俳優・松㟢翔平が見た台湾。友人クリエイター4人と座談会

『テラスハウス TOKYO 2019-2020』への出演を機に一躍有名となった、俳優・モデルの松㟢翔平さん。番組がはじまる前の約8か月は、台北に滞在していたといいます。

翔平さんが台北で知り合った友人たちは、それぞれ音楽やファッション、クリエイティブの領域で活躍する人ばかりだったそう。そこで今回、翔平さんと4人の友達に、いまの台北のおすすめカルチャースポットを教えてもらいました。

話は、ローカルの視点から見る台北の街や、いまどきの台湾の若者の仕事観などにも発展。知っているようで知らない台湾を覗く、ディープな取材になりました。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

「みんな、それぞれ何かをつくったり、表現したりしている人たちです」

—そもそも翔平さんが台湾に行くことになったのは、どういうきっかけからだったんでしょうか?

翔平:深く考えずにとりあえず行ってみたという感じでした。台湾に行く前は、海外経験がゼロだったんです。ちょうど前の事務所との契約が終わって、どこか海外を旅行してみたいなと思っていた頃に、友達との飲み会で台湾人のカメラマンと知り合って。

翔平:彼女が、台北のシェアハウスの部屋が空いてるよと教えてくれたんです。それで思い切って行ってみました。Yellaは、そのときのシェアハウスのルームメイトなんです。

—Yellaさんは、どんな仕事をしているんですか。

Yella:サラリーマンとして働くかたわら、週末にはDJとして活動しています。あとは、自主音楽レーベルの「Chi-Ching Records(奇清唱片公司)」をやっていて、アジアのいろんなインディーズアーティストを紹介しています。

翔平:今日、集まっているみんなは、それぞれ何かつくったり、表現したりしている人たちなんですよ。

—Gonzoさん、Jerryさん、Jayさんも、それぞれ自己紹介をお願いできますか。

Gonzo:私はスタイリストをしています。The White Eyes(白目樂隊)、deca joinsなど、台湾のバンドのスタイリングをすることも多いです。

翔平:Gonzoは本当にいろんな台湾のインディーズミュージシャンを知っているから、よく紹介してもらうんです。

翔平:Jayも、ミュージシャンのアーティスト写真をよく撮っているよね。

Jay:そうだね。僕はカメラマンで、Sunset Rollercoaster(落日飛車)やエレファントジムなどのバンドや、9m88というアーティストとかをよく撮影しています。

—Sunset Rollercoasterは、『フジロックフェスティバル』など日本のフェスにも出演したり、2019年2月には日本のバンドYogee New Wavesと一緒に東アジアツアーをやったりもしていましたね。

翔平:Jayは日本に住んでいたこともあるんです。台北にいたときはよく家に泊めてもらったり、旧正月にJayの実家におじゃまして、ごはんをご馳走になったこともあったね。

Jerry:僕は友達とふたりで、Plateau Studioというファッションブランドをやっています。翔平がPlateau Studioの服を着てメディアに出てくれることもあって、日本人からの問い合わせも増えています。

翔平:Jerryはもともと、アパレル会社の事務をやっていたんだよね。

Jerry:うん。だけど、ファッションデザインを勉強した友達とふたりで話していたときに「僕たちも自分のブランドやってみる?」となって、一緒にPlateau Studioをはじめました。

翔平:Jerryの服は台湾国内をはじめ、世界でも結構売れているんですよ。みんな、僕が台北にいるあいだ、一緒にたくさんいろんな場所に行って遊んだ仲間です。

音楽を楽しむクラブなら、2019年にオープンした『FINAL』

—お仕事柄、カルチャーにとても詳しそうなみなさんですが、一緒に遊ぶときはどんな場所に行っていたんですか?

翔平:台北には本当に面白いクラブとか、ライブハウスが多くて。そういうところによく行っていましたね。

—特におすすめを挙げるとすると?

