VOCALOID Keyboardの実力は?新津由衣とAZUMA HITOMIが実験

ボカロで演奏ができるキーボードを使った作曲過程を公開レクチャー

11月11日、12日の2日間に渡って開催されたCINRA主催の大人の文化祭『NEWTOWN』。校舎内の音楽室では、『新世界★虎の穴 課外授業 meets VOCALOID Keyboard』が行われた。「新世界★虎の穴」とは、これまで「宅録女子」と呼ばれてきた新津由衣とAZUMA HITOMIが、ミュージシャンとしてのさらなる成長を目指してスタートさせた新プロジェクト(詳細は、こちらのインタビューを参照)。

二人のアーティストが互いに協力しながら、新しい世界の扉を開くべく色々なことに挑戦していき、その成長過程を「授業参観」と称して公開する。音楽に関する知識や成長する喜びをオーディエンスとも共有するイベントだ。

その特別編となったこの日の課題は、12月9日に発売されるYAMAHAの新商品「VOCALOID Keyboard」(以下、VKB)。その名の通り、ボーカロイドをキーボードで演奏できるというもので、「ボカロに興味はあるけど、DTMは難しそう」という人でも、気軽にボカロで制作ができる画期的な製品だ。新津とAZUMAの二人はあらかじめVKBを使った新曲を用意し、その場で音を重ねていくことで曲を完成させた。

左から、AZUMA HITOMIと新津由衣。手に持っているのが「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」
左から、AZUMA HITOMIと新津由衣。手に持っているのが「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」(商品詳細を見る

二人それぞれのアイデアが詰まった作曲過程を披露

タイガーマスクに制服という、動画を見ている人にはお馴染みの姿で登場した二人。実はこの格好で人前に登場するのは初めてとのこと。イベントの会場は小学校の音楽室なので、「授業参観」というコンセプトもある「新世界★虎の穴」にはぴったりのシチュエーション。簡単に授業の趣旨とVKBの紹介をすると、早速曲作りを開始する。

まずはエフェクターを使って「初音ミク」の声をブラスやエレキギターの音のように加工し、あらかじめ用意されたリズムトラックに重ねていく。前述のインタビューでも話していた通り、新津は主にトーク回しと実際の演奏、AZUMAが主にセッティング・録音と、二人の役割分担がしっかりとできあがっていて、作業はとてもスムーズだ。

当日の作曲風景やライブ風景を収めた動画(映像:剣持悠大)

「<ボボボ>とか<ボンボンボン>って歌わせた声を加工すると、ブラスっぽく聴こえる」などと、機材好きのAZUMAが短期間でVKBを使いこなしていたのはさすがだった。VKBは「初音ミク」以外のキャラクターの声も使うことができ、ジェンダーつまみをいじることで声質を変えることもできる。いろんな声を使い分けながら、各楽器フレーズやハモを録音していく。

「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」を使って二人で曲を作っていく
「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」を使って二人で曲を作っていく(商品詳細を見る

できあがった楽曲は、そのまま『NEWTOWN』のテーマソングになりそう?

ベーシックトラックが完成したところで、今度は新津が歌詞をお披露目。感情を表に出せないボーカロイドの「人格」に自分を重ね、パッシブ(=受身)であることを受け入れ、<わたしが誰か? そんな事どうでもいいさ>と言い放つ。ファンタジックかつハッピーサッドな、新津らしい内容だ。

歌詞を披露する新津由衣
歌詞を披露する新津由衣

また、「作られたものを、みんなが見に来る(聴きに来る)」というボカロとの共通点から、タイトルは展示会や博覧会の「仮設テント」を意味する“パビリオン”に決定。これは校庭に仮設テントが立ち並ぶ『NEWTOWN』というイベント自体を表してもいて、実際に歌詞の最後は<ここはNEWTOWN>と締め括られる。そのまま『NEWTOWN』のテーマソングにもなりそうな一曲だ。

大人の文化祭『NEWTOWN』 校庭の様子(撮影:栗原論)
大人の文化祭『NEWTOWN』 校庭の様子(撮影:栗原論)

そして、この歌詞を実際に「初音ミク」に歌わせるわけだが、まずは新津がVKBを演奏して普通に初音ミクを録音。さらにAZUMAが工夫を加え、ボコーダーを使って、初音ミクを重ねてみるという。AZUMA自身が歌うことで(AZUMAの声が実際に重なるわけではない)、ボカロだけでは出せない人間ならではの発音や息継ぎの感じを補ってみせる。

さらに、後半では「初音ミク」以外のボーカロイド「Megpoid」や「結月ゆかり」をハーモニーとして使い、曲の展開と共に声の印象を変えることで、より楽曲に深みを与える。短い曲ながら、二人のアイデアがギュッと詰め込まれているのだ。

