「そんなん誰でもやれるやん」はやりたくない。木工用ボンドを使って描く画家・冨永ボンド

木工用ボンドを使って作品を生み出す画家・冨永ボンド。「ボンドアート」という独自の画法で作り上げた冨永の作品は、福岡の音楽シーンの中で生まれた。様々な文化を作り出してきた親不孝通りのクラブを中心に活動をスタートし、現在、その個性的な作品は、親不孝近隣の飲食店などで見かけることも多い。 福岡を中心に活躍の場を広げる冨永ボンドは、2014年にはニューヨークで開催された世界最大級のアートフェス「ART EXPO NEW YORK 2014」に出展し、SOHOのギャラリーとアーティスト契約を交わした。さらに今年挑むのはパリのアートフェスへの単独ブース出展だ。 彼はなぜ、木工用ボンドで絵を描きはじめたのか。「デザイン」+「アート」+「医療」というコンセプトのもと活動する、冨永ボンドの目指す先に迫った。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

福岡の音楽シーンから生まれた「ボンドアート」

-冨永さんは、もともとライブペインターとして活動を始められたんですよね?

冨永:はい、「ボンドグラフィックス」をはじめた当時、CDジャケットのデザインやグラフィックの仕事を増やしたいと思ったときに、有名なミュージシャンと知り合えば仕事が増えるのでは、と思ったんです。でも僕はダンスもDJも、ラップもできないから、ライブペイントにしようって。そこから音楽イベントで絵を描き始めたことがスタートでした。

-ライブペインターとしての活動拠点が親不孝のクラブだったと。

冨永:そうです。地元も福岡ですし、仕事の関係で当時は天神に住んでいたので。「Early Believers」や「ZOOM」など親不孝のクラブから始まって、「INFINITY」などの西通りのクラブからも呼んでもらえるようになりました。

-そもそも、なぜボンドを使うようになったのでしょうか?

冨永:単純に、屋号が「ボンドグラフィックス」だったからです(笑)。いざライブペイントをやろうと思っても、絵を一度も描いたことがなくて、描き方もわからなかった。だから、描くなら人と違う描き方をしてみようと思って、屋号にあるボンドを画材として使ってみたのがはじまりです。

-「人と違うやり方で」ということだったんですね。

冨永:ライブペインティングって、お客さんが見ている環境で創作するじゃないですか。だから、一般的な画材ではなく、ボンドで絵を描くことで興味を持ってもらいたかったっていうのもあります。あと、ボンドは安いんですよ(笑)。ボンドが画材に向いてるかっていうと、全然向いてないですけど、通常の画材は高いんです。もともと僕自身あまり美術を勉強してきたわけでもないし、自分なりの“現代アート”という解釈もいいんじゃないかと思って。

アートによって様々な人・ことを「つなぐ」。

-最初にボンドで絵を描き始めたとき、周りからの反応はいかがでしたか?

冨永:「クラブで何しようと?」という感じでしたね(笑)。当時、ライブペインターってすごく少なかったんです。クラブ=DJ・ダンス・ラップというイメージでしたし。

-冨永さんはライブペインティングでしか、絵を描かないそうですね。それはなぜでしょうか?

冨永:そもそも活動のコンセプトが「つなぐ(接着する)」こと。絵を描いてアートと人をつないで、僕と人を「つなぐ」こと。そうやって繋がっていく中で、会話が生まれたり、興味を持ってもらいたい。つまり僕のボンドアートの役割は色々なものを繋げていくためのツールなんです。

-表現のルーツ、インスピレーションはどこから得ているのですか?

冨永:正直言うと当日、第1筆を入れるまで何を描くかは決めてないんです。その時会場でかかっている音楽や制限時間、自分のコンディションといった環境に左右されるので。現在、絵柄のテイストは全部で6種類。1つ1つに意味があって、全てライブの中で生まれたものなんです。モチーフは全部「人間」。最初は顔しか描けませんでしたが、今は人の細胞、感情の起伏や人生に基づいて絵を描いています。

医療や福祉ともリンクする「ボンドアート」

-「ボンドグラフィックス」のサイトに「デザイン」+「アート」+「医療」と、「医療」をひとつの軸として打ち出されていますよね。

冨永:元々、精神障がいに興味があったんです。それでたまたま紹介で勤めることになった学校が作業療法士を育成する学校で、現在は、リハビリテーション学部という所で勤めています。そこで実際に、ボンドアートのワークショップを始めたのが2年前です。

