スターサンズ河村光庸が72歳で逝去。現代社会に切り込んだ作品を振り返る

メイン画像:河村光庸 撮影/高橋定敬

スターサンズ代表取締役社長の河村光庸が2022年6月11日に心不全のため逝去した。享年72歳だった。

1949年生まれ、福井県出身の河村は、2008年に映画製作・配給会社スターサンズを設立。翌年にアンナ・ネトレプコ、ローランド・ビリャソン主演、ロバート・ドーンヘルム監督『ラ・ボエーム』、農夫と一頭の牛の暮らしを見つめた韓国映画『牛の鈴音』を発表した。

その後もヤン・ヨンヒ監督が実体験をもとに帰国事業に翻弄される在日コリアンの家族を描いた『かぞくのくに』、寺山修司の長編小説をもとにした、菅田将暉とヤン・イクチュンが演じる青年2人の青春物語『あゝ、荒野』、新井英樹の同名漫画を安田顕主演で映画化した『愛しのアイリーン』など多数の作品を手がけた。

2019年6月公開の望月衣塑子原案、藤井道人監督『新聞記者』で「スターサンズ」「河村光庸」の名を知ったという人は少なくないだろう。

シム・ウンギョン演じる東都新聞記者・吉岡が真実を追求する姿、現政権に不都合なニュースのコントロールを命じられる松坂桃李演じる内閣情報調査室官僚・杉原が葛藤する様は、黒塗りの文書、桜を見る会、蹂躙される脆弱な人々の声が連日報道される「リアル」に共鳴するかのように反響を呼び、ロングラン上映を記録した。『第43回日本アカデミー賞』では最優秀作品賞、優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、優秀脚本賞、優秀編集賞を受賞。

それから半年も間を置かず、11月には森達也監督が望月を追った『i-新聞記者ドキュメント-』が立て続けに封切りされた。『新聞記者』で闇に埋もれた真実に触れたつもりになっていたであろう観賞者に、淡々と、容赦無く現実を突きつけた。現在Netflixでは米倉涼子、綾野剛、横浜流星らが出演する『新聞記者/The Journalist』が配信されている。

また、2019年公開の池松壮亮主演『宮本から君へ』をめぐっては、出演者が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたことを受け、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」が一度は決めていた同作への助成金の交付内定を取り消すという騒動に発展。河村は「表現方法への介入」だとして同法人を提訴した。

昨年は、綾野剛、舘ひろしらが演じた暴力団員という「家族」の有様が暴対法の施行によって変容していく『ヤクザと家族 The Family』、万引き現場から逃走した女子中学生が事故死したことから被害者家族の疑念が増幅し、ワイドショー報道が加熱していく様を描いた古田新太、松坂桃李共演作『空白』、有村架純と志尊淳がコロナ禍の現代社会と向き合う『人と仕事』などが公開された。

なかでも挑戦的だった作品は、「パンケーキおじさん」こと第99代内閣総理大臣・菅義偉の素顔に切り込んだ『パンケーキを毒見する』だ。菅前総理大臣の「空虚さ」を石破茂をはじめとした関係者の証言で浮かび上がらせ、アニメーションを用いたバラエティー要素でデコレートすることで「取っ付きやすさ」を演出していた。

今年7月22日には、二世帯住宅に暮らす老夫婦と息子夫婦のデリケートな問題をテーマにした『夜明けの夫婦』が公開される。さらに、2023年には横浜流星主演、藤井道人が監督を務める『ヴィレッジ』の公開が控えている。両作ともエグゼクティブプロデューサーに河村の名がある。

スターサンズは「仕事とお酒と賑やかな事が好きだった故人への餞として、後日、小さなお別れの会を執り行う予定です」と公表している。

本人が旅立ったいま、私たちにできることは、遺された作品と仕事に込められた意図を汲み取ろうと務めることだけだ。



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