
『Reborn-Art Festival』の飲食は芸術祭・フェス飯の常識を覆す
『Reborn-Art Festival』- インタビュー・テキスト
- 矢島由佳子(CINRA.NET編集部)
- 撮影:関口佳代
僕は、最初に目黒さんからお話を伺ったとき、「循環」というテーマに強く共感しました。(松本)
―料理も音楽もアートも「表現」や「作品」であると捉えていらっしゃるうえで、『RAF』のイベントコンセプトにも共感する部分が大きかったのでしょうか?
松本:僕は、最初に目黒さんからお話を伺ったとき、「循環」というテーマに強く共感しました。僕らは料理人という立場で、料理というもので、なにを循環させられるのか……。
一言に「循環」と言っても、いろんな「循環」があると思うんですけど、そのワードを自分のなかで咀嚼して飲み込むことができたら、自分自身の料理人としてのビジョンが、よりはっきり見えてくるんじゃないかなって考えたんです。
目黒:「循環」って、一地点ではないですよね。ひとつの瞬間だけのことではなくて、ひとつの瞬間がずっと度重なっていって、それが100年、200年、そして1000年と続いていく。それに、自然には、いろんな「循環」があります。人も生まれて死にますし、生き物って、全部「循環」じゃないですか。
―そうですね。
目黒:石巻で芸術祭として『RAF』を進めていくってなったときに、小林さんが一番に考えていることは、「1回バンっとやって終わり」ではなくて、これをきっかけにして、ゆくゆくの「循環」になっていけば、ということなんです。そこで自分が思う「循環」の0地点が、地元の人たちと、いろんな情報やスキルを持っている都心部の人たちを結び付けようということで。
幸いにも僕は、県外にも繋がりのあるシェフが多くいます。そういったシェフたちを呼んで来て、石巻の人たちとぶつけようとしました。でも、ただぶつけても面白くないので、共同で作業できるようなシステムを組み込んでいこうと。
―その試みの第一弾が、昨年のプレイベント『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』の会場に出現した「Reborn-Art DINING」だったと。会場に仮設のレストランがオープンし、全国の一流のシェフたちと松本さんや今村さんなど石巻の方々が一丸となって、ランチは2,800円のプレート、ディナーは6,000円のコースが振る舞われました。
会場内に建てられたレストラン「Reborn-Art DINING」
ランチプレート。「塩昆布を纏った石巻産スズキのキュイソン・ナクレと、鮮魚とハーブのタルタル」(真ん中)は松本、「夏野菜と魚介を乗せたとうもろこしの宝船」(右)は今村によるもの
目黒:お昼は石巻チームで、夜は県外チームでメニューを考えたんですけど、「お昼はお昼、夜は夜」で作業を分けるのではなく、有名なシェフたちばかりの夜のチームに「お昼のあいだは石巻チームをサポートしてもらいたい」とお願いしました。逆も一緒です。まあ、そういうふうになったのは、「この提供数に対して、こんなメニューにしちゃうの!?」っていう感じのメニューの組み方をしたからなんですけど(笑)。
松本:いざ1300食分の作業に入ってみたら、想像していた以上にとんでもないことをしようとしていたんだと気づいて、「おや!?」っていう(笑)。でも逆に、想像できてなくてよかったんですよね。想像できていたら、クオリティーを下げたメニューを考えていたと思うから。オペレーション重視になっていたかもしれないし。
目黒:オペレーション重視で回したら、来てくれる人たちに熱い思いがちゃんと伝わらなくなる。それにやっぱり、「これ、二度とやらないよね」っていうぐらい大変なことをやっていくことに、面白さがあるんですよ。
松本:「循環」という言葉で言うと、この先も「拡げる作業」というよりは、「繋がったものを太くしていく作業」をしていきたいですね。『RAF』に、僕らが楽しく、かっこよく参加することで、地元の若い子たちが県外にだけ目を向けるのではなく、「石巻にもおもしろい大人がいるな」と思ってくれたら嬉しい。