Gonzo:2019年にできた『FINAL』はおすすめです。台北のクラブシーンの第一線で活躍するDJが多く専属しているのはもちろん、雰囲気がいい。いろんな人が集まって、本当に自由に音楽を楽しんでいるんです。たとえば、トイレひとつとってもみても、LGBTを配慮して男女の表示がないんです。

Yella:音楽の種類も、実験音楽やエレクトロニックミュージック、プログレッシブハウス……いろんなものが聴けるよね。

翔平:僕が住んでいた家からも徒歩10分くらいだったので、オープンしてすぐ通うようになりましたね。いくら酔っ払っても家に帰れる安心感もあって(笑)。

近くには24時間営業の『永和豆漿大王』っていう、人気の朝食屋さんがあって。イベントが終わるまで遊んだら、よくみんなでそのまま朝ごはんを食べに行きました。たまご入りの鹹豆漿(シェントウジャン。豆乳スープ)が美味しくて、それと肉まんのセットが僕の定番メニューでした。

台北キッズたちをインスパイアしてきたDJバー『The Bar』

Yella:音楽が聴ける場所なら、僕は『The Bar』が好きです。クラブというより、DJバーという感じかな。以前は『Korner』というクラブだったんですが、その頃からいままで、台北の多くの若者をインスパイアしてきた場所です。

Jerry:『FINAL』がオープンする前は、『Korner』は台北で数少ない面白い場所という感じで、集まって遊ぶっていうといつもここでしたね。

僕自身、『Korner』でたくさん友達ができました。会ったことはないのに、複数の友人からやたらと名前を聞く人がいたりね(笑)。行けば必ず知り合いがいるし、知り合いじゃない人もみんな友達の友達という雰囲気で、居心地がよかったです。

Yella:人と人がつながれる場所だよね。

翔平:僕がYellaのDJを、台湾で初めて見たのもここだったな。SpykeeというDJがオーナーになってから、名前も『Korner』から『The Bar』に変わりました。彼自身もよくDJとして店に立つんですが、日本の曲を台湾昔の歌謡曲と掛け合わせる独特のパフォーマンスで、面白いんですよ。

ローカルのおすすめ夜市は『延三(イェンサン)夜市』

—ガイドブックには載っていないような情報がどんどん出てきて、面白いです。日本で知られている台北の印象だと、夜市のイメージなんかも強くあると思いますが、地元の人にとってはどんな場所なんでしょう。

翔平:ひとことで「夜市」といっても、場所によって雰囲気も何もかも千差万別ですね。

Gonzo:士林(シーリン)、饒河街(ラオハージエ)の夜市は台北二大夜市とも呼ばれて有名だけど、観光地化していて人も多いので、私はあんまり行かないですね。

私が好きな夜市は、延三(イェンサン)夜市。ローカルしか知らない秘密基地のような感じがあって、ちょっとごちゃごちゃしているけど、温かい趣があります。ごはんは安くて美味しいし、朝と晩とで露店が入れ変わるので、あそこに行くとずっと満腹状態です(笑)。

翔平:僕は、おすすめと言っていいのかわからないけど……龍山寺の夜市が好きです。台湾は治安が良い国で、夜に一人で出歩いても怖い思いをすることはほとんどないんですが、龍山寺の周りは数少ない要注意なエリアです。僕も一度、「おい、なんで外国人がいるんだ」みたいにイチャモンをつけられました。

そんな場所なんですが、活気があってカオスな雰囲気がとても面白い。夜市では怪しげな宝飾品なんかも売っていて、僕はそういうものが大好物なので、たまにチェックに行きます。

伝説的バンド・透明雑誌のボーカルがかかわる『Par Records&Store』

—いま取材をしている『Par Records&Store』は、台北の若者にとってはどんな場所なんでしょうか。レコードにZINE、アパレルや雑貨などが並んで、おしゃれな雰囲気です。

翔平:ちょうど、僕が台北を離れるときにできた新しい店なので、来たのは今日が初めてです。でも、話題になっているのは知っていました。

ここは台湾を代表するオルタナティブロックバンド・透明雑誌のボーカル、洪申豪(モンキー)がオーナーのひとりなんです。

Jerry:店がある中山駅の付近は最近、個性的な古着屋とか、雑貨屋、コーヒーショップが増えているエリアですね。

Gonzo:1990年代生まれとしては、店の隅にあるゲーム機が気になります。見るだけで懐かしい雰囲気。

Yella:週末を中心に、不定期にミニライブも開催しているんです。僕がやっているChi-Ching Recordsから、ネオソウル歌手・LINIONのアルバムを発売したときも、ここでアコースティックライブをやりました。感度の高い音楽好きがたくさん集まってくれて、嬉しかったですね。

台北のストリートカルチャーを支えてきた『Waiting Room』

Gonzo:『Par Records&Store』と並んで、台北のインディーズ音楽やストリートカルチャーの発展に寄与してくれているお店が、『Waiting Room』ですね。

