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クウチュウ戦ほど、フリーキーなのに華があるバンドは今いない

クウチュウ戦『超能力セレナーデ』ツアー
テキスト
天野史彬
編集:矢島由佳子
クウチュウ戦ほど、フリーキーなのに華があるバンドは今いない

ドラマが溢れるツアーファイナル……とはならなかった

クウチュウ戦が、3rdミニアルバム『超能力セレナーデ』リリースツアーのファイナルとなるワンマン公演を、11月3日、渋谷Star loungeにて行った。バンドが作品を出して、リリースツアーで全国を回り、その最後を飾るワンマンライブとなれば、会場はバンドの成長と、それを受け入れるファンの間にドラマが生まれ、涙も流れんばかりの特別な空間になるはず……と思いきや、この日のクウチュウ戦のライブにはそういったカタルシスがなかった。

いや、厳密に書くと、「音楽以外の作為的なカタルシス」が存在しなかったのだ。バンドと聴き手とは、その活動を通して、ときとして、音楽だけではない部分でもたくさんのドラマや感情を共有していくもの。それもまたひとつの幸福な形なのだが、この日のクウチュウ戦が聴き手と共有していたのは、「人と人の間に音楽が鳴っている」という、その1点のみだったように思う。でも、実のところ、これはこの日に限ったことではなく、彼らのライブの大きな特徴だったりもする。クウチュウ戦のライブには、お涙頂戴のメロドラマティックなカタルシスはない。でも、クウチュウ戦の音楽自体には「カタルシスしか」ない。

以前、インタビューでボーカルのリヨが、インドの面白さについて語ってくれたことがある(インタビュー記事「クウチュウ戦の警告。左脳ばかりを動かす現代日本人を刺激する」にて)。いわく、道端で死体を燃やすインドのような国には、物事と物事、人と人の間に「境界線」が存在しないのだ、と。クウチュウ戦のライブもそれと一緒だ。音楽と日常の間に境界線がない。しかし、それは音楽をBGM程度のものとして捉えているわけではなく、むしろ、音楽という魔法のようなものが日常のなかに存在することの奇跡を、真っ向から受け止めているということだ。クウチュウ戦は、「目の前で音楽が鳴っている、それだけで奇跡だよね?」と当たり前のように提示するし、それができるのは、音楽、あるいはポップミュージックに対するバンドの絶対的な信頼があるからに他ならない。

リヨ 撮影:ヨシダユキ
リヨ 撮影:ヨシダユキ

プログレッシブな音楽性に加えて、メロディーでさらに求心力を高める

ライブは、ゆっくりと聴き手を音世界のなかに誘うかの如く、むせび泣くような切ないメロディーとリヨのエモーショナルな歌唱が響く“アモーレ”で幕を開け、続く、“ぼくのことすき”から“光線”の流れで、その深い叙情性に疾走感が加味されていく。冒頭で『コンパクト』(2015年5月発売)、『Sukoshi Fushigi』(2016年1月発売)、『超能力セレナーデ』という去年から立て続けにリリースされた3枚のミニアルバムより1曲ずつ披露したことで、そもそも難解なプログレッシブロックを鳴らすことから始まった彼らが、この1年間で飛躍的に「歌とメロディー」という普遍的な部分での求心力を高めたことに改めて気づかされた。

1stミニアルバム収録曲 2ndミニアルバム収録曲 3rdミニアルバム収録曲

そして、続いて披露された“インドのタクシー”では、ガレージもサイケもラテンもごちゃ混ぜにしたフリーキーな側面もしっかりと見せつける。3分足らずの短い時間のなかで疾風怒濤に展開を変えていくこの曲を目の前で見事に再現されるのは、やはり圧巻だ。

クウチュウ戦 撮影:ヨシダユキ
クウチュウ戦 撮影:ヨシダユキ

近年の他のバンドに類を見ない「フォトジェニック」な佇まい

最初にも書いたように、クウチュウ戦のライブには音楽以外の作為的カタルシスはない……というわけで、この日リヨからMCで発せられたのは、「パンドラ」と呼ばれたパンティー泥棒の同級生がいたという話と、アバシリ(Dr)に普通のゼリーと偽ってカブトムシゼリーを食べさせたという話くらい。あとはニシヒラユミコ(Ba)によるライブや物販の告知だけという淡泊っぷりなのだが、クウチュウ戦はメンバー四人の立ち姿が美しい、とてもフォトジェニックなバンドでもある。

