覆面UT・パブリックインベーダー。その音が不穏でポップな理由

マカロニえんぴつやSUPER BEAVER、sumikaらが所属するインディーズレーベルmurffin discsが主催する『murffin discs Audition 2020』で、見事グランプリに輝いたパブリックインベーダーがデジタルシングル『404号線』でデビューした。

パブリックインベーダーは、作詞作曲を担当する上田とメインボーカルのyuriによる二人組。

グランプリを獲得した“ネオシティ”は、フリーキーなギターフレーズや不穏なコード進行が印象的な楽曲だったが、“404号線”では一転、ネットレーベルなどが台頭した2010年前後のクラブの雰囲気を思わせるような、レトロなサウンドへとシフトしている。

かと思えば、先日公開した新曲“Virus”では、トライバルな要素を取り入れるなど一筋縄ではいかない音楽性の彼ら。そのクリエイティビティーはいったいどこから来ているのだろうか。

年齢や性別など、多くが謎に包まれているスペースインベーダー。その正体にできる限り迫った。

「漫画でも音楽でも、好きになると自分でつくりたくなる」

―まずはパブリックインベーダー結成の経緯から教えてもらえますか?

上田:去年の1月くらいに「バンドがやりたい」と思ったんですけど、自分の周りにはオリジナルの曲をやっている人が全然いなくて。それでインターネットの「バンドメンバー募集」の掲示板に、自作のデモ音源を貼って「一緒にやってくれる人いませんか?」みたいな感じで書き込んだところ、ボーカル志望のyuriから連絡があったんです。

yuri:自分はState ChampsやAfter Tonight、See You Smileのようなポップパンクがずっと好きで。日本だとMy Hair is Badやクリープハイプ、FOMAREなどをよく聴いていて、そのあたりをミックスしたようなバンドを高校生の頃からやっていました。

でも、そのバンドが解散してしまい、「どうしよう?」と考えていた矢先、たまたま上田のデモを掲示板で聴いて、「あ、これ歌いたい」と思ったんです。それで連絡をしたのがパブリックインベーダーのはじまりでした。

パブリックインベーダー
2020年に行われた『murffin discs Audition 2020』にてグランプリを獲得。作詞作曲、サブボーカルを担当する上田と、メインボーカルのyuriによる2人組ユニット。その正体、年齢、性別などは謎に包まれている。2021年5月、murffin Lab.より“404号線”をデジタルリリース。サウンドプロデュースには、MOP of HEADのGerogeを起用しており、新鮮なサウンドのなかにも、どこか懐かしいクラブミュージックを感じさせる1曲となっている。

上田:なので、最初は二人でバンドをやるつもりだったんですよ。でも、それからあっという間にコロナが広がり、ほとんどのライブハウスが営業停止になって、バンドとしての活動をはじめづらい状況になっていった。

それで夏くらいに、「バンドじゃないかたちでもやれることはないかな?」と、新しい方向性についてyuriに相談しました。もともとバンドというフォーマットには収まりたくない気持ちもあったんですけど。

―じゃあ、結成してまだ1年くらいしか経っていなかったんですね。そもそもお二人は、どんなきっかけで音楽に目覚めたんですか?

上田:小さい頃は、親が車で流していたGReeeeNやスキマスイッチなどを聴いていました。幼稚園からピアノも習っていたんです。そんなに好きじゃなかったんですけど、中学3年くらいまで惰性でやっていて。普通、そのくらいやっていれば到達しているはずのレベルにさえ届かなかった(笑)。

yuri:自分は小さい頃からアニメが大好きで、なかでも『NARUTO-ナルト-』に夢中でした。最初に覚えて歌ったのも、SUPER BEAVERさんの“深呼吸”(『NARUTO-ナルト-疾風伝』のエンディングテーマ)でしたね(笑)。

学生時代に友人とカラオケに行って、そこでsupercellさんの“君の知らない物語”などを歌ったときに声を褒めてもらえたのがすごく嬉しくて。それがきっかけで歌を歌うことが好きになったのかもしれないです。

supercell“君の知らない物語”

―上田さんは、パブリックインベーダー以前、なにかバンドをやっていたのですか?

