クリープハイプ“愛す”のユニークなMV その効用を考察する

「ロックバンド」から「音楽集団」へ進化を続けるバンドの到達点

浮遊感のあるビートとアコースティックギター。そこに重ねられる明るくもどこか切ないホーン。そして、いつものようにキャッチーで美しいメロディーと、いつになく優しげな尾崎世界観の歌声。

1月22日にシングルリリースされるクリープハイプの新曲“愛す”(この表記で「ブス」と読ませる)。すでに配信が始まっているこの楽曲は、前述したような構成要素を主体として展開される。空間を切り裂くようなエレキギターの音色もなければドライブ感のあるリズムセクションがフォーカスされているわけでもない今回の楽曲は、「ロックバンド」としてというよりは「音楽集団」としてのクリープハイプの魅力がわかりやすく凝縮された1曲である。

クリープハイプ“愛す”を聴く(Apple Musicはこちら

メロディアスでありながら爆発力のあるバンドアンサンブルが元来の強みだったクリープハイプは、キャリアを経る中でそのメロディアスな部分をより前面に押し出す取り組みにもトライしている。たとえば2016年のアルバム『世界観』では、ダンサブルなサウンドの上で尾崎の歌とチプルソのラップが絡む“TRUE LOVE”や、打ち込みの導入により当時のトレンドだったオルタナティブR&B的なアプローチを施した“5%”などで、そんなスタンスを確認することができる。また、2017年リリースの作品集『もうすぐ着くから待っててね』に収録されている“陽”(東京メトロのCMソングとしてもお茶の間に流れた)における小林武史によるストリングスアレンジも、バンドのよさをスポイルすることなくメロディーメーカーとしての尾崎世界観のパワーがさらに引き出される仕上がりとなっていた。

今回の“愛す”も、クリープハイプのそういったチャレンジの延長線上に位置づけられる楽曲である。このバンドの武器が「狭義のロックサウンド」だけではないこと、そしてどんなアレンジであっても歌とメロディーによってバンドとしての記名性が担保されることを“愛す”は改めて我々に教えてくれる。

クリープハイプ『世界観』を聴く(Apple Musicはこちら

クリープハイプ『もうすぐ着くから待っててね』を聴く(Apple Musicはこちら

2010年代のロックシーンを牽引したバンドたちが見直す、自身たちの音楽性

前述したようなクリープハイプの音楽面における拡張は、彼ら自身が先頭に立ち、また影響を与えてきた2010年代の日本のロックシーンの動向と関連している部分もあるのかもしれない。

最近の若いバンドの楽曲を聴くと、たとえば“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”(クリープハイプのメジャーで最初のシングル。2012年リリース)のフォーマットをトレースしたかのようなものに出会うケースも多い。「疾走感のあるサウンドと、サビで一気に盛り上がるメロディー」というフォーマットは確かにライブやフェスにおいて即効性があるものの、すでにリリースから10年近く経った楽曲のアイデアがいまだ「使い回されている」状況というのはシーンとして健全なのだろうか、と思わざるを得ない。

クリープハイプ『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』を聴く(Apple Musicはこちら

クリープハイプに限らず、2010年代の早い段階からロックシーンを牽引してきたバンドはそういった「速くて盛り上がる気持ちよさ」といった軸で定義される座標平面からの脱却をそれぞれ試みている。パスピエは“ONE”(昨年のアルバム『more humor』のリードトラック)で昨今のR&Bやヒップホップの流れに明確に接近し、[Alexandros]は昨年の“あまりにも素敵な夜だから”で1980年代風のサウンドを採り入れつつ、岡村靖幸ばりのソウルフルなボーカリゼーションにもトライしている。NICO Touches the Walls『QUIZMASTER』も(残念ながら彼らにとって最後のアルバムとなってしまった)、いわゆる「フェス仕様」とは一線を画したスモーキーな音像が印象的だった。

ラッパーにせよトラックメーカーにせよ10代も含めた若い世代が次々に台頭している一方で、もちろんKing Gnuなどの例はあるものの、ロックシーンのあり方を音楽面から刷新しているのはどちらかといえば中堅以降の世代であることが多いように感じられる。このあたりは各シーンの趨勢が反映されているようで興味深い。

