得意なことを挑戦し続ける。マルチクリエイターみゆはんのSNS処世術

いい大学を出て安定した大手企業に入ることを「人生の成功」とする考えはいまも昔もある。その一方で「これからは個の時代」などと言われるように、多様な価値観による自分に合った「働き方」で成功する人も増えている。

シンガーソングライターのみゆはんは、音楽を軸としながらイラストレーションやプロデュース、モデル、声優などその活動は多岐にわたる。もともと人見知りだったという彼女は、SNSに自分の居場所を見つけ、そこで才能を開花させて唯一無二の道を切り開いてきた。この記事では、そんな彼女の生き方から、いまを生きるためのヒントを探っていきたい。

多様な生き方を軽やかに体現する、みゆはん

シンガーソングライター、声優、デザイナー、モデルなどをマルチにこなすアーティスト、みゆはんが音楽やものづくりに興味を持ったのは、父親から影響が大きいと言う。

みゆはん:ギターを始めたのは中学生のころです。でも部活は美術部で、絵を描くのが好きでした。ものづくりは小さいころから好きだったので、音楽もその延長線上にあったのかもしれないですね。父がギター職人で、身の回りにつねにギターがある環境で育ったのも、影響として大きかったと思います。父も絵を描くのが好きでした。

高校生になるとバンドを組み、地元・香川県のイベントなどに出演するようになったみゆはん。父親ともバンドを組み、地元の飲食店などで歌うこともあったという。そのころはまだSNSを活用した音楽活動などはまったく考えていなかった。

みゆはん:いまのTwitterアカウントも、大学時代に個人的につくったものをそのまま使っているんです。そこにメイクした自撮り写真を投稿していたら、どんどん広まっていきました。メイクした自撮りを投稿するアプリがあって、そこでランキングの上位にいくにつれてたくさんの人に知られるようになりました。そこから自分の曲を聴いてもらえるようにもなって……という流れでした。

思わぬところから、自身の音楽活動が世に知られるように。気づけば活動の拠点はライブハウスからTwitterやYouTubeになっていたが、フォロワー数やいいねの数、YouTubeの再生数などは、いまは「まったく見ない」という。

みゆはん:自分のクリエイティブが、数字に左右されるのが嫌なんです。YouTubeの視聴数も見ないので、何が伸びているのかがわからない一方、コメントを見て「これ、好評だったからまたやってみようかな」と参考にすることはあります。なんなら、自分の銀行口座に入ってくる収入も見ません。だから、口座にいくら入っているか知らない生活を送っています(笑)。

「就活はやめたけど、逃げたとは思っていません」

人と対面で話すことが苦手なみゆはんだが、SNSでのコミュニケーションは活発に行っている。たとえば“綺麗になったよ”(2ndアルバム『ぷ。』収録)は、ファンとのDMでのやり取りから生まれた曲だ。

みゆはん“綺麗になったよ”を聴く

みゆはん:このインタビューもそうですが、人と対面して話すとなると、言いたいことがまとまらなくて「何て言えばいいんだろう……?」となっちゃう。だけど、パソコンの前に一人でいて、画面を通して誰かと話すというのは逆に好きなんです。

ライブでもMC中は、お客さんとTwitterでやりとりしているんです。Twitterの画面をスクリーンに映し出して、それをスクロールしながらお客さんとみんなで見るスタイルなんですよ(笑)。

デビューしたときは「コミュ障シンガーソングライター」と周りに言われていたので、ファンもきっと遠慮しがちで人にぐいぐいいくタイプではない、むしろ人付き合いもうまくない人が多いのかもしれない。ファンも含めて「みゆはん」みたいな感覚です。家族というか、身内感が強い。他のアーティストさんたちよりも距離が近い自負がありますし、ずっと昔からファンでいてくれる子もすごく多くて。本当に大切な存在です。

今年はボカロPにスポットを当てたテレビ番組『NHK MUSIC presents 夜光音楽 ボカロP 5min.』(NHK)のMCを務めたり、昨年5月にはバラエティ番組『徳井と後藤と麗しのSHELLYと芳しの指原が今夜くらべてみました』(日本テレビ系)に出演したり、コミュニケーションスキルが問われる仕事もこなしているみゆはん。「相変わらず他人と話すのが苦手です」と苦笑するが、自身の考え方にも少しずつ変化が訪れているようだ。

みゆはん:いままで人とあまり話してこなかったので、自分の意見を言うこともほとんどなかったんですけど、最近はようやく「自分の意見を言ってもいいんだ」と思えるようになりました。それまでは「人に嫌われたくない」という思いがずっとあって、「とにかく余計なことは言わないでおこう」と考えていたんですよね。それが、こういう仕事を通じて「自分の言いたいことを言ってもいいんだ」「受け入れてもらえるんだ」と思えるようになってきました。

ひとつのことに絞るのではなく、さまざまな分野でマルチな才能を発揮することを選んだみゆはんだが、もともとは臨床心理士を目指し、大学では心理学を学んでいたという。

みゆはん:勉強していくうちに、私は患者さんに精神的に引っ張られるタイプだということに気づいて、その道は諦めました。まったく違う職種への就活もしてみたんですけど、面接を繰り返しているうちにしんどくなってしまって。「結局、自分がやりたいのは音楽なんだ」と思って、そこからいろんなオーディションを受けるようになったんです。なので他の職業は考えられないというか、いずれにしても、いまのような活動をしていたと思いますね。

