キャリアも家庭も諦めたくないすべての人へ送る。ラッパー・Charluの子育てと音楽の話

一般には無名の存在だったが、2024年にABEMAで放送された『ラップスタア誕生!』で一躍注目を集め、翌年には日本最大級のHIP HOPフェス『POP YOURS』に出演。シングルマザーという背景を持ちながら、HIP HOPドリームを掴んでいく姿が、多くのリスナーの共感を呼んでいる。

中でも印象的なのが、まるで子どもに語りかけるようなリリックが心に残る楽曲“My Verse”。「素晴らしい世界だって伝えたい YouTubeからじゃなく私から君たちへ」「ワクワクなビジョンを 死ぬまで見せたいんだ君らに」——。

HIP HOPの歌詞でよく出てくる、ドラッグのことでも、ストリートのことでもない。等身大な言葉たちが、「キャリアも母親であることも、どちらも諦めたくない」多くの人の胸に突き刺さる。

では、Charluはどうやって「母」と「ラッパー」という二つの顔を両立させているのだろうか?出産をきっかけに女性のキャリアが止まってしまう社会で、彼女の言葉から、何かヒントが見つかるはずだ。

家庭とともに歩き始めた、ラッパーとしての作品づくり

ーまず、いつから音楽をはじめましたか?

Charlu:2014年頃から始めたんですけど、本格的に楽曲をリリースし始めたのは、子どもを産んだあとの2018年頃だったと思います。それ以前にも少し曲を出したことはあるんですけど、CDに焼いてストリートで売る感じだったので、あまり記録にも残っていないんですよね。

ー作品をリリースしなかった理由はなんですか?

Charlu:昔はとにかくフリースタイルばっかりやってたんです。下手だったんですけど、先輩たちのなかに混ざって、みんなで集まってひたすらセッション、みたいな感じでした。雪が降っても雨が降っても、とにかく毎日やってました。本当に熱量はすごかったです。ただ、作品として形にはなってなかっただけで。

ーいまではさまざまな楽曲をリリースされていますが、家庭もあるなかでどのように時間を作っているんですか?

Charlu:まず、私は本当にタイムスケジュールが下手なんですよ。「この空いた時間でちょっと書こう」みたいなことがなかなかできなくて。一度集中モードに入ると、ご飯をつくることすらできなくなっちゃうんです。だから一回作業が中断されると、もう全部リセットされちゃって、またゼロからになっちゃうんですよね。気づいたらキッチンの前で座り込んで考え込んでたりして...…。ただ、いまは子どもが学童保育に行っているので、帰ってくる17時頃までに打ち合わせしたり、レコーディングしたりしてますね。

2人の子どもを育てながら、アーティストとして生きる難しさ

ーお子さんが生まれてから作品を作り始めたということですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

Charlu:毎週フリースタイルをやっていた頃に、DJ SIONさんが「Charluのアルバムが聴きたい」って言ってくれたんです。でも当時は、何をどうすればいいのか全然わからなくて……。いろいろと手伝ってもらって、サポートしてもらって、DJ SIONさんが形にしてくれたんです。

ーそうだったんですね。でも一方で、お子さんが生まれた頃って、子育てもすごく大変だったと思います。

Charlu:そうですね……。忙しすぎて記憶があまりないんですが、最初はばあばの家にお世話になっていて。二人子供がいるんですが、下の子が1歳くらいのときに、子ども2人と3人で暮らし始めたんです。

うちは子どもが1歳差なので、公園に連れて行くのも大変でした。特に出口が2つある公園なんかは、2人が違う方向に走っていってしまって......。小さい頃は目を離せないから、もうヘトヘトでした。

そういうときは家族に助けてもらって、いろいろサポートしてもらっていて。だから、たぶんお出かけの回数は少ないほうだと思います。でも、子どもたちは外に出るのが好きなタイプなので、申しわけない気持ちでした。

ーそんな大変だった時期の、音楽との関わり方はどうでしたか?

Charlu:曲を作っていた記憶はあるけれど、どのレーベルにも所属していなかったですね。下の子が生後4か月のとき、2人とも保育園に入れていて、最初は認可外の保育園に預けていたんです。でも、やっぱりすごく月謝が高くて……。働いても家計がマイナスになるくらいでした。それでも、少しでも収入を得なきゃと思って、当時はパートで働いたりもしていました。

ーどれくらいの時期から本格的に音楽活動ができるようになっていったんですか?