左から:AZUMA HITOMI、新津由衣

様々な可能性を秘めているVKB。あとは使い手の発想次第

こうして新曲“パビリオン”が完成すると、最後にこの曲がミニライブで披露された。新津はハンドマイクとタンバリン、AZUMAはVKBを演奏しながら、「初音ミク」をメインボーカルに新津とAZUMAがハーモニーを歌うという、三者の見事なコラボが実現。できたてほやほやの“パビリオン”で盛り上がり、課外授業は大きな拍手とともに終了した。

できたてほやほやの新曲“パビリオン”が披露された
できたてほやほやの新曲“パビリオン”が披露された

ボーカロイドに感情移入して、「初音ミク」の人格を歌詞に反映させた新津。あくまでVKBをキーボードとみなして、様々な音加工を施すとともに、「ボーカリスト」としての可能性も模索したAZUMA。

二人がそれぞれ異なるアプローチを見せたように、VKBは単純に「ボカロを演奏できる」というだけではなく、使い手の発想次第で様々な可能性を秘めていることが最大の魅力であるように思う。そして、実際にそんな機材を前に、ワクワクしながら曲作りをする二人を見て、「私もなにかやってみたい」と思った人は多いはず。イベント終了後の「試奏会」にも、多くのお客さんが残り、VKBを興味深そうに触る姿が印象的だった。

「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」
「VOCALOID Keyboard『VKB-100』」(商品詳細を見る

商品情報
『VOCALOID Keyboard「VKB-100」』

「VOCALOID(TM)」は、ヤマハ株式会社が開発した、歌詞とメロディーを入力するだけで、コンピューター上で人工の歌声を作り出すことが出来る歌声合成技術およびその応用ソフトウェアです。ボーカロイドキーボード「VKB-100」は、この「VOCALOID(TM)」によって実現した、リアルタイムに歌詞を歌わせて演奏を楽しむキーボードです。実際の人間の声から収録した「歌声ライブラリ」と呼ばれる声のデータベースを切り替えることで、さまざまなシンガーの声を利用することができます。スマートフォン・タブレット用の専用アプリケーションとBluetooth接続することで、「初音ミク」をはじめ、「Megpoid」「IA -ARIA ON THE PLANETRS-」「結月ゆかり」からシンガーを追加したり、歌詞を事前入力することで、オリジナル曲の演奏が楽しめます(シンガー「VY1」は標準搭載)。パソコンや音楽制作の専門知識は必要なく、鍵盤やボタン操作で自由にメロディーや歌い方を変化させられるため、誰でもボーカロイド曲が楽しめる、まったく新しい「VOCALOID(TM)」の楽しみ方を提案する楽器です。(12月9日発売予定)

イベント情報
『ゆいちゃんひとみちゃんの新世界★虎の穴~中級編~』

2018年1月28日(日)
会場:東京都 原宿 ストロボカフェ
出演:
AZUMA HITOMI
新津由衣
スペシャルゲスト講師(後日発表)

『新世界★虎の穴 課外授業 meets VOCALOID Keyboard』

2017年11月12日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧三本松小学校)
出演:
AZUMA HITOMI
新津由衣

プロフィール
AZUMA HITOMI (あずま ひとみ)

1988年東京生まれ ソングライター / サウンドクリエイター / シンガー。中学生でシーケンスソフト「Logic」と出会い、デスクトップレコーディングを始める。2011年3月、TVアニメ『フラクタル』のオープニングテーマ『ハリネズミ』をEPICレコードジャパンよりリリース、メジャーデビュー。その後1stアルバム『フォトン』、2ndアルバム『CHIRALITY』をリリース。2014年より矢野顕子のアルバム『飛ばしていくよ』、『Welcome To Jupiter』に全5曲トラックメイカーとして参加。現在、ROLAND Jupiter-6を中心に、アナログ・シンセサイザーを存分に使用したアルバムを制作中。

新津由衣 (にいつ ゆい)

シンガーソングライター / アーティスト。1985年8月17日神奈川県に生まれる。2003年、高校生の時にシンガーソングライターユニットRYTHEMとしてメジャーデビュー。8年間活動を続ける。2011年、「Neat's」名義でソロプロジェクト始動。作詞作曲編曲、アートワークやMV制作、絵本制作、ディストリビューションも自ら手がけ、アイデアとDIYでどこまでできるか挑戦。富士山麓にて世界初の野外ワイヤレスヘッドフォン・ライブを自主企画するなど、個性的な活動の仕方も話題となる。一風変わったライブのアイデアが得意技。2015年、SEKAI NO OWARI、ゆずなどを手掛ける音楽プロデューサーCHRYSANTHEMUM BRIDGE 保本真吾氏とタッグを組み、本名「新津由衣」としての作品制作を開始。「頭の中は宇宙と同じ」と語る新津由衣がつくるものは、孤独な気持ちから生まれる夢の世界。人間関係に生まれる違和感や歓びをファンタジックな描写で表現している。アナログシンセや世界の楽器サンプリングを多用に取り入れるなど、試行錯誤し、実験的なレコーディングを重ねながら1stフルアルバムを目下制作中。



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