『TRANSREALITYSHOW 0.2: FOR THE PLACE FUZZY AND NEW』
インタビュー・テキスト・編集
佐々木鋼平(CINRA.NET編集長)
撮影:玉村敬太

世の中は、すべて「錯覚」みたいなもの

山口:実体に紐付いて価値が生まれるのではない。価値とは人の頭のなかにだけある妄想である、というのはすごく腑に落ちました。

AIアシスタントやバーチャルアイドルでも、現実世界に存在しているモノでも、それを認識している人の頭のなかにだけ価値が生まれる。

スマナサーラ:そうです。さらに言うと、そもそも人が「なにかを認識する」ということ自体、一時的に起こる錯覚にすぎないんですよ。

山口:え? どういうことでしょうか?

アルボムッレ・スマナサーラ

スマナサーラ:たとえば、私がいま「長い」と言ったら、その意味を理解して、イメージすることができますか?

山口:はい。でも、どのくらいの長さなのかはわからないですね。

スマナサーラ:でしょう? 「長い」と聞けば、具体的な長さはわからなくても、頭のなかではわかったような気がする。

それはあなたの頭のなかに「短い」というイメージがあって、それを基準に比較したから「長い」をなんとなく認識できたんです。

山口:なるほど。

山口真人

スマナサーラ:たとえば、私がいま「この部屋」「この建物」と言えば、あなたはそれがなにを指しているのかわかると思いますが、それは「ほかの部屋」や「ほかの建物」と区別することによってなんとなく理解している。

あなたは男性ですが、女性がいるから「男性」だといえる。女性がこの世に一人もいなければ、どうやって男性を区別して認識すればいいのでしょう?

山口真人さんだということも、他の人と区別しているから認識できる。アーティストじゃない人々がたくさんいるから、あなたはアーティストだと認識してもらえる。

すべての事象は、頭のなかに比較できるイメージがあるからこそなんとなく認識できる。そして、その「頭のなか=自分」もどんどん変化しているので、たしかなモノではないわけです。

科学的に見ても、古い細胞が新しい細胞にどんどん置き換わっているわけでしょう? 脳にある古い記憶も新しい記憶に上書きされていくわけです。10年前のあなたといまのあなたがまったく同じなんてありえない。

アルボムッレ・スマナサーラ

山口:つまり、人の認識というのは「曖昧なもの」を、その瞬間の自分の頭のなかにある概念と照らし合わせて、「ある」と思い込んでいるということですか?

いま見えている世界はあるようで、ないようで、というか。それって「空」や「無常」の話につながると思うのですが、そこをもう少し詳しくおうかがいしたいです。

「空」というのは「世の中のすべては因縁によって生じたものであり、実体はない」という考え方で、「無常」というのは「すべての事象は常に変化していく」という考え方だと思うのですが、つまり「人が意識した瞬間だけ、存在が生まれる」ということですか?

スマナサーラ:そうです。だからすべての事象はあるといっても、人間の認識によって一時的に成り立つだけ。そして、その人間自体も常に変化していて、一時的に存在している。すべては一時的だから、あるって言えないでしょ。

山口:あぁ、なるほど……!

スマナサーラ:たとえば、目の前でろうそくが燃えています。「ろうそくの炎がある」と言ってもいいですが、これはただ空気が燃焼している状態でもあるわけです。風が吹いたり、蝋が溶けてなくなったりしたら、周囲と同じ空気の状態に戻る。

だから、すべての事象は「Temporary Existing(一時的に存在している)」ってことなんです。初期仏教では「Exist(存在する)」という言葉は絶対に使いません。

山口真人『FEELIN' GROOVY』2021年
山口真人『FEELIN' GROOVY』2021年

「自分というものがあるとしたら、その瞬間、その空間だけで、成り立つんです」

山口:つまり、いまぼくがスマナサーラさんを見て、お話をさせていただいているいまこの瞬間も、それは「Temporary Existing」なんですね。

スマナサーラ:そうそう。この場も、私も、あなたの人格も「Temporary Existing」なんです。このインタビューが終わって、この部屋から外に出たら別の人間になるんです。

