なぜ『ファイナルファンタジーXIV(FF14)』は熱狂を生むのか。「失敗作」という酷評からゲームの枠を越えた人気作になるまで

1月7日〜8日、オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)の開発チームとファンをつなげるイベントが東京ドームで開かれた。2019年以来4年ぶりとなるリアル開催は過去最大規模の会場で実施され、数多くのプレイヤーが国内外から集い会場を揺らした。

累計登録アカウント数が3,000万人を突破し、『ファイナルファンタジー』シリーズのなかでもトップクラスの人気を誇る『FF14』だが、2010年の発売当初は「失敗作」と世界中から酷評を受けた。

ファッション誌『VOGUE JAPAN』とのコラボ企画や、同作から誕生したバンドTHE PRIMALSの活動、同作を題材にしたドラマ『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』(2017年放送)が話題となり劇場版もつくられるなど、ゲームの枠をこえて多くの人を熱狂に巻き込む『FF14』。その軌跡と画期性について、ライターの沢畑崇之に綴ってもらった。

現実の社会活動をオマージュしたゲームジャンル、「MMORPG」とは?

読者の皆さんは、ゲームで遊ぶ人たちが集まるコミュニティと聞いて、どのような光景を思い浮かべるだろう。「盛り上がるゲームセンター」だろうか。それとも「室内で友達とゲームに興じる人たち」だろうか。これらの光景は両者ともに、ゲームという遊びを語るうえでは欠かせないものだ。前者は国内eスポーツシーンにおける礎の1つであり、後者は現代におけるストリーマー文化の根源となった。

このほかにも、ゲームとそれを取り巻く人々の姿にはさまざまな形態が存在しているが、なかでも特徴的と呼べるのは、「MMORPG」というゲームジャンルの界隈である。

「MMORPG」とは、その名のとおり「MMO(数百万人のプレイヤーがゲームに同時に参加し続けながら遊ぶデザイン)を採用したロールプレイングゲーム」のことだ。

俗に言う買い切り型(ゲームに終わりがある形)ではなく、サービス運営型の形をとり、ゲームルールの希薄さや、プレイヤー間のコミュニケーションを重視したコンテンツの提供を特徴としている。

例えば、「敵を倒す」という1つの目標を達成するにしても、顔も見えない大勢の人たちと連携を取る必要がある。そのうえで競争をしなければならない場合は、他人を出し抜いたり、逆に多人数から敵視されないような立ち振舞いが求められる。これらは現実でも求められる所作であり、要するにMMORPGとは我々の社会活動をオマージュしたゲームジャンルなのだ。そのため必然的に、作品ごとに異なる独自の文化と呼べるものが立ち上がってくる。

ゲームのなかに拡張される人間社会の面白さ。一方で課題も

プレイヤー同士が闘うゲームであれば、「傭兵」のような攻略の代行業をする人たちや、初心者をサポートする自治組織のようなグループが自然と生まれるだろう。ゲーム内に道具や通貨をやりとりする機能が存在するならば、擬似的な企業を作り上げ、独自の経済圏を成立させる人たちもいる。プレイヤーのアバターの見た目を自由に変えることができるならば、服飾の流行が生まれたり、モノづくり機能と合わせてファッションブランドをつくったり、なかにはチャットを通じた疑似恋愛を提供する人たちもいる。

現実に起こっていることはだいたいゲーム内でも起こっている。ゲームプレイの中で必然的に発生する、密なコミュニケーション体験を通じ、プレイヤー同士が無二の親友となったり結婚するに至ったりすることが、たびたびニュースで取り上げられることもあるが、それだけがこのジャンルの魅力ではない。スクリーン越しに拡張された現実のなかにある、人間社会の再発見であり、人間讃歌。それがMMORPGの面白さなのだ。

だが、MMORPGを取り巻く現状は決して良いものとは言えない。降って湧いた「メタバース」の宣言のもと再注目されているゲームジャンルではあるものの、そもそも見ず知らずの他人と協力して遊ぶこと自体にハードルの高さがある。

さらに、激しくなる可処分時間の争奪戦、SNSが普及することによる交流手段としての優位性の低下など、人間社会をオマージュしているゲームデザイン……何をとっても時間をかけて積み重ねていくゲームデザインが、現状の人間社会に噛み合っていないのである。

