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「さいはての芸術祭」の真価は? 『奥能登国際芸術祭』詳細レポ

『奥能登国際芸術祭2017』
テキスト
杉原環樹
編集:宮原朋之
「さいはての芸術祭」の真価は? 『奥能登国際芸術祭』詳細レポ

海に囲まれた半島の最先端に設置された国内外39組のアーティストの作品

日本海に向かって大きく突き出した能登半島。その先端に位置する奥能登・珠洲市は、かつて海上交易の拠点としてさまざまな文化が往来する、国内有数の賑やかな地域だった。しかし、近代化の流れのなかで陸路が中心となると、東京からの距離も仇となり、地域は次第に衰退。珠洲市は現在、「本州で最も人口の少ない市」となってしまった。

人とものが集まる「最先端」から、現代の「さいはて」の土地へ――。だが、時代の影響を受けにくいその地理的条件は、むしろ、ほかの地域では失われてしまった豊かな風習や文化をいまに温存することにもつながっている。そんな、現代にこそ見つめ直すべきエリアの魅力を再発見する『奥能登国際芸術祭』が、今年より新たにはじまった。

総合ディレクターに、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』や『瀬戸内国際芸術祭』でも成功を収めてきた北川フラムを迎えた同芸術祭では、国内外39組のアーティストが海に囲まれた珠洲の各所に作品を設置。土地に潜んだ物語を、それぞれの視点から掘り返し、提示している。この記事では、9月はじめに行われた1泊2日のツアーでの経験を軸にしながら、いくつかの代表的な作品や試みを紹介していく。

地域により表情が異なる奥能登。荒々しい外界の海に面した作品には、異界に対する畏怖の感覚が宿る

一口に「奥能登」と言っても、その風土や特色は場所によってだいぶ異なる。できれば日本地図で、あらためて能登半島を見てほしい。鉤形に張り出した半島のうち、日本海に面した外側の地域を「外浦」、富山湾に面した内側の地域を「内浦」という。外浦の海は荒々しく、内浦の海は穏やか。また海流などの影響から、両者では生える植物も違う。ツアーでは外浦側から半島に入り、先端部を経て内浦側にある珠洲の市街地へと向かっていった。

『奥能登国際芸術祭2017』の作品設置箇所
『奥能登国際芸術祭2017』の作品設置箇所

移動中の車窓からも、つねに海を眺められる外浦の各地区。これらの場所で参加者がまず出会うのは、塩田千春や鴻池朋子といった、実力派のベテラン作家による作品だ。

「塩田(えんでん)」が多いことに身近さを感じた塩田は、大谷地区の旧保育所を舞台に希望した。国内で唯一、当地で続く「揚げ浜式製塩法」は、戦時中に地元の角花家という一家が出兵の代わりに守ることを命じられて、大切に続けてきた製塩法。このエピソードに感化された塩田は、製塩に使う「砂取り舟」と赤い糸で鮮やかな風景を描いた。

塩田千春『時を運ぶ船』撮影:中乃波木
塩田千春『時を運ぶ船』撮影:中乃波木

一方の鴻池は、土地でかつて大切にされていた柄島に面した、半島最北端のシャク崎のまさに突端部に、異形の人の姿をした『陸にあがる』を設置した。作品までは、車を降りたあと、荒い崖道や緑のトンネルを20分ほど歩かないと辿り着けない。土地の人々が海の向こう側に感じていた畏怖の感覚を、鑑賞者に身体を通して伝える仕掛けだ。

鴻池朋子『陸にあがる』撮影:中乃波木
鴻池朋子『陸にあがる』撮影:中乃波木

海を挟んで大陸の異国と面した奥能登には、外部からやって来たものや人を尊び、大事にする文化がある。まさにそのインターフェイスとしてある外浦の各地区では、漂着物に着目した作品も目立った。たとえば深澤孝史の『神話の続き』は、大陸から流れ着いた現代の廃棄物によって鳥居を作り、ご神体とした意欲作である。

