日本のまつりと出会いなおす

DJ KOOが力を注ぐ「盆踊り」の魅力。ハードロックやTRFを経て知った日本のリズムのおもしろさ

ここ数年、DJ KOOは新たな盆踊りムーブメントのキーパーソンのひとりとして精力的な活動を続けている。「BON DANCE」と銘打って、日本舞踊の孝藤右近とのユニット・UKOONでは伝統と現代を結びつけるパフォーマンスを披露しているほか、日本民踊 鳳蝶流の家元師範・鳳蝶美成とは盆踊りの新たなスタイルを提唱。“EZ DO DANCE”“BOY MEETS GIRL”といったTRFの楽曲で各地の盆踊り会場を盛り上げている。

コロナ禍で打撃を受けた全国各地の伝統行事や民俗芸能を支援するプロジェクト「まつりと」とコラボレーションした連載「日本のまつりと出会いなおす」では、アーティストやクリエイター、文化人などへのインタビューを通じて、日本の祭りの魅力をさまざまな角度から解き明かしていく。連載の第一回となる今回のゲストは、DJ KOO。

1970年代末に都内のディスコでキャリアをスタートさせた彼は、盆踊りのどこに惹かれているのだろうか? 欧米の音楽文化に対する憧れと海外へのコンプレックスにはじまり、盆踊りへの「偏見」がなくなるきっかけとなった小室哲哉とのとあるレコーディング、さらにはディスコと盆踊りの意外な共通点など、さまざまな角度から話を聞いた。

「海外の文化のほうがかっこいい」と思っていたハードロック少年時代

―ご出身は東京ですよね。幼少時代、お祭りや盆踊りに触れる機会はありましたか?

DJ KOO:地域のお祭りとか、近所の公園でやっている盆踊りには行きました。“炭坑節”“花笠音頭”“東京音頭”を踊ったことは覚えてますね。

―地元は東京のどちらですか?

DJ KOO:新宿です。そこから引っ越して千葉県船橋市で育ちました。ぼくが生まれたのは新宿でも神楽坂に近い牛込のあたりなんですが、あのあたりは古いコミュニティーが残っていて、消防団の方を中心に近所の公園で盆踊りをやっていたんですよ。新宿の大きなお祭りにもよく行っていました。お祭りは出店もたくさん出るし、ワクワク感がありますよね。あと、子どもたちだけで夜に遊べるのが楽しかったんです。

―小学生の頃から沢田研二さんがお好きで、その後、洋楽をきっかけにロック少年になったそうですね。

DJ KOO:そうですね。沢田研二さんはザ・タイガースというグループサウンズに所属してたんですけど、グループサウンズの人たちってライブで海外バンドのカバーを結構やっていて。タイガースのライブアルバムで初めてローリング・ストーンズのことを知り、そこからビートルズ、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルにハマりました。

少年ながらハードロックの美意識に駆られて、ブラック・サバスのコピーバンドをやりながらギタリストを目指してましたね。マニアックなものを聴くのがかっこいいと思っているようなところもあって、クラスで誰も持っていなかったカルメン・マキ&OZのレコードを一生懸命聴いたり。あとはBOWWOWが好きでした。

ブラック・サバス“Paranoid”

―その頃は日本の伝統文化に触れる機会はあったのでしょうか?

DJ KOO:お祭りや花火大会はやっぱり楽しかったですけど、ロック少年になってからは「日本って遅れてるな」「やっぱり海外の文化のほうがかっこいいな」と思ってましたね。20歳を過ぎてDJをやりだすと、さらに洋楽一辺倒。海外コンプレックスが強かったです。ロックだったらイギリスには敵わないし、ソウルやブラックコンテンポラリーだとアメリカには敵わない。そういう思いを抱えた世代だったと思います。当時はイギリスやアメリカのものをどうにか真似して、同じようにできたら評価されるという時代でもあったと思うんですよ。

―DJを始めたのは20歳を過ぎてからですか?