上田:サークルのコピバンとかはやったことありますが、オリジナル曲をやるとか、そういうのはなかったです。高校生の頃から趣味で、別にどこに発表するでもなくただ曲をつくっていましたね。

―曲づくりはなぜやりはじめたのでしょう?

上田:なんでだろう……(笑)。中学3年くらいのときにギターをはじめて、いろんな曲をコピーしていくうちに、「曲ってこうやってできているんだな」「コード進行にもパターンがあって、わりと似たようなものが多いんだな」というのがだんだんわかってくるじゃないですか。

そのときに聴いていたGReeeeNの曲なども、「そうか、この曲と同じコード進行なんだ」みたいなことがわかってくると、今度は自分でも曲をつくりたくなってきて。昔から、たとえば漫画を読んで「面白いな」と思ったら、自分でも描いてみたくなる性格だったんですよね。

―そういえば以前、音楽プロデューサーの木崎賢治さんにインタビューしたときも「なにかを好きになると、その構造を調べたくなるし、仕組みがわかると自分でもつくりたくなる」とおっしゃっていました(参考記事:音楽プロデューサー木崎賢治が、成功や失敗で気づいた仕事の流儀)。

上田:最初のうちは、簡易的な音楽制作アプリを使って遊びで曲をつくっていたんですけど、しばらくしてiPhone版のGarageBandを見つけて「これ、できそうだな」と思ったんです。そこからどんどん曲づくりにハマっていきましたね。

―二人でやることになって、参考にした音楽はありましたか?

上田:はじめたばかりの頃は、初期のRADWIMPSみたいに「バンド編成だけど何でもあり」みたいな姿勢が好きだったので、「こういうのいいよね」という話はしていました。

でも、「二人でユニットみたいなかたちでやっていこう」となってからは、そういう方向性の話はほとんどしてなくて。「こんな音源があるんだけど、どう?」みたいな感じで送るなど、基本的にネット上でのやり取りで制作していましたね。

「ゴチャついているほうが、スッキリまとまっている曲よりも好き」

―パブリックインベーダーというユニット名も大変ユニークです。

yuri:自分も上田も、浅野いにおさんの漫画が大好きで。ユニット名を考えていたときにちょうど読んでいたのが『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』だったんです。自分たちのアーティスト写真も、そこに出てくる「侵略者」の造形にインスパイアされていますね(笑)。

で、自分たちが「侵略者(インベーダー)」ならなにを侵略したいか? と考えたときに、学校や公園などパブリックなモノや場所がいいなと思って。それでパブリックインベーダーと名乗ることにしました。

―性別や顔など、自分たちの詳細を明かしていない理由は?

上田:まず思ったのが、「顔を出す意味もメリットも別にないよね?」ということ。で、覆面プロジェクトにするなら、なにか設定をつくったほうが面白いかな? と思ったくらいで大した理由はないんです(笑)。

最近はヨルシカさんやyamaさんなど、同じかたちで活動しているアーティストも多いし、自分たちとしても特別なこととは思っていなかったのかもしれない。あと、楽曲そのものに自分たちの見た目が影響されるのも、曲のイメージを植え付けられてしまうのも、あんまり嬉しくないなというのもありました。

―できるだけ先入観や偏見なしに作品と向き合ってほしいというか。

上田:まさにそうですね。

―浅野いにお作品以外にもなにか影響を受けているものはありますか?

上田:たとえば曲をつくるときにSF的な設定を考えることは多いですね。

yuri:“ネオシティ”のタイトルも、ネオ東京(大友克洋『AKIRA』の舞台)からインスパイアされたものだったよね。

パブリックインベーダー“ネオシティ”

―パブリックインベーダーは、この“ネオシティ”で『murffin audition 2020』のグランプリを獲得したんですよね。フリーキーなギターが印象的な楽曲ですが、どんなふうにつくったのですか?

