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鈴木ヒラクが『MOTアニュアル』で試みる ドローイング行為の拡張

東京都現代美術館『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:新井嘉宏 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)
鈴木ヒラクが『MOTアニュアル』で試みる ドローイング行為の拡張

互いの「かく」行為が乱反射した、一瞬の出来事

互いに「かく」という試みを鈴木が述べた「交通」として考えると、『ドローイング・オーケストラ』のプロセスをクリアに理解できるようになる。正面のスクリーンを囲むかたちで8台の書画カメラが配置され、左から右へと8名がそれぞれのソロパフォーマンスを順番に行うことから上演は始まる。

コンサートマスターに相当する大原が、曲がりくねった金属の棒を指揮棒のように動かして、ここから始まるのが「線」に関わる実験なのだと宣言すると、それにつづけてBIENが極太のマーカーで線を描き始める。その人間の手によって「かかれた」線への変化球的なアンサーとして、やんツーはロボットアームを操作して機械による「かく」行為をプレゼンテーションする。

大原大次郎
大原大次郎
BIEN
BIEN
やんツー
やんツー

指揮者として中央に座る鈴木を飛び越えて、次はカニエ・ナハの出番。彼は俳句論に関する書籍に音韻を思わせる書き込みを加えるなど、文字に対する批評的アプローチを詩人ならではの方法で展開した。その隣に座るダンサーのハラサオリは、映像のなかに自らの手を映し出し、身体表現としてのダンスもまた腕や足によって空間を「かく」行為なのだと教えてくれる。

カニエ・ナハ
カニエ・ナハ
ハラサオリ
ハラサオリ

写真家である西野は、水面を思わせる写真の断片的なイメージを重ね組み合わせ、平面的な写真が映した素材感や材質感を用いて、「かく」に関わる新しい問いをオーケストラに提示する。そして最後に登場した村田は、「かく」に加えて唸り声のような発声によって、これまで視覚的にとらえられてきた「かく」を、聴覚的な経験としても会場内に拡散させていった。

西野壮平
西野壮平
村田峰紀
村田峰紀

このようにして自己紹介的な時間が一巡し、再び最初の大原へと上演は帰ってくるのだが、ここからは左から右へと順番に進むルールは崩され、同時多発的に全員がそれぞれの「かく」を表現し合うことになる。

ロボットアームの線を真似るように、フリーハンドの線を「かき」はじめる人。ダンサーの腕の動きを線で追跡しようとする人。そういったさまざまな交通が回路となって、乱反射するように「かく」の選択の幅を広げていき、やがてそれは作品としての混沌と強度を獲得していく。

パフォーマンスは全体で約1時間30分に及んだと後で聞いたが、筆者個人の体感としてはもっと短く感じられたし、終演後に話を聞いた数人のメンバーも「始まりから終わりまで一瞬だった」と振り返っていた。

アーカイブ行為に始まり、ゼロからの創造へと繋がっていった、鈴木ヒラクの20年

筆者はこのレポートを「かく」必要のために、愛用のノートに全体のプロセスを必死にメモしながら鑑賞していたのだが、自分の個人的な「かく」行為もオーケストラからの影響を受けるような感覚を覚え、大変に刺激的だった。

提供:東京都現代美術館
提供:東京都現代美術館

さきほど描写した冒頭の紹介パートは時系列にメモすることが可能だが、8人がランダムに共振しあうようになると、そう単純にはいかない。例えば大原からカニエ・ナハへのつながりに、突如として村田が介入してきたりすると、筆者のメモでも、矢印をあちこちに伸ばして「響く村田の声」と「かき」込む必要に迫られて、脳の回転数が急上昇する。だからパフォーマンスを鑑賞し終えた後は、スポーツしおえた後のような心地よい疲労と新しい体験に遭遇した驚きを感じることになったのだが、そのことを鈴木に伝えると、彼はこう答えた。

