フィッシュマンズの歴史が更新された夜。ceroとの時を超えた邂逅

20年ぶりのフィッシュマンズ名物企画に、ceroが登場

1990年代に開催されていた『闘魂』は、フィッシュマンズがYO-KINGやSUPER BUTTER DOG、HONZI、Buffalo Daughter、東京スカパラダイスオーケストラらと火花散る名勝負を繰り広げた名物ライブシリーズだった。フィッシュマンズの佐藤伸治(Vo,Gt)がこの世を去ってから20年という節目の年となる2019年、『闘魂』が久々の復活を遂げることになった。

約20年ぶりの開催にあたって、フィッシュマンズが指名した相手はcero。彼らはもともとフィッシュマンズの影響下で活動をはじめ、特に活動初期はたびたび比較されてきたグループである。昨年リリースされた最新作『POLY LIFE MULTI SOUL』に驚愕したフィッシュマンズの茂木欣一(Dr,Vo)からの指名で実現したビッグマッチということもあって、チケットは早々にソールドアウトした。

開会宣言をする茂木欣一(フィッシュマンズ) / 撮影:西槇太一

ceroの容赦ないパフォーマンスに感じた、フィッシュマンズと同じ匂い

まずステージに現れたのはcero。近年の彼らは高城晶平(Vo,Fl)、荒内佑(Key,Sampler)、橋本翼(Gt,Cho)のメンバー3人に加え、光永渉(Dr)、厚海義朗(Ba)や小田朋美(Key,Cho)、角銅真実(Per,Cho)らサポートメンバーを加える形でライブを重ねてきたが、この日もお馴染みの布陣で登場。

cero / 撮影:西槇太一
左から:橋本翼、高城晶平、荒内佑 / 撮影:西槇太一

シンセベースが唸る“わたしのすがた”(2012年作『My Lost City』収録)を皮切りに、ポリリズムも織り込んだ唯一無二のダンスミュージックを展開していく。そのパフォーマンスは『POLY LIFE MULTI SOUL』で取り組んだリズムの冒険の延長にあるものだが、筆者が体験した昨年の『POLY LIFE MULTI SOUL』のリリースツアーと比べると、アイデアや実験がより血肉化され、筋力が増強している印象を受ける。

高城晶平(cero) / 撮影:西槇太一

「僕たちはceroというバンドです」という高城晶平のMCに象徴されていたように、今回はあくまでも自分たちのことを知らないオーディエンスを意識したものだったのだろう。だが、2019年モードのceroを容赦なく見せつけていくそのスタンスに、生ぬるさは一切ない。なかでもアフロキューバン的なリズムも搭載した“魚の骨 鳥の羽根”、迷路のようなグルーヴが仕掛けられた“レテの子”など、最新作収録曲でそうしたスタンスは明確に。

中心にあるのはループの心地よさと、それを引き裂くスリル。それはダンスミュージックから持ち込まれた感覚であるわけだが、1996年発表の『空中キャンプ』以降のフィッシュマンズもまた、ダブやサンプリングなどの手法を導入しながらそうしたダンスミュージック的快楽を求めていたことにふと気づかされる。

撮影:西槇太一

「まさか『闘魂』が2019年に実現し、そこに自分が立っているとはね」。そんな高城のMCからは多大なる影響を受けたフィッシュマンズと一戦を交えることのできる興奮も伝わってきたが、パフォーマンスそのものは、音楽表現の最前線をひた走るバンドならではのヒリヒリとしたもの。そこに、1990年代のフィッシュマンズが放っていたものと同じ匂いを嗅ぎ取ったのは筆者だけではないだろう。

撮影:西槇太一
撮影:西槇太一

故・佐藤伸治の歌唱音源も使用。この日、フィッシュマンズの歴史は新たに更新された

しばしの休憩時間を挟み、いよいよフィッシュマンズの登場である。まずはサプライズとして、初期の中心メンバーであり、現在はデザイナーおよびDJとして活動する小嶋謙介(Gt,Vo)を迎えた編成で“あの娘が眠っている”を披露。そののち、ハナレグミと原田郁子(クラムボン)を招いて本編が幕を開けた。

フィッシュマンズ(左から:HAKASE-SUN、小嶋謙介、茂木欣一、木暮晋也、柏原譲) / 撮影:西槇太一
撮影:西槇太一

“ナイトクルージング”がはじまって驚かされたのは、茂木の叩き出すバスドラムの音の大きさだ。「バスッ!」という強烈なキックはまさにレゲエドラマー然としたものだが(エンジニアを務めたzAkのサウンドメイクの影響も少なくないはずだ)、そこにドラムパッドを組み込むことで、ダンスミュージックとしての柔軟性も獲得している。