もし、そこの道ですごくタイプの女性に話しかけられたら、あなたいまの話を忘れて、すぐに付いていくと思うんですよ。

山口:そうですね(笑)。

スマナサーラ:そうすると別人になる。

山口:別人ですね(笑)。なるほど。

スマナサーラ:だから、私は名刺も持っていませんし、こういうものですと自己紹介することもありません。

山口:自分というのは定義されないものだから。

スマナサーラ:自分というものがあるとしたら、その瞬間、その空間だけで、成り立つんです。

アルボムッレ・スマナサーラ

山口:その考えでいくと、名刺や肩書なんて本当に必要ないですね。いまの話でいうと動いてない。

スマナサーラ:「自分自身」という絶対的なモノがあると考えて、そこに固執して生きるのはとても危険です。年齢、職業、役職など、社会的な肩書に固執していると最悪です(笑)。

「たしかな自分」があると思っているから、そこにそぐわないことが起こると、怒り、嫉妬、憎しみなどが生まれる。

だから、私はどんな人に対しても、お互いに「人間」として対応するようにしています。そのほうが精神的に自由になれるしラクなんです。

山口:私自身も、その認識も、すべては錯覚ということですね。うわぁ……そこです。そこにたどり着きたかった。この話は、今日本当にうかがいたかったことです。

結局、私が「仮想世界」にリアリティを覚える感覚を「トランスリアリティ」と名付けて、作品を制作しているのも、たぶんそこをなんとなく確認したいと思っていて。

昨年、LEDを使った作品を目黒雅叙園で展示したのですが、光の点滅を使いたかったのも、まさにそういう一瞬の存在、認識を表現したかったのかもしれません。

スマナサーラ:「無常」っておもしろいでしょう?

山口:はい(笑)。

Works "City lights" at Meguro Gajoen

スマナサーラ:すべては無常だから、完全に存在するものはないんですよ。だから存在とは無常なんです。だけど、無常でなければ音楽という芸術は生まれないでしょう?

山口:変化しているからこそ音楽ですもんね。「Static(静止している)」なものは、この世にないんですね。

スマナサーラ:「Static」なものはないですね。本当の意味で「Sustainable(持続可能)」なものなんてこの世にないんです。

山口:ちょっと最後にすごく熱いお話を聞かせていただいて。

スマナサーラ:人に進化があるとすれば、無常に逆らわないことです。同じところに居座り続けるのは退化です。現状維持というのはとても不自然で危険な行為なんです。

でも、日本人は現状維持が大好きなんですよね(笑)。物事を大胆に変えたくはないんです。だから仕事を探すときも安定した大企業が人気で。

大学で研究している若い人たちも、教授の古い考え方には反対なのになにも言わず、教授のご機嫌を取って学内のポジションを確保することだけが仕事になっていて。もっと大胆に研究しろよ! って言いたくなります(笑)。

一同:(笑)

左から:アルボムッレ・スマナサーラ、山口真人

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イベント情報

『TRANSREALITYSHOW 0.2: FOR THE PLACE FUZZY AND NEW』

2021年3月26日(金)~3月28日(日)
参加アーティスト:
ヒロ杉山
山口真人
ナカミツキ
岸祐真
テレポ - ダイヤル
本宮曜
料金:無料

プロフィール

山口 真人(やまぐち まさと)

1980年東京都出身、法政大学経済学部卒業後、アート&デザインスタジオIDEASKETCH,INCを設立。主な個展に『"MADE IN TOKYO』(Gallery Onetwentyeight / NYC 2016)、2019『トランスリアリティ序章』(H.P.FRANCE MARUNOUCHI / Tokyo 2019)等、2019年「INDEPENDENT TOKYO」にてグランプリを獲得。2021年より自身がオーガナイズ・キュレーションするイベント『TRANSREALITYSHOW』をスタート。

アルボムッレ・スマナサーラ

スリランカ上座仏教(テーラワーダ仏教)長老。1945年生まれ。13歳で出家となる。1980年に国費留学生として来日。現在は、日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道、ヴィパッサナーの指導などに従事。2020年からはYouTubeを通じた説法や対話にも力を入れている。『ブッダが教える心の仕組み』(誠文堂新光社)、『ブッダに学ぶ ほんとうの禅語』(アルタープレス)、『Freedom from Anger』(英文, WISDOM PUBLICATIONS)など著書多数。

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