やりたいことに向かって突き進んでいくというよりは、やりたくないこと、できないことを避けていった先にいまの道が開けたというべきか。人によってはそれを「逃げ」だと捉える人もいるだろう。みゆはん自身はそこに後ろめたさや負い目を感じることはなかったのだろうか。

みゆはん:まったくなかったです(笑)。しんどいときは、「この世界では生きていけない」「とどまっていたら死んじゃう」と思っていたし、「自分が生きていけるのはこっちの道かな」という選択をしていった結果がいまのかたちなのかなと思います。
もちろん、シンガーソングライターを目指したところですぐにご飯を食べていけるわけじゃないし、周りの同級生を見ていて焦る気持ちもあったけど、それでも自分がやりたくないことはやりたくなかった。就活はやめたけど、逃げたとは思っていません。

SNSをコミュニケーションの主戦場とするみゆはんの、SNSとの上手な付き合い方

そんなみゆはんが、7枚目のオリジナルアルバム『かいこ』をリリースした。タイトルは、繭のなかから外へと羽ばたく虫の「蚕」の意味と、昔を懐かしむ・過去を振り返る「回顧」の意味が含まれており、ファンとのつながりを大切にしている彼女は今回、多くのリクエストに応えてインディーズ時代の5曲をリアレンジ。それを中心に本作をつくり上げている。

そんななか、書き下ろしとなる先行シングル“鳴り止まない着信音の中で”と、続く英語詞の“The Last of Us”の2曲では、自ら「死」を選んだ人に焦点を当てた。とくに前者は、実在した人物をモデルにしているという。

みゆはん“鳴り止まない着信音の中で”を聴く

みゆはん:SNSを見ていたら、自殺してしまった女の子のニュースが目に入って。彼女はどんな気持ちで死を選んだのだろう、と知りたくなったんです。自分もうつ病だったことがあるので、死にたいと思ったことがあったし、そういう心情を少しでも世の中に知ってほしい。「助けてあげて」とまでは言わないけど、「ちょっとでも気にかけてくれたら嬉しい」という気持ちで、その女の子が書いた小説を参考にしながら歌詞を書き上げました。

SNSは人と人を絆で結ぶ「救い」になることもある一方で、それが「凶器」となる危険性があることも忘れてはならない。SNSが原因で心を病んでしまったり、ときには「死」を選ぶことになったりするケースがコロナ禍でも頻発した。

みゆはん:SNSの世界には、やりとりしている相手が「生身の人間」であることを認識していない人もいると思います。匿名だからこそ自分の胸の内を安心して吐露できる反面、同じく顔の見えない相手に対して過剰な攻撃をしてしまうこともある。

SNSの世界でネガティブな発言を完全になくすことは不可能なので、自分が見たくないものは極力シャットダウンしたり、ときにはネットから離れたりすることも大事だと思っています。それに、ネットのネガティブな言葉や誹謗中傷を鵜呑みにする必要もなくて。応援してくれる人がそれ以上にたくさんいるのだから、そちらに目を向けるようにしたいですね。

そんなみゆはんに、今後やってみたいことを尋ねると「ゲームの声優」という答えが返ってきた。

みゆはん:RPGのヒロイン役で、しかも歌える役なら最高ですね。いろんな分野に挑戦すると、その界隈で知り合いが増えて、たくさんの刺激がもらえるし、それが新しい仕事やクリエイティブに結びつくこともあるんですよ。

たとえばゲームをやっていたら、その世界観やBGMにインスパイアされて曲が思いついたり、声優のお仕事をしたら滑舌や発声方法、感情の込め方などを学んでシンガーとしてアウトプットできたり。そういう相乗効果があったときは「いろいろやってきて良かったな」と思います。

リリース情報
みゆはん
『かいこ』(CD)


2021年10月20日(水)発売
価格:3,850円(税込)
CNME-00071

1. MOJI MOJI -改-
2. ホップステップ
3. 脳内リピートエンドレスソング
4. Recollection -改-
5. あの日見た空
6. 下克上 -改-
7. 鳴り止まない着信音の中で
8. The Last of Us
9. 人形少女 -改-
10. Good bye -改-
サービス情報
『SOUNDALLY』

SOUNDALLYは持続可能なアーティスト活動を支援するためにLINEが新たに運営するデジタル音源流通サービス。インディペンデントアーティストや個人で活動するアーティストが配信費用0円かつ収益100%還元、曲数無制限で楽曲をデジタルリリースすることができます。
プロフィール
みゆはん

シンガーソングライター、声優、デザイナー、モデルなどをマルチにこなすアーティスト。2017年2月にテレビアニメ「けものフレンズ」のエンディングテーマ「ぼくのフレンド」を収録したミニアルバム「自己スキーマ」でメジャーデビュー。Adoに提供した楽曲「会いたくて」が、8月20日公開の映画「かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル」の挿入歌として使用された。



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