ある光の中で輝く麓健一の素敵な王冠

ある東京のライブハウスで『コロニー』のサンプルCD-Rを渡された。それは11月頭のこと、麓くんはいつものように自信がなさそうで、まるで聴いてほしくないようだった。それから何度かこの作品を聴いてきた。どちらかというと天気の悪い日に流すことが多かったように思う。先週たまたま遠出をする機会があったので、その道中でも聴いてみた。日本海側を海沿いに走る特急電車に乗って、普段は余りしないイヤホンを耳に突っ込む。晴れたり曇ったり、雪が降ったかと思えばあられがガラスを打ちつけ、そしてまた晴れ間が……。めまぐるしく変わるこちら側特有の冬が窓の外にあった。ぼくの育ったところもそうだったから別に目新しくはないけれど、しかし、晴れてはいてもいつも白い雲のフィルターを何枚か通したような光はあらためて懐かしいものだった。抜けるような東京の冬の青空もいいけれど、明るければすべてがよく見えるというものでもなし、この醒めた光の下でこそ見えてくるものだってきっとあるのだ。では、麓健一の音楽はどちらの光でより聴こえるだろう、そんなことを思いながら数時間を過ごした。

変われない自分を嘆き、ふらふらと変わってしまう自分にいらだつ。『美化』から3年ぶりとなる2枚目のアルバム『コロニー』の音楽は彼の居心地の悪さをそのまま見ているようだった。ぐらぐらと発酵するよこしまな自分にふたをして、その上に乗ってどうか吹きこぼれないでと祈る麓健一。沸騰する内側に押されてカタカタと震えるふた。このバンド・アンサンブル──特にスッパマイクロパンチョップの間欠泉のようなドラムは、そういうものを思わせた。乱調、とでも言うような。

今さら麓健一の歌声が中性的だとは思わないし、この音楽がサイケデリックだとも思わない。むしろ彼が求めたものは、そういうスタイルやテイストを超える具体的な血や肉の部分だったのだろうと思う。そして、ギリギリのバランスで平衡を保つ綱渡りのような面も(そういえば、本作のブックレットには美しい綱渡りの写真が載っている)。そうやって彼は『コロニー』で聴く者ひとりひとり──特に居心地の悪さが身に染みついてしまったぼくたちあなたたち──を讃えていく。ある種の賛歌集、それが『コロニー』なのかもしれない。

さあ、この伏し目の王子を讃えよう。麓健一の頭には素敵な王冠が乗っている。霞むようなあの光の下でなら、きっとあなたにも見えるはずだ。白く輝くそれが。

リリース情報
麓健一
『コロニー』

2011年12月14日発売
価格:2,100円(税込)
kiti-007

1. コロニー #1(End of may)
2. パフ
3. ピーター
4. Party
5. ロンリネス 凧
6. ドントストップ
7. Do you remember?
8. FIGHT SONG(山荘と水着)
9. ガールズ
10. 鏡、鏡
11. たたえよたたえよ

麓健一

都内を中心に活動する、SSW。2006年の完全自主制作CD-Rが、ディスクユニオン、円盤等で販売され口コミで話題を呼ぶ。続く 2007年から「にせんねんもんだい」が運営するレーベル「美人レコード」よりCD-R作品を数作発表。2008年、待望のファーストフルアルバム「美化」をkitiより発表。盟友、oono yuukiや昆虫キッズのアルバムにも参加。2010年からはスッパマイクロパンチョップ、T.T.端子、ホソマリとの4人のバンド編成でライブを重ねる。



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