全国から苫小牧へ NOT WONKの意思に呼応した同志たちの熱狂

NOT WONKの本拠地「苫小牧」で始まった特別な一日

苫小牧でNOT WONKのワンマン『YOUR NAME』を見た。いや、「見た」という言葉がどうもしっくり来ない。最初こそ「見に行く」つもりだった。でも今となってはこう書くしかない。「見てしまった」と。

新千歳空港から約30分、想像以上に小さな街だった。駅前は閑散としており、北口にメガドンキが一軒、南口には廃墟となったショッピングセンターに侵入禁止の囲いが巡らせてある。数軒のビジネスホテル、王子製紙の巨大工場、そこからにゅっと生えている煙突以外、目につくものが本当に何もない。駅前を歩く人にもほとんど会わないから、ライブハウスELLCUBE前に10人ほどが集まっているのを見れば、それはもう十分な「人だかり」である。開場時間の少し前、11:50に加藤修平がひょっこり出てきて「オープンしまーす」と宣言するところから、この特別な一日は始まった。

加藤修平(NOT WONK)

いかにして『YOUR NAME』は生まれたのか。詳しくは加藤が7月にブログで発表したステートメントに譲るが、チケット250枚を自分たちで用意すると宣言し、瞬発力ひとつで共演バンドを募ってみれば、全国から24アクトが揃っていた。

NOT WONKがツイートしたステートメント

その意気や良しと挙手した先輩ミュージシャンがいれば、居ても立ってもいられなかった同世代や後輩バンドも多数いるだろう。脱兎と名乗る仙台の若者に至っては「この日のためにバンド組みます!」とメールを寄せ、本当にメンバーを集めて記念すべき初ライブをやってみせた。NOT WONKの音楽と存在とが、全国に点在する若き魂に火を点けたのだ。

ワンマン前のオープンステージがスタート

正午ちょうど、札幌のパンクバンドDr.NY(ドクター・ニューヨーク)がいきなり全裸でのフロアライブを開始。2曲が終わった段階でパフォーマーの塚原がThe Clashのジャケットよろしくギターを破壊! 何がなんだかわからないがドアタマから最高のテンションで幕が上がる。ひとバンドの持ち時間は15分。演奏中も隣で次の演者がセッティングを始めており、Dr.NYが終わった直後からcult grass starsが不穏なポストハードコアをぶっ放す。彼らは根室を拠点に活動し、「NOT WONKがいなければ今の僕らはいない」と公言している10代のトリオ。その音には1980年末期から連綿と続いてきた道産オルタナティブの血が感じられる。

続くHue'sは大阪の4人組。苫小牧はもとより北海道ライブが初めてだそうで、ボーカルがVOIDのTシャツを着ているのは気合の表れと見た。その後の出演者も、envyだったりFOULだったり、着用Tシャツを見ているだけで目が楽しくてしょうがない。断っておくが、これはオッサンたちの同窓会ではないのである。みんな現在進行系で追いかけている。ファズを踏む瞬間の快感、せーので爆音を鳴らすバンドの醍醐味を。「サブスクの時代にギターの音は敬遠され……」みたいな話は東京で勝手にどうぞ、こちらは楽しくやってますよ、という感じなのだ。

重要なのは、こっちで中指立ててやる、のニュアンスがないことだ。これは加藤修平の言動や物腰に拠るところが大きいのだが、入り口で初対面の客と談笑している彼は、少し芯が強そうだな、という以外はごく普通の青年に見える。少なくともエキセントリックだとかチンピラだとか、そんな形容詞がまったく似合わない。「パンクとは真面目に生きること」だと以前話してくれたように、彼の行動にアンチから始まるものは少ない。ただスッと前を向き、どうすればより良く生きられるのかを自問するだけ。そして出した答えは直接ジャッジしてもらう。そんな意識の在り方が実に2019年らしい。

GEZANが仲間たちと『全感覚祭』をブチ上げたのとは別のベクトルで、『YOUR NAME』が全国から苫小牧に人を集めてみせた。カメラマン桑島智輝を筆頭に、個人が勝手に作ってきたファンジンが並ぶのも今の時代だ。メディアが取り上げないなら個人でやる。義務でも使命でも連帯でもないから、それぞれの取捨選択が際立つのだ。

加藤修平(NOT WONK)

熱演が続くELLCUBEに、アジカンGotchも登場

いかにも大阪らしいアクの強さが面白かったAnd Summer Club(メンバーに確認もせずエントリーしたためドラムが不参加。急遽サポートでワッツーシゾンビのセイヤが参加!)、トラブルさえ格好よさに変えていたSEAPOOLなど、途切れることのない熱演が続く。ただ、やはり15分の尺で強いのはファスト&ショートで攻めるハードコアで、苫小牧のTIMELY ERRORはこの日一番の一体感を作り上げていた。

