『光る君へ』紫式部役の吉高由里子にインタビュー。まひろにとっての「道長の存在」とは?

NHKで放送中の大河ドラマ『光る君へ』。

平安時代の変わりゆく世で、変わらぬ愛を胸に懸命に生きる紫式部の姿を描く同作もいよいよ後半となり、ついに『源氏物語』の執筆に突入する。

物語が山場を迎えるなかで、紫式部(まひろ)役を演じる吉高由里子に合同インタビューを実施。まひろと道長の関係性の変化や、吉高のまひろに対しての想い、撮影が進むにつれて吉高が実感した成長と後半での挑戦などについて話を聞いた。

まひろにとっての「道長の存在」とは? 変わったことと変わらないこと

─まひろにとって道長は「生涯のソウルメイト」といわれていますが、吉高さんにとってソウルメイトとはどんな存在だと思いますか。

吉高:道長とまひろはもう恋愛を超えている次元なので、戦友とかでもないですし、たぶん拠り所なんですかね。光と影の存在のような。まひろが影の部分のときは道長が光っていて、まひろが光るときは道長が影で支えてくれてという関係じゃないかなと思いました。

─物語を書いてほしい紫式部に頼んだ道長には政治的な思惑もあり、ここから二人の関係はまた変わっていくと思います。二人の関係性で変わったことと変わらないことをどのようにお考えですか?

吉高:これまでは二人が同じ空間にいるということがあまりなかったじゃないですか。二人が一緒にいられる空間になって、すごく近いのにすごく遠い関係にもなってしまって。藤壺に出仕する前のまひろと三郎のときのほうが、遠い身分だけど近かったような。でもやっぱり惹かれ合っているのは、ずっと変わらないんだと思うんですよね。

まひろは道長のことをずっと思っていると思うし、思っている気持ちが爆発しないように一生懸命自分で蓋をして、自分で距離をとっている、という気持ちだ思います。一緒に戦う二人としてはすごく心強くて、生きがいなんじゃないかなと思ってます。二人がどうなりたいこうなりたいとかじゃなくて、(お互いが)生きていることが自分の生きがいで、この世にいる理由という感じがしました。

─史実では紫式部の子どもは道長との子ではないですが、吉高さんはどう受け止めていますか?

吉高:人間ですからね。そういうこともあるんじゃないかなと。不倫不倫と騒がれる世の中になって、平和であるためにあるルールもあるけれど、自分の感性の豊かさを削っていくものなのかなとも思っちゃって。

当時は感性がむき出しに先行していた時代で、それはそれで美しいんじゃないかなとは思います。

吉高が考える「紫式部が自分のために書こうと思った理由」

─8月25日放送の第32回は、帝のために物語を書いていたまひろが自分のために書くことを決意する節目の回です。吉高さんは、なぜ紫式部が自分のために物語を書こうと思えるようになったと思いますか?

吉高:帝のために書いた物語が偽物っぽく感じたんじゃないかなと思います。自分のなかでの違和感というか、むしろ私でなくても書けるんだったら……みたいになっちゃったんだと思うんです。途中で書き方とか向き合い方を変えていったらもう帝のための物語でもなくなっちゃって、自分が面白い物語を書きたいと思ったんでしょうね。

作家さんが書きたいという気持ちにたどり着くのはすごく大変だと思うのですが、書きたい気持ちがあっても書きたいものが明確にならないと書けないじゃないですか。まひろはそこでバチッと何かに出会ったんじゃないかなと思っています。

─第32回には、父に「女で良かった」と言われたまひろが感動するシーンがありますが、どのような気持ちで演じましたか?

吉高:あそこはすごく大事だと思います。32回分やってきて「お前が男であったらな」としか言われてこなかったまひろが、一番自分の術を認めてもらいたい人がお父さんだったと思うんですよね。物語や文学で一番認めてもらいたい人に「お前が女であってよかった」って、やっと生まれてきてよかったと思えた瞬間なんじゃないかなと。すごく大きい大きい一言だったと思いますね。

─『源氏物語』は女性としてだからこそ書ける文学なのでしょうか?

