レビュー

『アルス・エレクトロニカ』芸術監督と作家・平野啓一郎が語るデザインと社会の複雑な関係

萩原雄太
『アルス・エレクトロニカ』芸術監督と作家・平野啓一郎が語るデザインと社会の複雑な関係

ミラノサローネに繋がる、デザインコンペティションが今年も開催

昨年から産声を上げた『LEXUS DESIGN AWARD』は、LEXUSのデザイン領域の一環でもあり、次世代を担うデザイナーたちの登竜門として開催される国際コンペティション。入賞者のうち2作品は世界的クリエイターをメンター(昨年は、プロダクトデザイナーのサム・ヘクトと、建築家の石上純也が担当)としたセッションを通じて、自らのアイデアをプロトタイプ作品として具現化し、世界最大の国際家具・デザインの見本市『ミラノ・デザインウィーク』(ミラノサローネ)に展示されることから高い注目を集めている。

さらに今年、LEXUSではより広くデザイナーを支援するため、『LEXUS DESIGN AWARD 2014 DESIGNER'S COLLEGE』を開催。オーストリアで開催されるメディアアートの祭典『アルス・エレクトロニカ』の芸術監督を務めるゲルフリート・ストッカーによるワークショップや、芥川賞作家・平野啓一郎をゲストにしたデザインに関する討論などが繰り広げられ、若手デザイナーたちに強い刺激を与えた。このイベントから、現在の「デザイン」が持つ意味を考えてみよう。

左:ゲルフリート・ストッカー、右:平野啓一郎
左:ゲルフリート・ストッカー、右:平野啓一郎

「芸術的、科学的ミッションを、いつも社会というキーワードとともに考えてきた」(ゲルフリート・ストッカー)

「デザイン」という単語からイメージされるのは、「美しさ」や「感性」といった言葉であるかもしれない。確かにそれらは、利用者に高い満足感を与え、製品にも高い付加価値を与える。「Designed By Apple In California」と明記されるApple製品のこだわりは、デザインが「特筆すべきこと」であることを消費者に教えるだろう。

しかし、この日ゲルフリートが語った「デザイン」とは、必ずしも「美しさ」だけを意味するものではないようだ。彼はこの日、「デザイン」という言葉に対応させて、幾度となく「社会」という言葉を使っていた。『アルス・エレクトロニカ』のステートメントにも「芸術的、科学的ミッションを、いつも社会というキーワードとともに考えてきました」と掲げられているように、彼にとってアートやデザインと「社会」とは不可分の関係にある。「『社会のために』ではなく、社会とともに仕事をしなければならない」と語るゲルフリートは、現代型のデザインを「from interactive to call@ctive=インタラクティブから(ネットを使った)集合知へ」と定義する。1995年より、『アルス・エレクトロニカ』の芸術監督を務め、時代の最先端を行く表現と関わりを持ってきた彼は、アート・デザインに対して時代が何を求めるかを強く意識し続けている。

「僕は文学にデザインという発想を導入しました。小説を執筆する上でも文体や構成などの面で、そのインターフェイスを地道に考えているんです」(平野啓一郎)

ゲルフリートのレクチャーに続き行われたのが、小説家・平野啓一郎をゲストに招いた対談。平野は『バベルのコンピューター』という作品でメディアアーティストを主人公にした作品を書いており、ゲルフリートも平野の筆に注目しているそうだ。そんな関係からか、専らゲルフリートが聞き役に徹し、平野のアートやデザインに対する考え方を引き出す対談となった。

対談風景

「1990年代末に、近代小説は終わったと言われ、過去作品のパロディーしか生まれないと考えられていた。けれども、僕は過去の文学作品ではなく、アートやコンピューターなどと混ざり合って新しい小説のかたちを模索していきたかったんです」

と平野。タイトル通り、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『バベルの図書館』から着想を得た同作だが、それにとどまることなく、現代の身体を描くことを企図した野心的な作品だ。

「僕が描きたかったのはテクノロジーと人間の問題。『身体=自然』と考えられがちですが、そうではなく都市生活を営む中でのテクノロジーと身体の関わりを提示したんです」

また、平野は長編小説『かたちだけの愛』で、義足の女性とその義足をデザインする男を登場させている。

「足は歩くという目的だけを持っているわけではありません。抱きついたり、触ったりする感触も足にとっては大切な要素。その意味で、義足は重層的な意味を持っているんです。義足のデザイナーを描くにあたり、彼は義足を本物の足に近づけるだけではなく、本物以上のもの、語弊を恐れずに言えば『切ってでもつけてみたい』と思わせるような義足を作りたいと考えるのではないかと、想像し描きました」

デザイナーの深澤直人と出会ったことをきっかけに、自らのデザインに対する視線を養ったという平野。彼にとって、デザインは身体と密接な関係を持っているものだ。

「道具は人間が使うものですから、プロダクトデザインの形は必ず身体に着地します。僕は文学にデザインという発想を導入しました。それは商業主義とか、迎合ではなく、身体の認知として無理がないものという意味。小説を執筆する上でも文体や構成などの面で、そのインターフェイスを地道に考えているんです」

