建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

ミッドセンチュリーのカリフォルニアでは、建築、家具、ファッション、グラフィックなどの分野で、常識にとらわれない鮮やかで開放的なデザインが花開きました。しかし一方、私たちが知らない背景もそこにはあったのです。チャールズ&レイ・イームズ夫妻による軽やかなインテリアのルーツが、実は軍事産業を背景に実現されていたことをご存知でしょうか? また断崖絶壁の上に家を建ててしまうような、実験的な住宅プロジェクトなどの試みもその隆盛を支えていました。国立新美術館で開催中の『カリフォルニア・デザイン1930-1965 −モダン・リヴィングの起源−』は、それらアメリカ西海岸で生まれた独自のデザインの価値を多角的に再評価する展覧会。同展のユニークさに真っ向勝負で会場の空間デザインを手がけた建築家・中村竜治さんと共に、その魅力を体験します。

テキスト:内田伸一 撮影:西田香織
※テキストは国立新美術館展覧会担当者へのインタビューに基づく

中村竜治
1972年長野県生まれ。東京芸術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所を経て、2004年に中村竜治建築設計事務所設立。住宅、店舗などの設計を全般的に行うほか、展覧会の展示空間、美術館でのインスタレーション、舞台美術なども手掛ける。主な受賞歴に、くまもとアートポリス熊本駅西口駅前広場設計競技優秀賞、グッドデザイン賞、JCDデザインアワード大賞、THE GREAT INDOORS AWARD(オランダ)など。
ryujinakamura

モダニズムと西海岸の大地、水、緑が結びついて生まれたカリフォルニア・デザイン

会場入口でまず目に飛び込んでくるのは、光り輝くアルミボディがまぶしい流線形のキャンピングトレーラー『エアストリーム』。どこへだって旅して行ける、そしてワクワクする日々が待っている……そんな西海岸の開放的な気分を象徴する一台です。最初の空間では本展覧会のダイジェストとして、こうした象徴的な展示作品が並び、これから体験するカリフォルニア・デザインの多彩な顔を予感させます。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

……というかこの展覧会、広い展示室を仕切る壁の間にところどころゆったり大きな隙間があり、この先の気になる展示も実際に垣間見られるユニークな構成です。これもまたカリフォルニア流の開放感? 今回ご一緒する建築家・中村竜治さんに、彼が手がけたこの会場デザインのポイントをいきなり聞いてみました。

中村:この展覧会には約250点という膨大な作品があり、会場も日本有数の広さと天井高を持つ展示室です。この開放感を活かしたくて、壁と壁の間から違うセクションの展示も見えるような構成にしました。展示は4章からなるので、過去から未来を眺めるような、また進んでいった先では現在と過去がつながるような、そんな体験になればいいなと思っています。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展
中村竜治

「第1章 カリフォルニア・モダンの誕生」では、第一次世界大戦で疲弊したヨーロッパを尻目に、1920年代以降急激に人口が増加した同地で、時代や地域性に合った新たなデザインが芽吹いた動きを紹介します。ヨーロッパでモダンデザイン教育を受けた移住者たちの感覚が、西海岸の気候や暮らしと結び付き、カリフォルニア流のデザインが生まれていきます。

中村:モダニズムとのつながりでいえば、『落水荘』などで知られるフランク・ロイド・ライトからの影響を強く感じますし、実際にライト自身や彼と働いた建築家たちの作品写真も出てきます。それらを見ると、気候が温暖なカリフォルニアでは、人々は庭もリヴィングの一部のような感覚でオープンにとらえているような印象です。そうした自然や環境が、モダニズムの思想とマッチしていたのかもしれませんね。

意外かもしれませんが、陶芸もまた、カリフォルニア・デザインを語るときの重要な存在です。中には日本の「わびさび」と通じる趣のものもありますが、鮮やかなターコイズブルーやグリーンの釉薬使いなどは、やはりご当地のセンスならでは。大地、水、緑をおおらかにとらえる感覚を伝えています。これらは、カリフォルニア・デザインがその誕生期から、暮らしと密接に結びついて育まれてきたことを教えてくれるようでもあります。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

中村:生活空間ベースのデザインであることは、会場デザインをする際にも大事なポイントでした。一つひとつを博物館的に見せるのではなく、たとえるならリビングにいるような感じ。これは美術館からのリクエストでもありました。とは言え、とても貴重な作品でもあるので、どこまでそう感じてもらえるかは分かりませんが、当時のライフスタイルも含めた1つの空間として展示を体験してもらえたら嬉しいです。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

グレン・ルーケンズの手による鮮やかなグリーンをあしらった大きな平鉢は、背後の壁がすっぽりと取り除かれ、向こう側にいる人びとの様子も見てとれます。中村さん自身が一番好きな場所でもあるそう。ちなみ中村さんからは、こんな鑑賞のヒントも。

建築家・中村竜治と行く『カリフォルニア・デザイン』展

中村:今回はさまざまな作品があり、グラフィックや写真などの展示には壁も必要です。ただ「これは360度、ぐるっと廻って見たいな」という立体的な作品もある。そこで壁と壁の間の隙間から作品の後ろ側を見られるようにしています。

なるほど、この平鉢も向こうからは裏側が堪能できるわけですね。歩いているだけで楽しい展示の秘密は、こんなところにもあるのでした。



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