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鋤田正義に迫る『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』評

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
テキスト
宮田文久
編集:久野剛士
鋤田正義に迫る『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』評

ジャームッシュから忌野清志郎まで、伝説の写真を担当したSUKITAの歴史

私たちがレジェンドに何かしら感化されるとき、主に2つの側面があるのではないだろうか。ひとつは、その人物が歩み、刻んできた「歴史」。もうひとつは、ときを隔てても私たちを刺激してくれる「アティチュード(姿勢)」――。

今年5月に80歳を迎えた写真家・鋤田正義を追ったドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』を見ながら、筆者はそんなことを考えていた。

鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ
鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ

劇中で鋤田正義と話す坂本龍一 / ©2018「SUKITA」パートナーズ
劇中で鋤田正義と話す坂本龍一 / ©2018「SUKITA」パートナーズ

「歴史」にかんしては折り紙つきだ。ポートレイト、アルバムジャケット、そしてライブ写真の分野において、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、マーク・ボラン、忌野清志郎といった偉大な面々と繰り広げてきた「セッション」の軌跡が、映画内でも語られる。そしてインタビューや鋤田との対談映像の中で、多くのアーティストが彼に賛辞をおくっている。YMOの細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏。あるいはMIYAVI。

鋤田正義が撮影した忌野清志郎 / ©All the photos by SUKITA. All rights reserved
鋤田正義が撮影した忌野清志郎 / ©All the photos by SUKITA. All rights reserved

鋤田がスチールを担当した映画『ミステリー・トレイン』(1989年)の監督、ジム・ジャームッシュは「スキタは細部をのがさない」と絶賛する。自身の映画のスチール写真集を出版したのはこの一度きりであり、その理由を「これ以上のものは作れないからだ」とも。

デヴィッド・ボウイにも愛された、変化を続けるSUKITAのアティチュード

そして「アティチュード」に関しても、どんなアーティストとも人懐っこい笑顔で対話する、好々爺たる鋤田の姿が幾度もスクリーンに映される。そして、その自然体の態度は、おそらくは若かりし日からずっとそうだったのだろう。

これまで鋤田に限らず、数限りなく「被写体」になってきた細野も、レンズを向けられることには圧迫感を抱く(いわく「神経がピリピリする」)という。しかし、相手が鋤田ならそうではない。「刀を持っていないお侍さん」――細野は鋤田のことをこう称する。

鋤田正義が撮影したYMO『Solid State Survivor』ジャケット / ©All the photos by SUKITA. All rights reserved
鋤田正義が撮影したYMO『Solid State Survivor』ジャケット / ©All the photos by SUKITA. All rights reserved

そんな自然体の「セッション」の場で、鋤田はアーティストの知られざる側面を切り取り、彼らに愛されてきた。アーティストとは、常に「変化」を求める人間だ。そして鋤田自身も「変化」を愛し、お互いに一瞬一瞬変化する者同士として、アーティストに相対してきたに違いない。

たとえば映画の冒頭、ライブ会場で布袋寅泰を撮影している鋤田の傍らでは、クレーンやレール上で操作されるカメラが、縦横無尽に動き回っている。彼は、「そうした状況を逆手にとってみようと思った」と語る。

実際にファインダーを覗いてみることから始めた彼は、ライブ会場を見渡し、音と空気を身にまとい、いま目の前にいる布袋を見る。そしてシャッターを切る。

左から:マーク・ボランの記念碑の前に座る布袋寅泰、鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ
左から:マーク・ボランの記念碑の前に座る布袋寅泰、鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ

その態度は、決してアナクロではない。なにせ映画内で語られるように、彼は写真家にデジタルの波が押し寄せたとき、真っ先に反応し、最先端のテクノロジーを自らの制作に取り込んだからだ。そしてテクノロジーが周囲に溢れた瞬間、彼はふっと違う道を探ろうとする。次のフレッシュさが垣間見える道を。

