レポート

HINTOやTempalayら、現代の孤独感と無力感を音楽で切り裂いた

テキスト
天野史彬
撮影:小田部伶 編集:矢島由佳子
HINTOやTempalayら、現代の孤独感と無力感を音楽で切り裂いた

シンガーソングライターとオーケストラバンドを含めた、4者4様の共演

あまりに4者4様。6月30日、TSUTAYA O-nestにて開催された、CINRAと音楽アプリ「Eggs」が共同主催する、入場無料のマンスリーライブ『exPoP!!!!! volume86』。このイベントに出演したチーナフィルハーモニックオーケストラmini、戸渡陽太、Tempalay、HINTOの4組は、表現の方向性において、それぞれ全く違う。ざっくり書くと、チーナフィルminiはオーケストラポップバンド、戸渡陽太はソロシンガーソングライター、Tempalayはサイケデリックポップバンドで、HINTOは狂気的なロックバンド。

ただ、それぞれ手法は全く異なれど、この4組は「表現の多様性とは視点の多様性であり、それは世界を彩る色彩でもあるのだ」ということを証明するかの如く、誰もが共通して「今」という時代に対する自分たちなりの立ち位置を明確にしながら、音楽を鳴らすアーティストたちだった。

人と共有する喜びを8人の和音で表現した、チーナフィルハーモニックオーケストラmini

トップバッターは、チーナフィルハーモニックオーケストラmini。5人編成のバンドである「チーナ」が発展した「チーナフィル」は、本来、総勢16名からなるオーケストラバンドなのだが、この日はライブハウス用の8人編成で登場。しかし、いくら「mini」といえども、O-nestのステージ上からバイオリンやハープが一斉に鳴り響くさまは圧巻。

チーナフィルハーモニックオーケストラmini
チーナフィルハーモニックオーケストラmini

演奏が始まるや否や、ステージ上のメンバー同士が笑顔で顔を見合わせながら各々の楽器の音を重ねていく。そこには、野性的なくらい「奏でる」ことの喜びが溢れていたし、無力感や孤独感をテーマに扱うことが多かったボーカル・椎名の歌も、その美しさと躍動感を併せ持った演奏の中で、より大きな翼を手に入れて飛翔するかの如く響き渡っていた。「音」だけでなく「心」すら重ね合わせ、覚醒感溢れるオーケストラポップを響かせたチーナフィルの演奏は、簡単に物事がシェアされるこの時代において、本当の意味での「共有」の喜びを、「和音」という名の奇跡を通して表現してみせた。

「Life is beautiful」と断言する、戸渡陽太

続いて登場した戸渡陽太は、楽器と人でステージが溢れかえったチーナフィルとは打って変わり、サポートドラムとの2人編成というプリミティブな形態で登場。1stフルアルバム『I wanna be 戸渡陽太』を引っさげてメジャーデビューしたばかりの彼だが、“Beautiful Day”や“Nobody Cares”“Sydney”など、アルバムでは多彩なゲスト陣と共に豊潤なバンドサウンドで聴かせていた楽曲たちが、「歌とアコギとドラム」というシンプルな編成で鳴らされたとき、そのメロディーの美しさも、歌の力強さも、全ては彼がたったひとつの「個」として世界と向き合い続けてきたがゆえに手に入れたものであるのだと実感した。

戸渡陽太
戸渡陽太

「こんな時代だからこそ、歌い続けたい曲です」と言って最後に演奏されたのは、“世界は時々美しい”。「個」として歌い続けながら自己肯定するのではなく、あくまでも「世界」の美しさを描き、世界を丸ごと肯定しようとする戸渡の歌声は、この先、より大きな包容力をもって、多くの人々の毎日を包み込むものになるのではないだろうか。

現実逃避をもくろむサイケデリック集団、Tempalay

3番手は、ご機嫌なサイケ集団、Tempalay。若者たちの間からサイケデリックな表現が噴出する時代というのは、それ相応に、その国の内情が混迷を極めている時代でもあるのだが、そう考えれば、今日本にTempalayがいるのも頷ける。エロスもタナトスも内包した「気持ちよさ」を追求し、それによって「逃避」をもくろむことは、それ自体が社会に対するひとつの明確な態度でもあるのだ。

Tempalay
Tempalay

1曲目の“Oh.My.God!!”から、脱力気味な佇まいながら、演奏ではしっかりと、甘いメロディーがドロドロと溶け出すようなサイケデリアを展開。Tempalayの素敵なところは、そのサイケデリアの中にもしっかり「隙間」があること。このドラッギーな音の海に密室的な息苦しさはなく、常にチャーミングで、日常のなかにサラッと桃源郷を産み出してみせる。この日、10月にドミコと共にビーチパーティー『BEACH TOMATO NOODLE』を開催することも発表。彼らの鳴らすサイケデリアが、少しずつ、この国のユースカルチャーを浸食していくようだ。

キャリアを重ねてきたHINTOは、いかに音楽で世界と対峙する?

