バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

六本木ヒルズの最上層にある森美術館では、2010年3月20日から7月4日まで『六本木クロッシング2010展』が開催されている。日本の現代アートシーンを一望するのに最適なこのイベント。20組のアーティストによる出品作は、いずれもキャッチーかつ深い味わいを持ったものばかり。とかく難解になりがちな現代美術を気軽に楽しめる展覧会となっている。今回、この展示の魅力を、今年の要注目ガールズロックバンドである、ねごとの4人にお伝えしていただいた。少しでも興味をお持ちいただいた方は、是非実際に会場に足を運び、作品の魅力を堪能してみてほしい。

PROFILE

ねごと
蒼山幸子(Vo&Key)、沙田瑞紀(G)、藤咲佑(Ba)、澤村小夜子(Dr)による千葉県出身、全員平成生まれの4ピースバンド。さわやかでポップな要素と、オルタナティブなロックエッセンスを盛り込んだ、一見アンバランスなバランス感で新世代のガールズロックを奏でる。「閃光ライオット2008」審査員特別賞受賞。
ねごと
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『六本木クロッシング2010展』
日本のアートシーンの「明日」を見渡すべく、多様なジャンルのアーティストやクリエイターを紹介する展覧会。2004年にスタートし、3年に1度開催されている「六本木クロッシング」は、毎回異なるキュレーターが選出したその時代を代表する作品が交差(クロッシング)する、定点観測的な展覧会。3回目となる今回、長いキャリアを持つアーティストから若手注目株まで、Chim↑Pom、高嶺格、宇治野宗輝、contact Gonzo、森村泰昌、ダムタイプなど20組のアーティストが写真、彫刻、インスタレーション、映像、グラフィティ・アート、パフォーマンスなど様々な形で参加している。
『六本木クロッシング2010展』公式ページ


のっけから「芸術」に対する概念が崩れ去りました

都営地下鉄大江戸線、東京メトロ日比谷線、あるいはバスなどさまざまな交通手段で行くことができる六本木。森美術館は、六本木ヒルズの53階にある。入り口付近には、『六本木クロッシング2010展』の広告がズラリと並んでおり、会場にたどりつくための目印となっている。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

入り口より入ると、頭上には垂れ幕が。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

さて、ねごとの4人は、バンドや学校などでの活動が忙しく、あまり美術館に行く機会がないという。

「今日は年齢が近いアーティストさんも多いと聞き、とてもワクワクしています。私たちはふだん音楽にエネルギーを注いでいますけど、それを違った方向につぎ込んでいる方々に会えるということで」

会場に入るとまず目に飛び込んでくるのは、Chim↑Pomによる映像作品『BLACK OF DEATH』。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

Chim↑Pom 《BLACK OF DEATH》

Chim↑Pom
《BLACK OF DEATH》
2007年
ランダムプリント、ヴィデオ(9分13秒)
Courtesy: Mujin-to Production, Tokyo


カラスの剥製を手に持ち、渋谷や国会議事堂などを舞台に、その鳴き声を流すことにより多数のカラスを集めるという作品。発想の面白さに「カッコイイ!」の声が。

「カラスをこんな方法で集めることができるなんて、知りませんでした。自分でもやってみたくなりますね(笑)。人間とはちがった方法で意志疎通をするカラスに目をつけてアートにしてしまうなんて、目のつけどころがすごい。のっけから、今まで自分が思い込んでいた『芸術とはこうだ!』という概念が、見事に崩れ去っていきました」

年齢の近いアーティスト、Chim↑Pomの作品にいきなりショックを受けた様子。

さて続いては、照屋勇賢の作品。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

照屋勇賢 《来るべき世界に》

照屋勇賢
《来るべき世界に》
2004年
ミクスト・メディア・インスタレーション
500×500 cm
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


『来るべき世界に』は、米軍ヘリコプターが沖縄国際大学に墜落し現場が米軍により封鎖された後も、ピザ配達だけは入場された事態を材に取った作品だ。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

照屋勇賢《告知―森》

照屋勇賢
《告知―森》
2005年
紙袋、糊
18×8 ×28 cm
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ニューヨーク