平野の言葉は、ゲルフリートの語る「アート・デザインと社会の関係」という言葉と、どこか響き合う。美的価値に奉仕するだけではなく、身体と身体をつなぐメディアとしてのデザイン。平野の言葉では、それが「インターフェイス」になり、ゲルフリートからは「社会との関係」として発せられる。別のジャンル、別の角度からデザインを捉える二人の対話に、会場に集った30人あまりのデザイナーや学生たちは強い刺激を受けていた。

「日本のクリエイターたちは、社会的な問題に対する意識が高いと感じます。『現状に変化を起こさなければならない』という気持ちがヨーロッパ人よりも強いのではないでしょうか」(ゲルフリート・ストッカー)

続いて行われたゲルフリートのワークショップでは、『アルス・エレクトロニカ』のスタッフが開発したデザインキット「SWITCH」を使用して作品を制作。配布されたのは、短冊形のパネルがセンサースイッチによって表と裏に回転するお絵かきボード。シンプルな構造だけに、この2面で何を見せることができるのか、それぞれの発想力が試される。

ワークショップ 「SWITCH」制作風景
ワークショップ 「SWITCH」制作風景

1時間あまりの創作時間が終わり、参加者たちは普通に絵を描くだけでなく、写真を貼ったり、立体的にしたりと、さまざまなアプローチを披露する。また店舗のサイネージとして役に立つものや、貧富の差を訴えるメッセージ性の高い作品など、野心的な彼らは工夫を凝らしたアイデアを『アルス・エレクトロニカ』の芸術監督に投げかける。日本のデザイナーたちが繰り出すアイデアの数々に、ゲルフリート自身もまた刺激を受けたようだ。

「日本のクリエイターたちは、社会的な問題に対する意識が高いと感じます。世界的な経済危機や、震災後の状況に対応するためにも、『現状に変化を起こさなければならない』という気持ちがヨーロッパ人よりも強いのではないでしょうか」

ワークショップ 「SWITCH」制作風景
ワークショップ 「SWITCH」制作風景

だが、ゲルフリートの視点とは異なり、多くの日本人にとって「社会」とは、どこか遠い場所にあるイメージの単語ではないだろうか。いったいクリエイターにとって「社会」とは何を意味するのだろう?

その手がかりとなるのが、昨年『LEXUS DESIGN AWARD』 を受賞した五十嵐瞳の言葉かもしれない。紙を武器にプロダクトを手がける彼女が今興味を示しているのは、地場産業の職人と、デザイナーとしてどのように関わっていけるのかということ。ここにも1つの「社会とデザイン」の結びつきが見て取れるだろう。ゲルフリートは言う。

「現代社会では、今までのやり方でうまくいくという確信は持てません。世界中のクリエイターたちが、悩みながら社会との接点という答えを探しています。しかし、その課題に直面したとき初めて『感性』が重要になるのではないでしょうか」

参加者たちがワークショップで制作した、それぞれの「SWITCH」
参加者たちがワークショップで制作した、それぞれの「SWITCH」

SNSのタイムラインには、東京と、地方と、アジアとヨーロッパとが等価に並ぶ。現代社会は多様性と重層性にまみれ、オンラインとオフラインがごちゃまぜになったかつてない空間だ。デザインは、この現代社会の空間に射程を定めた上ではじめて「感性」を必要とする。その2つが合体したとき、クリエイターの生み出す作品は世に響き渡っていくのだろう。この日のトークセッション、ワークショップに刺激を受けた参加者たちが、「デザインと社会」というテーマに向かい合い、『LEXUS DESIGN AWARD 2014』、どのような作品を提案してくるのか、期待したい。

イベント情報

『LEXUS DESIGN AWARD 2014 DESIGNER'S COLLEGE』

2013年9月29日(土)10:00〜14:00
会場:東京都 南青山 INTERSECT BY LEXUS

プロフィール

ゲルフリート・ストッカー

1991年からx-spaceを立ち上げ、インタラクション・ロボティクス・テレコミュニケーションを駆使した数々のインスタレーション・パフォーマンスを手がける。1995年より世界中のクリエイターが注目する先端芸術の祭典、アルスエレクトロニカフェスティバルのアーティスティック・ディレクターを務める。メディアアートの世界的権威として知られ、アート、テクノロジー、コミュニティデザインなど、領域を超えた次世代型クリエイティブの牽引者。

平野啓一郎(ひらの けいいちろう)

1975年愛知県生。北九州出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『かたちだけの愛』、『モノローグ (エッセイ集)』、『ディアローグ (対談集)』など。アートやデザインへ知識も深く、近著では、新書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、長篇小説『空白を満たしなさい』などで「分人主義」を唱え、人と社会との関わりについて独自の考察を著している。

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