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鈴木ヒラクが『MOTアニュアル』で試みる ドローイング行為の拡張

東京都現代美術館『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:新井嘉宏 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)
鈴木ヒラクが『MOTアニュアル』で試みる ドローイング行為の拡張

ほとんど無限と言っていいほどにイメージの拡張をもたらす「かく」という行為

文字や絵を「かく」という言葉。その2文字のひらがなにはいくつかの漢字を当てはめることができる。「書く」「描く」はもちろんのこと、「掻く」を使えば爪で背中や黒板をギギギとひっかいたりするイメージを想像できるし、その想像を「こする」に横滑りさせれば、DJのスクラッチもまた「かく」ことの変奏に感じられてくる。

言葉はどんな人にとっても身近であるがゆえに、「かく」という行為はほとんど無限と言っていいほどにイメージの拡張を我々にもたらすだろう。そんなことを考えはじめたくなるイベントが先日開催された。鈴木ヒラクを中心とする8人のアーティストによる『ドローイング・オーケストラ』だ。

清澄白河にある東京都現代美術館では、若手を中心とした日本のアーティストたちを紹介することを目的とした、年に一度の展覧会『MOTアニュアル』が開催中だ。今年は『Echo after Echo 仮の声、新しい影』という副題のもと、イメージ、言語、歴史、素材など、すでにある世界と交感しつつ表現を紡ぐ作家たちが集まっている。先述した『ドローイング・オーケストラ』は、その関連イベントとして行われた。

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』<br>2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)(サイトを見る
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 PUGMENT 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 PUGMENT 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 THE COPY TRAVELERS 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 THE COPY TRAVELERS 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita

複数の「かく」行為を編み、大きなハーモニーを生む、まさにオーケストラのようなパフォーマンス

まず、このイベントに出演した8名を紹介しておこう。鈴木ヒラクは今回の展覧会の出品作家でもあり、ドローイングをベースとした多様な手法から「かく」ことを追求してきたアーティスト。彼とともに今回の企画を主導した大原大次郎は、タイポグラフィーへのユニークなアプローチを行うデザイナーとして注目されている。

グラフィティーを背景として力強い線のうねりを生み出すアーティスト、BIEN。プログラミングを駆使して非人間的な描画生成にとりくむ、やんツー。詩人として、「読む」「かく」「発声する」以外の方法でも言葉の可能性を模索するカニエ・ナハ。ベルリンと東京を拠点に、身体表現を追求するダンサーのハラサオリ。

密集的な都市空間をコラージュの手法で再構成するほか、自身の移動の軌跡をドローイングとして発表もする写真家、西野壮平。「かく」動作の執拗な反復で、壁に穴を開けてしまうほどの鬼気迫るパフォーマンスを続けてきた村田峰紀。

これらの「かく」に関わる8人に加え、KOMAKUS名義でサウンドアート作品も制作する音響制作集団のWHITELIGHTが音響担当として参加している(KOMAKUSは、本展に出展している「吉増剛造プロジェクト」の一員でもある)。

『ドローイング・オーケストラ』開演前の会場風景
『ドローイング・オーケストラ』開演前の会場風景

この8人が書画カメラと呼ばれる投影機を使って、自分たちなりの「かく」アクションを行い、その8人分の映像を「指揮者」に相当する鈴木がセレクト&ミックスしてスクリーンに投影するというのが『ドローイング・オーケストラ』の基本的なアイデア。複数の「かく」行為を編んで大きなハーモニーを作るという意味で、まさに「オーケストラ」と形容するにふさわしい試みと言えるだろう。

1対1の会話的な「交通」から生まれる、新しい言葉の発明

この壮大な実験は、鈴木が数年前に始めた「Drawing Tube」というシリーズから生まれた。パフォーマンス後に行われたインタビューで、彼はこのように語っている。

鈴木:2台の書画カメラを並べて、アーティストや研究者など異なる分野を背景に持つ2人が対面し、あるテーマに基づいて会話をしながら、それぞれに文字や線をかいていく。その手元の映像を重ね合わせることで、「かく」ことによる対話を可視化するイベントです。「Drawing Tube」はイベントだけでなく、現代におけるドローイングの可能性について研究したりシェアするためのプラットフォームの名前でもあります。

『Drawing Tube vol.04 西野壮平×GAP students』Hiraku Suzuki Studio
『Drawing Tube vol.04 西野壮平×GAP students』Hiraku Suzuki Studio(Vimeoで見る

―書画カメラを使った対戦型のゲームのようにも見えるので、ラップのMCバトルを思わせますね。

鈴木:いえ、「Drawing Tube」はそれぞれの表現で競い合うようなバトルではないんです。線ってものを宙に浮かぶチューブやパイプのようにとらえて、「かく」ことによってその回路を両者が自由に行き来する「交通」のイメージです。

英語と日本語みたいに異なる言語で会話するのは難しいですが、「かく」ってことには「かたち」としての膨大な情報があって、互いに引き出し合ったかたちが呼応していくことで、その場だけのユニバーサルランゲージが生まれてくるような瞬間が訪れます。なんというかそれは……新しい言葉の発明みたいなんですよね。言葉が生まれる瞬間への関心が自分には強くあって、それは「Drawing Tube」以外の作品でも追求してきたことでもあります。

―「Drawing Tube」は、これまでに建築家の坂口恭平さん、文化人類学者の今福龍太さんたちとも行ってきましたが、総勢8人が参加する『ドローイング・オーケストラ』は、これまで以上に複雑な構造になっています。

鈴木:そうですね。1対1の会話的な「交通」は2つの手が重なるので分かりやすいのですが、それをアップデートさせ、より複雑で大きなエコーを生み出すための実験が、今回の『ドローイング・オーケストラ』です。事前に決めたルールが一つだけあって、それは「思いやり」です。

鈴木ヒラク
鈴木ヒラク
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イベント情報

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』

2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
料金:一般 1300円 / 大学・専門学校生・65歳以上 900円 / 中学・高校生 500円 / 小学生以下無料

THE COPY TRAVELERS
PUGMENT
三宅砂織
吉増剛造プロジェクト|KOMAKUS+鈴木余位
鈴木ヒラク

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」関連イベント『ドローイング・オーケストラ』

2020年2月2日(日)15:00〜16:30

鈴木ヒラク
大原大次郎
カニエ・ナハ
西野壮平
ハラサオリ
村田峰紀
やんツー
BIEN

書籍情報

『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』
『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』

2020年1月21日(火)発売
著者:鈴木ヒラク
執筆:サイモン・ケイナー、今福龍太、藪前知子、アニエスベー
価格:9,790円(税込)
発行:HeHe

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