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独創的なアイデアは「型」から生まれる。「編集」が、働くぼくらに与える影響

萩原雄太
2015/03/20
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独創的なアイデアは「型」から生まれる。「編集」が、働くぼくらに与える影響

目の前の仕事に追われる会社員に、「編集」というテクニックはどう使えるのか?

以前、勤めていた広告系の会社でこんなことがあった。企業のウェブサイトをリニューアルするにあたり「我が社のコアコンピタンス(核となる能力)は何か?」という会議を行ったところ、集まった社員から全然意見が出てこない……。散発的に出てくるのは、「納期を守る」「安かろう悪かろうではない」「一生懸命頑張る」といった、ありきたりの意見ばかりだった。「どうしてお客さんはうちの会社に発注してくれるんだろう?」、そこにいる社員全員がわからなくなり、数時間かけた会議は、実り少ないものに終わってしまった。

きっと、上記のような事例は珍しいことではないだろう。目の前の仕事に追われている社員にとって、「我が社とは何か?」「その強みはどこか?」といった大局的な思考を整理することは難しい。これまでの仕事から類推しようとしても、あまりに散らかりすぎていて全然整理ができない、という事態に陥ってしまう。だが、もしもこういった会議に「編集」というテクニックが応用されていれば、違ったものになったのではないだろうか。

人の営みのすべてを「編集」で再構築する「編集工学」

編集工学研究所所長・松岡正剛が「編集工学」という概念を提唱し始めたのは、今から30年以上前に遡る。彼の生み出した「編集工学」は、書籍や雑誌、映像などで使われる、いわゆる「編集」という概念にはとどまらない。五感で得るすべてを「情報」として整理し、意味や価値を見極めながら受け手に対して伝えるためのものであり、その定義によれば、「話を聞く / 考える / 喋る」という日常会話も、「企業情報を調べる / 自分に合った企業かを判断する / エントリーシートを提出する」という就職活動も、あるいは「周囲の異性と仲良くなる / その中から自分にあった女性を選ぶ / デートに誘う」という流れで進行する恋愛ですら、人間のほとんどの行動が「編集」抜きには考えられないものとなる。

松岡正剛
松岡正剛

この松岡による、膨大な「編集工学」のメソッドを学ぶことができる「イシス編集学校」では、今春から「EditBiz」という新たなコースを開講する。これまで30年以上にわたって積み上げられてきた松岡流の編集術を、「ビジネス」にフォーカスして再構築することによって、企業内で必要とされる発想力を鍛えようという試みだ。今回、そのプレ企画として行われた、先端起業科学研究所の竹内裕明によるワークショップ&レクチャー『マーケティングイノベーションの6W2H』に参加した。

情報収集、整理、まとめ、置き換え、表現が「編集」の基本

コンサルタントとして、これまで様々な企業の課題を解決してきた竹内。彼自身もまたイシス編集学校卒業生の一人であり、コンサルティングのノウハウも松岡流の編集術から深い影響を受けている。では、いったい「編集」はどのような形でビジネスに応用されているのだろうか? 彼の講座からそのエッセンスを抽出してみよう。

竹内裕明(先端起業科学研究所)
竹内裕明(先端起業科学研究所)

ワークショップ形式で行われたこの講座で、まず竹内が出したのが「自分のやりたいことを書く」という課題。大企業社員からベンチャー経営者まで、20人あまりの参加者たちは、竹内の指示通り、配布された白い紙の真ん中に「やりたいこと」と書いて丸く囲み、その周囲に「昇進」「イタリア旅行」「ギター」「家族と過ごす」など、めいめいの好きな言葉が記されていく。

書き終えると、今度は参加者同士でペアを作ることを促した竹内。そして、参加者たちは、ペアの相手に対してそれぞれ自分が書いた「やりたいこと」を説明し合い、2人のやりたいことを集約して3つにまとめることになる。さらに、これを他のペアと4人で行い、3つのやりたいことを抽出、次に8人で行い、さらにまた3つのやりたいことを抽出……と徐々にたくさんの人々が参加して、いつの間にか参加者全員による「3つのやりたいこと」が練り上げられていく。

ワークショップの様子

ワークショップの様子
ワークショップの様子

経営課題会議やスローガン決定会議も、このようなワークを通じていけば、コミュニケーションが円滑になり、活発な議論に発展すると竹内は語る。事実、ほとんどが初対面の参加者も、和気あいあいとした空気の中で話し合いを行い、いつまでも発言がやむことがなかった。

だが、いったい、これのどこが「編集」なのだろうか?

