Jazztronikこと野崎良太の素顔

海外シーンを現場で体感し、最先端のクラブミュージックを知りながら、あくまで「誰にでも楽しく踊ってもらうこと」を目指した作品を作り続けているJazztronikこと野崎良太。約2年半ぶりとなるオリジナルアルバム『DIG DIG DIG』は、そんな野崎が少年時代から愛して止まない「ダンスミュージック」を「DIG=掘り起こす」ことをコンセプトに作り込まれた1枚だ。そうしたコンセプトの一方で、このアルバムが制作された2011年3月、誰しもが心を痛めた震災直後に音楽を作る、その気持ちについても話は及んだ。インタビューの過程で見えてきた野崎の素顔には、音楽を届ける人間としての問題意識や危機感が浮かび上がっていた。

現代音楽もクラブミュージックも好きだった

―2年半ぶりとなる今作のテーマは「踊る」ということだそうですが…

野崎:あ、それって誰が決めたんですかね? 僕も昨日ウェブのニュースを見て初めて知ったんですよ(笑)。

―えっ、プレスリリースにそう書いてありましたよ。

野崎:そうなんですか? 『DIG DIG DIG』というタイトルは、僕がかつて憧れて影響を受けたダンスミュージックを振り返るという意味なんです。だから「踊る」がテーマだと言っても間違いではないですけど。

―そうでしたか(笑)。ということでまずは野崎さんの根底にある、ダンスミュージックとの出会いから振り返りたいと思っています。高校の頃からかなり聴いてらっしゃったんですよね?

野崎:僕はいま35歳で、時代としては『元気が出るテレビ』のダンス甲子園が原体験なんですよ。それが本当に衝撃的で、しかも僕の友達にダンスをやっている人も多くて。だから自然とダンスミュージックを聴く環境だったんです。

―それって、当時としては普通のことだったんですか?

野崎:いや、僕の通っていた高校はマセた人が集まってたんだと思います(笑)。それでハウスもHIP HOPもごちゃ混ぜで聴くようになって。ケン・イシイさんが外国でデビューした頃だったから、ちょうど注目が集まってきた時期でもあったのかな。あとは電気グルーヴも好きでした。

Jazztronikこと野崎良太の素顔
野崎良太

―国内の音楽を中心に聴いていたんですか?

野崎:高校ではそうでした。EAST ENDとかピチカート・ファイヴとか。日本のクラブシーンがこれから始まるぞ、っていう空気があったんですよ。

―でも大学は作曲科に行かれるんですよね。

野崎:映画音楽が作りたくて。クラシックと現代音楽の勉強を高校の時から始めて大学も入れると約7年位やってました。現代音楽とクラブミュージックを平行して聴いていたのは珍しいねってよく言われるんですけど、僕の中では全然違和感がなくて。どちらも純粋に好きな音楽だっただけで。

―現代音楽というと、ジョン・ケージなどに代表されるような割と難解なものを作っていたんでしょうか?

野崎:もちろんその辺も押さえつつ、いろいろ勉強しましたよ。ただ圧倒的に好きだったのはラヴェル、サティ、ドビュッシー、などフランスの作曲家や、ブラームス、ストラヴィンスキー。その辺りには影響を受けていましたね。でも同時にクラブにも毎日通ってましたけど。

―学校に行きながら、クラブにも毎日?

野崎:本当に毎晩です。作曲科って数人しかいないので、先生に私生活まで管理されて、「もう学校来なくていいよ」って怒られながらも、それをかいくぐって通ってましたね(笑)。

2/4ページ:自分の中にあるイメージをいかにポップ性がある音楽として生み出せるかがアーティストの仕事だと思っている

自分の中にあるイメージをいかにポップ性がある音楽として生み出せるかがアーティストの仕事だと思っている

―では実際に自分でトラックを作ってみようと思ったのは?

野崎:学校で勉強しているものとは別の路線で、なにか音楽を作ってみようかなと思っただけなんです。テクノっぽい曲を作ってみて、知り合いの妹がボーカルの勉強してるって聞いて歌ってもらったり。大学の延長線くらいの感覚で、それを世に出そうとか売ろうなんてことは考えてませんでした。ただいつかはCDにしたいかなとはちょっと考えてて、試しにテープを送ってみたんですよ、レコード会社に。それで名前が必要だということで、テクノトロニック好きだし、ちょっとジャズっぽいし、じゃぁJazztronikでいいかと。まさかこの名前をずっと使い続けるとは思ってなかったです。…もっとかっこいいエピソードがあればいいんですけどね、がっかりしました?

―いえいえ全然(笑)。Jazztronikは昔から「ポップ」というキーワードを意識されているそうですが、それはどんなものだと考えていますか?