DJ KOO:見習いは18歳から始めていました。最初はディスコではなく、DJタイムのあとに歌謡バンドが演奏するような上野のパブでやっていました。その頃かけていたのは、ノーランズやアバなど、キャンディポップと呼ばれていた音楽ですね。

邦楽ご法度のクラブでJ-POPをプレイ。ディスコと盆踊りのステップの共通点

―1970年代後半から1980年代前半にかけてはサーファーファッションに身を包んだ若者たちが集う「サーファーディスコ」が一大ブームとなっていましたが、KOOさんが上野から移ったのは新宿のサーファーディスコの代表的なお店・B&Bでした。当時のサーファーディスコでは日本のレコードはかかっていたんですか?

DJ KOO:ほとんどかかってないですね。アース・ウインド&ファイアやクール&ザ・ギャング、レイ・パーカーJr.みたいなブラックコンテンポラリーが中心で、そこで日本の曲をかけるのはご法度なところがあったんですよ。でも、ぼくは海の感じがするから山下達郎さんとか、ラッツ&スターの“め組のひと”、杏里さんの“悲しみがとまらない”など、後にJ-POPと呼ばれるようなものをメインでかけていました。

杏里“悲しみがとまらない”

―フロアの反応はどうだったのでしょうか。

DJ KOO:それが良かったんですよ。あえて日本の曲をかけて外しちゃったらいちばんかっこ悪いパターンなんですけど、試してみたことで良い反応を得られたのはすごくおもしろかったですね。

―ディスコでは同じステップで踊る風習がありますよね。ひとつの型を踊り続けるという意味では、盆踊りとの共通点もあるんじゃないかと思うんですよ。

DJ KOO:たしかに。同じステップの繰り返しでずっとグルーヴしていくという意味では、盆踊りとの共通点はあるかもしれないですね、考えてみると。

―ちょっと余談になってしまいますが、ニック岡井さんやドン勝本さんといったダンサーの方々がそうしたステップの一部を考案される際、じつは盆踊りをヒントにしていたんじゃないかという説を聞いたことがあるんですよ。

DJ KOO:へえ、それはおもしろいですね。ぼくは知らなかったですが、前後に移動するハッスルのステップとか、たしかに盆踊りみたいな感じはありますよね。

日本のリズムへの偏見を払拭。和楽器で奏でられた“BOY MEETS GIRL”のビート

―同じステップで踊るからこそ得られる楽しさってありますよね。フリーで踊ることでは得られない感覚だと思うんですよ。

DJ KOO:それはもうナチュラルハイじゃないですか(笑)。ずっと同じことを繰り返すなかでだんだんと気持ち良くなっていくという。ぼくも子どもの頃、盆踊りで大人の真似をしているうちにいつの間にか何周も回っちゃってたことがあったんですよ。あれもナチュラルハイみたいなものですよね。

―知らず知らずのうちに身体が動いちゃう楽しさがありますよね。

DJ KOO:そうですね。ただ、サーファーディスコでDJをやっていた頃は、ディスコと盆踊りの共通性について考えることもなかったと思います。当時は盆踊りの音楽や日本のリズムに対して偏見があったんです。ドドンガドンっていう日本のリズムに対して「オンビートだからちょっとダサいよな」みたいな感覚がありました。

―その偏見がなくなったのはなぜだったのでしょう?

DJ KOO:いちばん大きかったのはTRFの“BOY MEETS GIRL”のレコーディングです。じつはあの曲のパーカッションって全部和楽器なんですよ。

TRF“BOY MEETS GIRL”

―そうなんですか!

DJ KOO:小室(哲哉)さんはあの曲で「大陸感」と「疾走感」を出したいと考えていたんです。トライバルな感じというか。それで小室さんが、1990年の映画『天と地と』の劇中音楽をやったときにお世話になった仙波清彦さんという打楽器奏者の方に来ていただいて、鼓(つづみ)や当り鉦(あたりがね)、締め太鼓を叩いてもらったんです。

それがデジタル音楽のなかでもグイグイくるし、1990年代のレイヴサウンドとぴったり合った。そこで初めて「日本の楽器ってすごい」と思ったし、偏見が完全になくなりました。

―トライバルな雰囲気を出すために鼓や締め太鼓をもってくる小室さんの発想力も凄まじいですね。

DJ KOO:そうですね。ぼくは小室さんがやっていたことを引き継がせていただいているという感覚もあるんですよ。

―近年の活動について話を聞かせてください。KOOさんの活動が盆踊りとリンクしたきっかけは何だったのでしょうか?

