保守にもリベラルにも容赦ない? 超過激ヒーロードラマ『ザ・ボーイズ』の魅力とは

2019年7月より、Prime Videoで配信されている『The Boys(ザ・ボーイズ)』。企業によって管理されたヒーローが活躍する世界を舞台に、超能力を持たない人間たちの集団「ボーイズ」と、ヒーローチーム「セブン」の戦いを描いている。グロありエロありバイオレンスありと過激な表現が人気の異色作で、現在はシーズン4の製作も決定している。「ポリティカル・コレクトネス(略・ポリコレ)が強制されている」という声もある現在において、なぜ本作は強烈な人気を保っているのだろうか? 自身も本作のファンであるクリエイティブディレクター、コピーライターの橋口幸生が解説する。

(メイン画像:『ザ・ボーイズ』 ©️Amazon Studios Prime Videoで独占配信中)

過激な表現やり放題!? 手加減なしの『ザ・ボーイズ』

「ポリコレのせいで何も言えなくなった」「映画もドラマもつまらなくなった」。そんな意見を、しばしばソーシャルメディアで目にする。何かあれば炎上するから、クリエイターが自由に作品をつくれない……という理屈なのだろう。

しかし、これは事実レベルで間違っている。昨今、世界的に評価された作品のなかで、むしろ「ポリコレ的」なテーマに触れていないものを探すほうが難しいだろう。リアルな社会問題と向き合うことは、エンターテイメントにとって避けられない時代の潮流だ。ポリコレを毛嫌いするのは自由だが、おもしろい作品と出会うチャンスが激減するので、映画やドラマが好きなのであれば損な態度だと言える。

とはいえ、「お利口さんばかりで息苦しい!」という気持ちはわからなくもない。そんな人におすすめしたい海外ドラマが、Prime Videoで配信中の『ザ・ボーイズ』だ。見たら最後、「ポリコレで表現の幅が狭まった」とは、口が裂けても言えなくなる。人種差別、ジェンダー、#MeTooムーブメントなどを余すことなく描くと同時に、人体破裂、放送禁止用語の連発、下ネタ、悪趣味なギャグなど、「過激な表現」と言われて思いつくことの大半を、一切の手加減なしでやり切っているからだ。

以下、その魅力を解説しよう。

カネとエロにしか興味がないヒーロー軍団

『ザ・ボーイズ』は、コミックス原作のヒーロードラマだ。大人気のマーベル・シネマティック・ユニバースと同じジャンルで、登場するヒーローたちもよく似ている。中心となるヒーローたちは「セブン」という名前のチームで、DCヒーローのジャスティス・リーグを彷彿とさせる。

リーダーのホームランダーは、飛行能力を持ち、目から熱線を放つ。もちろん、モデルはスーパーマンだ。クイーン・メイヴはワンダーウーマン。海中で行動できるディープのモデルはアクアマン。超高速で走れるAトレインはフラッシュ。アメリカン・コミックスが好きな人なら、すぐに元ネタのヒーローがわかるようになっている。

『ザ・ボーイズ』が通常のヒーロー作品と違うのは、こうしたヒーローたちが「ヴォート」という企業に所属し、タレント活動をしている点だ。彼ら/彼女たちは映画やCMに出演し、莫大な利益を挙げている。ヒーロー活動が巨大産業になっているのが、『ザ・ボーイズ』の世界だ。

「セブン」のメンバーは、表面上はリベラルな態度を取っている。海洋保護を訴えているディープや、同性愛者として性的マイノリティーから支持されているクイーン・メイヴの姿はさながら、ハリウッドのセレブのようだ。しかし、そんなヒーローたちが実際は人間のクズだった……というのが、『ザ・ボーイズ』の設定で、おもしろいところだ。

ドナルド・トランプをモデルにしたキャラクターも登場

ディープや透明になる能力を持つトランスルーセントは性加害の常習犯だ。ほかのメンバーも、口では綺麗事を言いながら、実際は金や名誉にしか興味がない偽善者として描かれている。

これは、現実のエンターテイメント界への痛烈な皮肉にもなっている。今日のヒーロー映画ブームを築き上げたマーベル・スタジオは、労働環境があまりに過酷だとしてVFXアーティストたちから告発されている(※)。黒人や女性、ムスリムのヒーロー映画やドラマをヒットさせてきたマーベルが、足下で制作者の人権を軽視していた。そんな事実に、ヴォート社を重ねてしまうのは筆者だけではないだろう。

※「もうマーベルの仕事は無理」VFX制作者ら悲鳴 ─ 過酷な労働環境への不満が噴出 | THE RIVER(外部サイトを開く

しかし、『ザ・ボーイズ』は、ただリベラルを嘲笑するだけの作品ではない。なぜなら、リベラルと対をなす保守も、徹底的にバカにしているからだ。

「セブン」のリーダーのホームランダーは、有害な保守の象徴のようなキャラクターだ。優生学的思想を持ち、一般人や非白人を見下している。スピーチでは大衆を煽り、分断する(役づくりをするうえで、ドナルド・トランプをモデルにしたという)。

そのホームランダーをさらに酷くしたキャラクターが、シーズン3で登場したソルジャー・ボーイだ。その背景には事情があるのだが、女性を差別し暴力で人間関係を支配する、「有害な男らしさ」や「パターナリズム(家父長制)」の権化のような存在になっている。「有害な男らしさ」や「パターナリズム」の問題はDCユニバースのドラマ『ピースメイカー』でも描かれていた。アメリカが国家として抱える病いなのだろう(『ピースメイカー』も傑作なので、ぜひ見てほしい)。

ボーイズとは、私たちのことだ

このように保守にもリベラルにも容赦がない『ザ・ボーイズ』だが、どこかのインフルエンサーのように開き直って冷笑する作品ではない。エロもグロもてんこ盛りながら、ヒーローものとして王道のおもしろさがあるのだ。

その理由は、どれだけ悪趣味な表現をしても、「弱者の側に立つ」というスタンスが一貫しているからだろう。

前段では個性豊かなヒーローたちを紹介したが、じつはドラマの主人公は「ヒーローに恨みがある」という一点で集まった一般人の集まりだ。彼らは自らのチームを「ボーイズ」と呼び、一人を除いて特殊能力もなく、全員、つらい過去を抱えている。

そんなボーイズが、自分たちより圧倒的に強いホームランダーやヴォート社に戦いを挑む姿は、見るものの心を打つ。その様子に、日々の生活で差別やパターナリズムに直面し、生きづらさを感じる私たち自身の姿を重ねることもできる。

「ポリコレ」や「正義の暴走」を腐しているヒマがあったら、いますぐ『ザ・ボーイズ』を見るべきだ。なぜいま、エンターテイメントに社会性が求められているのか、よくわかる。バイオレンスや最低の下ネタ、悪趣味なギャグを楽しむだけでもいいし、推しヒーローについて語るのもいい。

『ザ・ボーイズ』は現在、Amazon Primeでシーズン3まで配信中だ。

作品情報
『ザ・ボーイズ』


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