上田:まずイントロのフレーズが頭に浮かんで、それをギターで弾いてみたらいい意味でワケわかんない感じになって(笑)。「これは面白い曲になるかもしれない」と思って仕上げていきました。

そういう意味では、すごくすんなりできた曲でしたね。奇をてらおうとせず、普通に曲をつくっていると自分はああいう感じになるみたいです。ああいうヘンな曲が結構いっぱいあるんですよ。

―コードの響きもすごく不思議です。

上田:自分としては、いままでいろんな曲を聴いてきたなかで「ここ、ぐっとくるな」と思ったコード進行を使っているだけなんですけどね。でも、それをそのまま使うのは嫌だったので、そのうえにいろんな楽器を重ねるんですよ。

そのときに、たとえばギターだったらネックのいろんなポジションを押さえてみて、「あ、この響き面白いな」とか、「これは聴いたことがないかも」とか思ったフレーズをどんどん入れているので、それでちょっとヘンな感じになっているかもしれないです。もしかしたら不協和音になっているところもあるのかもしれないけど、それはそれで気持ちよければいいかなと。

―たしかに、骨子にあるメロディーやコード進行はすごくシンプルかつポップですよね。その周りにコーティングされているフレーズや音色はすごくエキセントリックだったり、どこかグロテスクだったりして(笑)。そのギャップが上田さんらしさにつながっているのかもしれない。

上田:自分でもそういうゴチャついているほうが、スッキリまとまっている曲よりも好きなんですよね。それは音楽に限らず絵や服もそう。展開も複雑なほうが好きだし、ちょっと難解なところがあるくらいのほうが惹かれるというか。

「これ、いったいどんな仕組みになっているんだ?」とか、「こんなのどうやったら思いつくんだろう?」みたいな気持ちになる音楽により惹かれます。

聴いててすぐコード進行などがわかっちゃうような音楽も、それはそれで良さがあるのはわかるんですけど、自分がやるとなったら難解で複雑な曲をつくるほうが楽しいんですよね。

yuri:たとえばいま、自分が好きな音楽でいうとThe 1975やポーター・ロビンソンなどはスッキリとした綺麗な音楽、DUSTCELLさんやmillennium paradeさんはゴチャついている音楽の部類に入ると思うんですけど、両方とも大好きなのでどちらの面も出せていけたらいいなと思っていますね。

―続いてリリースしたのが“404号線”です。この曲は、前作と打って変わってちょっとレトロなシティポップソングです。ネットレーベルなどが台頭した2010年前後のクラブの雰囲気というか、どこか懐かしいテイストもありますね。

上田:ずっと“ネオシティ”のような風変わりな曲ばかり書いていたんですけど(笑)、いまやったらウケそうな要素を開き直って詰め込んでみたらどうなるか、ちょっと試してみようと思ってつくりました。

2010年っぽさについては、自分たちのスタッフさんにもそんな感じのことを言ってもらったんですけど、じつは全然聴いたことがなくて(笑)。ただ、そういう要素を受け継いだほかの音楽を聴くなど、間接的に影響は受けているのかなと思います。

パブリックインベーダー“404号線”

お互い足りない部分を補い合う。パブリックインベーダーのリスペクト精神

―“404号線”と新曲“Virus”を共同プロデュースしたGeorgeさん(MOP of HEAD)との制作のやりとりはどんな感じだったんですか?

上田:“404号線”は最初、シンセベースを使ってルートコードを辿るような、動きがあまりないフレーズを入れていたんです。それに対してGeorgeさんがつくってくれたデモは、生ベースで結構ゴリゴリ動いていて。最初は「大丈夫かな、上モノのシンセと合うのだろうか?」と思ったんですけど、実際にレコーディングしてみたらものすごく良くなったんですよね。

yuri:あれはびっくりした! 自分は“Virus”の間奏部分の楽曲の枠組みから外れていく、ちょっとトラップっぽい感じがすごくカッコ良くて、デモを聞いた瞬間に思わず声が出てしまいましたね(笑)。

上田:“Virus”も最初はシティポップっぽい、綺麗にまとまったアレンジにしてもらったんですけど、この曲は“404号線”の次に出す曲というのもあって、「民族音楽っぽさも出しつつゴチャゴチャさせたい」とリクエストしたら、あのバージョンにしていただきました。

パブリックインベーダー“Virus”

―たしかに、yuriさんの歌とメロディーを抜いたら本当に不気味で不穏なサウンドですよね(笑)。平歌の部分とか、調性もよくわからないくらい混沌としているし。

上田:サビのコード進行がよくある「Just The Two Of Us」進行(グローヴァー・ワシントン・ジュニアによる同曲のコード進行。さまざまなヒット曲で使用されている)なので、Aメロもそれで通してしまうとなにかが足りなくなるなと思ったんですよね。

それで後半に部分転調っぽい展開を入れれば、綺麗すぎずに「現実感」が出るのではないかと。そういうさじ加減というか、絶妙なバランスで自分たちのオリジナリティーを出したいと思っています。

―この曲はやはり、コロナ禍を歌っているのですか?