DJ KOO:2016年ぐらいかな、盆踊りDJみたいな感じで、「櫓の上でDJをやってくれませんか?」と依頼されたんです。それと同じ頃に、NameweeというマレーシアのYouTuberとコラボすることになって、“BOY MEETS GIRL”の盆踊りバージョンを一緒につくったことも大きなきっかけでした。ただ、いちばんは2017年に脳動脈瘤という大きな病気をしたことですね。

Nameweeとコラボレーションし発表した“BOY MEETS GIRL”

―ご病気がなぜ盆踊りへの熱量へとつながったのですか?

DJ KOO:もう助からないんじゃないかというぐらいの大きな病気だったんですけど、ラッキーなことに立ち直ることができたんですよね。それまでは「かっこいい音楽をつくるんだ」「かっこいいDJをやるんだ」という意識が強かったけど、これはもういただいた命なので、みんなが元気になってくれるようなことをやろう、それがぼくのライフワークなんだと思ったんです。

だから、声をかけてくれるのであれば、いままでやってこなかったようなゲームやアニメにまつわるお仕事もどんどんやっていこうと思ったし、盆踊りもやろうと。病気の前だったら、たとえオファーがあっても「それってできるの?」と思ったはずなんですよ。でも、みんなが楽しんでもらえるんだったらやっていこうというスタンスになりました。

盆踊りや日本舞踊のプロとのタッグ。互いに歩み寄りすぎないことの重要性

—そこから「BON DANCE」と銘打って、どんどん盆踊りの活動をされていきます。

DJ KOO:日本舞踊家の孝藤右近さんとやることになったUKOONというユニットや、中野駅前大盆踊り大会の代表を務める鳳蝶美成さんとの出会いも大きかったです。彼らとは「新しい盆踊りをつくっていこう」という話になって、TRFの楽曲で和太鼓とコラボすることになったんです。

そのときも和太鼓の奥深さをすごく感じました。美成さんと昔からやっていらっしゃる和太鼓奏者の方とご一緒したんですけど、味があってすごくいいんですよね。それとは対照的に孝藤右近さんとやるときは、いまの世代の太鼓奏者とやっています。

―和太鼓と一緒にDJプレイするときに気をつけていることはありますか?

DJ KOO:ちょっと専門的な話になりますけど、通常の音源よりもちょっと高音を高くするようにしています。和太鼓の人たちってハイハットの細かいフレーズに合わせて演奏するんですよ。普段であれば、鉦の高音ですよね。なのでDJミキサーでハイ上がりにすると叩きやすいし、そのほうが和太鼓の低音とうまく合うんです。

―孝藤右近さんは日本舞踊家でありながら、どんなコラボレーションでも日本舞踊の基本の型は一切崩さないというスタンスをとられていますよね。それを横で見ていて、何か感じることはありますか?

DJ KOO:そこはぼくも同じ意見。日本舞踊の型を無理に崩さず、そのままやっていこうというのは最初から話していました。伝えられてきた「型」にソウル、いまでいうバイブスが詰まっていると思うんですよ。そこでお互いが歩み寄りすぎて自分の型を崩すと、中途半端なかたちでまとまってしまう。

だからこそ、右近さんが従来の剣舞をやっている横で、DJセットからいろんなエフェクト音を出したりするんです。いまのデジタル機材を駆使した音の効果と日本の伝統、お互いが積み重ねてきたものが重なり合えば、もう怖いものなしですよ。

「きちっと踊れなくてもノれるのが盆踊りの楽しいところ」。“EZ DO DANCE”が盛り上がるのはなぜ?

―盆踊りや祭りの場でのDJは普段のクラブとは空間も客層も違うと思うのですが、どのようなことを心がけていますか?

