夏目知幸が振り返る、レーベル設立とバンドにとって苦難の時期
『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』- テキスト
- 渡辺裕也
- 撮影:小河原万里花 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

俺みたいな男がなにを歌えばリアルなのか、本当にわからなかった。
―そんなシングル“マイガール”のわずか3か月後にリリースされたのがEP『君の町にも雨はふるのかい?』。
夏目:正直、この頃は精神的にすごく辛かったからか、あまり記憶がないんですよね。
―そんなに辛かったんだ?
夏目:うん。曲が書けなくなっちゃってた。“デボネア・ドライブ”とか、ぜんぜん歌詞がでてこなくて、半泣きしながら録音した覚えがある(笑)。自分がなにを歌うべきかわからなくなってたんでしょうね。俺みたいな男がなにを歌えばリアルなのか、本当にわからなかった。
シャムキャッツ『君の町にも雨はふるのかい?』を聴く(Apple Musicはこちら)
―『君の町にも雨はふるのかい?』は実験性とポップさが共存したいい作品だと思うし、ちょっと過小評価されてる気が僕的にはするんだけど。
夏目:うん、たしかにいい曲が揃ってると思います。でも、作品としてはちょっと支離滅裂というか、当時の悩んでた感じがでちゃってるから、僕的にはちょっと振り返りづらい作品ですね。何をしたらいいかわからなかったし、とにかく変化を求めてた。まあ、だから金髪にしたんでしょうね(笑)。
―(笑)。“マイガール”の時期から、夏目くんは金髪になりましたね。
夏目:きっと気持ちを明るくしたかったんだと思う。実際、効果はあったんです。朝起きたときに鏡に映る金髪の自分を見ると、自分がめちゃくちゃ明るい人間に思えるんですよね。
金髪の夏目
―『君の町にも雨はふるのかい?』には“すてねこ”という曲が収録されてて。いま聴くと、この歌詞には当時のバンドの状況も反映されてるように聴こえますね。
夏目:まさにこれは妬みつらみですよ。それこそ俺らはメジャーに捨てられたわけですからね(笑)。あともうひとつのイメージとして、夏目漱石の『吾輩は猫である』は思い浮かべてました。あの小説の始まりがめちゃくちゃロックンロールなので、“すてねこ”︎はその物語の続きを書いたというか。それこそ僕は夏目だし、僕らはシャムキャッツだからね。
―なるほど。
夏目:ていうか、“すてねこ”は本当そのまんまな曲でもあって。実際に僕、この頃に捨て猫を拾って飼い始めるんですよ。で、自分も捨て猫になるっていうね(笑)。自分でこうして振り返ってみても、猫のことを歌ってるのか、自分のことを歌ってるのかわからないんです。
―このEPを踏まえて、夏目くん的にはここでちょっと頭を切り替える必要があった?
夏目:うん。それは感じてたし、今のままだとダメだなと思ってた。この時期は「俺たちだってメジャーっぽい曲くらい書けるし」みたいな意識が強くて、ちょっと意地を張ってたんだよね。“マイガール”はそのおかげで作れた曲でもあるんだけど、やっぱりこのままじゃ面白くないし、ここはひとつインディバンドとして力強いものを出したいなと。
イベント情報

- 『第3回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
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2019年11月16日(土)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也
リリース情報

- シャムキャッツ
『はなたば』(CD+DVD) -
2019年11月6日(水)発売
価格:2,420円(税込)
TETRA-1018[CD]
1. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了[DVD]
『バンドの毎日4』

- シャムキャッツ
『はなたば』(LP) -
2019年11月20日(水)発売
価格:2,750円(税込)
TETRA-10191. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了
プロフィール

- 夏目知幸(なつめ ともゆき)
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東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。