SWALLOW工藤帆乃佳がカバーするイエモン“JAM”。往年の名曲をどう解釈、表現するのか

レコードやカセット、CDで発売された往年の名曲をアレンジし、いまの若者たちが新たな息吹とともに歌い継ぐ、LINE RECORDSとCINRAによるプロジェクト『Old To The New』。これまで、松本穂香が歌う松任谷由実の“守ってあげたい”、加藤礼愛が歌うDREAMS COME TRUEの“決戦は金曜日”、うぴ子が歌うTHE HIGH-LOWSの“日曜日よりの使者”と続いてきた。

本プロジェクトの第4弾は、2017年に「LINEオーディション」で総合グランプリを獲得し、2020年からSWALLOWへと改名し活動する工藤帆乃佳(Vo&G)が、1996年にTHE YELLOW MONKEYが発表した“JAM”をカバーする。

もともと懐かしい曲が好きだという彼女は、この曲のどこに魅力を感じ、どんな気持ちを込めて歌いあげたのだろうか。今春から心機一転、活動の中心を3人の出身地である青森に移して精力的に音源を発表し続けているSWALLOWの工藤帆乃佳に話を聞いた。

選曲のポイントは“JAM”の「ひたむきさ」。聞き流せなかった衝撃の歌詞との出会い

―今回『Old To The New』に参加するにあたって、THE YELLOW MONKEYの“JAM”を選んだ理由は何だったのでしょう?

工藤:もともと懐かしい曲を聴くのが好きだったので、2000年より前にリリースされた曲のなかで、私が普段から聴いていて「機会があったら、歌ってみたいな」と思っていた曲をいくつか選ばせていただきました。結構ラブソングが多かったんですけど、改めて『Old To The New』のコンセプトを考えて、ラブソングじゃないほうがいいなって思って。

あと、曲を決める前にちょっとしたヒアリングがあったんです。そこで私が発した言葉のなかから、「自分に嘘はつかない」というワードを拾っていただいて。それならやっぱり、「ひたむきさ」とか「真っ直ぐさ」みたいなものを感じる曲がいいなって。それで最終的に、“JAM”を選ばせていただきました。

―“JAM”がリリースされたのは工藤さんが生まれる前のことですが、どのようにしてこの曲を知ったのでしょう?

工藤:初めて聴いたのは、私がまだ青森の実家で暮らしていた頃でした。年末の歌番組で、いろんなアーティストの方が、時代ごとのベストヒッツをカバーしていたんです。

それを見ていた……というよりも聞き流していた感じだったんですけど、いきなり<乗客に日本人はいませんでした>っていう歌詞が耳に飛び込んできて。

―普段テレビから流れてくるようなポップソングの歌詞ではないですよね(笑)。

工藤:そうなんです。歌詞のなかでは唐突に外国で飛行機が墜ちているし、「何だ、この曲は?」って思いました。そしたら父が、「俺が若い頃に流行った“JAM”っていう曲だよ」って教えてくれて。そこからスマホで調べて、自分でも聴くようになった感じです。

「ひとりで生きていかなきゃ」と感じたときにグッとくる歌詞がある

―実際に“JAM”を聴くようになってから、この曲のどのあたりに、帆乃佳さんは魅力を感じたのでしょう?

工藤:何だろうな……昨今の「邦ロック」といわれているようなロックバンドとは、明らかにサウンドが違ったんですよね。きっと吉井和哉さんの声の魅力もあると思うんですけど、すごい実直な感じがするというか。こういう含みを持たないストレートな歌声とかサウンドって、いまはあんまりないような気がして。そこがすごくいいなって思ったんですよね。

―曲調にしても、歌い方にしても、たしかに昨今のトレンドとは、ちょっと違う感じの曲かもしれないです。

工藤:サウンド自体、やっぱり貫禄がある。そういう洗練された魅力がある曲だし、正統派だなって思いました。派手な展開で聴く人の興味を引くのではなく、吸引力のあるメロディのよさで引きつけるというか。

