レビュー

「囲む」のではなく「つなげる」、アーティスト主催フェスの意義を考える

金子厚武
2014/08/11
「囲む」のではなく「つなげる」、アーティスト主催フェスの意義を考える

若者の青春を表す言葉として記号化されるまでに至った「フェス」

今年も日本最大級のロックフェス『FUJI ROCK FESTIVAL』が無事終了。発表によれば、前夜祭を含めて延べ10万人の動員を記録したそうで、早くも来年の開催日程も発表されています。僕は今年は土曜日のみ参加したのですが、変わりやすい山の天気にしては珍しく、一滴も雨が降らない好天に恵まれ、今年の目玉アクトのARCADE FIREはもちろん、個人的にはソロで登場したデーモン・アルバーンのステージに感動し、日焼けと共に帰ってまいりました。また、今年で15周年を迎える邦楽ロックフェスの先駆け『ROCK IN JAPAN』は、2週にわたって初めて4日間開催され、矢沢永吉や新体制チャットモンチーの出演が話題に。中国四国地方最大のロックフェスである香川の『MONSTER baSH』も同じく今年が15周年と、日本のフェスが歴史を積み重ねてきたことを改めて感じずにはいられません。

やや硬直化し始めている大型フェスと、アーティスト主催のフェスの違い

しかし、裏を返せば、これは今のフェスにはっきりとした住み分けが起こっていることの表れとも言えるかもしれません。ジャンルも世代も問わない、国内外のアーティストが数多くラインナップに並び、山の中で3日間を過ごす『FUJI ROCK FESTIVAL』と、邦ロックを中心とした前述の『VIVA LA ROCK』の客層はやはり全然違いますし、7月から8月にかけて行われる、国内フェス四強とも言うべき『FUJI ROCK FESTIVAL』『ROCK IN JAPAN』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』でも、それぞれ客層はバラバラでしょう。もちろん、それぞれにキャラクターがあることはまったく悪いことではないし、選択肢があるというのは素晴らしいことだと思います。ただ、フェスという場が知らないアーティストやその地域の魅力などを発見する場所であってほしいと考える人間からすると、現在のフェスを取り巻く状況はやや硬直化し、誰でも安心して楽しめる一方で、発見が少なくなっているようにも見えます。特に、邦ロックを中心としたフェスに関しては、近年アイドルの流入というトピックこそあれども、ある程度固定されたラインナップによって、オーディエンスを囲っているような印象を受けるのが正直なところです。

そこで、ここではイベンターやメディアが主催のフェスではなく、アーティスト主催のフェスティバルに改めて注目してみようと思います。言うまでもなく、アーティスト主催のフェスの特徴は、そこにアーティストの意志が明確に反映されているということで、特に思うのは、「囲む」のではなく「つなげる」ことを示したフェスが多いということです。代表的なのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION主催の『NANO-MUGEN FES』、くるり主催の『京都音楽博覧会』でしょう。2003年にライブハウスからスタートし、2004年に初めて海外からアーティストを招聘、2005年に会場をバンドの地元である横浜アリーナに移し、大規模なフェスとしてほぼ毎年開催されている『NANO-MUGEN FES』は、日本と海外のアーティストをつなぎ、さらには日本の若いミュージシャンの発掘にも積極的に取り組んでいます。今年も7月12日と13日の2日間にわたって開催され、THE RENTALSやOWL CITYといった海外アーティスト、盟友のストレイテナーやthe HIATUS、さらには大御所のユニコーンから、若手のKANA-BOONまでが出演し、大成功を収めました。

一方、その『NANO-MUGEN FES』にも今年初出演を果たしたくるりの『京都音楽博覧会』は、2007年からスタートし、今年の9月で8回目の開催。市街地にほど近い梅小路公園での開催ということで、音量を絞ったアコースティック形式で行われることが特徴のこのフェスティバルにも、国内外から世代もジャンルも問わない実に様々なアーティストが参加しています。くるりの音楽同様、非常にマルチカルチュラルなことも特徴で、今年はアルゼンチンのバンドネオン奏者であるトミ・レブレロや、レバノンのシンガーソングライターであるヤスミン・ハムダンなどの出演がアナウンスされ、一方日本からは椎名林檎やtofubeatsらが名を連ねるなど、非常に独特なラインナップとなっています。このフェスもやはり日本と海外をつなげると共に、そのロケーションからして、音楽と生活の距離をより縮め、つなげようとするフェスだと言っていいでしょう。

また、新しいところでは、2012年よりフェススタイルとなり、昨年はまさかのhide出演が話題を呼んだ氣志團の『氣志團万博』を挙げておきましょう。今年は9月の13日から15日の3日間にわたって、千葉県の袖ケ浦海浜公園で開催されますが、AKB、ももクロ、ゴールデンボンバー、きゃりーぱみゅぱみゅといったJ-POPど真ん中な名前が並ぶ中、『京都大作戦』の主催者である10-FEETや、さらにはニューロティカまでもがラインナップに顔を揃えているのが特徴です。これは、氣志團というバンドがそもそもインディーズから叩き上げのバンドであり、あくまでインディーズへのリスペクトを捧げた上で、そことJ-POPとをつなげようという、氣志團というバンドの精神性の表れだと言っていいはず。主催者の顔が明確に見え、「つなげる」意志がはっきりと伝わってくる。これこそがアーティスト主催フェスの魅力だと言えるのではないでしょうか。

