レビュー

もう1つの横浜トリエンナーレ『パラトリエンナーレ』開催へ

友川綾子
もう1つの横浜トリエンナーレ『パラトリエンナーレ』開催へ

オリンピックにパラリンピックがあるように、トリエンナーレにもパラトリエンナーレがあってもいい

そう主張されれば、もちろん首を縦に振るだろう。しかし、障がい者と健常者を区分けすることには、アートの文脈上での意味を感じない。アートはそのアーティストが生み出す作品が何なのかを問題にするべきであり、アーティストの身体を含めた特徴は二次的なものだからだ。そこであえて「パラ」というのは、健常なアーティストと障がいを持つアーティストを、くっきりとした線で分けてしまうことになりそうだ。

そうした心配もさることながら、パラトリエンナーレの開催で障がい者が紡ぎ出す豊かな表現により注目が集まり、社会的認知が深まることもまた確かである。良い企画は必ず「矛盾」を孕むとも聞く。パラトリエンナーレは、矛盾を抱えた良企画であることは間違いない。

障がい者とプロフェッショナルのランデブー。SLOW LABELが考える新しい表現

広く社会に問いを投げかけることになるであろう『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』の企画を立案したのは、SLOW LABELディレクターの栗栖良依(くりすよしえ)だ。SLOW LABELは、2009年から実施されてきた障がい者施設や企業とアーティストをつなげて新しいもの作りを生み出す「横浜ランデヴープロジェクト」の取り組みから生まれた雑貨ブランドである。百貨店でも取り扱われるほどの高い品質と手作りの温もりに、アーティストやデザイナーのセンスが加わり、大量生産品では不可能な自由度で製品作りを行なうスキームがSLOW LABELの魅力だ。

SLOW LABELディレクター栗栖良依 Photo:427FOTO
SLOW LABELディレクター栗栖良依 Photo:427FOTO

栗栖は『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』においても、2つの「ランデブー」を企画の柱にしている。突出した能力を持つ障がい者と多様な分野のプロフェッショナルのランデブーによる、現代アートやパフォーマンスの作品制作。そして、福祉施設や地元企業、市民ボランティアなど、あらゆる障がいのある人とない人のランデブーによるフェスティバル運営だ。

『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』は『ヨコハマトリエンナーレ2014』と会期を合わせ、「First Contact―はじめてに出会える場所―」をテーマに、象の鼻テラスを会場にして開催される。『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』のフェスティバルディレクターも務める栗栖はこう想いを述べた。

「SLOW LABELが育んできた調和の世界観『障がいの有無や社会的立場を越え、誰もが居場所と役割を実感できること』は踏襲し、これまでの商品作りでは出来なかった、より先鋭的な表現を現代アートという舞台で爆発させたい」。

「僕らもニューロティピカル(神経発達が定型の人)という障がいを持っていると言える」(福森)

「僕は彼ら(障がい者)に感化されています。彼らがいて、僕が発想している」そう話してくれたのは鹿児島にある知的障がい者が通所する社会福祉施設「しょうぶ学園」施設長の福森伸。『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』企画発表の場ともなった、象の鼻テラス『Blue Ocean Blue Sky うみとそらのものづくり』展トークイベントのゲストである。栗栖は今年1月にしょうぶ学園を訪れた際、初めて会った福森の思想に衝撃を受け、パラトリエンナーレを考える上で非常に重要な視点だと思い、トークゲストに招いたという。

「しょうぶ学園」施設長・福森伸 Photo:427FOTO
「しょうぶ学園」施設長・福森伸 Photo:427FOTO

「障がいを持つ人と持たない人という話がありますが、僕は『違う障がいを持った人同士』と考えています。僕らもニューロティピカル(神経発達が定型の人)という障がいを持っていると言えますが、大多数だから一般的です。ですが、一般的であることが正しいこととは限らない」。

そう話す福森の言葉には、40年施設で勤め上げ、毎日のように障がい者と接しながら考え抜いてきた想いが滲む。

「(僕が出会ってきた)彼ら(障がい者)はニューロティピカルとは価値観が違うように感じるんです。何を作っているかを聞いても『わからない』と答える。でも彼らは、そのわからない作品作りを20年やるんです。そして、コラボレーションするということについては、あまり興味がないようなんですね。ですから、僕らニューロティピカルの意図で彼らとコラボするのであれば、それを明示する必要があると思うんです」。

福森の言葉を解釈すると、ありのままに創造の欲求に身を委ねる知的障がい者たちの手から泉のように湧き出る表現を、ニューロティピカルが柔軟に理解し、クリエイティブに編集することが、彼らとのコラボレーションの際には必要だということだろう。ビジュアルアーツ部門キュレーターに難波祐子、パフォーミングアーツ部門ディレクターに田中未知子を迎え、『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』は私たちが当たり前だと思っている社会の常識や価値の再考にアートを通じて正面から取り組もうとしている。

トークショー風景 Photo:427FOTO
トークショー風景 Photo:427FOTO

「一言で『障がい』と言っても、身体、視聴覚、知的、精神と、それぞれに特徴や考え方、向き合い方も異なる。単なる障がいのある方の作品展示ではなく、彼らの鋭敏な知覚や能力に注目し、そこに深い知識や技術を持つプロフェッショナルが関わることで、見たことのない表現や新しい価値を生み出し社会に問う。その表現において、障がいの有無は問題の焦点ではありません」。

フェスティバルディレクターの栗栖はさらにそう意気込みを語る。『ヨコハマ・パラトリエンナーレ』で提示される表現が、ニューロティピカルである鑑賞者の「障がい者に対する心の壁」を、どう揺さぶり、解体していくことができるかに注目したい。

イベント情報

『ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014』

2014年8月1日(金)~11月3日(月)(コア期間8月1日~9月7日)
会場:神奈川県 横浜 象の鼻テラス、象の鼻パーク

プロフィール

栗栖良依(くりす よしえ)

美術・演劇・製造と横断的に各業界を渡り歩いた後、イタリアのドムスアカデミーでビジネスデザイン修士取得。その後、東京とミラノを拠点に世界各国を旅しながら様々な業種の専門家を繋ぎ、新しい体験価値の創造に取り組む。2010年3月、右脚に骨肉腫を発病し休業。翌年、右脚に障害を抱え新たな人生をスタート。横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任、スローレーベルを立ち上げる。

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