深澤孝史『神話の続き』撮影:中乃波木
深澤孝史『神話の続き』撮影:中乃波木

また、半島の最先端、三崎地区の浜辺にある小山真徳の『最涯の漂着神』は、「鯨が一頭獲れれば7つの村が潤う」といった言い伝えに注目し、2か月半の滞在中に破船や流れ着いたイチョウの木を収集。その木材を切り出して鯨の肋骨に見立てた参道とし、船の内部に海藻の髪をたずさえた人魚が鎮座する聖なる社殿を作り上げた。「作品そのものと同時に、この素材がどこから来たかにも思いを馳せてほしい」と小山は言う。

小山真徳『最涯の漂着神』撮影:中乃波木
小山真徳『最涯の漂着神』撮影:中乃波木

半島と海の関係が時空間を越えて、圧倒的なリアリティーで迫る

この半島と海の関係を、個人史や現代史も絡めながら、とくにリアリティーある印象的な作品へと昇華していたのが、日置地区のさわひらきと、三崎地区の岩崎貴宏だ。

祖父と父がともに奥能登で暮らしたというさわは、旧公民館の建物全体を使い、映像やドローイングなどからなる壮大なインスタレーションを展開。作品の原点には、かつて祖父が病に倒れた際、必要な氷を金沢から珠洲へと海路で運んだというエピソードがある。古い小舟や灯台などを描いたドローイングの数々、時間とともに響きを変える氷でできた楽器の音が鳴る会場を抜けると、突き当りの部屋で鑑賞者はこの個人史を叙情的な映像で知ることになる。「海からの視点は、人の見方を変える」とさわは話す。

さわひらき『魚話』 撮影:中乃波木
さわひらき『魚話』 撮影:中乃波木

今年、『第57回ヴェネチア・ビエンナーレ』で日本館出品作家にも選ばれた岩崎は、生活空間を回廊型の土間が取り囲む、この地域に典型的な民家の間取りを作品に活かした。部屋に2トンもの塩を持ち込み、船や民芸品の飾り箱を置くことで現れたのは、遠方に大陸を望む能登の海の光景だ。塩の海から借景のように続く奥の襖絵が、日本と大陸の美術の歴史的な交流を思わせる一方、襖をズラすと簡単に変わる空間のあり方は、その関係の脆弱さや可能性も示唆する。「意外と近い大陸との歴史を凝縮したかった」と岩崎。

岩崎貴宏『小海の半島の旧家の大海』撮影:中乃波木
岩崎貴宏『小海の半島の旧家の大海』撮影:中乃波木

夜は、現代化のなかで残った能登の濃密な文化を堪能する

1日目夜、到着した珠洲市の市街地で夕食を食べたのは、今回のために新たにオープンした『さいはてのキャバレー』。建築家・藤村龍至が改装した建物では、食とアートを結ぶ活動をするEAT & ART TAROによる料理やドリンクも味わえる。そしてこの食事中には、地元の「キリコ祭り」の圧巻のパフォーマンスも堪能することができた。

EAT&ART TARO『さいはての「キャバレー準備中」』撮影:中乃波木
EAT&ART TARO『さいはての「キャバレー準備中」』撮影:中乃波木

キリコ祭り 撮影:中乃波木
キリコ祭り 撮影:中乃波木

キリコとは、高さ十数メートルにもなる巨大な灯籠。それを男たちが壊さんばかりに揺さぶる姿からは、現代化のなかで能登に残った文化の濃密さを、全身を通して感じられるはずだ。キリコ祭りは芸術祭の会期中もほぼ連日のように行われるため、それに合わせて訪問することを強くおすすめしたい。

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イベント情報

『奥能登国際芸術祭2017』

2017年9月3日(日)~10月22日(日)
会場:石川県 珠洲全域
参加アーティスト:
浅葉克己
アデル・アブデスメッド
EAT & ART TARO
石川直樹
岩崎貴宏
エコ・ヌグロホ
河口龍夫
ギム・ホンソック
鴻池朋子
さわひらき
塩田千春
トビアス・レーベルガー
中瀬康志
ひびのこづえ
深澤孝史
Raqs Media Collective
リュウ・ジャンファ
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