茂木欣一(フィッシュマンズ) / 撮影:西槇太一
zAk / 撮影:西槇太一

また、今回のライブで印象的だったのは初期楽曲の多さ。“なんてったの”や“土曜日の夜”などに加え、メジャーデビューシングルでもあった“ひこうき”も披露。フィッシュマンズは昨年、初期楽曲をまとめた編集盤『BLUE SUMMER~Selected Tracks 1991-1995~』を発表したが、そこでかつてのレパートリーと向かい合ったことが今回の選曲に反映されているのだろうか。もしくは、佐藤伸治在籍時におけるフィッシュマンズのラストライブを収めた『'98.12.28男達の別れ』(1999年発表のライブアルバム)のダイジェスト的側面もあったのかもしれない。

フィッシュマンズ『'98.12.28男達の別れ』を聴く(Apple Musicはこちら

ただし、そうした初期楽曲も現在のバンドグルーヴを通じた再解釈が施されており、立体的なリズムの上にハナレグミのファルセットを重ねて先鋭的なダンストラックに仕上げられた“Smilin’ Days, Summer Holiday”などからは、かつての楽曲から現代性を浮き彫りにしようという意思も感じられた。

ハナレグミ / 撮影:西槇太一

この日のハイライトとなったのは、フィッシュマンズのラストシングルとなった“ゆらめき IN THE AIR”。ここでは佐藤の歌唱音源が使用されたが、原曲が持つ幽玄なムードを拡張させたような音響空間のなか、今はもうここにいないはずの佐藤の声が、まるで舞台上に存在しているかのように鳴り響く光景にはゾクっとさせられた。

フィッシュマンズ“ゆらめき IN THE AIR”を聴く(Apple Musicはこちら

フィッシュマンズのバンド史は、さまざまな音楽的実験が試みられた『空中キャンプ』の前後で区切られることが多いが、デビューシングルとラストシングルが演奏されたことが象徴するように、今回のセットリストは初期から最後期までのバンド史をふたたび結び直すものでもあったはずだ。茂木はMCで「すごいよね、サトちゃんの作った曲って。もうライフワークだよ」と話していたが、こうした発見と再解釈は今後も続けられていくのだろう。

撮影:西槇太一

アンコールはceroから高城と角銅真実(Perc)も加わり、“JUST THING”“Weather Report”という2曲をパフォーマンス。意外だったのは、声質も歌唱法も佐藤とはまったく違う高城の歌唱に一切違和感がなかったことだ。

佐藤はバックのリズムに対して後乗りで歌うことを常としていたが、高城もまさにそうした後乗りを基本とするボーカリスト。茂木と柏原譲(Ba)が生み出すシャキッとしたリズムに対し、佐藤がモタッと乗ることで生まれる独特のグルーヴがフィッシュマンズの音楽世界を特別なものにしてきたことに、高城との共演で気づかされたわけだ。

柏原譲(フィッシュマンズ) / 撮影:西槇太一
撮影:西槇太一

そうやってフィッシュマンズとceroの共通点 / 差異を浮き彫りにしながら、過去と現在と未来を結び直した一夜。海外でのフィッシュマンズ再評価がにわかに進んでいる現在、優れた批評性を持つceroとこうした共演が行われたことは、今後のフィッシュマンズ史においても重要な意味を持つことになるはずだ。

cero / 撮影:西槇太一
フィッシュマンズ / 撮影:西槇太一
イベント情報
『フィッシュマンズpresents“闘魂 2019”』

2019年2月19日(火)
会場:東京都 お台場 Zepp Tokyo
出演:
フィッシュマンズ
cero

『cero Oneman Live 別天』

2019年5月24日(金)
会場:東京都 渋谷 NHKホール
料金:5,500円

プロジェクト情報

フロントマン佐藤伸治が亡くなって20年、いまなおファンを増やし続けている孤高のバンド「フィッシュマンズ」の魅力に迫る。約30年の活動期間を振り返り、メンバーが全てを語る。フィッシュマンジャー復活プロジェクト!

プロフィール
フィッシュマンズ
フィッシュマンズ

ヴォーカリスト佐藤伸治が1999年に惜しくも亡くなり、その後21世紀に入ってなお多くのミュージシャン、クリエイター、新世代リスナーからの熱い愛を集め続けている孤高のバンド。1990年代に生み出された10枚のアルバムと幾多の名曲達。フィッシュマンズのハイブリッドでどこか切ない音楽が鳴り響いた。レゲエ/ダブ/ロックステディを基調に、ロック、ファンク、ヒップホップ......の要素を溶け込ませた、ハイブリッドなサウンド。そのサウンドの上でヴォーカリスト/ソングライター、佐藤伸治は、ごく自然で、明け透けで、人生の核心をついた世界を描きだした。

cero (せろ)

2004年結成。メンバーは髙城晶平、荒内佑、橋本翼の3人。これまで3枚のアルバムと3枚のシングル、DVDを2枚リリース。3人それぞれが作曲(作詞)、アレンジ、プロデュースを手がけ、サポートメンバーを加えた編成でのライブ、楽曲制作においてコンダクトを執っている。今後のリリース、ライブが常に注目される音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンドである。



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