鈴木:20年間の自分の活動を振り返ると、「かく」ことによって、世界に潜在していた線と新しく出会うことをモチベーションにしてきたのだと感じます。その出会いは学びや驚きを伴うものであって、当然刺激もある。新しい何かとの出会いは今回のオーケストラに関わった全員にあったと思うし、それが観客の側にも起きたとすれば嬉しいことです。

投影スクリーンの前で自らの身体に「かく」場面もあった 撮影:北村範史
投影スクリーンの前で自らの身体に「かく」場面もあった 撮影:北村範史

話は、2020年1月に発売したばかりの作品集『SILVER MARKER』へと及んだ。

鈴木:10年前に発刊した作品集『GENGA』は、都市の中で発見した道路標識のかけらなどから採取した線や記号の断片を1000点集めて、新しい「辞書」を編纂する気持ちで作りました。振り返ってみると、それまでの10年は発見・発掘のための時間だったと感じます。

そう考えると、『GENGA』から『SILVER MARKER』へと至る次の10年は、アーカイブしてきた文字や記号を使って、文章を書くように制作できるようになった時間だと思うんですね。その一つの成果が、今回の『MOTアニュアル』に出品した新作「Interexcavation」。同シリーズは、一見するとランダムな記号の集積のようにも見えるかもしれませんが、すべての小さな点や線が有機的に関係し合うことによって、大きな秩序が作られているんです。

鈴木ヒラク『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』
鈴木ヒラク『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』(Amazonで見る

鈴木:これらの成果を経た次の大きな実験がこの『ドローイング・オーケストラ』で、ここでは「かく」という行為が、「織る」とか「編む」行為に接近しています。実際、僕はパフォーマンス中にほとんど「かく」ことをせず、ミキシングに徹していますから。今後も自分個人の制作活動と同時に、今日のような複数の「かく」を「編む」ことで個を超えた新しいエコーを生むような実験は続けていきたいと思っています。

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 鈴木ヒラク 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』展 鈴木ヒラク 展示風景(2019年) Photo:Kenji Morita

三者三様ならぬ八者八様の「かく」は多様だ。その複雑なプリズムのようなまぶしさを感じながら、ライター / 編集者を名乗って仕事をする筆者は特別な共感を抱いている。文筆もまた「かく」ことであり、編集はまさに「編んで」「配置する」技術の集積だからだ。

ドローイングや文筆同様に、ダンスすること、写真を撮ること、あるいは声を発することもまた「かく」の別の姿なのだとすれば、鈴木が行ったオーケストラを編成して「編む」こともまた「かく」である。洞窟の暗闇のなかで牛や馬や様々な記号を描くこと、あるいは壁面に手のひらを押し当て、口に含んだ顔料をぷっと吹き付けることで手のかたちを写し取ることから人類の「かく」歴史が生まれたとするならば、途方もなく頂戴な「かく」を巡る旅の途上に、鈴木の作家としての活動やこの『ドローイング・オーケストラ』の試みは存在している。

提供:東京都現代美術館
提供:東京都現代美術館
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イベント情報

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』

2019年11月16日(土)~2020年2月16日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館
料金:一般 1300円 / 大学・専門学校生・65歳以上 900円 / 中学・高校生 500円 / 小学生以下無料

THE COPY TRAVELERS
PUGMENT
三宅砂織
吉増剛造プロジェクト|KOMAKUS+鈴木余位
鈴木ヒラク

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」関連イベント『ドローイング・オーケストラ』

2020年2月2日(日)15:00〜16:30

鈴木ヒラク
大原大次郎
カニエ・ナハ
西野壮平
ハラサオリ
村田峰紀
やんツー
BIEN

書籍情報

『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』
『SILVER MARKER— Drawing as Excavating』

2020年1月21日(火)発売
著者:鈴木ヒラク
執筆:サイモン・ケイナー、今福龍太、藪前知子、アニエスベー
価格:9,790円(税込)
発行:HeHe

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