マイナビが運営するアートスペース「マイナビアートスクエア」が学生を対象にしたアワードを主催し、ファイナリスト作品が、9月27日(土)まで展示されている。東京・東銀座の歌舞伎座タワーで開催中の展覧会のタイトルは、『空へと / In Motion with the Sky』。
「形式やジャンルにとらわれず、新たな視点をもつ学生の作品や活動を称える」と銘打たれた本アワード。アーティストを目指す大学生のみならず、新しいアイデアをもった高校生以下も対象にするなど、ジャンルレスで多くの人に開かれた賞であることが特徴だ。

さらに、マイナビアートスクエアは、Podcast番組『アートの交差点』も配信。アーティストだけでなく、編集者や芸術監督、研究者などをゲストに招くことで、アートに関わるさまざまな職業を紹介し、視聴者にキャリアの選択肢を考える機会を提供している。
そもそも、なぜマイナビがアートに力を入れているのだろう? ファイナリスト展の様子やアワードに集まった作品、そしてマイナビが今後アートを通して実現したいことについてレポートする。
『マイナビアートスクエアアワード』とは? ジャンルレスな賞に集まった「いまの時代」だからこその作品
今年初開催となる『マイナビアートスクエアアワード』。
就職活動を支援するマイナビがアートにも領域を広げ、若年層の創作活動を後押しすることを目指して創設されたアワードだ。

『空へと / In Motion with the Sky マイナビアートスクエアアワード2025 ファイナリスト展』
特徴はなんといっても、応募対象を「学生」に限定していることだろう。大学生だけではなく高校生以下の部門も設け、中高校生から50代の学生まで、170点以上の応募があったという。
作品の形式やジャンルは問わず、評価するポイントを「未来を志向した独創性と表現力」に置いていることも印象的だ。審査員は木村絵理子、ドミニク・チェン、山本裕子が務め、バリエーションに富んださまざまな作品を審査したという。
現在マイナビアートスクエアでは、本アワードの最終選考に残ったファイナリストの作品が展示されている。ファイナリストに選ばれたのは以下の4名だ。
◆大学生部門
江口湖夏(東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻 修士課程)
島田清夏(東京藝術大学大学院 美術研究科 美術専攻 後期博士課程)
◆高校生以下部門
朝田明沙(横須賀学院高等学校)
村上翔哉(三田国際科学学園高等学校)
会場には大賞を受賞した江口のタンスを使用したパフォーマンスをはじめ、インスタレーションや映像作品など、さまざまな作品がそろっている。
ファイナリストの作品について、マイナビアートスクエアの企画運営を務める白鳥啓はこう語る。
「作品全体として、『いまの時代』感がすごく出ているなと思っています。
というのも、テクノロジーがアイデアよりも先を行くこともある現代だからこそ、衝動的なものや感覚的なものが強く出ている作品が多いと感じたんです。これはきっと、数年前にアワードをやっていたら出てこなかった作品だと思いますね」
マイナビがアートに力をいれる理由
展覧会を開催しているマイナビアートスクエアは、学生の就職活動を支援するマイナビが、2023年7月に東京・東銀座の歌舞伎座タワー22Fにオープンしたアート施設だ。
「アートが産業で閉じない場に」をテーマに、アートの展示だけではなく、イベントやパフォーマンス、ワークショップ、音声プログラムなどを展開。学生や社会人・企業・アーティストらが集い、つながるプラットフォームとして機能している。

マイナビアートスクエア / 撮影:野口洋
マイナビがアートの領域に参入した背景には、キャリアを切り開いていく上で、アートが持つ可能性に注目したことがあるという。
マイナビアートスクエアの運営に関わる担当者はこう語る。
「何が起こるかわからない時代だからこそ、アートが未来を考えるサポートやきっかけになるのではないかと思っています。
やはり、誰もが就活をし始めると、選択肢が『就職』しかなくなってしまうのは必然だと思います。でも選択肢は本来たくさんあっていいはずです。
さまざまな視点を養うことができるアート作品を見ることで、『自分の生き方にはたくさんの可能性があるんだ』ということに気づいてほしいですね。
ですから、最先端のアートを展示する場ではなく、『アートに触れる入り口』として、『アートスクエア』という施設名にしています」
受賞後もキャリアをサポート、「アイデアだけでもいい」。学生の想いを大切にしたアワードの狙い
マイナビアートスクエア発足当初から、アワードの開催は視野にあったという。
マイナビらしい特徴の一つに、キャリアを構築するサポートが挙げられる。最終審査参加者は、創作活動に関するヒアリングや相談を受け付けるメンターによるセッションプログラムを受けることができるという。