DJ KOO:普段から「DJは何が大切?」って聞かれると「選曲」と答えます。やはり、みんなの気持ちがひとつになってピークを迎えられる選曲というのはクラブでも盆踊りでも大切だと思います。盆踊りは櫓でやることも多いので、踊りがちゃんと輪になるよう、気持ちがひとつになるよう心がけていますね。ただ、櫓の周りを回ってくれる人は回ってくれればいいし、その外側で縦ノリで楽しんでくれてもいいと思うんですよ。

DJ KOO:きちっと踊れなくてもノれて盛り上がれるのが盆踊りの楽しいところですから。昨日も京都のイベントでプレイしたのですが、昼間だったのでご家族連れがいっぱいいたんです。そのときの写真をSNSにアップしたら、遊びにきてくれた方がコメントをくれたんです。「コロナと子育てで疲れているけど、KOOさんが懐かしい青春の曲をかけてくれたので子どもと一緒にはっちゃけました。明日から頑張れます」って。

―それは嬉しいですね。

DJ KOO:嬉しいです。子ども2人を抱っこしたお父さんが楽しそうに揺れていたりしてね、ぼくもすごく楽しかったです。

―ところで、ぼくも中野駅前大盆踊り大会や神田明神納涼祭りでKOOさんのDJを拝見しましたが、“EZ DO DANCE”はどこでも盛り上がりますよね。しかも盆踊りの空間に不思議とハマる。その理由は何だと思われますか?

DJ KOO:やっぱり“EZ DO DANCE”しか勝たんですね(笑)。盆踊りのなかでもいろんな名曲がありますよ。1980年代以降であれば荻野目洋子さんの“ダンシングヒーロー”とか。そのなかでも“EZ DO DANCE”は結構強いですね。

あの曲は140BPMっていう結構速いテンポなんですよ。それぐらいのテンポっていちばんノリが周りに伝染しやすくて、広がりやすいんです。それに加えて、サビに行く前に合図のようなフレーズが入るので、準備ができる。サビは盛り上がれるし、みんなで楽しめる、盆踊りにうってつけの曲だなという感じはしますね。

TRF“EZ DO DANCE”

―“EZ DO DANCE”は歌詞も盆踊り的だと思うんです。<身体の芯まで感じる瞬間 / 時間の彼方ではじけるリズム>というフレーズがありますが、ぼく自身、伝統的な盆踊りを踊っていてもこうした感覚を覚えることがあるんですよ。

DJ KOO:ありがとうございます。じつはその歌詞、ぼくがロンドンで考えたんですよ(笑)。

―それは知りませんでした(笑)。“EZ DO DANCE”で爆発している人たちを見ると、日本人は踊るのが好きだし、踊らずにはいられない性質を持っているんだなとあらためて思います。

DJ KOO:日本人は特に勤勉だといわれるように、お仕事や勉強、子育てなどいろんなことに真面目に取り組んでいるからこそ、祭りという場で気持ちを解放したくなるのかもしれないですね。コロナ禍で祭りや盆踊りが以前のように開催できない現状もありますが、それぞれみなさんが気をつけながら感染予防をしているわけですよね。そのうえで毎日の生活のなかで「楽しむこと」を忘れちゃいけない。「楽しむこと」が明日への活力になると思っています。

ウェブサイト情報
まつりと 日本のまつり探検プロジェクト

全国各地の伝統行事等や民俗芸能がコロナ禍で大きな打撃を受けたなか、キヤノンマーケティングジャパンは文化庁からの委託を受けて、映像制作や写真撮影、オンラインによる情報発信、現地での運営サポートなどで伝統行事等をサポートしています。ウェブサイトでは、「日本の祭りを探検する」をテーマに、祭りや伝統行事等の魅力を多角的に発信しています。YouTubeチャンネルでは、伝統行事支援の一環として現地で撮影した動画をお楽しみいただけます。
プロフィール
DJ KOO (ディージェイ・コー)

1961年8月8日東京都出身。TRFのDJ、リーダーで、トータルCDセールスは2100万枚超。ソロとしては、「触れ合う人々をエネルギッシュに!元気に!笑顔に!」をモットーに、ダンスクラシック、EDM、J-POP、アニソン、ゲーム音楽まで幅広い音楽をDJスタイルにてプレイ。2017年より日本の文化である“お祭り”“盆踊り”とのコラボレーションを行い、国内外でエンターテイメント型ジャパンカルチャーを発信している。



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