もちろん、私が最初に気になった<日本人はいませんでした>みたいな強い言葉が歌詞に出てきたりはするんですけど、何度も聴いていくうちに、最初の<暗い部屋で一人 / テレビはつけたまま / 僕は震えている / 何か始めようと>っていうフレーズのほうにグッときたりして。

―なるほど。特に昨今のコロナ禍で、そのフレーズがさらに響くようなところもあったんじゃないですか。

工藤:そうですね。「震えている」っていうとちょっと危うい感じがするけど、暗い部屋にひとりでいるときに、「やばい、何かしなきゃ!」みたいな気持ちになることはきっと誰しもがあることだろうし。

ひとり暮らしを始めたり、社会人になって働くようになったり、「自分ひとりで生きていかなきゃ」っていうときにこの曲を聴くと、「あ、わかる」みたいな気持ちになる。そういうところが、ただ「若さ」を強調するような青春ソングとは、まったく違うところなのかなって思います。

吉井和哉との声質の違いに不安も。原曲への最大のリスペクトを込めて模索した表現

―“JAM”をカバーすることが決まったあと、アレンジの方向性などには工藤さんも深く関わったのでしょうか?

工藤:今回はいっさいなしにしたんです。SWALLOWのときはアレンジに対して私もめちゃくちゃ意見を出すし、編曲の作業にすごく関わるんですけど、このプロジェクトを考えると、“JAM”が生まれた年代のサウンドとか当時のニュアンスを知っている方がいるのなら、その方たちに完全に委ねようと思って。

―今回の楽曲のアレンジや演奏に参加している高野勲さん、ウエノコウジさん、あらきゆうこさん、藤井謙二さん、平岡恵子さんは、それこそTHE YELLOW MONKEYと同時代を生きてきた、大ベテランの方々なわけで。

工藤:そうなんです。この曲に対してどれだけ自分の考えがあったとしても、やっぱりその時代を生きてきたわけじゃないから、私が知らないことっていっぱいあるんですよね。

なので、アレンジは原曲がつくられた時代のニュアンスをちゃんとわかっている方々に委ねて、そのうえに私の声が乗るほうがいいコラボレーションになるというか、『Old To The New』のコンセプトに合っているのかなって、私なりに考えました。

そもそものアレンジの方向性として、「やっぱり、原曲と全然違うものにはしたくないよね」って話でしたし、いまのかたちが原曲に対して私ができる、最大のリスペクトだと思ったんです。

―できあがったアレンジに自分の声を入れていくときは、いかがでしたか?

工藤:レコーディングの現場に行くまでは、ちょっと不安というか「このアレンジ、私の声で合っているのかな?」みたいな感じは正直ありました。

私の声って吉井さんとは真逆の声質だし、もともとビブラートも多めで、高いところと低いところの緩急や声量の差がわりと大きいほうなんです。

なので少し不安があったんですけど、レコーディング時に高野さんから、「そういうことはあまり気にせず、スパーンと真っ直ぐ、ストレートに歌う感じがいいんじゃない?」ってアドバイスをいただいて。

だから、普段のSWALLOWの歌い方とはちょっと違うかもしれないですけど、なるべくフラットに、ストレートな感じで歌うことを心掛けました。

キーボードは高野勲(GRAPEVINEなどのライブサポート)、ベースはウエノコウジ(the HIATUSほか)、ドラムはあらきゆうこ(Cornelius、くるりなどのサポート)、ギターは藤井謙二(The Birthday)が担当

大ベテランとの作業で感じたSWALLOWのレコーティングとの違い

―レコーディングの現場の雰囲気は、どんな感じだったんですか?

