レビュー

映画祭の会場はインターネット。フランスが提示する「新しい時代の映画のあり方」とは?

宇野維正

映画祭の会場はインターネット。フランスが提示する「新しい時代の映画のあり方」

現在開催されている『第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)』(2月16日まで)は、あらゆる点において画期的な映画祭だ。昨年のジャン=ピエール・ジュネ監督(『アメリ』『天才スピヴェット』など)に続いて、今年はミシェル・ゴンドリー(『エターナル・サンシャイン』『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』など)が審査委員長を務めているこの映画祭の会場はインターネットだ。オンラインで繋がってさえいれば世界中の誰もが参加可能で、長編作品は1.99ユーロ(約270円、長編パッケージ料金は9.99ユーロ)、短編作品は無料。日本語を含めた13か国語の字幕を自分で選んで厳選された最新のフランス映画を鑑賞することができるのだ。

ミシェル・ゴンドリーデザインのポスタービジュアル
ミシェル・ゴンドリーデザインのポスタービジュアル

「映画を観るなら映画館で」というのが正論であることは言うまでもないが、その正論を最も振りかざしそうな国であるフランスが、国を挙げて(本映画祭はフランス文化・通信省の外郭団体であるユニフランス・フィルムズが主催している)このような「新しい時代の映画のあり方」を提示しているのはとても興味深い。世界中の映画ファンはビデオ~DVD時代に入って以降、それまでには考えられないほど容易に過去の膨大な映画のアーカイブに接することが可能になったが、インターネットはその状況を加速させると同時に、著作権侵害などの様々な問題を引き起こしながら一体何から観たらいいのかわからないという飽和状態を生み出してきた。そこで「ならば我が国の新しい才能たちの作品に是非触れてください」とフランスが手招きしているわけだ。映画ファンとして、そこにのっからない理由は見つからない。

商業主義と芸術との間で長年引き裂かれてきた、フランス映画の大きな変化

21世紀に入ってから、フランス映画は大きな変化の時期を迎えている。その誇り高き自国映画の歴史に足をからめとられて、商業主義と芸術との間で長年ずっと引き裂かれてきたフランスの映画は、ここにきて娯楽作品として目を見張るような洗練をごく当たり前に身につけるようになってきた。ポール・ハギスによってリメイク(『スリーデイズ』)されたフランス映画『すべて彼女のために』をはじめ、新作が発表される度にハリウッドでリメイク権の争奪戦が巻き起こるフレッド・カヴァイエ作品、『96時間』シリーズ、『LUCY / ルーシー』と近年ますます世界的大ヒット作をコンスタントに送り出し続けているリュック・ベッソンのヨーロッパ・コープ(リュック・ベッソンとピエランジュ・ル・ポギャムとの共同映画スタジオ)関連作品、日本でも大ヒットした『最強のふたり』などなど。それらは、その語り口においてハリウッド映画の模倣と言えるかもしれないが、それでは一体どこの国の映画がアメリカの娯楽映画の最前線と同じ基準で対等に渡り合えているかというと、その筆頭と言えるのはやはりフランスなのだ。名を捨てて実を取るようになったことで、フランス映画はその実力を世界中に見せつけていると言ってもいいだろう。

もう一つ重要なのは、フランスの映画界はここ数年、マリオン・コティヤール、レア・セドゥ、オマール・シーといった世界中からオファーが殺到する国際的なニュースターを生み出し続けていること。今回の『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』では、そんな中の一人であるメラニー・ロラン(『イングロリアス・バスターズ』『グランド・イリュージョン』『複製された男』など)の監督作『呼吸 ―友情と破壊 / Respire』がコンペティション作品の一つに選ばれている。南仏を舞台に女子高生のイジメとその驚きの顛末を描いた本作において、メラニー・ロランはその瑞々しい感性と役者の自然体を引き出す鋭敏な演出力を開花させている。

『呼吸 ―友情と破壊 / Respire』(監督:メラニー・ロラン)
『呼吸 ―友情と破壊 / Respire』(監督:メラニー・ロラン)