Charlu:掌幻さんという一緒にフリースタイルをやってた先輩に誘ってもらって、事務所に入ることになったんですけど、そこで楽曲を出すことができたんです。

その時期はだいたい5年前の2020年で、上の子が3歳のとき。子どもが大きくなってきたということもあるけれど、レーベルに入ったことがすごく大きくて。お金がなかった自分にとって、金銭面でサポートしてもらえたのは本当にありがたかったです。レコーディングスタジオや、MVの制作における費用ですね。

当時はMVの仕切りを自分でやってたんですけど、あれって本当に大変で。「監督さん、こういう人どうですか?」とか「こういう世界観でやりたいです」みたいに考えるのって、めちゃくちゃ労力がかかるんですよ。

MV制作が始まると、もうそのことしか考えられなくなる。予想外のトラブルが起きたときの対応も大変です。最初はレーベルの社長の知り合いのカメラマンにお願いしてたんですが、HIP HOPをちゃんと撮れる人じゃないと難しいってわかった。やっぱり音楽が好きな人じゃないとダメで、ただ「カメラが回せる」ってだけじゃ足りないんだなって痛感しました。

『ラップスタア誕生!』が開いた、次のステージへの扉

ーそういった状況が一変した、一番のターニングポイントはありましたか?

Charlu:『ラップスタア誕生!』っていうHIP HOPのオーディション番組に出場して、そこで一気に風向きが変わりましたね。

ーこの番組からは多くのスターが輩出されていますよね。そもそも応募しようと思ったきっかけを教えてください。

Charlu:正直、これまでアーティストとしてなかなか目が出なかったんですけど、ラップには自信がありました。もっといろんな人に見つけてほしいと思って応募を決めたのですが、『ラップスタア誕生!』は若い参加者が多く、正直めちゃくちゃ緊張しましたね。

あと、「自分が審査されるのか……」って構えていた部分もあったんですけど、そんなことよりも「誰でもいいから、とにかく私を見つけてくれ!」って気持ちでした(笑)。もうこれに賭けるしかない、そんな気持ちでしたね。

―そこからいまのレーベルに入って、状況が少しずつ好転していったんですね。『ラップスタア誕生』を観ていて、“My Verse”は子育て中の人にすごく響く曲だと感じました。HIP HOPでは子育てを真正面から歌う曲は少ない印象があるので、あの曲を出すのは勇気のいることだったのではないかと思うのですが、その点についてどう感じていますか?

Charlu:まず、この曲は番組のファイナルステージで作ったものでした。番組では3曲くらい作る機会があって、勝ち上がるためには、決められたビートで曲を作らなきゃいけないんです。

この曲に関しては、キャンプ形式での最終審査で、たった1日で1曲作らないといけない状況でした。でもそのとき、もう何を書いていいかわからなくなっていて。しかも前日、渋谷でライブがあって、そのあと朝9時に新宿集合だったので、ほぼ寝ずに挑んだんです。「ヤバい、一日しかない。座ったり、ご飯食べたら寝ちゃう」と思って、めっちゃ美味しそうなご飯も我慢して、必死で作りました。

そんななか、サプライズでKMさんとSEEDAさんが来てくれて、アドバイスをもらったんです。私の家庭のことってハードなことも多くて、なかなか人に言えないし、自分一人のことじゃないから、歌詞にするのもどうなんだろうって迷ってました。子どものことも含めて、リアルな部分を出していいのかって。

でも、SEEDAさんに「Charluさんにしか書けないことがあるし、今日じゃなくても、そんな歌詞で救われる人は必ずいる」と言われて、ハッとしたんです。KMさんにも「楽しんだほうがいいよ」って言われて。そこから、やっと書けそうって気持ちになって。でも睡魔とも戦いながら、すごく悩んで、時間ギリギリで、ようやく完成させた曲でした。

―本当に、家族を持っているすべての人の心を揺さぶる曲だと思います。

Charlu:“My Verse”も“GIRI”も、子育てのことをそのまま歌っていて。もう、逆に言えばそれしかないというか――遊びにも行かないし、生活そのもの。

だからこそ、最初は「こんな生活のこと、言っていいのかな」って正直ちょっと怖さもあったんですけど、でも思いきって出してみたら、ちゃんと受け止めてくれる人がいた。それで、「あ、言っていいんだ」「出してよかったんだ」って思えました。

曲を聴いて、久しぶりにDMくれた人もいたんですよ。たぶん「忙しくて大変そう」って心配してくれたんだと思うんですけど……でも実際は全然そんなことなくて(笑)。「そんな心配させてごめん!」って気持ちにもなったし、逆にすごく励まされましたね。

ーやっぱり反響を感じたんですね。

Charlu:そうなんです。全部が初めてでした。

―『POP YOURS』にも出演されて、キャリアもすごく良い流れに乗っていると思います。この状況をつかめたのは、「これを頑張ったから」っていうような何かがあったのでしょうか?

Charlu:うーん、正直、「これを頑張ったからこうなった」っていうのはあんまり自分ではわかってなくて。いまお世話になっているレーベルの方が、つぎのステップを示してくれているから、そこに向かえてる感じです。

私自身は「何をがむしゃらに頑張ればいいのか」まだよくわかってないし、オファーが来たら基本全部受けちゃうタイプで。でも、「いまはアルバムに集中する時期だよ」とか、「『POP YOURS』に向けてライブを磨いていこう」とか、そういうふうに整理してくれる人がいてくれるのが、ありがたいんです。自分でいまがどんな時期なのか見えないと、ブレちゃうから。アルバムが終わったら、次はワンマンもやりたいし、そういう「次の夢」を持たせてくれる存在がいるのは、本当に心強いですね。

不器用でも、自分らしく生きていきたい

―ありがとうございます。少し話が戻るんですが、出産の時期ってやりたいことやキャリアが一度止まってしまう時期でもあると思うんです。やりたくてもできない、葛藤みたいなものはありましたか?