工藤:大学の授業の都合で、あらきさんのドラムのレコーディングが終わった頃に合流して、ウエノさんのベースと、藤井さんのギターのレコーディングを見させていただいたんですけど、私が普段やっているSWALLOWのレコーディングとはやっぱり全然違いました。

アンプをスタジオに出して、その隣でギターを弾きながらわざとハウリングを起こさせたりするんですよね。そういうレコーディングの仕方は初めてで。SWALLOWのメンバーにも見せてあげたかったなって思うような場面がいっぱいありました(笑)。

―みなさん、相当な場数を踏んでいるロックミュージシャンたちですからね。

工藤:そうなんです。SWALLOWの活動ではなかなか見られる現場ではなかったので、すごく面白かったし、いろいろ勉強になりました。

あと高野さんから、あまりピッチを気にせず歌ってほしい、特に後半はクリックではなくドラムを聴きながら歌ってほしい、っていう話があって。だから何としてもその演奏のなかに自分を落とし込むというか、この曲の一部になれるような感じで歌うことを意識しました。そこも、普段のSWALLOWのレコーディングとは全然違いましたね。

―具体的にはどんなところに違いを感じたのでしょうか?

工藤:SWALLOWのレコーディング、特に自分がつくった曲の場合は、私が思う表現が正解になります。だからレコーディングもすごく速いんですよね。でも、今回のレコーディングは原曲があって、今回のアレンジがあって、さらにそれを演奏する方々の思いがある。そこに私が歌で参加させていただくかたちじゃないですか。

なので、「自分が自分が」みたいな感じではなく、憑依する感じというか。女優さんがお芝居をするとき、その役に憑依するときがあるっていいますけど、そんなふうに曲の一部になることを意識しました。

だからレコーディングが終わったあと、いい意味で、どっと疲れるような感じがありましたね。

―完成したものを聴いて、今回のカバーの工藤さん的な聴きどころといったら、どこになるでしょう?

工藤:やっぱり、サビに入る前の歌い方ですかね。具体的には、<からだは熱くなるばかり>っていうフレーズのあたりです。

めちゃくちゃクレッシェンドしていくように歌ってほしいっていうディレクションもあったので、スイッチが切り替わるというか、私のなかで世界観がバチっと替わる感覚がありました。

基本的にはフラットに、ストレートに歌ってはいるんですけど、やっぱり歌詞の世界観にだんだん入り込んでいくんですよね。細やかな歌詞とボーカルの関係や、そのニュアンスを感じ取ってもらえたら嬉しいです。

1996年でも、2022年でも、聴く人たちの気持ちに寄り添ってくれる曲

―個人的には今回のカバーを聴いて改めて、“JAM”という曲は不思議な魅力のある曲だなって思いました。

工藤:そうですね。“JAM”というひとつの世界観があって、その世界観自体は変わらないんだけど、聴く年代によって解釈が異なってくると思っています。時代を超えて愛される曲っていうのは、そういった共通点があるのかなって思いました。

―ここで、少し昔語りをさせてもらうと……“JAM”がリリースされたのは1996年で、その前年の1995年には、阪神大震災と地下鉄サリン事件があって、いろいろと大変な社会状況だったんですよね。なので、そういう社会不安みたいなものが、“JAM”では間違いなく反映されたと、個人的には思っていて。

工藤:なるほど。

―もちろん、その当時とはまったく文脈が違うんですけど、依然としてコロナ禍にある現在、今回のカバーには、「コロナ禍の時代に響く“JAM”」みたいなものが、きっとあるんじゃないかと思っていて。コロナ禍はもちろん、ウクライナでは戦争が起こり、元首相が暗殺されるような状況のなか、それこそ<僕は何を思えばいいんだろう / 僕は何て言えばいいんだろう>っていう。

工藤:なるほど。私は、音楽の力で世の中を変えるとか、みんなを救ってあげるとか、そういうことは不可能だと思っていて。それは自分が曲を書くときもそうだし、歌うときもそうで、「自分の歌で、みんなを幸せにしたい」みたいな考え方で、これまで曲をつくれたことがないんですよね。

多くの人が不安な時代のなかで、「みんな、元気出していこう!」みたいな曲が、本当にみんなの力になるのかなっていう疑問もちょっとあって。たぶん、吉井さんも、そういうことは考えずに“JAM”をつくったんじゃないかなって思うんです。だからこそこの曲は愛され続けたのかなって。