クリープハイプ“愛す(チプルソ Remix)”を聴く(Apple Musicはこちら

「不思議」と話題のMVは“愛す”を、どうファンに届けるのか

さて、“愛す”について語るうえで、すでに公開されているMVについて触れないわけにはいかないだろう。クリエイティブチームのAC部によって制作されたMVは、楽曲の内容と直接的には関係のない「ラブSFアニメ」に仕上がっている。

クリープハイプ“愛す”MV

結局このMVはなんなのだろうか? 本稿では、「謎解き」的な角度ではなく、ああいう一見すると理解不能な映像が“愛す”とセットになっていることそのものの意味について考えてみたい。

結論から述べると、あのビデオはある種の「毒消し」なのではないだろうか。クリープハイプの楽曲では、どこかねじれた形の愛情が常に描かれる。その観点からいえば、「愛す」を「ブス」と読ませる、つまり貶し言葉とストレートな愛情表現が表裏一体となっているこの構造自体が非常に「クリープハイプ的」である(そしてその歪さが魅力の源泉でもある)というのはよく理解できる。

一方で、今のタイミングは「人を傷つけない表現」という視点からエンターテイメントの再定義が進んでいる時期でもある。その流れが急速に進むことの善し悪しは置いておくとして、「ブス」というタイトルの楽曲が様々な視線にさらされやすい状況だというのも事実だろう。

だからこそ、「よくわからないけどなんだか切ない」映像を曲に合わせることでそのメッセージを(一部の鋭角な言葉に引っ張られることなく)伝達する今回の試みは非常に巧みなものだと感じる。もちろんそれは「リスナーを騙す・ごまかす」ということではなく、「リスナーに楽しみ方の多様な選択肢を提示する」ということに他ならない。

楽曲面での進化、また伝達手法におけるユニークさなど、クリープハイプのバンドとしての充実度が伝わってくる“愛す”。この先もまだまだ新たなアクションで我々を楽しませてくれるに違いない。

リリース情報
クリープハイプ
『愛す』初回限定版(CD)

発売日:2020年1月22日(水)
価格:2,300円(税別)
品番:UMCK-7052

[CD]
1. 愛す
2. キケンナアソビ

[DVD]

けだものだもの
グレーマンのせいにする
ボーイズ END ガールズ
クリープ
5%
イノチミジカシコイセヨオトメ
私を束ねて
身も蓋もない水槽
二十九、三十

クリープハイプ
『愛す』通常盤(CD)

発売日:2020年1月22日(水)
価格:1,000円(税別)
品番:UMCK-5688

1. 愛す
2. キケンナアソビ

イベント情報
クリープハイプ10 周年全国ツアー
『僕の喜びの 8 割以上は僕の悲しみの 8 割以上は僕の苦しみの 8 割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた』

2020年2月07日(金)
会場:北海道 札幌 Zepp Sapporo

2020年2月15日(土)
会場:宮城県 仙台 チームスマイル仙台 PIT

2020年2月16日(日)
会場:宮城県 仙台 チームスマイル仙台 PIT

2020年2月27日(木)
会場:広島県 広島 CLUB QUATTRO

2020年2月28日(金)
会場: 広島県 広島 CLUB QUATTRO

2020年3 月1日(日)
会場:福岡県 福岡 Zepp Fukuoka

2020年3月6日(金)
会場:愛知県 名古屋 Zepp Nagoya

2020年3月7日(土)
会場:愛知県 名古屋 Zepp Nagoya

2020年3月15日(日)
会場:千葉県 千葉 幕張メッセ国際展示場 9-11 ホール

2020年3月22日(日)
会場:大阪府 大阪 大阪城ホール

プロフィール
クリープハイプ

尾崎世界観(Vo/Gt)、小川幸慈(Gt)、長谷川カオナシ(Ba)、小泉拓(Dr)からなる4人組ロックバンド。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014年には日本武道館2days公演を行うなど、シーンを牽引する存在に。2018 年の 5 月 11 日には約 4 年ぶりとなる 2 度目の日本武道館公演「クリープハイプのすべて」を開催。同年、9月に 5th オリジナル AL『泣きたくなるほど嬉しい日々に』を発売。



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