TIMELY ERROR

暴力的だが妙にポップな爆音に思わず頬が緩む。外は相変わらず人通りも少なく、夕方からは静かに雪も降り出した。ELLCUBEにこれだけの熱が渦巻いていることは、おそらく地元の人にあまり知られていないのだろう。DISCHARMING MANの蛯名啓太がマイクも通さない生声で叫び続けていた。そんなことはまったく問題じゃない、NOT WONKの街に僕らがいることが何より大切だと、一人ひとりに言い聞かせるように。

岡山のやっほーがチープなハードコアテクノの上で絶叫しながら観客の間を走り回る。クリトリック・リスから哀愁を抜き速度を10倍にしたようなパフォーマンスに会場中が大爆笑。その隣で黙々とセッティングをするアジカンGotch、という画もかなり可笑しかったが、いざ彼が歌い出せば歌の強度とメッセージの強さに圧倒される。ことに“ボーイズ&ガールズ”が始まった瞬間は鳥肌もの。<僕らに相応しいこと見つけて><それをギュッと握りしめて><夢と希望 まだはじまったばかり>という歌詞は、ここに集まった24バンド、250人一人ひとりの実感にほかならない。

Gotch

後方ステージでは加藤が嬉しそうにGotchの背中を見つめている。繋がる心と心が見えたようで少しだけ泣けた。最後は「札幌で一番のポップスター」を自称するMAPPYがぶっ壊れたパンクロックをド派手に鳴らし、全24バンドによるフロアライブは終了した。

MAPPY

NOT WONKのライブがスタート。涼しい顔で2010年代のパンクを進化させ、地元に竜巻を起こす

19時を数分過ぎ、いよいよNOT WONKが登場。オープニングはレナード・コーエンの名曲“Hallelujah”の弾き語りカバーだ。厳かな、神聖な、と言ってもいい空気のなか、たっぷり6分間を使ってひとりギターを爪弾いた加藤と、彼を見つめる250人が静かに呼吸を重ねていく。導線に火を点けるのは藤井のベースとアキムのドラムだ。3人の音が初めて合わさった2曲目、ファーストアルバム収録の“1994!”で文字通りフロアが爆発した。

NOT WONK(のっと うぉんく)
shuhei kato、kohei fujii、akim chanからなる北海道・苫小牧出身の3ピース。2015年5月に『Laughing Nerds And A Wallflower』でデビューし、新人なら驚異的なセールスを記録。2016年には2ndアルバム『This Ordinary』をリリース、続けて放たれた『Penfield』では、パンクとオルタナティブロック、ネオソウルまでを一気に消化した新たな音像を提示した。2019年には東京での初ワンマンを成功させ6月には待望の3rdアルバム『Down the Valley』をリリース。

正確にいえば全員が全員1990年代生まれではないけれど、それでも“1994!”こそが俺たちのテーマ! そんな想いが具体的な歓声や拳になりステージへと押し寄せる。すでにぐっちゃぐちゃのフロア。続いて“Count”“Elation”という流れは、もうなんか完璧としか言いようがなかった。UKメロディックの影響をモロに受けていた初期から、ソウルを咀嚼し一気に洗練された最新型NOT WONKへ。あるいは『フジロック』出演を目指したネット投票から、地元でのワンマンに照準を切り替えた『YOUR NAME』のリアリティへ。全員が<この快感味わってたいんだ>と“Elation”を歌いあげた瞬間が、まずは最初のハイライトである。

『Down the Valley』からの新曲を中心に、“On This Avenue”や“Golden Age”など旧曲を挟みながら進んでいくステージ。名場面が次々と更新されていく。初期のパンクなノリはもちろん楽しいが、“Shattered”のように複雑な構成の曲、今のNOT WONKにしか鳴らせないオリジナルがやはり際立って良い。じわじわと焦らしながら艶っぽく進み、想像の斜め先に突き刺さる高音のメロディが炸裂、さらに後半はとんでもない音量のノイズが放出される。

NOT WONK『Down the Valley』を聴く(Apple Musicはこちら

かくも轟音ギターにこだわるバンドも昨今では珍しいと思うが、ギターの音量を上げれば上げるほどフロアの若者たちが興奮している光景は、間違いなくニューヒーローの出現を思わせた。見た目はごく普通の25歳・加藤修平が、涼しい顔で2010年代のパンクを進化させ、今まさに地元に竜巻を起こしているのだ。

そしてまた、このニューヒーローは驚くほどに謙虚である。すべて自分たちの手でやろうと『YOUR NAME』を始めたこと。実際は人に手伝ってもらう作業が多すぎて、自分では何もできなかったこと。それらを認めるところから始め、「無理だったこともわかった。付き合ってくれてありがとう」と締めたMCは、「これが革命の始まり!」と口走るような無邪気さがないぶん、どこまでも加藤らしい個性と誠意を感じさせた。