また、昨今プロモーション方法として一般的になったゲーム配信にも、つきまといやストーカーなどの被害が発生しやすいという問題が起きている。宣伝活動が難しいゲームジャンルでもあるのだ。

いまもなお人気を誇るMMORPG、『FF14』

そんななか、いまもなお高い人気を博しているMMORPGがある。それが『ファイナルファンタジーXIV』だ。(以下『FF14』と表記)

サービス開始から10年以上の歴史を持つ本作は現在、世界で3,000万人を超えるプレイヤー数を抱えるに至っている。2024年1月7日、8日にはプレイヤー向けのオフラインイベント『ファンフェスティバル2024in東京』が東京ドームにて開催され、世界中からプレイヤーが集合し、大盛況のもと幕を閉じた。

ここまで目を通していただいた読者のなかには2つの疑問が湧いたことだろう。「なぜ『FF14』は人気なの?」。そして「オフラインイベントって何?」という疑問だ。

まず、「なぜ『FF14』は人気なのか」ということについては、物語体験を中心とした1人でも楽しめるコンテンツの充実や、他人と競争するコンテンツがほとんどないこと、最新コンテンツに初心者でも追いつきやすいことといった、良くも悪くもゲーム体験のカジュアル化をほかのMMORPGよりも押し進めていることが要因として考えられる。

1分でわかる 「ファイナルファンタジーXIV」-無限に広がる 冒険の世界- - YouTube

しかし、筆者としては「プレイヤーたちが互いに親切である」「ゲーム体験を盛り上げようと自主的に連携するユーザーが非常に多い」ことが大きいと考えている。正直なところ、『FF14』は体験のカジュアル化を積み重ねているものの、人間関係の構築をはじめ、何事も時間と労力をコツコツと積み重ねる旧来のMMORPGらしいゲームデザインを完全に克服するまでには至っていない。タイムパフォーマンスという言葉が巷を席巻する世情に合致した体験を提供できているとは言えない。

しかしながら、いちいちソフトウェアを立ち上げる手間をかけてでも訪れたい、いや、定期的に帰りたくなる世界を、長い時間をかけて醸成することに成功している。

「失敗作」と酷評を受けた『FF14』が人気作になるまで

『FF14』がこれまでに歩んできた道のりは、まったく持って平坦なものではなかった。

サービス開始時には「失敗作」と世界中から酷評を受け、サービスを継続させながら、サービス全体のリメイクを行なう運びとなったのだ。このような状況下にあっても、ゲームを遊び続けてくれるプレイヤーはいた。そして開発陣もまた、彼らの姿勢に対し真摯に、誠実に向き合おうと試みた。

開発陣からのプレイヤーへのメッセージである「プロデューサーレター」。それを生放送化することにより、ユーザーと開発陣のリアルタイム・コミュニケーションを可能にした「プロデューサーレターライブ(PLL)」は現在でも行なわれている交流活動の1つである。

YouTubeで配信された「第79回FFXIVプロデューサーレターLIVE / FFXIV Letter from the Producer LIVE Part LXXIX」

開発陣には「ゲームを楽しみたい」というプレイヤーたちの熱量が伝わり、プレイヤーに対しては「より良い体験を提供したい、FF14を維持したい」という開発陣の誠実さが伝わる。何年も繰り返されたコミュニケーションは「ならばその想いに応えよう」という人情を互いの間に育んだ。ゆっくりと、そしてじっくりと。

VOGUEとのコラボ企画など、ゲームの枠に収まらない広がり

大失敗のあとに10年以上の歳月をかけてつくり上げられた開発陣とプレイヤー間の信頼関係は、極めて遊びやすいMMORPGという評判の成立だけでなく、『FF14』の世界に、ゲームの枠に収まらない大輪の文化の花を咲かせるに至る。

例えばファッション。本作にはさまざまなデザインの防具や衣服が存在し、着用にあたって重さなどの身体的制約がない。そして写真撮影機能が充実していることから、ゲーム内でのオシャレが非常に盛んである。夏には水着や薄着を着て、秋から冬にかけては厚着をするというシーズナルな移ろいもある。SNSを覗けば、数多くのプレイヤーが「自撮り」をアップロードしている姿が確認できるだろう。なかにはファッションカタログや、ファッション誌を自主制作する人もいる。コスプレイベントの際に「自分の分身」のコスプレをする人もかなり多い。果てはファッション誌『VOGUE』とのコラボ企画として、コーディネートイベントが開催された。