コンサバ系から映画マニアまで、日本ではまだほとんど誰も知らない新しい才能に出会うチャンス

今回の『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』コンペティション作品の中で個人的に最もオススメしたいのが、パリを舞台にした独身ビジネスマンと東欧の不法移民の少年の禁断の関係を描いた『イースタン・ボーイズ / Eastern boys』だ。ミヒャエル・ハネケ(オーストリアの映画監督、『ファニーゲーム』『ピアニスト』など)作品を思わせるような鮮烈な暴力描写と、予測不可能なストーリーテリングの巧みさは、映画ファンにとって「事件」と言っても過言ではないと思う。

『イースタン・ボーイズ / Eastern boys』(監督:ロバン・カンピッロ)
『イースタン・ボーイズ / Eastern boys』(監督:ロバン・カンピッロ)

他にも、ヴァンサン・マケーニュ(『女っ気なし』)とローラン・ラフィット(『最強のふたり』)が共演するコミカルなヒューマンドラマ『悲哀クラブ / Tristesse Club』、その超個性的なビジュアルセンスと強固な世界観によって一部で熱狂的に支持されているエレーヌ・カテ&ブルーノ・フォルザーニ監督のサスペンス『内なる迷宮 / L'Etrange couleur des larmes de ton corps』など、話題作がズラリ。

『悲哀クラブ / Tristesse Club』(監督:ヴァンサン・マリエット)
『悲哀クラブ / Tristesse Club』(監督:ヴァンサン・マリエット)

コンサバ系フランス映画好きから、先物買いに長けた新しもの好きの映画マニアまで、どんなタイプの映画ファンでも1本や2本、日本ではまだほとんど誰も知らない、自分だけのお気に入り作品に出会えるはずだ。

イベント情報

『第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(myFFF)』

2015年1月16日(金)~2月16日(月)
上映作品:
[コンペティション部門 長編作品]
『都会のガゼルたち / Les Gazelles』(監督:モナ・アシャシュ)
『居場所を求めて ―恋のポートレイト― / Une place sur la terre』(監督:ファビエンヌ・ゴデ)
『パリ、恋の診療室 / Tirez la langue mademoiselle』(監督:アクセル・ロペール)
『ぼくが数学を嫌いな理由 / Comment j'ai détesté les maths』(監督:オリヴィエ・ペヨン)
『ヒポクラテスの子供達 / Hippocrate』(監督:トマ・リルティ)
『ヴァンダル―青春のグラフィティ / Vandal』(監督:エリエ・システルヌ)
『イースタン・ボーイズ / Eastern boys』(監督:ロバン・カンピッロ)
『悲哀クラブ / Tristesse Club』(監督:ヴァンサン・マリエット)
『内なる迷宮 / L'Etrange couleur des larmes de ton corps』(監督:エレーヌ・カテ、ブルーノ・フォルザーニ)
『呼吸 ―友情と破壊 / Respire』(監督:メラニー・ロラン)
[クラシック作品]
『太陽がいっぱい / Plein soleil』(監督:ルネ・クレマン)
[ケベック映画招待作品 長編]
『アビティビのゴダールを追え /Chasse au Godard d'Abbittibbi』(監督:エリック・モラン)
[コンペティション部門 短編作品]
『影法師 / Shadow』(監督:ロレンゾ・ルシオ)
『パリまでの道 / La Virée à Paname』(監督:カリーヌ・メイ、ハキム・ズゥアニ)
『プールの一夜 / Moli』(監督:カリーヌ・メイ、ハキム・ズゥアニ、ヤシン・クニア、ムラッド・ブダウッド)
『兄の帰還 / Le Retour』(監督:ヨアン・クアム)
『公園のギィ・モケ / Guy Moquet』(監督:ドゥミ・エランジェ)
『アイッサの検査 / Aissa』(監督:クレマン・トレアン=ラランヌ)
『憂いなき者たち / Les Instouciants』(監督:ルイーズ・ド・プレモンヴィル)
『Dip N' Dance』(監督:ユーゴ・クレルツニアク)
『女教師 / Extrasystole』(監督:アリス・ドゥアール)
『ブッシュ・ド・ノエル / La Bûche de noël』(監督:ステファン・オビエ、ヴァンサン・バタール)
[ケベック招待作品 短編]
『特別な人』(監督:モニア・ショクリ)
※長編作品はiTunes Storeでも配信

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