レビュー

ジュネ監督の新作『天才スピヴェット』で主演に抜擢された少年は、本物の天才だった

森直人
2014/11/12
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ジュネ監督の新作『天才スピヴェット』で主演に抜擢された少年は、本物の天才だった

俗物の大人たちを痛快に切り捨てる役に抜擢、天才少年を演じる天才少年

ロードショー公開前から、1本の傑作映画が日本を騒がせている。その名は『天才スピヴェット』。ライフ・ラーセンのベストセラー小説『T.S.スピヴェット君 傑作集』(早川書房刊)の映画化だ。


米モンタナ州の保守的な田舎に暮らす10歳の孤独な科学少年が、「あるサプライズ」の報を受ける。それをきっかけに、自分に無理解な家族や学校に内緒で、ひとり旅を決行する物語だ。監督は『ロスト・チルドレン』(1995年)や『アメリ』(2001年)などで世界的に知られるフランス出身の名匠、ジャン=ピエール・ジュネ。「イメージの錬金術師」との異名を取る彼は、ポップアップブック(飛び出す絵本)を思わせるマジカルな3D映像で、アメリカ横断の大冒険を描く。本作にはすでに各界著名人から絶賛の声が集まっており、熱烈に惚れ込んだという山田洋次監督は直筆コメントを寄せたほど。

山田監督は「諷刺という武器を手に、この世を支配する俗物の大人たちを痛快に切り捨てる」と評する。その「俗物の大人たち」――つまらない常識やプライドにとらわれ、権威で他者を操ろうとする連中に、小さな体で対峙する本作の主人公が、破格の頭脳と豊かな心を備えた天才少年のT.S.スピヴェットだ。演じるのはこれが長編映画デビューとなるカイル・キャトレット。2002年生まれで、7歳の時から子役俳優として活動を始めた彼は、実のところ本物の天才少年! なんと6か国語を話すことができ、マーシャルアーツ(武道)の選手権で7歳以下部門の世界チャンピオンに3年連続で輝いた経歴を持つ。まさしく文武両道のスーパーキッズなのだ。

『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA
『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA

「スピヴェット役のキャストを決めるに当たっては2,000人~3,000人の男の子をオーディションしたんだけど、なかなか適役の子が見つからなくてね。そんな時、カイルにSkypeを通して出会った。最初はスピヴェット役には若すぎるし(原作の年齢設定は12歳)、ちょっとイメージが違うかなと思ったんだけど、彼のプレゼンやカメラテストの演技が素晴らしかったんだ。それで結局、年齢設定などを変更するなど、スピヴェットのキャラクターをカイル自身の個性に合わせることになった。もし彼が現れなかったら、この『天才スピヴェット』という映画は作れなかったんじゃないかと思うね。きっと私はあきらめていたよ。アニメかマンガだったらできるかもしれないけど(笑)」

まるで「自慢の息子」を紹介するような口ぶりで、カイルを手離しに賞賛するジュネ監督。実は『第27回東京国際映画祭』の特別招待作品としての上映に合わせ、来日したジュネ監督とカイルに直接話を訊くことができた(2014年10月29日、ザ・リッツ・カールトン東京にて)。

ジャン=ピエール・ジュネ
ジャン=ピエール・ジュネ

個性を活かした演技で作品を彩る、正真正銘の役者

ジュネ監督の言うように、スピヴェットとカイルの個性が結果的に接近したことで、「天才少年が天才少年を演じる」というリアリティーが、本作の魅力や説得力のカギになっていることは間違いない。続けてこちらからカイルに「今回の撮影で何か苦労したところはありますか?」と質問をぶつけると、彼はちょっと困ったようにこう答えてくれた。

「う~ん……何も難しくなかった。本当に全部楽しかったです。すごくハッピー。何千回観ても飽きない映画になったと思うし」

カイル・キャトレット
カイル・キャトレット

じゃあ、お気に入りのシーンは? と訊ねると、「最後にスピーチをするシーンと、アクションシーン全般かな」とのこと。スピーチシーンはクライマックスの見せ場であり、カイルは堂々と長台詞をこなす。そしてアクション場面では、お得意のマーシャルアーツを活かしてカンフーまで披露してくれるのだ!