Charlu:音楽ができなくて葛藤するとか、そういうレベルじゃなかったんです。もう、生きるか死ぬかみたいな感覚で。辞めたつもりはなかったけど、「いまは家庭をどうにかするしかない」っていう状態でしたね。

子どもが生まれたばかりの頃は、音楽すら聴けなかったです。テレビも教育テレビしか見られなくて、時間的にも精神的にも、それ以外の番組は頭に入ってこなかった。
あ、『ヒルナンデス!』だけは見てました(笑)。「美味しそう~」とか思いながら。ずっと子どもと一緒にいて、まだ保育園にも預けられなかったので、「とにかく今日という1日を終わらせる」っていう感覚。

だから、ベビーカーで子どもを連れて、スーパーによく行ってましたね。私自身、外に出たかったし、それが唯一の楽しみだったんです。

ーちなみに東京って児童館はあんまりないんですか?

Charlu:ありましたよ。子育て支援センターとか、行ったことはあるんですけど……。ママさんと「パパはどうしてるの?」みたいな会話になるのも嫌だったし。

しかも当時、妊婦だったので体もしんどかったし、その状況で「父親がいない」なんて、周りは思わないじゃないですか? だから、逃げてたのかもしれないなって思います。全部の質問にちゃんと答えられない自分が、ヤバいやつみたいに思えてきちゃって。だから、いつも表面的な会話だけして、そそくさと帰ってました。正直あまり行きたい場所ではなかったですね。

ー仕事と家庭の両立って、いつも女性や女性アーティストに求められることが多い気がします。子育てしている男性に対して思うことはありますか?

Charlu:ママとパパの子育てには違いがあって、だからこそ「ママにはこうしてほしい」といった対話が大切だと思います。強いママに無理に合わせる必要もなく、対話を重ねていくことが重要だと思う。

いまは私もパートナーと教育方針について真剣に話し合っていて、ときには喧嘩になることもあります。過去にはシングルマザーとしての罪悪感から甘やかしていたけど、話し合いや子どもたちの変化を通じて、それが子どものためにならないと実感したんです。教育方針を少し変えるだけで、子どもは驚くほど成長するんですよ。

―最後に、子育ても仕事も、自分のやりたいことも、全部を大切にしたいと思っている人がこの記事を読んでいるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?

Charlu:私、部屋めっちゃ汚いし、自炊も頑張れる日と無理な日があるし、本当にやばいですよ(笑)。でも、そういう状況だからこそ、音楽も中途半端にできないって思えてて。もし私が一人だったら、たぶん子どもを食べさせなきゃっていう意識もなくて、もっと遊んでたし、寄り道もしてた人生だったと思う。だから逆に、「子どもがいる状況」って、すごくありがたいなって思えるんです。仕事も、ちゃんと頑張らなきゃって思える。

よく「バランス」って言うけど、私はそのバランス取るのが無理で。仕事になったら仕事に100%、子どもといるときは子どもに100%尽くしたい。どっちも卒なくこなすより、全力でやるほうが自分には合ってるし、そうじゃないと自分じゃないなって思う。

だから、うまくやろうとしすぎなくていいと思うし、自分のスタイルでやっていけるって信じていいと思います。

作品情報
Charlu New Single “星に願う” (Prod. JIGG)”
2025年8月6日リリース
作品情報
Charlu New Single “My Basket” (Prod. JIGG)”
配信中
プロフィール
Charlu

東京都品川区出身のラッパー。二児を育てる母としての顔を持つ。MCバトルで培ったリリックセンス、幅広い楽曲を乗りこなすラップスキル、力強く暖かみのある天性の歌声を兼ね備えフィメールラッパーの新たなアイコンとして国内外から注目を集める。2024年、オーディション番組「ラップスタア誕生」に出演し披露した楽曲“GIRI”、“My Verse”が審査員の高い評価を受け、敗者復活枠でファイナルステージへと進出。ファイナルステージでは熱量溢れる圧倒的なライブでクラウドを熱狂させ、パフォーマンス部門1位を獲得した。その後、アメリカの“On The Radar Radio”に初の日本人アーティストとして出演し、自身の楽曲“Moonlight”と“HIP ATTACK”を披露する。8月より、日本全国を巡るクラブツアー「Perfect Night Tour 2024」を敢行。12月、新たなEP“After Dark”をリリース。2025年5月、日本最大級のヒップホップフェスティバル「POP YOURS」にてパフォーマンスを披露。8月に最新シングル“星に願う”をリリース。



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