—どんなお店でしょうか。

Gonzo:透明雑誌のドラム・Trixが経営するセレクトショップです。扱っているアイテムのジャンルは、『PAR Records & Store 』と似てますね。

翔平:Trixは、台北の街の新入りだった僕のこともすぐに覚えてくれて、優しく声をかけてくれました。台北のキッズたちはほとんどみんなTrixのことを知っているんじゃないでしょうか。それも彼がこの街のカルチャーを支えてきた証だと思います。

翔平:『Waiting Room』は毎年10月に『Room Service』というイベントを主催しているんですが、これがまたいいんですね。台湾各地のZINEメーカーやアーティスト、独立レーベルを集めた、アートブックフェアのようなものです。

台北には『台北アートブックフェア』という、もっと規模が大きなイベントもありますが、『Room Service』にはそれよりも奇怪なもの、チープなもの、ニッチなものが集まって、面白いんです。

Gonzo:ひとくちでクリエーターといっても、普段の仕事では音楽、ファッション、アートなどさまざまなジャンルにわかれてしまうのが常ですが、『Room Service』には垣根を越えてみんなが集まる。他ジャンルのクリエイターと知り合えるのが、とても刺激になりますね。

Jerry:『Par Records&Store』も『Waiting Room』も、とにかくオーナーが100%の全力で好きなことをやっている、という感じがあるんですよね。行くと、自分もそのパワーをわけてもらえるような感覚です。

Jay:いい人やものごとが、ここに集まってくるようなエネルギーを感じるよね。

オーナー夫婦のセンスが爆発。ファッション系セレクトショップ『AMPM』

Jerry:セレクトショップ系のお店の流れで、どうしても紹介したい場所がひとつあるんです……。

—ぜひ教えてください。

Jerry:AndyとJoeという夫婦がオーナーをしている、『AMPM』というファッション系のセレクトショップです。二人の感性だけにしたがって、ジャンル、スタイルにとらわれずいろんなものを売ったり、イベントをしたりしていて。

Yella:ファッションブランドとコラボしたDJパーティーなんかもよくやっているよね。

Gonzo:アーティストの個展もやってる。

Jerry:うん。僕自身もファッションブランドをやっているけど、ファッションの本質って、素材とか形ではなくて、デザイナーがそこに込めるアートとクリエイティビティーだと思っていて。その意味で、オーナー二人のアートが爆発したような、いろいろなカルチャーに触れられる『AMPM』が、僕の原点のような場所になっているんです。

Gonzo:私も『AMPM』は昔から通っているけど、大人になってJoeさんと知り合ってから、経営的な意味ではいろいろ大変なんだなと知りました(苦笑)。かっこいい服をデザインしたり、素敵なカルチャーを広めたり、素晴らしいことをやっているのに、お客さんはほとんど海外の人ばかり。台湾国内でそれほど売れているわけではないみたい。

個人的には、もっとこういうお店が評価されるようになってほしい。だからこの記事を読んだ人が台湾に行ったら、ぜひ行って元気づけてあげてください(笑)。

※『AMPM』の実店舗は2019年12月に閉店。オンラインストアは営業中。

「雑多なものが主張し合うなかに、独特の美が宿っている」

—みなさんにとって、台北の街並みはどんな印象ですか。

翔平:歴史的に、さまざまな文化から影響を受けているからですかね、建物の色も形も多様な印象です。

Gonzo:私は、街なかの看板や広告が独特だと思う。大きくて派手で、LEDライトがビカビカ光っていて。店によって色もフォントもバラバラだけど、それぞれ「自分のやりたいようにやる」みたいな自由さがあって好きですね。

Jerry:住んでいる人から見ると、ごちゃごちゃしてうるさい感じもありますけど、そのなかに独特な美しさが宿っているよね。

Jay:街並みに限らず、台湾のカルチャーは全体的に、いろいろな外来文化と融和しながら、核となるものを保っているように思います。

翔平:台北はエリアによって雰囲気が変わるから、レンタサイクルのYouBikeで走りながら、景色が変わっていくのを見るのも楽しかったな。あとは原付バイクも最高で、僕は免許を持ってないけど、友達に乗せてもらうたびに、台湾映画に入り込んだみたいな気持ちになっていました。

Jay:なんとなく翔平は、ホウ・シャオシェン監督の『憂鬱な楽園』(1996年 / ヤクザが主人公のロードムービー。バイクのシーンが印象的に描かれる)の世界観に憧れてる気がする。