上田:それもあります。でもどちらかといえば、世の中の流行り廃りがすごいスピードで移り変わっていくことについての楽曲ですね。1年前にはみんなが「いい」と言っていたものが、いまはまったく忘れ去られている。そういうことに対する気持ちを歌っています。ただ、それを悪いこととも良いこととも思っていなくて。「そんなもんだよな」という諦観に近いのかも知れないです。

―歌詞のテーマは、どうやって決めているのですか?

上田:歌詞を書くのは本当に苦手で……(笑)。韻を踏むというか、どちらかというと意味よりも言葉の響きを重視している感じです。

メロディーを考えているときに、なんとなくデタラメ英語で歌っていて、その音に近い言葉を選んでいって、最終的に帳尻を合わせて完成させていくんですよ。たとえば“404号線”だったら、タイムマシンに乗って時間を移動しているような、そんな話のテーマに合う言葉から「いい響き」のものをピックアップしています。

―個人的に3曲をとおしてパブリックインベーダーに感じるのは、「喪失感」や「焦燥感」のようなものです。いま、「言葉の響きを重視した」とおっしゃっていましたが、それでも無意識に選んでいる言葉が、上田さんが日々抱えている感情とつながっているのかなと。

上田:それはあると思います。映画を観たり本を読んだりしているときに、グッとくる喪失感の「ポイント」みたいなものがあって、それをたとえば“404号線”では表現したいなと思っていました。

そのポイントを言葉にするのは難しいんですけど、たとえば喪失感を覚えながらもそれを悟られないように発する言葉とか振る舞いとか、そういうものに感銘を受けることが多い気がします。

それが、曲の盛り上がる瞬間とうまくシンクロしたときに、ただ文章を読んでいるだけでは味わえないような強さになるのが、音楽のいいところだなといつも思っていますね。

yuri:“404号線”の歌詞をはじめて上田からもらったときは、本当にグッときました。歌詞のなかで、「快速列車」をタイムマシンに喩えているのかなと自分は思ったんです。

電車って行ったり来たりするじゃないですか。それが過去行きと未来行きになっているのだけど、その列車が“404号線”つまり「404 not found」(見つからない)という、ひょっとしたら自分たちが生きているこの世界もパラレルワールドかもしれない、と捉えてみたらさらに面白い曲だなって。そういう、この曲が内包する儚さみたいなものを、ちゃんと歌で表現できたらいいなと思いましたね。

上田:その解釈いいねえ。全然そんなこと考えていなかったけど、今日からそれでいこうかな。

yuri:あははは。

上田:yuriの歌詞も何度か読んだことあるんですけど、全然自分よりもいいんですよ。なので、パブリックインベーダーでももっと書いてほしいです。

yuri:そのうちぜひ(笑)。自分も上田からデモファイルが送られてくるのが、毎回めちゃくちゃ楽しみなんですよね。「次はどんな曲なんだろう?」って、まるで宝箱を開けるようなワクワク感があって。たまに同じ曲が4バージョンくらい送られてくるときがあるんですけど、どれも良くて選べなくなるんです(笑)。

本当に上田の楽曲のファンだから、これからの活動も全然不安じゃないし、「この曲がパブリックインベーダーにはあるんだから大丈夫」っていつも思っています。それに負けないくらい、自分もボーカリストとして成長していきたいですね。

プロフィール
パブリックインベーダー
パブリックインベーダー

2020年に行われた『murffin discs Audition 2020』にてグランプリを獲得。作詞作曲、サブボーカルを担当する上田と、メインボーカルのyuriによる2人組ユニット。その正体、年齢、性別などは謎に包まれている。2021年5月、murffin Lab.より“404号線”をデジタルリリース。サウンドプロデュースには、MOP of HEADのGerogeを起用しており、新鮮なサウンドのなかにも、どこか懐かしいクラブミュージックを感じさせる1曲となっている。



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