一躍お茶の間の存在となった星野源。音楽家として何がすごい?

お茶の間に知れわたる存在となった星野源

オリジナルアルバムとしては、前作『Stranger』から2年7か月ぶりとなる通算4枚目の『YELLOW DANCER』を12月2日にリリースする星野源。

NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』での名脇役っぷりも記憶に新しい彼は、今秋スタートした金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系)でも重要な役で出演。その他多くのテレビ番組に露出しており、今やすっかり「お茶の間の人気者」として、老若男女問わずその名を知らしめている。文筆家としても、著書執筆や多数のメディア連載を手がけるなど、様々な分野で活躍中だ。そして音楽においても、『紅白歌合戦』への出場も決まった彼の楽曲に耳を傾けると、日本の音楽シーンのメインストリームとアンダーグラウンドをつなぐ架け橋として、大きな貢献を果たしていることが分かるはずだ。

実験を重ねて辿り着いた、日本人にしか作れないダンスミュージック

アコギと歌を主軸に、シンガーソングライターとしての立ち位置を確立した1stアルバム『ばかのうた』(2010年)、その世界観を受け継ぎながらより深みを増した2nd『エピソード』(2011年)、くも膜下出血による活動休止を経て、さらにポップでバラエティー豊かなアレンジワークを展開した3rd『Stranger』(2013年)と、アルバムを出すごとにポップネスを更新し、チャートも右肩上がりに伸ばしてきた星野源。今年5月にリリースされたシングル『SUN』でも明らかになったように、現在の彼はブラックミュージックを自らの音楽に融合させている。

実はこの試み、本人によれば、1stシングル『くだらないの中に』のカップリング曲“湯気”からコツコツと重ねてきた実験の成果だという。筆者が本サイトに寄稿した『SUN』のレビューでも述べたが、星野の評価すべきところは、ブラックミュージックのリズムを基盤としながらも、それと相性のいいリフレイン中心のメロディーを敢えて避け、親しみやすい「歌モノ」として成立させていることだ。彼いわく、「『ブラックな音楽』からスタートして『J-POP』を経由し、『イエローな音楽』へ着地した」(関係者向け資料より)という“SUN”が、アルバムの方向性を決定づけたそうだが、その着地点にて作られた「イエローなダンスミュージック」が、最新アルバム『YELLOW DANCER』には溢れかえっている。

バンド時代から培った全てが注ぎ込まれていた、バラエティー豊かな14曲

焦燥感に駆られるような星野のボーカルに導かれてアルバムはスタート。冒頭曲“時よ”は、石橋英子によるシンセサイザーのオリエンタルなフレーズが、初期YMOを彷彿させる。サビの旋律と踊るストリングスは、星野作品ではおなじみのバイオリニスト・岡村美央によるアレンジとコンダクトだ。続く“Week End”は、地声とファルセットのユニゾンで歌われるメロディーと、キレ味たっぷりのホーンセクションがフィリーソウル(フィラデルフィア発の都会的なソウルミュージック)のよう。3曲目の“SUN”を経て、“ミスユー”は、それまでの熱気で汗ばんだ肌を優しく撫でるようなバラード。16ビートでシンコペーションするキックと、転がるようなハモンドオルガン、ブルージーなフルートソロが絡み合う“Soul”は、その名のとおりソウルフルな星野のボーカルが印象的だ。

初期曲を思わせるアコギの弾き語り“口づけ”で一息ついた後、アルバムは一気にカオスへとなだれ込む。“地獄でなぜ悪い”と“Crazy Crazy”は、それぞれスガダイロー、小林創の超絶ピアノが唸るナンバー。星野が三線を弾き、細野晴臣がベースを弾いたインスト“Nerd Strut”は、初期ceroやYMOの手本にもなったモンド / ラウンジの祖、マーティン・デニーを連想するエキゾな曲だ。ホーンセクションやピアノがシンプルなフレーズを幾何学的に組み合わせていく、ポストロック的なアプローチの“Down Town”などは、いわゆる「ブラックな音楽」のマナーを大きく逸脱した、まさしく「イエローな音楽」の極みといえよう。ラスト曲“Friend Ship”は、再びシンセのオリエンタルなフレーズが光る。思わずもう一度最初から聴きたくなるような、見事な締めくくりである。

『YELLOW DANCER』と「Yellow Magic Orchestra」の共通点

過剰なエディットやエフェクトを極力排し、名うてのミュージシャンたちによる、一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルを大々的にフィーチャーした本作。ヘッドホンで聴き込めば、イスの軋み、ピアノの打鍵音、星野の息継ぎなどから、程よい緊張感と臨場感がダイレクトに伝わってくる。「日本人が作るダンスミュージック」としてJ-POPや歌謡曲を意識した星野のメロディーが、切なさや哀愁漂う方向へ引っ張られないのは、ブラックミュージックとのミックスバランスが絶妙なさじ加減であるところも大きいだろう。ふとした日常を拾い上げ、文芸的なフレーズを散りばめながら、簡易な文体で綴る歌詞の世界も健在。今作はどことなく「別れ」をほのめかす内容が多く、それが曲の明るさと混じり合って、ビタースウィートな星野ワールドを作り上げている。