そこにジュネ監督がすかさずコメントを挟む。「興味深いのは、彼が挙げたお気に入りのシーンはそれぞれ全然質が違うことだね。台本で3~4ページも続くスピーチは、演技の力がすごく要求されるシーンだし、一方で肉体的なものを要求されるアクションのシーン。その両方とも彼は好きで、完璧にこなすことができるんだ。本物の役者だよ! もともとファイティングシーンは原作にも脚本にもなかった。でもカイルの特技を目にして是非エピソードとして入れたいと思ったんだ。それから旅の途中、シカゴの街で警官に話しかけられて、カイルがロシア語で返すシーンがあるだろう? あれもカイルの個性に合わせた部分なんだ」

『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA
『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA

カイルの将来の夢は「大統領」?

まさに多芸多才なカイル。とはいえ現在まだ12歳、小さな体は巨大な好奇心と可能性のかたまりである。「これからもずっと俳優をやっていきたいですか?」と訊ねると、間髪入れず「イエス!」との明朗な返事が返ってきたが、やはり他にもやりたいことはたくさんあるようだ。

「僕がなりたいものは、役者、科学者、武道家、そして大統領」(!)

大統領になったら何をしたいですか? と質問すると、「いっぱいあるんですけど、特に不遇な環境に置かれている子どもたちを助けたい。ドメスティックバイオレンスの犠牲になっている家族を救いたい。経済も向上させたいし、法律もいいものにしていきたい。ホームレスの人たちが屋根のある家で眠れるようにして、水や食事が満足に得られる状況にしていきたい」。

左から:ジャン=ピエール・ジュネ、カイル・キャトレット

そして役者としても実に貪欲だ。「僕はアクション、アドベンチャー、ドラマもホラーも好き。何でも挑戦してみたいです」。

子役は大成しない? ジュネ監督が断言「その心配はない」

よく世間では「子役は大成しない」という俗説がまかり通っている。実際、幼い頃から芸能界の慣習に染まった者にとって、真っ当な成長を果たすことに困難な道が待ち構えているのは確かだ。凋落した「天才子役」の有名な例としては、マコーレー・カルキン(代表作『ホーム・アローン』シリーズ)、ハーレイ・ジョエル・オスメント(代表作『フォレスト・ガンプ』『シックス・センス』)など……。しかしジョディ・フォスター(代表作『タクシードライバー』『羊たちの沈黙』)やナタリー・ポートマン(代表作『レオン』『ブラック・スワン』)など、子役から順調にキャリアを築いている役者もたくさんいる。そう、要は本人次第。揺るぎなき知性と品性を持った者に不吉なジンクスは通用しない。

また『天才スピヴェット』に関して、ジュネ監督は「スピヴェットは私自身だ」と言及してもいる。この映画では、自身の想像力を活かして若き頃から創作の才を発揮していた元・天才少年である監督が、カイルに自分自身のパーソナリティーを託してもいるのだ。その意味でジュネ監督とカイルは、かつてフランソワ・トリュフォー監督が自身の少年時代をモデルにした『大人は判ってくれない』(1959年)の主演に抜擢して、その後も長くタッグを組んでいった俳優ジャン=ピエール・レオーとの関係に近いのかもしれない。

『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA
『天才スピヴェット』© ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA

取材の最後に、「今後、あなた自身がカイルに役者として期待することは?」という質問をジュネ監督にぶつけてみた。この答えが「カイルの未来予想図」のすべてを物語っていると言ってもいいだろう。

「いや、わからないね。これから数年後、彼は思春期に突入するわけで、その個性はどんどん変化していく。私としてはティーンエイジャーを通過して、大人の役者になった彼を見てみたい。その日が来るのが今から楽しみだよ。ただひとつ言えるのは、カイルには大変な才能があるということ。それは確信している。だからまったく心配はしていないよ」

左から:ジャン=ピエール・ジュネ、カイル・キャトレット

イベント情報

『天才スピヴェット』

2014年11月15日(土)からシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
原作:ライフ・ラーセン『T・S・スピヴェット君傑作集』(早川書房)
出演:
カイル・キャトレット
ヘレナ・ボナム=カーター
ジュディ・デイビス
カラム・キース・レニー
ニアム・ウィルソン
ドミニク・ピノン
配給:ギャガ

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