翔平:そうかもね。だから、おしゃれ風の東区エリアとか、ショッピングセンターの101があるようなあたりより、生活感のあるところが好きなのかも。

Jay:個人的にはエドワード・ヤン監督(1947年〜2007年 /『ヤンヤン 夏の想い出』で「カンヌ国際映画祭監督賞」受賞)の映画も、台北の街のイメージをよくとらえていると思います。金色の泡のような光がぼんやり揺れて、雑多なものがお互いに主張し合っている感じ。

「スラッシュキャリア」って? 台北のいまどきユースの仕事観

—翔平さんが感じた、台湾と日本の違いってなんですか。

翔平:国で分けて考えるのは好きじゃないので、あくまで僕が東京に住んでいて感じる印象ですが……なんとなく、みんなが同じ方向を見ていて、そこから抜け出ないようにお互いを監視し合って、牽制し合っている感じがあります。僕自身はそういう、つまらない空気を感じたら抜け出しますけどね。

台湾のみんなは、ネガティヴな言い方をすると「自己中」。でも「こんな人になりたい」「こんなことをしたい」ということをみずから考えている。ぼくが台湾に住んでいるあいだ、なんの束縛もなく自由を感じられたのも、このためだと思います。

Gonzo:好きなことをやりたいようにやる、という考えが当たり前なのかも。台湾では最近、いろんな仕事を一人でこなすフリーランスの人が増えていて、「スラッシュキャリア」なんて呼ばれていたりもします。

翔平も、俳優やモデルやライター、いろいろやっているけど、私自身もそう。職業を聞かれても答えるのが難しいので、「便利屋」とでも言っておこうかと思うくらいです。

私にとっては、イラストや写真、デザイン、音楽……好きなことがあくさんあっても、根っこにあるものは同じで、アウトプットの手段が違うだけ。ひとつだけしかやらないとすると、成功にたどり着くまでには途方もない運と時間がかかってしまうと思います。

Jerry:僕の周りにもスラッシュキャリアの友達は大勢いますけど、好きなことで仕事して稼ぐための手段なんじゃないですかね。ひとつのことを極めるのが難しいなら、スキルの数を増やせばいい。例えば、描くことがプロの画家ほど上手じゃなくても、それプラス美味しいコーヒーを淹れられる技術があったら、プロの画家と同じくらい価値があることなんじゃないかと。

Yella:スキルの数だけ、仕事のチャンスも得られることになるからね。

Gonzo:あとは、人に頼まないでなんでも自分でできると、コストを省くことにもつながりますね。

Jay:スラッシュキャリアは、生きていくための選択肢のひとつだよね。好きなことがあるのに、生活のためだけにUber Eatsの宅配をやらなきゃならないのはもったいない。スラッシュキャリアの人も、やりたいことに集中できる環境が整ったらいいなと思います。

—台湾では趣味で生きていこうとしている人が多いからこそ、スラッシュキャリアという文化が広がっているのかなと思いました。台湾と日本のカルチャー交流は、昔よりも盛んになってきてはいますが、お話を聞いていると知らないことがたくさんあると気づかされます。

翔平:僕も台湾に行ってできた友達に、いろんなことを教えてもらいました。

最近は、日本で台湾について聞かれることも増えて、「オススメの台湾グルメはなんですか」とか「Chi-Ching Recordsってどんなブランドですか」とか質問をもらうんですが、やっぱり人づてに得られるものには限界があると思うんです。

台湾は日本からのアクセスもとてもいい。治安もいいし、人も親切です。ぜひ一度、実際に来て、住んでいる人と話したり、いろんなものを見たり聞いたり食べたり、自分の五感で感じてほしいです。

台北・台南の若者文化を紹介するプロモーションムービー。台湾商研院/文策院(台湾の文化振興を推進する機関)による制作
FINAL
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The Bar
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Par Records&Store
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AMPM
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プロフィール
松㟢翔平
松㟢翔平 (まつざき しょうへい)

1993年生まれ、東京-台湾在住。マイターン・エンターテイメント所属。出演作に『テラスハウス TOKYO 2019-2020』『川島小鳥とコロンビア』『真心ブラザーズ - 愛』など。ファッション誌『GINZA』にて「翔平のもしもし台湾」などのコラムも連載中。2019年は年末に舞台『業者を待ちながら』の出演も控えている。



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