ありそうでなかなかない絶妙な組み合わせを実現させた、空中ループ主催の『LOOP ECHO』

そんなアーティスト主催フェスのひとつの例として、7月13日に行われた空中ループ主催の『LOOP ECHO』を紹介しましょう。彼らはかつてCINRAで「自分たちで営業もする、DIYなバンド」として紹介したことのあるバンドで、基本インディペンデントを貫きながらも、その企画力と実行力によって、メジャーのバンド顔負けの幅広い活動を展開しているバンドです。『LOOP ECHO』とは彼らが2014年を通じて、四季ごとに特別な会場でライブをするというシリーズ企画で、2月の冬編は夕日と海の見えるクラシックホール(南港サンセットホール)、4月の春編はプラネタリウム(守口プラネタリウムMOVE21)でそれぞれ開催され、7月13日は「夏フェス編」として、老舗キャバレー跡のなんばユニバースを舞台に開催されました。東京でも新宿の歌舞伎町に風林会館というキャバレー跡地があり、ときどきライブイベントにも使われますが、そこよりも一回り大きな規模の、足を踏み入れるだけでワクワクするような会場でした。

場内にはバンドの地元である京都を中心とした地域密着型の飲食店が並び、中でもおばんざい屋の「もりとし」は、メンバー森の実家だったりと、親密な空気が魅力的。一方、大阪FM802の人気DJが当日のMCや会場BGMを担当したり、ステージ脇にはスクリーンが設置され、アーティストの登場前にそこに名前が出るなど、規模感こそ異なれども、フェスらしい演出には細部までこだわりが感じられました。そして、この日の出演者は、主催者の空中ループをはじめ、空中ループのプロデュースを務めているオオヤユウスケのPolaris、さらにはbonobos、People In The Box、アナログフィッシュ、ハルカトミユキという計6組。個人的には、このラインナップを知った瞬間に「行こう!」と思ったのですが、このありそうでなかなかない絶妙な組み合わせは、空中ループの持つ多彩な側面を一バンド一バンドが象徴しているようであり、そのステージを通して体験すると、不思議な統一感も感じられたのでした。

空中ループ

空中ループ
空中ループ

そして、アーティスト主催フェスならではの特別な体験といえば、やはり大トリを務めるそのアーティスト自身のステージです。ただ、これは少々変な話ですが、主催者が大トリを務める場合、実は普段のステージよりも出来が劣ることの方が多かったりします。何せメンバー自身が運営にも携わっているため、当日はもちろん、その前から準備に駆けずり回り、自分たちの出番前にはすでに疲労困憊というわけです。しかし、オーディエンスはこの素晴らしい一日が彼らの手によって作り上げられたことを十分知っていますし、そこで決してお客さんに寄りかかるのではなく、アーティストもその状況の中で最大限の力を発揮することで、通常のフェスとはまた別種の、特別な高揚感が生まれるのです。実際、この日の本編ラストで披露された彼らの代表曲“小さな光”は格別に素晴らしかったし、オオヤユウスケをゲストに迎え、かつてオオヤが所属していたLaB LIFeの名曲“ステレオ”を一緒にカバーしたアンコールは、まさにセレブレーションのような盛り上がりでした。


実は、空中ループが年4回のシリーズイベントを開催するのは、今回が初めてではありません。以前のCINRAの記事でも取り上げているように、彼らは2009年から2010年にかけて、タワーレコード新宿とのコラボレーションによって、『オンガクノ光』というイベントを行っているのです。イベント後、彼らはレーベルに所属し、オオヤと共にファーストフルアルバムを完成させるも、現在は再びインディペンデントでの活動に戻っています。つまり、『LOOP ECHO』という企画は、彼らにとって原点をもう一度再確認するような意味合いがあると言っていいでしょう。

『ROCK IN JAPAN』が15周年を迎え、フェス文化の発展がひとつの区切りを迎えた今年、フェスのあり方というものを改めて再確認することもまた、意味があることのように思います。そして、繰り返しになりますが、フェスというものが、知らないアーティストや、地域の魅力を発見する場所であるという意味において、アーティスト主催のフェスというのは、その「つながり」を提供しようという意志が明確に表れているように思うのです。『LOOP ECHO』の最終回となる秋編は11月22日、石炭倉庫を改装押した小劇場「弁天町 世界館」での開催。『LOOP ECHO』では各回ごとにフライヤーが作られ、それを4枚組み合わせることで、1枚の絵が完成するという試みが行われているのですが、この試みもまた「つなげる」という意志を象徴する試みであるように思います。

空中ループ『LOOP ECHO』フライヤー
空中ループ『LOOP ECHO』フライヤー

イベント情報

空中ループ『LOOP ECHO』

[LOOP ECHO]冬編 -夕日と海と弦楽四重奏-
2014年2月9日(日)
会場:大阪府 南港 サンセットホール

[LOOP ECHO]春編 -星空を巡る音-
2014年4月19日(土)
会場:大阪府 守口 プラネタリウム MOVE21

[LOOP ECHO]夏フェス編 -LOOP ECHO FES.-
2014年7月13日(日)
会場:大阪府 なんばユニバース

[LOOP ECHO]秋編
2014年11月22日(土)
会場:大阪府 弁天町 世界館

プロフィール

空中ループ(くうちゅうるーぷ)

京都発信、音響ギターポップバンド「空中ループ」。のびやかで心地よいメロディー、独自の浮遊感と躍動するリズム、小さくも確かに心を灯す詞。それらが絶妙に合わさる音世界は唯一無二。これまでのリリースCDは、タワレコ新宿店、京都店、梅田マルビル店で発売日インディーズチャート1位を獲得。2012年10月、24分を超える長編大作「その光-for a long time-」と、同タイトルの映画作品を発表。ハンブルグ映画祭で上映される等、話題を呼ぶ。2013年7月、配信限定シングル「BIRTHDAY」リリース。配信限定にも関わらずFM802「OSAKAN HOT100」にチャートイン。『この国(日本)を変える、音楽の一端を担う』というおおきな目的に向かって、ちいさな日常を邁進している。

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