実際にチケットは完売したのだから、もっと胸を張っていい。だが浮かれもせず驕りもせず、あくまで「僕とあなたは同じ、弱き人間です」との態度を貫くのは、それが今必要な価値観だからだろう。特別なロックスターはとうに不在で、パンクの世界は無法地帯とうそぶくこともできず、バンド活動に夢を見るのも難しい現在。これだけ思慮深い青年たちが出てきたのは偶然ではない。「ステージさえ良ければ何をやってもOK」などと言わない3人だから、その生き方、考え方、姿勢の美しさに惹かれてしまうのだ。

もっとも出音はかなりエグい。凶暴すぎるリフが繰り返される“I Won't Cry”では本気で背筋が震えたし、静かなアルペジオから最大級のフィードバックノイズまでが7分間で繋がっている“Landfall”には何度も気が遠くなった。フロア前方が狂ったようなダイバーの群れと化したアンコールの光景も、なんだか夢のように綺麗だった。正直に言うならば、途中から私は「詳細レポートなんか無理」と匙を投げていた。ただ畏怖していたのだ。音の気持ちよさに、なのか、彼らの底知れなさに、なのかは自分でもわからない。とにかく凄いものを見ている。ほんとうに苫小牧で見てしまっている。その実感だけがあった。

『YOUR NAME』――他の誰かじゃない自分と、他の誰でもないあなた

「俺の知ってるELLCUBEって、今日の100分の1くらいの人数。実は今日も苫小牧の人が一番少ないんです。地元の人間では埋まらない」。そんなふうに始まった後半のMCは、地名を入れ替えても成立するのだろう。東京や大阪、名古屋や福岡あたりの大都市、またはある程度の県庁所在地でもない限り、地方と呼ばれる街はだいたい似たような状況なのだと思う。

まず人がいない、特に観光地もない、探したところでメガドンキくらいしか見当たらない。であれば人の集まるところ、北海道ならば札幌に出るのが当然。そういう感覚を今まで疑わなかった自分を恥じた。人がいないところに自ら出かけたほうが、それぞれの名前がクリアになる。他の誰かじゃない自分でいられるし、他の誰でもないあなたを認識できる。NOT WONKが教えてくれた。加藤、藤井、アキムの3人は、どこにも代替えのいない唯一のバンドとして、ただ、苫小牧にいたのだった。

NOT WONKの新曲“Your Name”

終演後、TIMELY ERRORのバンマス、サイトウトモキ(Gt)と少し話をした。「NOT WONKなら初ライブから見ている」という彼は、地元苫小牧で長らくバンドを続けつつ、最近仕事で東京に転勤、つまり地元と東京のシーンの違いも熟知している加藤たちの先輩である。バンドの名前を広く売りたいなら、苫小牧は決していい土地ではない。ここで活動を続けても苫小牧の住人がNOT WONKを知ることは今後もないと思う。そう前置きしたうえで彼は「でも札幌、あとは東京の新代田Feverなんかに行くと、NOT WONKの名前がどんどん広まってきたことを実感する」と語っていた。加藤たちの意思がそれを現実にしたのだ。「地元のバンドがここで満杯っていうのは、初ですね」。そう言ってサイトウは破顔した。「すげぇ新しいっすよ。俺は、夢だと思います」。

イベント情報
『NOT WONK presents “Your Name” one man show』

2019年12月7日(土)OPEN 12:00 START 19:00
会場:苫小牧ELLCUBE
料金:3,000円(ドリンク別)

出演:NOT WONK
オープンステージ企画出演者(順不同):
Gotch
Discharming man
突然少年
やっほー
TIMELY ERROR
The Triops
SUP
インディーガール
まえだゆりな
BANGLANG
INViSBL
ザ・ジラフス
脱兎
Hue's
SEAPOOL
And Summer Club
LADALES
JEEP
The Big Mouth
cult grass stars
zo-sun park
Dr.NY
MAPPY
大久保光涼

『NOT WONK presents “BIPOLAR” ONEMAN』

2020年5月2日(土)OPEN 18:00 START 19:00
渋谷CLUB QUATTRO
料金:前売 3,000円(ドリンク別) / 当日 3,500円(ドリンク別)

オフィシャル最速先行受付:12/23(月)12:00~1/6(月)23:59
受付期間:2019/12/23(月)12:00~2020/1/19(日)23:59
枚数制限:お1人様 4枚まで申し込み可

プロフィール
NOT WONK
NOT WONK (のっと うぉんく)

shuhei kato、kohei fujii、akim chanからなる北海道・苫小牧出身の3ピース。2015年5月に『Laughing Nerds And A Wallflower』でデビューし、新人なら驚異的なセールスを記録。2016年には2ndアルバム『This Ordinary』をリリース、続けて放たれた『Penfield』では、パンクとオルタナティブロック、ネオソウルまでを一気に消化した新たな音像を提示した。2019年には東京での初ワンマンを成功させ6月には待望の3rdアルバム『Down the Valley』をリリース。



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