なぜ『ソー:ラブ&サンダー』はガンズ・アンド・ローゼスを多用した? 背景にはHR/HM再評価も

アベンジャーズの設立メンバーのひとり、ソー・オーディンソンを主役とした単独シリーズ『ソー:ラブ&サンダー』。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の劇場公開作品としては今年3作目となる本作は、その物語もさることながら、使用楽曲でも話題を呼んでいる。今年11月に来日公演も控えるGuns N' Rosesの楽曲が4曲もフィーチャーされているのだ。

そもそもMCUでは、マーヴィン・ゲイの“Trouble Man”(1972年)のようなソウルミュージック(『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』)、ケンドリック・ラマーとSZAによる“All The Stars”(2018年)のようなヒップホップ(『ブラックパンサー』)、Ramones“Blitzkrieg Bop”(1976年)のようなパンク(『スパイダーマン:ホームカミング』)、Nirvana“Come As You Are”(1991年)のようなグランジ(『キャプテン・マーベル』)など、さまざまな楽曲が印象的かつ効果的に用いられている。

では、なぜ本作ではHR/HM(ハードロック / ヘヴィメタル)だったのか? またそれらの楽曲は作中でどのように機能しているのか。HR/HMの楽曲が多用された背景やソーの物語との関係について、文筆家の長谷川町蔵に考えてもらった。

※本記事は『ソー:ラブ&サンダー』のネタバレを含みます。

(メイン画像:『ソー:ラブ&サンダー』 ©Marvel Studios 2022)

初の単独作から11年を経て、劇的にキャラ変した雷神ソー

2008年のスタート以来、同一世界をベースにした映画・テレビシリーズとしては空前絶後の拡大を続けてきた「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」。14年間の歴史のなかでは、当初とはキャラ造形が変わってしまった人物も少なからず存在する。

その最も極端な例が、クリス・ヘムズワース扮するソーである。

単独映画としては最多の4作を誇る彼だが、最初の2作『マイティ・ソー』(2011年)、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)と、近作『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)、『ソー:ラブ&サンダー』(2022年)ではまるで別人のようになってしまっている。

ざっくりいえば、前者はシェイクスピア悲劇の王子、後者は脳天気な筋肉野郎だ(ただし後者のほうが時代錯誤な存在であることに自覚的なのが面白い。時代の反映だろう)。

『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013年)トレイラー映像
『ソー:ラブ&サンダー』の予告編。冒頭からフィーチャーされているのはGuns N' Roses“Sweet Child O' Mine”

キャラの変化の理由は明白だ。ある種のクライマックスだった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の二部作と直接ストーリーがリンクする『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(GOG)』がコメディー色強めだったため、活動領域が同じ宇宙である『ソー』シリーズを『GOG』の作風に近づける必要があったのだ。

Led ZeppelinからGuns N' Rosesへ。ソーの物語とハードロックの関係

この荒療治を託された監督が、『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(2014年)などで知られるニュージーランド出身のタイカ・ワイティティ。コメディー畑からの起用は驚かれたものの、彼は『マイティ・ソー バトルロイヤル』を見事にカラッと明るいアクションムービーに仕上げてみせたのだった。

同作の主題歌は、1970年代を代表する英国出身のハードロックバンド、Led Zeppelin“Immigrant Song(移民の歌)”(1970年)。

主人公スター・ロード(ピーター・クイル)の愛聴曲として1970年代のヒット曲が流れる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』との連続性を感じさせるし、北欧のヴァイキングを歌った曲なので、北欧神のソーともマッチしていた。

Led Zeppelin“Immigrant Song”をフィーチャーした『マイティ・ソー バトルロイヤル』のトレイラー映像

ところが、その延長線上にある最新作『ソー:ラブ&サンダー』ではもはや「北欧」なのは、ソーがナタリー・ポートマン扮するジェーンと過ごした日々を思い出すシーンで流れるABBA“Our Last Summer”(1980年)くらい。ほかは全編にわたって1980年代後半から90年代に一世を風靡したアメリカのハードロックバンド、Guns N' Rosesが流れているのだから驚いてしまう。

たとえば冒頭シーン。『GOG』の助っ人として戦うソーの姿には“Welcome To The Jungle”がBGMとして使用されている。

Guns N' Roses『Appetite for Destruction』(1987年)収録曲

そしてすっかり観光都市になった「新アスガルド」の光景には“Paradise City”、ソーがゼウスの神器「サンダーボルト」を奪うシーンでは代表曲“Sweet Child O' Mine”、ソーが今作のヴィラン、ゴアと戦うクライマックスには壮大なバラード“November Rain”が重ねられるといった具合だ。

Guns N' Roses『Appetite for Destruction』収録曲

ちなみにエンディングクレジットに流れるのはGuns N' Rosesではなくて、メタルゴッドことロニー・ジェイムス・ディオ(ex. Rainbow、Black Sabbath)率いるDioの“Rainbow In The Dark”。