それゆえに、決して余計な言葉はなくとも、ステージに四人が揃って立っているだけで、そこには一介のインディーズバンドでは到底かなわない華が生まれるし、そんな彼らが激情的に楽器を鳴らす姿は、視覚的、身体的な面においても、彼らの音楽の「特別さ」を際立たせる。特に、キーボードのベントラーカオルが鍵盤やアコギを操りながら、そのうえで野獣のように暴れまわるパフォーマンスは凄まじく、この日は他のメンバーが演奏しているなか、逆立ちまで披露していた。

ベントラーカオル 撮影:ヨシダユキ
ベントラーカオル 撮影:ヨシダユキ

撮影:ヨシダユキ
撮影:ヨシダユキ

そして、この日サプライズだったのが、メロウなファンクチューン“アーバン”からの流れで、新曲“セクシーホモサピエンス”が披露されたこと。まずタイトルが極めてクウチュウ戦らしいが、何より驚きは、この曲でリヨがラップを披露していたことだ。

この、何にもとらわれない音楽的自由度はクウチュウ戦ならではだし、個々のジャンルの記名性やエッジは失うことなく、それを3分間のポップソングへと昇華する楽曲構築のスキルもさすがの一言。そして、ある種「器用」ともいえるこのバランス感覚が、クウチュウ戦がプログレを始めあらゆる過去の音楽を昇華しながら、しかし2016年最先端のバンドであることの証明でもある。

撮影:ヨシダユキ
撮影:ヨシダユキ

撮影:ヨシダユキ
撮影:ヨシダユキ

1970年代のプログレと、クウチュウ戦が2016年に鳴らすプログレの、ひとつの大きな違い

70年代のプログレッシブロックとは、「ウッドストック」や「ラブ&ピース」という言葉に象徴される、ロックの理想主義が敗北した後に生まれた音楽だ。「社会」に敗れた60年代のロックミュージックが、「観念」の世界に救いを求めた姿だとも言える。それゆえに、プログレはその音楽性をどんどんと拡張させることとなった。頭のなかでは、どんな幻想も具現化できるし、どんなスピリチュアルなことも表現可能だから。

では、現実ではどうだろう?――この「現実味のなさ」が、70年代プログレの弱点でもあったのではないかと思う。しかし、今を生きるクウチュウ戦は、観念的、理想主義的でありながらも、しっかりと現実に根差している。あらゆる音楽を取り込み、スピリチュアルでありながら、しかし3分間のポップスとして、現実を生きるあなたの耳に飛び込むことを望んでいる。

実際、この日も僕は、約90分間の演奏が終わった後、会場を出てから少し不思議な気分でいた。それは、さっきまで自分の目の前で繰り広げられた特別な景色に対して、自分が一切の「境界線」を感じなかったからだ。「特別」は、自分のすぐ隣にある――そんなことを教えてくれる、とても現実味のある魔法。今のクウチュウ戦が鳴らしているのは、そんな音楽なのだ。

撮影:ヨシダユキ
撮影:ヨシダユキ

イベント情報

クウチュウ戦『超能力セレナーデ』ツアー

2016年11月3日(木・祝)
会場:東京都 渋谷 Star lounge

リリース情報

クウチュウ戦『超能力セレナーデ』
クウチュウ戦
『超能力セレナーデ』(CD)

2016年8月3日(水)発売
価格:1,000円(税込)
CTCJ-20044

1. ぼくのことすき
2. インドのタクシー
3. アーバン
4. フルート
5. お願いUFO
6. 魔法が解ける

イベント情報

感傷ベクトル presents『青春の始末 後夜祭 Day2』

2016年12月22日(木)
会場:東京都 新宿 Zirco Tokyo
出演:
感傷ベクトル
クウチュウ戦
料金:3,500円(ドリンク別)

プロフィール

クウチュウ戦
クウチュウ戦(くうちゅうせん)

1990年生まれのロックカルテット。2008年、大学1年のリヨ(Vo,Gt)とニシヒラユミコ(Ba)が原型バンドを結成。2011年1月、ベントラーカオル(Key)加入。同年7月にリヨが突然ペルーに飛び、アマゾンのジャングルの奥で行われる神秘的な儀式に参加。その後、2012年3月までイギリス/オランダなど、ヨーロッパを放浪。2014年5月、アバシリ(Dr)が正式加入。新体制のクウチュウ戦が誕生。その高度な演奏力、プログレッシブな音楽性が同世代の客/バンド/ライブハウス関係者などに絶賛されるが、そこにあった本当に重要なものは、夏のオリオンのように美しいメロディー、日常の風景を少し不思議な空間に異化させるリリック、そして光線のように天空を突き抜ける歌心だった。2015年5月に1stミニアルバム『コンパクト』、2016年1月に2ndミニアルバム『Sukoshi Fushigi』をリリース。そして8月3日に3rdミニアルバム『超能力セレナーデ』をリリースした。

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