野崎:例えば1970年代~1980年代頃は、踊らせようと作った音楽ではなくて、ヒットした曲でも自然と踊っていたんです。それは多くの人に届く魅力があったからで、つまりポップだったということ。僕はその時代の音楽が持っていた魅力を見習いたいと思っているんです。ポップを目指すというより、自然とポップ性が宿るもの、なのかな。

―ただポップというと市場主義とか流行ものとか、ダサいみたいにとらえる雰囲気もありますよね。野崎さんはクラブにも毎晩通っていた方ですし、DJでもあるのでクラブミュージックの流行や最先端にも精通されているなか、そう捉えられてしまう抵抗感もあったのではないでしょうか?

Jazztronikこと野崎良太の素顔

野崎:最初はありましたけどもう慣れたし、コアな音楽ファンみたいな顔をしてそんな考えの人はかわいそうだなって思うようになったんです。自分の中にあるイメージをいかに普遍的なものとして、つまりポップ性がある音楽として生み出せるかがアーティストの仕事だと僕は思っているし、歴史に名を刻むミュージシャンはみんなそれを達成しているから。


過去を忘れた人からはなにも生まれない

―そういった今までの流れがあって、今回「DIG」をテーマとして過去のルーツを掘り起こそうと思ったのはなぜだったんでしょうか?

野崎:去年ファッションブランドの「TOMORROWLAND」とのコラボCD(『Bon Voyage!』)をリリースしたんですが、ダウンビートな曲調が多くて、かなり納得いく出来映えになったんです。だから同じ方向性ではしばらく作らなくていいと思って、だとしたら何を目指そうかと考えた時に思い浮かんだのが「ダンスミュージック」でした。改めて、自分が昔から聴いてきた音楽を見つめ直してみることから始めたんです。DJする時も古い曲をかけるのが好きですし。

―1970年~1980年代の曲もかけるんですか?

野崎:もうガンガンに、ピークタイムにかけますよ! でも面白いのは、Earth, Wind & Fireの曲をかけた時に、若いDJに「これ誰ですか?」って聴かれたんです。それくらい今の人たちは知らないんですよね。歴史にとらわれるのは古い考えだと思われがちだけど、過去を忘れた人からはなにも生まれないと思う。いろいろな時代を経て今があることをふまえて、初めて新しいものが作れるんじゃないかって。

―確かに最近の人ってデジタルで聴いているから、時代感がなくてすべて横並びですよね。改め紹介するということも必要なのかもしれないですね。

野崎:若い人が過去を知らないとしたら新しいカルチャーが生まれるわけがないんだけど、今は若干そうなってるんですよ。だから古くさい考えの人が教えてあげる機会、昔のジャズ喫茶のオヤジみたいな存在がいてもいいと思うし、それを僕らの世代がやるべきだと思うんです。という考えもあって、最近は僕が音楽の歴史を教える「音小屋」という試みも始めました。まだ2回しかやれてませんけど、今後も定期的にやっていきたいですね。

3/4ページ:震災で価値観がひっくり返って、これまでと同じものを作っても意味がないと思った

震災で価値観がひっくり返って、これまでと同じものを作っても意味がないと思った

―ちなみに前作『JTK』の時は「いままでの集大成になった」とコメントされています。それから2年半経っての今作にはどんな手応えを感じていますか?

野崎:僕そんなこと言ってましたか…今回も集大成です(笑)。ただ前作ではライブ感をCDに取り入れることに挑戦したんですが、今回その要素はかなり少ないですね。考えたのは、ビートが早かろうが遅かろうが、僕がダンスミュージックだと思えるものになっているかどうか。その発想は2年前にはありませんでした。だから今までになにを喋ったかは忘れてるけど、たくさんのアルバムを出したからこの場所に行き着いたんだとは思います。これまではアルバムでリード曲といわれるものに関しては、多くの人が盛り上がれるようにと意識したけど、それも取っ払われて、素直に自分が楽しんで作ろうという気持ちにもなりましたし。

―なぜそう心境が変化したんですか?

野崎:実は、制作していたのが3月なんですよ。地震のあとでやっぱりしんどかったし、怖かったし、自分が楽しいものを作らないと続けられないなって。それまではずっと、同じ日常が続くと思っていたんです。今週が終わったら当たり前に来週がくることを、35年間一度も疑わなかった。でもその価値観がひっくり返って、これまでと同じものを作っても意味がないと思ったから全曲アレンジをやり直して。3月16日にレコーディングがあって、「こんな時にやるの?」とも思ったんですけど、実際にスタジオに入って演奏している間は楽しかったんですよ。だから、クサいこと言うのは嫌だけど、音楽の力とか楽しさを少しでも届けられたらいいなって。そういう想いを込めて作ったアルバムは今までひとつもなかったから、ずっと忘れられない作品になる気がしています。

Jazztronikこと野崎良太の素顔

売れないことを流通システムやレコード会社のせいにする人に、アーティストを名乗る資格はないと思うんです

―震災以降、自分の仕事が世の中でどんな意味を持つのかを、みんなが考えるようになりましたよね。

野崎:そうでしょうね、日常が続かないこともあるんだと痛感して自分の将来も考えたし、今までと同じことをやり続けても意味がないと思ったし。だから僕は、CDのために音楽を作るのは最後になるかもしれないです。

―最後、というのは?