-精神障がいのある方に描いてみてもらったんですね。

冨永:はい。大学事務をしながら、学部内でアートセラピーサークルを作ってもらいました。彼らの作品が、とにかくすごいんです。心ゆさぶられる、魂のアートだなって思ったんです。いわゆる、障がい者が描くアウトサイダーアートというカテゴリーで括られるんですが、もう、このために生まれてきたのではと思うくらい“天才”なんです。そういった作品に触れたことが、医療や福祉の分野への関心を強めた理由です。

-ボンドアートがアートセラピーの手段として最適だったと。

冨永:ボンドアートは色を塗って、ラインを縁取ったら完成。創作段階と完成の線引きが明確にあるからアートとして取り組みやすいんです。それと、ボンドアートにはルールがない。ただ1枚板を渡して、好きな色から塗って、縁取って。そういう、ひとつの作品を作り上げる成功体験をつくってあげることが、自信を取り戻すきっかけに繋がるんです。集中して手元を動かし、一点をみつめて描く。その時間と、出来上がるプロセスが、それ自体がセラピーになるんです。

—アートの新たな可能性をボンドアートで見出すわけですね。

冨永:アートと精神医療に関して、日本はとても遅れているんです。この2つを繋ぐことで、少しずつ豊かな世界になっていくと思っています。それが、ボンドアートだったらもっといい。冨永ボンドとしてのアーティスト活動を通して、福祉の分野を支援することが僕の最終目標です。夢は「世界一影響力のある画家になって、医療・福祉の分野を支援すること」です。

「やれるやん、そんなん誰でも」というものはやりたくない

-福岡でアート活動を行うことについて感じる点はありますか?

冨永:福岡のアートシーンって、昔から結構遅れていると言われています。でも、今は少しずつ福岡のアートシーンは盛り上がりつつあるし、ライブペインターもここ最近かなり増えてきていると思います。

-現在、福岡を拠点に世界でも活動していらっしゃるようですが、どういったことがきっかけだったんでしょうか?

冨永:福岡PARCOが「天神ラボ」という若手クリエイターのイベントで「ボンドアート」を取り上げてくれたことがすごく大きいです。これまで縁のなかった“昼間”のシーンに登場することが増えたことで、親不孝では出会わなかった層のお客さんと出会えて。それから、カフェも含めて大衆向けにアートを伝えるお店が増えてきていることも、福岡のアートシーンを盛り上げるには欠かせないことだと思います。

—たしかに、福岡ではギャラリーを併設しているお店も多いですよね。

冨永:それから、東京・大阪に比べて、福岡はアジアに近いんですよ。東京は、チャンスはあるけど埋もれる可能性も高いし、元々東京にはその土壌もある。でも、福岡はこれからアートビジネスの土壌ができていくところ。だからアジアに向けて発信していくには最適な場所だと思います。でも今の僕はアジアには目を向けていないんです。

-なぜですか?

冨永:今はもっと遠い、アメリカやヨーロッパのような、どういう風に繋がっていけるか予想できない土壌にチャレンジする方が面白くて。

-そういった挑戦が、2014年のニューヨーク最大級のアートフェス「ART EXPO NEW YORK 2014」への出展や、今年のパリでのアートフェスへの出展ということでしょうか?

冨永:そうですね。難しいことに挑戦していくということをやりたい。「やれるやん、そんなん誰でも」というものはやりたくない。アートで成功するチャンスは、確かにアジアには絶対あると思います。だけど、今の僕は僕のやり方で違うことをしたいんです。

-では今後、取り組んでいきたいことは?

冨永:アーティストとして行う、ライブペイントはライブペイントだし、セラピストとして行う、ワークショップはワークショップ。でも僕にしかできないことっていうのがあって、それはきっと「世界への挑戦」なんです。アートで世界に挑戦する姿を見せたり、メディアへの露出を増やしたり。そういった挑戦する姿を見て、「僕も頑張ろうと思いました」っていうメッセージが来るんですよ。それは、作家としての僕にしかできないことだと思いますし、だからこそ、これからも自分の表現を追求していきたいと思ってます。

プロフィール
冨永ボンド (とみなが ぼんど)

木工用ボンドを使って描く画家。創作テーマ「つなぐ(接着する)」に基づき、即興絵画パフォーマンスや大型商業施設の壁画創作、医療とアートをつなぐアートセラピーなど幅広い分野で活躍中。通称「ボンドアート」と呼ばれる独自の画法は、2014年ニューヨークで開催された世界最大級のアートフェス「ART EXPO NEW YORK 2014」でも評価され、SOHOのギャラリーと契約を交わした。医療の分野では、認知症・精神障がい等の就労支援施設に出張して行う「ボンドアートセラピー体験会」の開催など、アートと医療のつなぐことで生まれる生活の豊かさや、アートをつくる“作業”の楽しみや大切さを追求している。



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