また『告知―森』はファストフードや高級ブランドの紙袋の原料が木であることを示して、環境問題への意識を見る者に掻き立てるもの。

「袋の中を覗くと、紙でできた木が生えているのが見えるんです。細かくてステキなんですけど、上から覗いてみると、くり抜かれたあとも木の形になっているんですよ。環境問題といった難しいことだけではなく、すごく凝ったかわいい作品だと思います」

いままで見たことのない作品ばかりですね

さて、展示は続き実力派の女性写真家、志賀理江子の作品コーナーに。 色とりどりの写真作品がズラリと並ぶ。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

志賀理江子
《角隠し》
2007年
Cプリント


圧倒的なイメージが高く評価されてきた、1980年生まれの若き写真家の作品は、ねごとの皆さんをも大いに感化したよう。

「見ているとさみしい気持ちになったり、怖くなったりもするんですが、色彩がビビッドなので引き込まれます。作品を通じてどんなテーマを伝えたいのか、はっきりと分からないんですが、『こんな風景が世界に現れたら面白いかも!』という思いに突き動かされて撮っている感じがしますね」

さて、その脇には、狭い通路の奥になにやら怪しげな扉が。おそるおそる覗き込み、中に入ってみることに。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

雨宮庸介
《わたしたち 2010年3月19日〜2010年7月4日》
2010年
ヴィデオ・インスタレーション+身体
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


すると、そこには大きな部屋が。壁には会場と同じような風景が映し出されており、その中をひとりの男性が歩く。これは作者の雨宮庸介その人で、本作『わたしたち 2010年3月19日−2010年7月4日』は映像の中の男性が展示会場に常駐するというもの。作品名も、その日の日付によって変わるという徹底ぶりだ。

はじめそのことに気づかなかったねごとは、会場の男性を「管理人さんか何か」だと思っていたらしく、突然背後で傘を開かれ大慌て。「なにか仕掛けてくるような雰囲気はした(笑)」。これまでの美術館体験では無かったタイプの、インタラクティブなアート作品に大興奮。

さて次は、ねごとに関わりの深い音楽関連の作品が。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

相川 勝
《CDs》(部分)
2007年−
カンヴァスにアクリル、ケントボード、紙にインク、CD-ROM
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


相川勝の『CDs』は、カンヴァスの上に絵具を使って複製されたCDジャケット、さらに歌詞・ライナーノーツに至るまで相川の肉筆。果てはCDにも本人アカペラの頼りなく、しかし愛情のこもった歌が収録されているという作品だ。

「ユーモアがあって最高ですね! 作家の方にお会いしてみたいです。でも、収録されている歌は、まともな曲には聴こえないですね(笑)。ただ、全ての曲を覚えなきゃいけないわけですから、音楽に対する情熱はものすごく感じました」

次々と登場する巨大な作品にビックリ

さらに、突如音楽を発する巨大なインスタレーション作品が登場。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD》(部分)
2010年
日産セドリックバン、木製家具、家電機器、ミクスト・メディア
サイズ可変
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


宇治野宗輝は、アート・トラックの電飾やバイクのパーツ、バット、電気ドリルといった既製品を組み合わせた『LOVE ARM』シリーズなどのサウンド・スカルプチャーを制作するアーティスト。また装置を自ら身に付け、パフォーマンスも行う。本作は、家電製品や工具類などで構成され、動きながら音を発する動作を断続的に繰り返すというもの。

「すごくリズミカルだし、生音だから見ていて気持ちが高ぶりますね。それと、作品がアメリカ的だと感じます。傾いている車は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンの、デロリアンを思い出しました」

そして写真の奥に見えるのが、鈴木ヒラクの作品。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

鈴木ヒラク
《道路》(部分)
2010年
インスタレーション
約8,000個の反射板、ミクスト・メディア
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


こちらは約8,000枚ものリフレクターを集めた作品で、その幾何学模様は宇宙的な想像力をも掻き立てる。

「よく見ると、ムカデのような模様があって、興奮しました(笑)。ただ無機質に作っているわけではなくて、意図したものかどうかは分からないですけど、遊び心があるのがポイントだと思いますね」

さらに大きいのがHITOTZUKI[Kami+Sasu]のインスタレーション。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

HITOTZUKI [Kami + Sasu]
《The Firmament》
2010年
インスタレーション
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