そしてトリを飾ったのはHINTO。1曲目“なつかしい人”から、心の片隅に積もった悲哀とノスタルジーが埃のように舞い上がるかの如く、「切なさ」に満ちた音塊を響かせた。この段階で空間を完全に支配してしまう圧倒的な表現力を見せつける。SPARTA LOCALSが解散してHINTOが始まったとき、安部コウセイのなかで明確に起こった変化とは、「怒り」が「諦念」に変わったことだろう。そして、その「諦念」は、安部コウセイに「観察者」と「語り部」という新たな表情を与えた。「冷静に狂え」――そう語り掛けてくるかのようなHINTOのサウンドは、この日も“アットホームダンサー”や“バブルなラブ”などの楽曲を通して、聴き手の身に踊ることの狂気をまざまざと刻みつけていた。

HINTO
HINTO

そして、アンコールで演奏された“かんけいないね”。この曲に刻まれた、どれだけ達観しようが滲み出てしまうハードボイルドなロマンティシズムは、じんわりと効いてくるアルコールのように、踊り疲れた体に陶酔をもたらすのだった。

チーナフィル、戸渡陽太、Tempalayの鳴らしたものが、時代の中心で理想を描くものなら、最後に登場したHINTOは、敢えて時代の片隅から鋭利に真理を射抜くようなものだった。O-nestからの帰り道、「無邪気さ」と「重さ」、「熱さ」と「冷たさ」――そんなものが体の中に心地よく入り混じっているのを感じた。

イベント情報

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume86』

2016年6月30日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
HINTO
Tempalay
戸渡陽太
チーナフィルハーモニックオーケストラ mini

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume87』

2016年7月27日(水)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
SATORI
TWEEDEES
澤部渡(スカート)
杏窪彌
CLOW(オープニングアクト)
料金:無料(2ドリンク別)
※会場入口で音楽アプリ「Eggs」の起動画面を提示すると入場時の1ドリンク分無料

プロフィール

チーナフィルハーモニックオーケストラ
チーナフィルハーモニックオーケストラ

チーナのメンバーを中心に結成した『チーナフィルハーモニックオーケストラ』。昨年ミニアルバム『DOCCI』をリリースし渋谷DUOでのワンマンライブも大成功に終わったチーナが次に表現したのは15人でのオーケストラ編成、現在16名。5月1日に初ライブをワンマンライブという形で渋谷WWWにて実施しチケットはソールドアウト、「もっと観たい」「感動した」「野外イベントでも観たい」等、好評を得ている。メンバーはVocal&Piano:椎名杏子、Violin:柴由佳子、Guitar:リーダー、Contrabass:林絵里、Drums:HAPPY、Trumpet:壺坂恵、Tenor sax:Cross You(RIDDIMATES)、Alto sax:akirag(RIDDIMATES)、Violin:関口幸恵、Violin:宮崎隼人、Viola:角谷奈緒子、Cello&E.bass:Sohey(SOUR/高速スパム)、Harp:ほしやまかなこ、Percussion:小宮山純平(MAGICAL CHAIN CLUB BAND)、Steelpan:タカヒロ、Accordion:マメルダ。

戸渡陽太
戸渡陽太(とわたり ようた)

枠に収まらない感性の放出で歌を紡ぎ出し、唯一無二な声を武器に独自の世界へと引き込むシンガーソングライター。高校に入り、歌を作り、歌うことに興味を持ち、ギターを弾き始める。ギターを弾き始めてすぐにオリジナル曲作り、地元福岡のライブハウスのステージに立つようになる。その後、「閃光ライオット」をはじめとする各種オーディションを受け、全国各地のライブハウスでの経験も積みながら、徐々にその演奏スタイルとパフォーマンスを身につけ、注目を集めるようになる。そして、2016年6月15日、JUSTA RECORDSよりメジャーデビュー。

Tempalay
Tempalay(てんぱれい)

東京・埼玉を中心に活動する小原 綾斗(Gt&Vo)、竹内 祐也(Ba)、藤本 夏樹(Dr)による3ピース・バンド。結成から僅か1年にしてFUJI ROCK FESTIVAL'15「ROOKIE A GO-GO」に出演。2015年9月にリリースした限定デビューEP『Instant Hawaii』は瞬く間に完売。そのリリースパーティーに元マック・デマルコのギタリストのホームシェイクを招聘し公演もソールドアウトする。西海岸やカナダの海外インディーミュージックの影響を感じさせる、独特の脱力したローファイサウンドと極彩のサイケデリックポップはシーンの中でもオンリーワンの存在感をはなつ。2016年1月に1stアルバム『from JAPAN』をリリース。また3月に行われたアメリカの大型フェスSXSW2016への出演しUSツアーを決行。8月にはデビューアルバム『from JAPAN』に未収録曲を追加したLPをリリース予定。

HINTO
HINTO(ひんと)

元SPARTA LOCALSの安部コウセイと伊東真一が中心となり2010年結成。2013年に元SPARTA LOCALSで安部コウセイの実弟である安部光広が加入し現体制となる。2016年9月21日に、約2年ぶりのフルアルバムが発売予定。

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楽曲のビートにのせて流れる色鮮やかな、ばっちりキマった画。その中で、重力まかせに寝転んだり、うなだれたりするメンバーの身体や、しなやかな演奏シーンが美しい。どの瞬間を切り取っても雑誌の表紙のようで、約5分間、全く飽きがこない。(井戸沼)

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