<稲妻が光ると / いつも打ちのめされてしまう / だってそれは自由だから>という歌詞が本作のためにつくられたかのようにハマっている。

Dio『Holy Diver』(1983年)収録曲

なぜ『ソー:ラブ&サンダー』ではHR/HMが多用されたのか? 考えうる3つの理由

それにしてもなぜハードロック / ヘヴィメタル(HR/HM)なのか。理由は3つほど考えられる。

1つめは、MCUの総責任者ケヴィン・ファイギ(1973年生まれ)の「ヒーロー観」によるもの。

『バットマン』(1989年)のメガヒット以降、優れたアメコミヒーロー映画は「トラウマを背負いながら戦い続ける悲劇的な存在が主人公」という認識が支配的になった。しかしファイギは、たとえ物語やキャラクターが複雑であったとしても「ヒーローはもっと単純明快な存在であるべきで、トラウマはヴィランが抱えるべきもの」との想いを持っているのではないか。

実際に、MCUでは悲劇的なシチュエーションでスーパーパワーを得たヒーローは、現役ではムーンナイトくらい(*1)。ハルクやドクター・ストレンジは早い段階で「悲劇的な存在」からはキャラ変し、伝統的に「ベンおじさんの死の責任」というトラウマを背負って戦うスパイダーマンがMCUで製作された途端コミカルになったことなどからも、そのように感じられる。

『ムーンナイト』予告編。MCU版『ムーンナイト』においてオスカー・アイザック演じる主人公は、墓の盗掘の現場に傭兵として雇われていた際、「盗掘の目撃者を皆殺しにせよ」という上官の命令に逆らって負傷し、自害しようとしていたところに月の神・コンスに取引を持ちかけられて、ムーンナイトとしてスーパーパワーを獲得した(S1第5話「蘇る過去」より) / 関連記事:実在の精神疾患を扱う『ムーンナイト』の背景。マーベルがドラマ化した「いま、語るべき物語」(記事を開く

逆に、サノス(MCUフェーズ3のヴィラン)や本作のゴアといったヴィランがパワーを求める背景には少なからず悲劇が横たわっている。だからこそヒーローのBGMとしてロックを流すなら、世を儚んだグランジではなく、単純にカッコいいHR/HMが最適という発想に行き着いたのかもしれない。

そうでなければMCUの記念すべき第一弾に、目立ちたがり屋の大富豪を主人公に据えた『アイアンマン』(※)を選び、Black Sabbath“Iron Man”やAC/DC“Back In Black”といったHR/HMをフィーチャーしたりはしなかったはずだ。

※監督は1966年生まれのジョン・ファヴロー

AC/DC“Back In Black”(1980年)をフィーチャーした『アイアンマン』(2008年)のトレイラー映像。アイアンマン=トニー・スタークには、両親をヒドラによって洗脳されていたウィンター・ソルジャー(バッキー)に殺害されたという過去があったことがのちに明らかとなるが、両親の死はアイアンマンとしてパワーを手にする経緯と直接の関係はなく、スターク自身はシリーズを重ねるごとにキャラクターとしての複雑性を増していく

『アイアンマン2』(2010年)の予告編。予告映像の最後ではBlack Sabbath“Iron Man”(1970年)のイントロを聴くことができる。なお同曲は1作目である『アイアンマン』のエンドロールでも使用されている

一方、ライバルのDCコミックスの最新映画『ザ・バットマン』(※)ではNirvanaがフィーチャーされており、アプローチが正反対なのが興味深い。

※2022年作、監督は1966年生まれのマット・リーヴス

もしかすると『ソー:ラブ&サンダー』のヴィラン、ゴア役にバットマン俳優のクリスチャン・ベールを起用したのは、「そういうキャラは本来ヴィランなんだよ!」とのファイギの信念の現れなのかもしれない。

劇中でも使用されているNirvana“Something In The Way”(1991年)をフィーチャーした『ザ・バットマン』の予告編。『バットマン』シリーズにおいて、主人公ブルース・ウェインは暴漢に両親を殺されたことが大きな要因となり、バットマンとしてゴッサムシティの自警活動を行なうようになる。なお同作の主人公ブルース・ウェインは、Nirvanaのカート・コバーンをモデルとしていることが明かされている / 関連記事:前髪を垂らしたバットマンとカート・コバーン。映画『THE BATMAN』に宿るグランジの精神(記事を開く

2つめは、全盛期からいい塩梅で年月が経過していること。

長らく時代遅れの音楽として扱われ続けてきたHR/HMだが、トム・クルーズがロックスターを演じた『ロック・オブ・エイジズ』(2012年)あたりをひとつのきっかけとして、楽曲そのもののよさが評価されつつある。

『GOG』の監督ジェームズ・ガン(1966年生まれ)が手がけたドラマシリーズ『ピースメイカー』(2022年)がグラムメタル大会だったり、Netflixの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4(※)でMetallica“Master Of Puppets”(1986年)が大フィーチャーされていたのも、そうした再評価を反映したものといえるだろう。

