レビュー

小林賢太郎は、シニカルなのに相手を傷つけない。そんな彼に翻弄される展覧会

武田砂鉄
小林賢太郎は、シニカルなのに相手を傷つけない。そんな彼に翻弄される展覧会

小林の思考回路を覗き見して、パーツをつなぎ合わせていくような楽しさ

劇作家、パフォーミングアーティストであり、ラーメンズの活動でも知られる小林賢太郎、初となる個展『小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術 展』が10月5日まで東京・表参道のスパイラルガーデンで開かれている。展覧会タイトルが内容をストレートに説明しているが、コントや演劇の度に自ら多くの絵を描き、セットの一部を作り、小道具をデザインしてきた小林の世界観を垣間見ることができる。

『小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術展』展示風景
『小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術展』展示風景

いや、世界観、ではないか。本人は「ここにあるのはプラモデルのパーツのようなものだから、当初は見せることに躊躇いもあったんだけど……」と漏らす。なるほどたしかに、小林の思考回路を覗き見して、差し出されたプラモデルのパーツを鑑賞者の頭の中で勝手につなぎ合わせていくような楽しさに満ちた展示だ。会場内には小林の楽屋も出現し、使用された舞台衣装が並んでいるのも嬉しい。

新しく創作した「ひらがな」や、郷土料理から生まれた妖怪など、妄想が折り重なった世界

展覧会冒頭に掲げられた小林のメッセージに「美術大学を卒業後、劇場を仕事場に選んだ僕が最初にしたのは『美術』という価値観を自己否定する事からでした」とある。その自己否定からふたたび「美術」を取り戻すプロセスが投じられた展示会とかしこまって書けば、なんだか丸くて柔らかいものも四角くて固いものに変わってしまいそうだが、そこはさすがに丸くて柔らかいまま「美術」という価値観を取り戻している。

『46ピースのパズル』という作品では、その造形が好きでたまらないという「ひらがな」と、小林が独自に創作した新たな「ひらがな」を並べてみせた。50音っていうのに46音しかないのって不思議、と書き添えつつ。

『46ピースのパズル』
『46ピースのパズル』

『郷土料理を妖怪にしてみた』では、郷土料理名の響きから勝手に妄想した妖怪をイラストに起こしてみせる。なかでも「へしこ」(鯖に塩を振って糠漬けにした郷土料理)は水木しげるっぽくて好きだという。郷土の料理妖怪が一堂に会す『十鬼夜行』は圧巻だ。妖怪が自由に飛び交うその様は圧巻なんだけど、元はと言えばことば遊びに端を発した妄想。そんな妄想に惹きつけられる、というか、すっかり取り憑かれてしまう。

『郷土料理を妖怪にしてみた』
『郷土料理を妖怪にしてみた』

『十鬼夜行』
『十鬼夜行』

「一番好きなひらがなってなんですか?」「等しく愛しています」

プレス関係者用のツアーにお邪魔したのだが、小林氏への質疑応答の時間が用意されていた。図工の先生に質問する生徒のように、すっかり無邪気な質問を投げてしまう。

「『46ピースのパズル』という作品がありますが、小林さんが一番好きなひらがなってなんですか」

数秒黙った後、「等しく愛しています……でも、なくなっちゃったやつ、アレが好きですね。新たな50音を考えるときもついついアレになっちゃって」とのこと。アレとは「ゐ」や「ゑ」などのことだ。

小林賢太郎
小林賢太郎

自分で創作した新しい50音にはそれぞれ発音があるらしく、その場で「ふ」と「ん」くらいの間の発声を読み上げた。

とっても気持ちいい、ユーモアとシニカルの「スパイラル」

展示を廻りながら、こんなことを思った。本来、「ユーモア」と「シニカル」の間には大きな川が流れていて行き来しにくいはずなのだけれど、小林の表現って、独自の「ユーモア」が既存の「シニカル」をパクリと食べちゃうものだから、常に新しい食感を持って生み出されてくる。こちらから手を伸ばして掴まえることはできないのに、あちらからはパクリと掴まれてしまう。

つまり、翻弄されているのに、こちらは傷つかないし優しい。なんでなんだろう。小林賢太郎の作品にじっくり入り込める展示会は、小林賢太郎に翻弄される展示会。でも、その「スパイラル」の中にいるのはとっても気持ちいい。なんでなんだろう。わからないけど気持ちいい。

イベント情報

『小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術 展』

2014年9月19日(金)~10月5日(日)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
料金:無料

プロフィール

小林賢太郎(こばやし けんたろう)

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。劇作家、パフォーミング・アーティスト。1996年、片桐仁とコントグループ「ラーメンズ」を結成。演劇プロジェクト「K.K.P」、ソロパフォーマンス「Potsunen」など、劇場を中心に活動する。2009年から、NHK BSプレミアムにて、コント番組「小林賢太郎テレビ」を、年に一度のペースで放送。コント、マジック、映像などを組み合わせた短編集「Potsunen」は、海外でも上演される。

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年生。ライター/編集。2014年9月、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」で「コンプレックス文化論」、「cakes」で芸能人評「ワダアキ考 ~テレビの中のわだかまり~」、「日経ビジネス」で「ほんとはテレビ見てるくせに」を連載。雑誌「beatleg」「TRASH-UP!!」でも連載を持ち、「STRANGE DAYS」など音楽雑誌にも寄稿。「Yahoo!個人」「ハフィントン・ポスト」では時事コラムを執筆中。インタヴュー、書籍構成なども手がける。

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