吉高:紫式部が生きてたら聞きたいですよね。でもそうなんじゃないんですか? 女性としての視点から見ていて、政をやってる人からは見えない状況や関係性もあったと思うので。男性版紫式部が書いたらまた全然違う話になっていたと思うし、女性ならではのものなんじゃないかなと思いました。

─まひろはなかなか結婚しなかったり、仕事をしたいと思ったり、平安貴族の女性のなかでも異質な存在であるように感じますが、吉高さんはまひろについてどう思われますか?

吉高:自分を見てるようですよね。家庭に入るのか入らないのかみたいな、女性って1回その波が来ると思うんですよね。だけど仕事を選んだ結果、結婚する想像をしなくなったりとかして。

まひろは結婚してないから幸せじゃないとか、結婚してるから幸せだとか、そういうものにとらわれないというか、そこがすべての幸せじゃないような感じがしていて。仕事が楽しいというのもあったと思いますし、まだ居場所があるからかもしれないですね。

私はそういうまひろを見て、なんでだろうとも思わなかったです。結婚しないのかとも、仕事をいつまで続けるのかとも思わないで見ていました。当時の当たり前はわからないですが、いまの令和の時代でも当たり前は変わってきてますからね。

母親役を演じる難しさと、後半の新たな挑戦

─撮影が進んだいま、当初と比べての変化などはありますか?

吉高:目で見てわかる成長は「書」かなと思いますね。作品が始まる半年以上前から、コツコツ練習してきましたが、第2回で10代のまひろが書くシーンがいっぱいあって、目も当てられない字だったと思います。いまは37〜42歳までの年齢をやっていますが、役と一緒に吉高も成長したと言われているので、向き合う時間だけ、ちゃんと答えてくれるものだと思いました。

─まひろとして文字を書いていたときと、紫式部として『源氏物語』を書くときで、字や書の練習に変化はあったのでしょうか?また、書道指導を担当した根本知先生からアドバイスはありましたか?

吉高:まひろはかな文字が中心で、道長との文通では漢字を使っていました。『源氏物語』は漢字もかなも両方出てきますし、変体仮名も出てきます。集大成が始まるという感覚がありますね。

書き続けるとその人の字の癖とかも出てくるみたいで、根本先生はそれも理解したうえで「こっちのときのほうが相性良かったね」とか「ここはこういうふうにあえてやってみよう」とか組み合わせて字を考えてくださるので面白いです。ゴルフのキャディみたいですね。

書ってすごく孤独なんです。練習時間は膨大なのに文字を書く様子を撮影する時間は30秒もしないうちに終わってしまったりとか。根本先生は練習している時間の孤独さを一番わかってくれていると思うので、相棒感が強いというか、一緒に挑戦している感じが嬉しいですね。

─10代から始まり、母親となるまでの幅広い年齢を演じる難しさはありますか?

吉高:子供とぶつかったり、思春期を迎える娘と急に仲良くなったり、そういう家族の距離感が難しいです。自分はまだ娘という立ち位置しか人生の中では経験したことがないので。

今回は異例だと思いますね。ドラマってすごく仲の良い親子が多いじゃないですか。今作は名前で呼び合うような感じではなくてリアルだなと。ぶつかりあったりとか口きかないとか。娘と会話がないのに娘と2人のときのセリフに「……」が続くみたいな台本もあまり見たことなかったので、面白いなと思ってます。

─ドラマの前半では書や乗馬などに挑戦しましたが、後半ではどんなことに挑戦しているでしょうか?

吉高:子供との向き合い方ですかね。子供を育てるのも初めてですし、父の藤原為時と自分が同じことをしているというような連鎖もあると思います。自分だけのことだったら「できる」「できない」の理解もあるけど、人と人となるとなんでこうなるんだろうと。

あとは作家として、物語が思い浮かぶときの筆が踊るように書けるみたいなスピード感がある自分と、思い浮かばない苦しい自分という悩みが出てくると思います。



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