※製作総指揮は、1984年生まれのマットとロスの双子のダファー兄弟

『ストレンジャー・シングス』シーズン4 vol.2本編映像より。エディ・マンソンは、ヴィランのもとに乗り込む仲間たちのために自らが囮になるべく、Metallica“Master Of Puppets”を演奏した / 関連記事:『ストレンジャー・シングス』4は、いまを苦しむ若者に、癒えない傷を抱く大人に手を差し伸べる(記事を開く

そして3つめは、ティーンの頃にHR/HMを聴いていた世代が、映画監督の中核を占めるようになったこと(※)。

歳を重ね、家庭を持った彼ら/彼女らにとってHR/HMはもはや反抗のBGMではなく、若さそのものを封じ込めたタイムカプセルのようなものだ。そしてそれは子どもたちへと受け継がれる。

※『ソー:ラブ&サンダー』の監督タイカ・ワイティティは1975年生まれ

Guns N' Roses『Use Your Illusion I』(1991年)収録曲

ラスト、ソーとラヴの姿にGuns N' Roses“Sweet Child O' Mine”が重ねられた真意

ゴアがヴィランになったきっかけは、愛する娘ラヴを失ったことだった。

その絶望は、彼にあらゆる願いを実現する闇のパワーを得て、神を全滅させようと決心させた。しかしソーとジェーンの説得を受けて、彼は神を殺さず、ラヴを生き返らせて死んでいく。ソーはゴアの娘を、引き取って育てることにする。ここで観客は『ラブ&サンダー』というサブタイトルに込められた真の意味を知る。

ラスト、ソーとラヴの姿に再度Guns N' Roses“Sweet Child O' Mine”が重ねられる。同曲の歌詞は、Guns N' Rosesのボーカル、アクセル・ローズが当時のガールフレンド(The Everly Brothersのドン・エヴァリーの娘)に捧げられたもの。

つまりもともと「チャイルド」は「ベイビー」と同じような使われ方をしていたのだが、それを文字どおり「愛しい俺の子ども」と読み替えたところにセンスが光っている。

Guns N' Roses『Appetite for Destruction』(1987年)収録曲

なお本作でラヴを演じているのは、ヘムズワースの実の娘インディア・ローズ。映画にはワイティティ、ポートマン、ベールの子どもたちも出演しているという。

『ソー:ラブ&サンダー』トレイラー映像

▼編注

*1:そのほかにも、父の暗殺によってワカンダ王国の王位とスーパーパワーを継承することになったブラックパンサー、幼少期に母親を失った直後に宇宙海賊に連れ去られ、のちに宇宙をつくり直せるほどのパワーを持ち、セレスティアルズ(天人)を自称するエゴの息子であることがわかったスター・ロード、エネルギー・コア(インフィニティ・ストーンのひとつ、四次元キューブ)の爆発の影響でスーパーパワーを得るも、クリー帝国に連れ去られ、地球で暮らしていた記憶を失ったキャプテン・マーベル、洗脳を含む過酷な訓練によってKGBのスパイを養成する組織「レッドルーム」で力を身につけたブラック・ウィドウなど、悲劇的背景を持つヒーローは存在するものの、その悲劇やトラウマを理由に力を手にしたわけではなく、またキャラクター造形としても「トラウマを抱える悲劇的な存在」というわけでもない(なおウィドウの高度な格闘技や狙撃技術、ずば抜けた身体能力はスーパーパワーではない)。

一方、幼少期に自宅を爆撃されて両親を亡くしたことを背景に、秘密組織ヒドラの施設でマインド・ストーンによる人体実験を自ら志願し、スカーレット・ウィッチとしての力を手にしたワンダ・マキシモフは、その悲劇を理由にパワーを求めたともいえ、加えてパートナーであるヴィジョンと2人の子どもを失った悲しみから『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でヴィランとなってしまう。

このようなMCUにおけるキャラクターたちのバックグラウンドやヒーロー観に関連しうることとして、ケヴィン・ファイギは以下のように語っている。

「マーベルのヒーローたちをスーパーヒーローたらしめているのは、“パワー”そのものではありません。責任を伴って力を行使すること、または可能な限り責任を持って力を使うことです。私たちの物語 (MCU) において、ヒーローとヴィランの違いを考えるなら、ヒーローは“パワー”を押しつけられたり、事故などにより偶然パワーを得たりした人々です。もしくは、スティーブ・ロジャースのように何かを乗り越えるための“手段”としてパワーを得る場合もあります。一方、ヴィランは積極的に“パワー”を追い求め、渇望する人々です。」(VG+「『MCUにおけるヒーローとヴィランの違い』マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギが語る」より引用)

※本文の記載に一部誤りがございました。訂正してお詫びいたします。

作品情報
『ソー:ラブ&サンダー』

2022年7月8日(金)公開

監督:タイカ・ワイティティ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:
クリス・ヘムズワース
クリスチャン・ベール
テッサ・トンプソン
ラッセル・クロウ
ナタリー・ポートマン


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