工藤:もちろん人によるのかもしれないですけど、記憶に残る曲っていうのは、元気づけるとか励ましてあげるとかそういう曲ではなく、そのときの気持ちにそっと寄り添ってくれる曲なんじゃないかな。そういう意味で、この曲は1996年も2022年も変わらずそこにあり続ける歌であり、歌詞なのかなって思います。

青森での活動を中心にしていくSWALLOW。いま“JAM”をカバーしたことがバンドの背中を押していく

―工藤さんのバンド・SWALLOWは、今年の春から地元・青森での活動に重点を置くようになったとか?

工藤:そうなんです。高校を卒業したあと青森から東京にやってきて、いまはそれぞれ大学に通っているんですけど、この春からエフエム青森さんでラジオのレギュラー番組を持たせていただいて。その収録もありつつ、改めて地元に寄り添うために、最低でも月に一回は帰るようにしています。

今回のドキュメンタリーも青森で撮っていただいたんです。これからも青森県出身っていうことを大事にして、地元での活動を増やしていくつもりです。

―今年に入ってから、“常葉”、“嵐の女王”、“AUREOLIN”、そしてつい先日リリースしたばかりの“田舎者”と、これまでにないぐらい精力的に楽曲を発表していますよね。

工藤:そうなんですよね。コロナ禍で思うような活動ができないなか、“JAM”の冒頭の歌詞――<何か始めよう>じゃないですけど、一度、青森に活動の中心を移そうって決めたら、いろいろのびのびできるようになったところがあって(笑)。

そういう意味では、正解だったというか、いまのタイミングで“JAM”をカバーさせていただいたことで、私にとってはもちろん、SWALLOWというバンドにとってもきっといい結果につながっていくんじゃないかと思っています。

リリース情報
Old To The New

レコードやカセット、CDで発表された無数の名曲たちを新鮮さをもって蘇らせるプロジェクト『Old To The New』。音楽サブスクリプションサービスの登場で、無限に広がる音楽ライブラリにアクセスできるようになった今だからこそ、名曲たちを聴き継ぎ、語り継ぎ、歌い継いでいきたい。そして、何よりも大切にしたいのは、どんな時代にあっても変わりなく、人の心を震わせ続ける、「歌」の力です。この企画では、毎回特別な歌い手をお招きし、感動や驚きをお届けします。
工藤帆乃佳(SWALLOW)
『JAM』


2022年8月21日(日)配信
番組情報
エフエム青森「SWALLOW’s nest radio」

放送日時:毎週日曜18:00-18:30
ラジオ放送後の1週間は、radikoタイムフリーで聴取可能。
プロフィール
工藤帆乃佳 (くどう ほのか)

「SWALLOW」のヴォーカル&ギター。「SWALLOW」は工藤 帆乃佳(Vo&G)、安部 遥音(Gt)、種市 悠人(Key)からなる3ピースバンド。 2016年9月、青森県でバンド「No title」を結成。2017年7月から始まった、LINE社主催「LINEオーディション2017」で総合グランプリを獲得し、翌年2018年1月にデビュー。その後、映画主題歌や高校野球テーマソングを担当。ARABAKI ROCK FEST出演などを経て「No title」としての活動終了を宣言。2020年6月1日、バンド名を「SWALLOW」に改名。同年11月8日、改名後初となる1st Single『SWALLOW』をリリースし、SoftBank ウインターカップ2020 第73回 全国高等学校バスケットボール選手権大会 テーマソングに大抜擢。そして5th Single『青く短い春』では、テレビ東京系『ゴッドタン』の7月エンディングテーマにも起用。2022年はSWALLOWの新章突入を掲げ、セルフプロデュース楽曲である『常葉』『嵐の女王』『AUREOLIN』を3ヶ月連続リリース。そして4月からは地元・エフエム青森にて初のレギュラー番組「SWALLOW’s nest radio」もスタート。



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