「VOGUE JAPAN×ファイナルファンタジーXIV」のコラボ企画で実施されたコーディネートイベントの動画

音楽の分野では本作のサウンドディレクターである祖堅正慶氏を中心に、2014年に結成された同作のオフィシャルバンドTHE PRIMALSの活躍や、オーケストラコンサートの開催が目立つが、動画配信サイトにゲーム内楽曲の演奏をアップロードする人は数多い。

ゲーム内でも楽器演奏機能を活かした楽団活動に勤しむプレイヤーたちや、路上ライブを行なっている人が観られる。フェンダー創立75周年の特別企画として制作、販売されたコラボギターがゲーム内にも実装され、演奏可能になった際には大盛りあがりであった。

THE PRIMALS “ローカス ~機工城アレキサンダー起動編~”

このほかにも、ゲーム内で寄席を開催する人や祭りを企画する人、家を建てる機能を使って並木道を形成する人たちや、キャラクターの感情表現機能と生配信サービスを組み合わせて定期的に自主制作番組を作る人達もいる。

MMORPGが社会活動の面白さを表現するゲームであるがゆえの、「現実拡張」とも呼べる文化現象は、『FF14』でも凄まじい熱量を伴いながら発生している。

ゲーム世界を現実に再現したイベント『ファンフェスティバル』の意義と可能性

先日開催された『ファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル2024in東京』はこうしたムーブメントの延長線上にあるイベントだ。

企画概要だけを見ると「新商品の発表およびトークショー」そしてライブパフォーマンスを中心とした内容であり、現地の模様が中継されることも相まって、どうして世界中から人が集まるのか理解できない人もいるだろう。

だが、このイベントの本質はそこではない。集まってコンテンツを楽しむという行為そのものに意味がある。なぜならこの行為は、プレイヤーが普段ゲーム内で楽しんでいることと同じだからだ。東京ドームを各国の人が埋め尽くす風景は、作中の都市でプレイヤーたちが交流する風景の再現であり、他人と協力して楽しむ体感型アクティビティは普段プレイするコンテンツの再現である。

MMORPGの特性である「現実の拡張」を逆転した形であり、『FF14』が現実に発生したイベントであると表現できる。また、このイベントは開発陣とプレイヤーの信頼関係が強固であるがゆえに成立していることにも注目しなければならない。

本イベントのコンセプトが『FF14』の現実再現である以上、作中世界が普段から安全かつ盛り上がっていなければ成立し得ない。開発陣とプレイヤーの間に『FF14』を盛り上げるという共通の理念が形成されているからこそのイベントなのだ。

©SQUARE ENIX
©SQUARE ENIX
©SQUARE ENIX

2日目には、お笑いコンビ・マヂカルラブリーの野田クリスタル、声優の潘めぐみ、KADOKAWA シニアアドバイザーの浜村弘一が『FF14』プロデューサー&ディレクターの吉田直樹とトークを展開した「直樹の部屋」が実施された。

振り返れば、昨年は「メタバース」という言葉が明確な定義もなく、ふわりふわりと地に足をつけずに漂った一年だったように思える。そんななかで『FF14』は「メタバース」の成功例であると言われることもあるが、思うにその成功は、何度も言うが開発陣とプレイヤーが10年以上の歳月をかけて築いた信頼関係の賜物だ。

MMORPGとは社会活動をオマージュしたジャンルであると先述したが、社会をつくるのは人であり、彼らに共有された想いである。開発陣とプレイヤー、両者がともに聞いて、感じて、考えて、歩みを止めなかったがゆえに、安易に真似されることのない、唯一無二の魅力を持つに至ったのだ。

ここまで目を通して頂いた読者の中には『FF14』のプレイに興味を持った方もいるだろう。幸いにして本作にはゲーム中のコンテンツの大半を無料で遊ぶことができる「フリートライアル」が用意されている。ぜひ臆さずこの世界に踏み込んで欲しい。温かくも面白いエオルゼアの大地があなたを待っている。

作品情報
『ファイナルファンタジーXIV(FF14)』


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