アーティストKamiとSasuによるユニットであるHITOTZUKI(日と月)は、グラフィティ・アートを中心に活動を展開。本作は、なんと展示会場にてイチから作り上げたもので、その上をスケーターが滑ったという跡も残されている。

「じっと見ていると、まるで波打つように動いているような躍動感を感じますね。これだけ大きいからこそ、そう感じられるのかも」

ディズニーランドに来た気分でした

さて、いよいよ展示も終盤、会場は通称「大人部屋」と呼ばれる落ちついた雰囲気に変化。小金沢健人による映像作品が登場する。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

小金沢健人
《CANBEREAD》
2010年
ヴィデオ・インスタレーション
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館


ワイングラスのふちを指でなぞる魅惑的な音が幾重にも重なり、会場を占める。そして、写真の場面はちょうど、約一時間ある映像のラストシーンにあたるという。突如紙をやぶく手が登場し、観客を夢心地から引きずり出す狙いがあるそう。

「たしかにすごくゆったりとした気分になれる場所だから、ずっと居てしまうかも。でも、一時間はさすがに居ないかな(笑)。映像の長さをそう決めた理由も気になるところですね」

続いて、米田知子による静謐な写真作品。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

 

米田知子
シリーズ〈Kimusa〉
2009年
Cプリント
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館

観客に伝わるにせよ伝わらないにせよ、目には見えない、ある場所やものにまつわる記憶や歴史をテーマにした写真を制作している米田知子。展示作品では、白を基調にした作品が多かった。

「壁に穴が開いている作品があるんですが、一見そこに目を引かれるんです。でもよく見ると、その穴のまわりにもっと細かい穴がポツポツと空いていたりします。ミニマムなところにも意識がちゃんと行っている方なんだな、と思いました」

 

ダムタイプ
《S/N》
パフォーマンス風景、1995
Photo: Fukunaga Kazuo


ラストを飾るのは、伝説的なアーティスト・グループ、ダムタイプの舞台作品を再構成した『S/N』。展示のサブタイトルにもなった「芸術は可能か?」という言葉はダムタイプの古橋悌二により発せられた重要な作品だ。上映時間は約85分なので、スタート時間を事前にホームページでチェックし、それに合わせて展示を回るのがよいだろう。

本欄ではご紹介できない作品も多かったものの、これにて展示室の終わりへと到着。作品数は多すぎず少なすぎず、ゆったり、しっかりと楽しめる印象だ。また展示出口には、観客のひとりひとりが最も気に入ったアーティスト1組を投票する「オーディエンス賞」が設けられている。毎年意外な結果となるそうなので、是非参加しておきたいところだ。

以上、注目のバンド・ねごとと共に『六本木クロッシング2010展』の見どころをお伝えしてきた。最後に回ってみた感想をお聞きすると。

「これが時代の最先端なんだな、という迫力をビシビシ感じましたね。でも、『芸術』という手の届かないものというよりも、もっと人間味があるというか、身近な作品が多くて楽しめましたね。まるでディズニーランドに行ったときのような興奮が、まだ体に残ってます!」

本展覧会は、会場でしか味わえない魅力を持った作品ばかり。ぜひ自分の目で、耳で、作品に触れてもらいたい。

バンド「ねごと」と行く『六本木クロッシング2010展』

最後は、ねごと得意の「おやすみなさい」(=ZZZ)のポーズで、さようなら。

information

『六本木クロッシング2010展』

2010年3月20日(土)〜7月4日(日)
会場:森美術館(東京・六本木)
時間:10:00〜22:00(入館は閉館時間の30分前まで、火曜のみ17:00まで、但し5月4日は22:00まで)

参加作家:
相川勝
青山悟
雨宮庸介
宇治野宗輝
加藤翼
小金沢健人
contact Gonzo
志賀理江子
鈴木ヒラク
高嶺格
ダムタイプ
Chim↑Pom
照屋勇賢
HITOTZUKI(Kami+Sasu)
森村泰昌
八幡亜樹
横溝静
米田知子
ログズギャラリー

休館日:会期中無休
料金:一般1,500円 学生(高校・大学生)1,000円 子供(4歳〜中学生)500円



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