そうした柔軟性がなければ、あれほどの変化を遂げていったデヴィッド・ボウイに愛されるはずがなく、『Heroes』(1977年)のジャケットが『The Next Day』(2013年)へと転生することもなかっただろう。

鋤田正義がジャケットを撮影したデヴィッド・ボウイ『Heroes』 『Heroes』ジャケット写真を利用したデヴィッド・ボウイ『The Next Day』

鋤田正義が撮影したデヴィッド・ボウイ/ ©All the photos by SUKITA. All rights reserved
鋤田正義が撮影したデヴィッド・ボウイ/ ©All the photos by SUKITA. All rights reserved

もっとも、劇中で『The Next Day』のジャケットを手がけたデザイナーのもとを鋤田が訪れた際、元ネタとして『Heroes』が選ばれたのは、過去作のジャケットを小さな四角形で隠していった結果、もっともしっくりきたのが『Heroes』だったという茶目っ気溢れるエピソードも語られるのだが、こうしたトリビアが至る所に埋め込まれているのも、本作の特長だろう(働き盛りの鋤田が活躍した原宿での日々ーー1977年にはボウイもそこで撮影したーーについても、写真やデザインに興味がある人にとって、貴重な証言になっている)。

まるで昆虫少年、カメラを手にした鋤田正義の姿

最後に、筆者が印象に残ったシーンをひとつ挙げたい。各地での展覧会のために世界を渡り歩く鋤田を本作のビデオカメラは追っているのだが、彼はいつでもその手にカメラを持っている。そしてひっきりなしにファインダーを覗き、シャッターを切る。

いや、逆なのかもしれない。彼にとっては、カメラを通して見えるものこそ、生き生きとした「世界」なのだ。その様子は、まるで望遠鏡を覗く天体少年のようであり、未知の存在を顕微鏡で観察する昆虫少年のようだ。

カメラでデヴィッド・ボウイの壁画を撮影する鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ
カメラでデヴィッド・ボウイの壁画を撮影する鋤田正義 / ©2018「SUKITA」パートナーズ

現実の世界を、フレッシュなままに切り取り、共に生きるためのカメラ。ポートレイトで知られる鋤田だが、もしかしたら、風景を撮影している彼がファインダーを覗きながらふと振り返った先には、アーティストたちがいるのかもしれない。そこにいるのは、絶えず変化し、フレッシュな未来を志向する人間たちだ。80年の年月を経てなお、そこに躍動している生に魅了されている写真家が、スクリーンの上で微笑みを浮かべている。

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』ポスター
『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』ポスター(サイトを見る

イベント情報

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』

5月19日(土)から新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

監督:相原裕美
出演:
鋤田正義
布袋寅泰
ジム・ジャームッシュ
山本寛斎
永瀬正敏
糸井重里
リリー・フランキー
クリス・トーマス
ポール・スミス
細野晴臣
坂本龍一
高橋幸宏
MIYAVI
PANTA
アキマ・ツネオ
是枝裕和
箭内道彦
立川直樹
高橋靖子
ほか
上映時間:115分
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
©2018「SUKITA」パートナーズ

プロフィール

鋤田正義(すきた まさよし)

1938年、福岡生まれ。1960年代から頭角を現し、1970年代には活動の場を世界に広げる。デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、マーク・ボラン、忌野清志郎、YMO等の写真が有名だが、そのフィールドは広告、ファッション、音楽、映画まで多岐にわたる。2012年、40年間撮り続けてきたデヴィッド・ボウイの写真集『BOWIE×SUKITA Speed of Life 生命の速度』をイギリスから出版。その他の写真集にボウイ『氣』、『T.REX 1972』、『YMO×SUKITA』、『SOUL 忌野清志郎』等がある。またイギリス、フランス、イタリア、ドイツ、アメリカ、オーストラリア等の世界各地で自身の写真展を展開中。

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