ディスコ、ファンク、ソウル、デキシー、モンド、ブギウギ……『YELLOW DANCER』を聴いていると、まるで時空を行き交うジェットコースターに乗り込んで、ダンスミュージックの歴史を駆け巡っているような気分になる。そういえば、本作を聴きながら筆者が思い出していたのが、「下半身モヤモヤ、みぞおちワクワク、頭クラクラ」という、細野晴臣がYMOを結成する際に掲げたスローガン。つまり、モヤモヤするようなリズムと、ワクワクするような和音やメロディー、クラクラするような(知的な)コンセプト。え? それってまさに『YELLOW DANCER』のことじゃん! 「イエローな音楽」にたどり着いた星野が、J-POPの可能性をまた一回り大きく広げたことは間違いない。

リリース情報
星野源
『YELLOW DANCER』初回限定盤A(CD+Blu-ray)

2015年12月2日(水)発売
価格:5,292円(税込)
VIZL-897

[CD]
1. 時よ
2. Week End
3. SUN
4. ミスユー
5. Soul
6. 口づけ
7. 地獄でなぜ悪い
8. Nerd Strut(Instrumental)
9. 桜の森
10. Crazy Crazy
11. Snow Men
12. Down Town
13. 夜
14. Friend Ship
[Blu-ray]
『星野源のひとりエッジ in 武道館』
1. バイト
2. 化物
3. ワークソング
4. 地獄でなぜ悪い
5. 透明少女
6. Snow Men
7. フィルム
8. Crazy Crazy
9. ばらばら
10. くせのうた
11. 営業
12. くだらないの中に
13. 老夫婦
14. Night Troop
15. レコードノイズ
16. マッドメン
17. 海を掬う
18. いち に さん
19. 桜の森
20. 夢の外へ
21. 君は薔薇より美しい
22. SUN
※特製ブックレット付属

星野源
『YELLOW DANCER』初回限定盤B(CD+DVD)

2015年12月2日(水)発売
価格:4,968円(税込)
VIZL-898

[CD]
1. 時よ
2. Week End
3. SUN
4. ミスユー
5. Soul
6. 口づけ
7. 地獄でなぜ悪い
8. Nerd Strut(Instrumental)
9. 桜の森
10. Crazy Crazy
11. Snow Men
12. Down Town
13. 夜
14. Friend Ship
[DVD]
『星野源のひとりエッジ in 武道館』
1. バイト
2. 化物
3. ワークソング
4. 地獄でなぜ悪い
5. 透明少女
6. Snow Men
7. フィルム
8. Crazy Crazy
9. ばらばら
10. くせのうた
11. 営業
12. くだらないの中に
13. 老夫婦
14. Night Troop
15. レコードノイズ
16. マッドメン
17. 海を掬う
18. いち に さん
19. 桜の森
20. 夢の外へ
21. 君は薔薇より美しい
22. SUN
※特製ブックレット付属

星野源
『YELLOW DANCER』通常盤(CD)

2015年12月2日(水)発売
価格:3,348円(税込)
VIZL-899

1. 時よ
2. Week End
3. SUN
4. ミスユー
5. Soul
6. 口づけ
7. 地獄でなぜ悪い
8. Nerd Strut(Instrumental)
9. 桜の森
10. Crazy Crazy
11. Snow Men
12. Down Town
13. 夜
14. Friend Ship
※初回限定仕様
※特製ブックレット付属

星野源
『YELLOW DANCER』通常盤(CD)

2015年12月2日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-64439

1. 時よ
2. Week End
3. SUN
4. ミスユー
5. Soul
6. 口づけ
7. 地獄でなぜ悪い
8. Nerd Strut(Instrumental)
9. 桜の森
10. Crazy Crazy
11. Snow Men
12. Down Town
13. 夜
14. Friend Ship

イベント情報
『星野源 LIVE TOUR 2016「YELLOW VOYAGE」』

2016年1月9日(土)
会場:北海道 札幌 ニトリ文化ホール 

2016年1月16日(土)
会場:石川県 本多の森ホール

2016年1月23日(土)
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

2016年1月24日(日)
会場:埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

2016年1月28日(木)
会場:香川県 高松 アルファあなぶきホール 大ホール

2016年2月3日(水)
会場:宮城県 仙台 サンプラザホール

2016年2月9日(火)
会場:愛知県 名古屋 日本ガイシホール

2016年2月16日(火)
会場:福岡県 サンパレスホテル&ホール

2016年2月27日(土)
会場:兵庫県 神戸 ワールド記念ホール

2016年2月28日(日)
会場:兵庫県 神戸 ワールド記念ホール

2016年3月5日(土)
会場:広島県 広島文化学園HBGホール

料金:各公演7,000円

プロフィール
星野源
星野源 (ほしの げん)

1981年、埼玉県生まれ。2000年にバンドSAKEROCKを結成。2003年に舞台『ニンゲン御破産』をきっかけに大人計画に所属。10年に1stアルバム『ばかのうた』、11年に2ndアルバム『エピソード』を発表。13年発売の3rdアルバム『Stranger』はオリコンウィークリーチャート2位を記録。また、2014年にリリースした初のライブ映像作品『STRANGER IN BUDOKAN』は、Blu-ray、DVD両音楽部門でウィークリー1位を獲得、第7回CDショップ大賞2015のライブ映像賞を受賞。2015年5月にリリースしたシングル『SUN』が、オリコンウィークリーシングルチャートにおいて自己最高となる2位、各配信チャートで軒並み1位を記録するなど大ヒット中。10月からは金曜ドラマ『コウノドリ」(TBS)に出演するなど、音楽家・俳優・文筆家として、幅広い分野で活動中。



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