そうやって地元愛ができて、またそこに目黒さんのようなメディアにも取り上げられている料理人であり醸造家の方や、東京のシェフが来てくれることで、「石巻にいてもこれだけいろんな経験ができるんだ。面白い街じゃん、石巻」って思ってほしい。そう思ってもらえないと、石巻がこれから面白くなっていかないと思うんですよ。
イベント情報
- 『Reborn-Art Festival』
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2017年7月22日(土)~9月10日(日)
会場:宮城県 石巻市(牡鹿半島、市内中心部)、松島湾(塩竈市、東松島市、松島町)、女川町
参加作家:
ヨーゼフ・ボイス
JR
金氏徹平
マイク・ケリー
パルコキノシタ
クー・ジュンガ
ギャレス・ムーア
名和晃平
カールステン・ニコライ
ナムジュン・パイク
マーク・クイン
齋藤陽道
さわひらき
島袋道浩
ルドルフ・シュタイナー
鈴木康広
ヨタ
宮島達男
ハスラー・アキラ
カールステン・ニコライ
Chim↑Pom
コンタクトゴンゾ
デビッド・ハモンズ
有馬かおる
岩井優
目
青木陵子+伊藤存
増田セバスチャン
SIDECORE
八木隆行
ファブリス・イベール
バリー・マッギー
宮永愛子
田口行弘
カオス*ラウンジ
参加シェフ・生産者:
渡邉篤史(ISOLA)
岩永歩(LE SUCRÉ-COEUR)
楠田裕彦(METZGEREI KUSUDA)
目黒浩敬(AL FIORE)
手島純也(オテル・ド・ヨシノ)
小林寛司(villa AiDA)
藤巻一臣(サローネグループ)
松本圭介(OSPITALITA DA HORI-NO)
今村正輝(四季彩食 いまむら)
奥田政行(アル・ケッチァーノ)
緒方稔(nacrée)
小野寺望(イブキアントール)
堀野真一(OSPITALITA DA HORI-NO)
生江史伸(L'Effervescence)
石井真介(Sincére)
今村太一(シェフズガーデン エコファームアサノ GOEN)
佐藤達矢(nacrée)
安齊朋大(La Selvatica)
成瀬正憲(日知舎)
川手寛康(Florilèges)
菊池博文(もうひとつのdaidokoro)
ジェローム・ワーグ(RichSoil &Co.)
原川慎一郎(RichSoil &Co.)
プロフィール
- 目黒浩敬(めぐろ ひろたか)
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Reborn-Art Festival フードディレクター。AL FIORE(宮城) / 代表。1978年、福島県新地町生まれ。宮城県川崎町在住。2005年に仙台でイタリア料理店「AL FIORE」を開店。同時に食を考えるきっかけ作りとして、数々の食育活動や野外でのワークショップなどを全国で開催。もっと深く食の根源から見つめ直したいとの思いから、就農のため2015年をもって閉店。現在は、ワインづくりのための葡萄栽培をはじめ、自然の中で楽しみながら、食や自然に対して気づきの場になるコミュニティづくりに励んでいる。
- 松本圭介(まつもと けいすけ)
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OSPITALITA DA HORI-NO(石巻) / 料理長。1979年、茨城県生まれ。イタリアマエストロの称号を持つ石崎幸雄のもと、リストランテ・ジャルディーノでイタリア料理を学ぶ。2012年に震災後の仕事で石巻に訪れた際に、石巻の食材や環境、様々な魅力に惹かれ、2015年7月に「OSPITALITA DA HORI-NO」を開店。
- 今村正輝(いまむら まさてる)
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四季彩食 いまむら(石巻) / 料理人。1981年、千葉県生まれ。大学卒業後、世界中を旅して周り、多くの経験と人に出会う。那須や東京で和食の修行をした後、震災のボランティアとして石巻に移住。そこで知り合ったボランティアの仲間たちと2013年4月に「四季彩食 いまむら」開店。