実際に今年の審査では、各学生がもつ想いやアイデアをどのように具現化し、どうやって社会に影響をもたらすものへと昇華することができるかフィードバックする場面があったという。ときには別の賞の応募をすすめることもあったといい、賞を贈呈するだけではなく、その後のキャリアまで伴走するところに、キャリアを応援するマイナビとしてのミッションが見えてくる。
創作活動を支援することが目的のため、表現も形式も制限を設けず、自由に設定した。アートの制作経験がない学生からも応募があり、「アイデア」を提出した参加者もいたという。
「大学生部門は本格的にアーティストを目指している方の応募が多かったのですが、高校生以下は、作りたいものがあるけれども『絶対にアーティストになりたい』というモチベーションの学生以外からの応募も多かったんですよ。
なので、ピュアにアイデアを提出してくれた方もいて。ある高校生は、いじめ問題を解決するためのアイデアを出してきてくれたんです。
高校生以下と大学生の作品性の違いも、今回のアワードで実感しました」
音声番組『アートの交差点』が示す、アートキャリアの豊富な選択肢とおすすめ回
さらに、アワードにあわせて2025年6月からPodcast番組『アートの交差点』も配信されている。
「いままで出会わなかった人たちが出会う場を作りたい」という思いから始まった番組で、親近感の湧くPodcastでアートとキャリアにまつわるリアルな声を届けている。
アーティストだけでなく、編集者、展示キュレーターなど、アートにまつわるさまざまなキャリアを築く人が出演していることが特徴的だ。世に知られているアーティストだけではなく、制作者や業界を支える人たちにもスポットライトを充てることで、「自分には絵を描くしか道がない」と思っている人にも、アートのキャリアには多様な選択肢があることを示すきっかけを作ることを目指しているという。

『アートの交差点』収録模様の写真
たとえば、第11回にはアワードで審査員を務めた情報学研究者のドミニク・チェンが出演。
「インターネットは糠床に似ている」と冗談半分で言ったことから発酵食品の取材を任されたこと、「しゃべる糠床」を開発しイタリアの展示にインストールしたことなど、ユニークなエピソードが盛りだくさんな回となっている。
第6、7回には現役藝大生である髙田清花、速水理彩が出演し、学部や学科を超える同期約130人を率いて組織された「藝大校歌再生活動」についてトークが展開された。
第7回では、藝大生の間では「就活がタブーになっている」という話にも及び、現役大学生の熱量や葛藤、悩み相談など、等身大の声を届けた回となった。
アートをどう「翻訳」するか。アートを身近に感じさせるための工夫と葛藤
施設の運営にとどまらない活動を行うマイナビアートスクエアが一貫して取り組むのは、幅広い層にアプローチできるよう、「アートの入り口を広げること」だ。そのため、いかにしてアートの「翻訳者」になれるかについて、問いを続けているという。

一方で、こんな懸念もある。入り口を広げようとするとアートをわかりやすく伝えることが優先され、その結果、アートの持つ多面性や複雑性を見せることが難しくなるのではないか? という点だ。この2つは両立できるのだろうか。
白鳥はこの問いに対して「葛藤しています」と前置きしつつ、アートを作る「人」にフォーカスすることが重要なのではないかと話す。
「リテラシーで足切りにしないことが、アートの単純化につながってはいけないと思っています。
難しいことではあるのですが、たとえばアーティストの悩みや作品のインスピレーションとなった本や漫画などを見せることで、『自分と同じ人間が作っているんだ』とアーティストを身近に感じてほしいです」
アートはどこか遠い人が作っているのではなく、自分と同じように悩みを抱えた人が作っている。制作背景やプロセスを見せることは、アートの背後にある「人」への興味を喚起し、アートへの関心を広げていくために必要なことなのかもしれない。
アートを新しく、自由にとらえたマイナビアートスクエアアワード。ファイナリストの展示は9月27日(土)まで開催されている。アワード後も続く、新しいアートの発掘に注目したい。
- イベント情報
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空へと / In Motion with the Sky マイナビアートスクエアアワード2025 ファイナリスト展 特別ゲストアーティスト:中島 伽耶子
会期:2025年8月28日(木)〜9月27日(土)
場所 :マイナビアートスクエア(東京都中央区銀座4-12-15 歌舞伎座タワー22F)
開館時間:11:00〜18:00
休館日 :日・月・祝(その他、臨時休館・臨時開館あり)
入場 :無料
ゲストアーティスト:中島伽耶子
キュレーター:慶野結香
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