レビュー

ウェイン・コイン(THE FLAMING LIPS)も参加した、壮大で気高き新作

金子厚武
2013/09/12
ウェイン・コイン(THE FLAMING LIPS)も参加した、壮大で気高き新作

2020年の東京オリンピック開催が決定して、音楽好きの知り合いとまず話をしたのが、「開会式で誰が音楽監督をやるだろうね?」ということ。「やっぱり本命は坂本龍一?」「来年とかだったら秋元康もあり得たよね」「今の『あまちゃん』ブームを考えたら、クドカンが総合プロデュースで、大友良英が音楽って可能性もあるかも」「初音ミクは何らかの形で出てくるだろうね」などなど、好き勝手に想像するのは、何とも楽しい。昨年行われたロンドンオリンピックでは、UNDERWORLDが開会式の音楽監督を務めたことも記憶に新しいが、もし次回のアメリカ開催が決定したなら、音楽監督はMOBYが適任ではないだろうか? 新作『Innocents』を聴いて、僕はそんなことを思った。

世界的大ヒットアルバム『Play』から14年、通算11作目となる『Innocents』は、ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移しての初めてのアルバムであり、これまで貫いてきたセルフプロデュースではなく、初めて外部プロデューサーとして親友でもあるマーク“スパイク”ステントを迎えるなど、新たな一歩を示した作品。ジャケットに映る仮面を被った(おそらくは)子供たちの上に広がる大空のような、もしくは大海原や、冬の雪山のような、そういった大自然を連想させる壮大なストリングスがアルバム全体を覆い、そのサウンドスケープはどこか叙情的であると同時に、気高さすら感じさせるものである。

その中でも特に印象的なのが、THE FLAMING LIPSのウェイン・コインをゲストボーカルに迎えたリードトラックの“The Perfect Life”。ビッグなコーラスをフィーチャーしたこの曲は、本作中最もアップリフティングであり、生命力みなぎる1曲。ウェインのボーカルは人間の儚さと力強さを同時に感じさせ、まさにこの曲こそがオリンピックの公式テーマソングとしてぴったりなのではないかと思うのだ。


とはいえ、やはり本作に通底しているのはメランコリックなムードであり(日本の「わびさび」の概念からも大きな影響を受けたのだという)、SCREAMING TREESのマーク・ラネガンが渋みのある声を聴かせる“The Lonely Night”、9分半に及ぶ大作“The Dogs”というラスト2曲にも、そんなアルバムのムードが明確に反映されている。そう、今も世界は混沌を極め、テクノロジーが生活のあらゆる領域に入り込んだ現代において、大人はもちろん、子供たちですらイノセンスを保ち続けることは容易ではない。しかし、そんな世界だからこそ、MOBYはその中で生きる人々を、音楽の力で祝福しようとする。イノセンスがとっくに失われたことを認識しながら、それでも自らの進む道だけは信じ続ける、MOBYの現在地がここにはある。

リリース情報

MOBY
『Innocents』国内2枚組限定生産盤(2CD)

2013年10月2日発売
価格:2,400円(税込)
BEAT RECORDS / BRC-397DLX

[DISC1]
1. Everything That Rises
2. A Case For Shame (with Cold Specks)
3. Almost Home (with Damien Jurado)
4. Going Wrong
5. The Perfect Life (with Wayne Coyne)
6. The Last Day (with Skylar Grey)
7. Don't Love Me (with Inyang Bassey)
8. A Long Time
9. Saints
10. Tell Me (with Cold Specks)
11. The Lonely Night (with Mark Lanegan)
12. The Dogs
13. The Perfect Life (with Wayne Coyne) (Moby's M-90 edit) [Bonus Track for Japan]
[DISC2]
1. I Tried
2. Illot Motto
3. Miss Lantern
4. Blindness
5. Everyone Is Gone
6. My Machines

プロフィール

MOBY(もーびー)

世界的大ヒット・アルバム『Play』や続く『18』を筆頭に、2000万枚ものトータル・セールスを記録しているマルチ・ミリオンセラー、モービー。音楽作品、パフォーマンス、ビデオ作品のすべてにおいて、グラミー賞を含む様々な世界的音楽アワードで受賞およびノミネートされている他、マット・デイモン主演の映画『ボーン』シリーズ、マイケル・マンの代表作『ヒート』、『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』への楽曲提供、レオナルド・ディカプリオ主演映画『ビーチ』主題曲「Porcelain」の大ヒットなど、映画界からも信頼度は厚い。

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