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Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る

Eve『Smile』
2020/02/14
Eveが『Smile』で果たした変化と独白。クロスレビューで探る

深まる混沌を無漂白で聴かせる、勇気のアルバム
テキスト:矢島大地

Eve『Smile』は、音楽的にも、吐露される歌の面でも、彼のディスコグラフィの中でもかつてなく混沌としたアルバムだ。思い切りマスの場へ踏み込んだ“心予報”や“白銀”といったタイアップソングの煌びやかな質感と、“闇夜”や“LEO”のように自身の存在を問う深い内省。楽曲ごとのコントラストが乖離とでも言えるほどクッキリとしていて、それは、泣きながら微笑む男性の表情が描かれたジャケット写真に覚える「怖さ」にもそのまま重なるものだ。違和感というか、ポップネスと仄暗さの両方がより一層極端化したまま同じ箱に入っているアンビバレントな質感こそがこの作品の核心だと感じる。

今年1月に行われたツアー『胡乱な食卓』の東京国際フォーラム公演がまさに、上述した彼のモードを表すものだった。ステージに降ろされた紗幕に壮大なグラフィックが映るオープニング、その映像に呼応して輝き出す観客の腕のザイロバンド。華やかで幻想的な演出で号砲を上げた過去最大キャパシティのライブだったが、しかしライブそのもののど真ん中に見えたのは、Eve自身が放つ強烈な混沌だった。

TOUR『胡乱な食卓』より。紗幕に壮大なグラフィックが投射されたオープニング 撮影:ヤオタケシ
TOUR『胡乱な食卓』より。紗幕に壮大なグラフィックが投射されたオープニング 撮影:ヤオタケシ

“白銀”や“心予報”がむしろ異彩を放つほどに、より深く己の内省を可視化・表現したのがこの公演だった。開演まで流れ続けていた映像も象徴的で、どこかの古びた洋館で淡々と時間が流れていく中、突如怪物が廊下を駆け抜けていったり、静かに読書をする人物の横で生々しい音とともに肉が切られていたり――生活の中に潜む強烈な違和感を可視化していく。ライブの中でインサートされる映像も、煌びやかなイメージから闇へ、ほの暗い瞬間から光へ。情景の行き来の忙しなさは、言うまでもなくEveの心象風景をそのまま映したものだったのだろう。

左:『白銀』ジャケット写真 / 右:『闇夜』ジャケット写真
左:『白銀』ジャケット写真 / 右:『闇夜』ジャケット写真

自身の思い描く夢想の世界を持ち込むようにして信頼するクリエイターと作り上げてきた映像、まるで自分自身がその世界の登場人物となるように歌い上げてきた楽曲たち。自分自身を護るシェルターの中にいるようだったEveが、セールスの拡大、ライブ、そしてタイアップなどを通じて外の世界に接続してきたのが今作に至るタームでの変化だ。まるで初めて世界を見た人のような喜びと、混乱と、自分は何者かと改めて模索する叫びとが渾然一体となった末の「混沌」があのライブから、そしてこの作品からも聴こえてきた。おそらく、そういった環境と状況の変化を実感するたびに、夢想ではなく今この現実の中に自分を見つけようとしていった過程が“闇夜”や“LEO”で歌われる<生まれよう 応答してくれよ><全てを背負った今 / 取り戻すの>という言葉に表れているのだと思う。

TOUR『胡乱な食卓』より。 撮影:ヤオタケシ
TOUR『胡乱な食卓』より。 撮影:ヤオタケシ

そういった自身の内省を反転させることなくそのまま吐き出した歌であればあるほど、デジタライズされたトラックになっているのも面白い変化だ。2000年代のドメスティックなギターロックを背骨にしてきたこれまでの音楽とは異なり、トラップやR&Bを背骨にして揺れる心を揺れるままに表現した楽曲。決してドラスティックな音像が発明されているわけではないが、きっと音楽的な新鮮さを求めたというよりも、拭えぬ孤独と向き合い歌うための最適なサウンドを模索した結果としての変化がここにも表れているのだろう。

今作のラストは、先日行われたライブと同じタイトルの楽曲だ。“胡乱な食卓”。多くの人にとっては安穏の場である食卓を舞台にして、Eveは己を騙し閉ざされていく心を独白する。生きる中で何かに追いやられてきた心の声と孤独のありかが白日のもとに晒され、今作は幕を下ろす。どこにも存在できなかった自分が唯一作り上げた場所、それは当初インターネットの中だったのだろうし、その歌が届いたと実感できる喜びそのものでもあっただろう。しかし今作が向くベクトルは、これまでとはまったく違う。自分という人間そのものを認めるために、いつか心から笑うために、自分を形成するものを告白し、存在させるーーそんな切実と勇気が歪なまま鳴っている。

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Eve『Smile』通常盤ジャケット写真
Eve『Smile』通常盤ジャケット写真(Amazonで見る
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リリース情報

Eve『Smile』初回盤
Eve
『Smile』初回盤(CD+DVD)

2020年2月12日(水)発売
価格:4,180円(税込)
TFCC-86702

1. doublet
2. LEO
3. レーゾンデートル
4. 虚の記憶
5. いのちの食べ方
6. 闇夜
7. 朝が降る
8. 心予報
9. 白銀
10. バウムクーヘンエンド
11. mellow
12. ognanje
13. 胡乱な食卓

※特製ボックス仕様

Eve『Smile』通常盤
Eve
『Smile』通常盤(CD)

2020年2月12日(水)発売
価格:3,080円(税込)
TFCC-86703

1. doublet
2. LEO
3. レーゾンデートル
4. 虚の記憶
5. いのちの食べ方
6. 闇夜
7. 朝が降る
8. 心予報
9. 白銀
10. バウムクーヘンエンド
11. mellow
12. ognanje
13. 胡乱な食卓

イベント情報

『Eve Live Smile』

2020年5月23日(土)
会場:神奈川県 ぴあアリーナMM

プロフィール

Eve
Eve(いぶ)

2枚の自主制作アルバムを経て、2016年に全国流通盤『OFFICIAL NUMBER』をリリース。2017年に発表したアルバム『文化』は初めて全曲自作となり、収録曲“ドラマツルギー”はYoutubeで5,000万再生を突破。2018年~2019年は、12,000人を動員したワンマンツアー『winter tour 2019-2020 胡乱な食卓』を含めて全公演が即完。2019年2月発売の『おとぎ』はオリコンデイリー2位を獲得した。2020年2月12日にニューアルバム『Smile』を発売し、5月23日にはアリーナワンマンライブ『Eve Live Smile』を予定している。

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