じつは、ここには「情報を収集する」「集めた情報を整理してまとめる」「まとめた発想を別のものに置き換える」「それを表現して誰かに伝える」といった、基礎的な編集の流れが詰まっている。イシス編集学校では、この流れの中で「型」と呼ばれる関係付けや類型化など、考え方のメソッドを利用することで視点を変え、新たな発想を導き出す術をトレーニングしている。竹内は言う。

「世間で言われている『編集』の大部分は『表現』の部分にしか目が向けられていません。しかし、イシス編集学校では、『どのように思考するか』『どのように発想するか』といった頭の中の編集作業を、38の編集の型で教えていきます。今回のワークショップでは「やりたいこと」をやりとりするために『モデル交換』という型を使い、情報を同じ形式にはめ込むことの重要性を体験してもらいました」

ワークショップの様子
ワークショップの様子

思考プロセスを「型」にすることで、そこに動く「心」を見極められるようになる

さらに、ワークショップの後に行われたレクチャーでは、自身が専門とするマーケティングの現場でも「編集」が必要であると、より具体的な理論を展開した竹内。マーケティングというと、どうしても企業側が優先して考えられがちだが、送り手だけでなく消費者側も価格を調べたり、実際に店に足を運ぶといった「マーケティング活動」を行っている。つまり企業には、そんな消費者の思考・感情・行動を分析し、そこにどんな「編集」が起こっているのかを見極めることが求められる。「編集工学」を応用したメソッドを「思考の型」として組み込むことによって、複雑な消費者の情報は整理され、立体的にマーケットの流れをつかむことができるのだ。「型をつかう」という編集術がビジネスに対して有用性を発揮する1つの具体例だろう。

編集工学研究所 / イシス編集学校
編集工学研究所 / イシス編集学校

イシス編集学校を運営する、編集工学研究所代表取締役社長の野村育弘も、近年、ビジネス領域において編集の重要性がより高まってきたと語る。

「現代は、価値の寿命が短くなっており、アイデアを素早く生み出さなければならない時代です。編集の『型』を身につけ、プロセスを共有することで、アイデア出しの効率化をはかるだけではなく、社内コミュニケーションも円滑になります。情報から次の価値を見つけて取り出す『編集』は、これからの社会や企業にとってより大きな役割があるのではないでしょうか」

今春より開始される「EditBiz」のレクチャーは、すでに大和リースや旭化成などの大企業でも導入され、それぞれの企業が個別に抱える課題に即したワークショップの実施が決定している。松岡の定義を解釈すれば、「編集術」とは、人の思考プロセスを明確化する型を得ることで、そこに動く「心」を見極める作業となる。ビジネスに「編集」という概念を導入すること、それは同僚、消費者、そして自分自身といった人間そのものに向き合う作業なのではないだろうか。

イベント情報

『EditBiz マーケティングイノベーションの6W2H』
『ISISフェスタ 2015春』

2015年3月5日(木)19:00~22:00
会場:東京都 世田谷区 編集工学研究所
講師:竹内裕明(先端起業科学研究所所長・イシス編集学校師範代)

インフォメーション

イシス編集学校

松岡正剛が編み出した「編集工学」を基礎から学び、世の中のさまざまなところに役立てていこうと、2000年にインターネット上に開校した編集学校。「日本する。編集する。」というコピーそのままに、受講者はすでに30,000人を超えており、「編集力」を身につけた次世代のクリエイターやビジネスマンを輩出しつづけている。編集学校のコースは編集力を究める守・破・離の3つのコースの他、編集術を伝える師範代養成プログラムの花伝所、五七の定型詩で遊ぶ風韻講座。五つの短編・長編をつくる物語講座などがある。

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