野崎:CDにするために80分で収める、という作り方はもういいかなと。昔から1曲完成するまでに、5曲くらいはボツにしてるんです。お蔵入りしている音源がたくさんあって、本当はそれも聴いてほしいし、応援してくれている人は聴きたいと思ってくれているだろうけど、アルバムにはコンセプトが必要で容量に限りもあるから諦めるしかなかった。でも今は自分ですぐに発信できる時代じゃないですか。これも、地震がなかったら考えなかったと思います。いつも通りリリースしていたら「次のアルバムはどうしようかな」って当たり前のように考えていただろうから。

―配信するということですか?

野崎:まだ分からないけど、そうなると思います。ずっと続いている流れを変えないと、聴いてくれる人も増えないだろうし、自分もつまらなくなっちゃう気がして。それにできれば個人として配信したいんです。レーベルにはそれぞれの色があるから、中にいるとできないことが出てくる可能性もあると思うんです。Jazztronikは野崎良太の中のひとつであって、現代音楽をやる僕もいればジャズをやる僕もいる。それをすべて同じレーベルの中でリリースするのは難しいだろうから。

―なるほど、今は個人で配信することも難しくないですしね。

野崎:だから恵まれてるんですよね、僕たちは。やろうと思ったらすぐに自分でできる時代になったんだから。CDが売れなくなったことを違法ダウンロードのせいにする人がいますけど、それは新しい魅力を持った音楽が作れていないことの言い訳ですよ。売れないことを流通システムやレコード会社のせいにする人に、アーティストを名乗る資格はないと思うんです。

4/4ページ:みんなをひとつにする音楽ってなんだろう

みんなをひとつにする音楽ってなんだろう

―野崎さんにとって、理想のダンスミュージックはどんなものですか?

野崎:おじさんも若い人も、男子も女子も楽しめる音楽ですかね。それがやっぱり、いちばんの理想です。ダンスシーンの最先端で流行っていることも重要だけど、街中で子供が楽しそうに踊っているとか、そういうものが僕は好きで。その上で新しいオリジナリティがある楽曲が作れたらいいですね。あらゆるアイデアはもう出し尽くされてしまった気もしちゃうけど、理想を目指さないとミュージシャンをやっている意味がないから。

―ただ音楽の幅は広がっていて、クラブではすごくディープな曲がウケる場合もあるし、秋葉原ではアニソンでみんなが踊りまくっていたりしていますよね。

野崎:そうそう、だから難しいんですよ。今みたいな状況で、みんなをひとつにする音楽ってなんだろうって。たくさんの人に納得してもらえて、音楽性もあって、ダンスが好きな人も気に入ってくれるのが理想。それができたら新しいカルチャーが生まれると思います。

―そうですね。ちなみに野崎さんは海外でも活動されていますが、海外の状況はどうなんでしょうか?

野崎:音楽の環境で言うと、海外でも曲は売れなくなってきてるんです。でも東欧やバルト三国のあたりは、やっと解放されてこれからっていうエネルギーがものすごいですよ。ミュージシャンならあの勢いはぜひ現地で感じてほしいです。日本人の作る音楽だって海外で通用するし、もっと自信を持ってほしいとも思いますね。J-POPのアーティストが海外でツアーする時ってだいたいアジアまでしか行かない事が多いんです。でもヨーロッパやアメリカに飛び込まないと。それもなるべく若いうちにいったほうがいい。

―野崎さんは20代の頃から海外に行かれてますもんね。

野崎:30を超えると変なプライドが出て来ちゃうかもしれないし、新しい場所に出るには難しくなってくるんですよ。だったら若い間に海外へ行って、追い出されるまでいればいい。それくらいのパワーでやってほしいです。今までと同じことを続けていたらミュージシャンは少しづつ廃れていくだろうけど、視点を変えたら広がるはずなんです。音楽にはまだ夢がありますよ。

リリース情報
Jazztronik
『Dig Dig Dig』

2011年6月8日発売
価格:2,800円(税込)
ポニーキャニオン / PCCA-03414

1. Flash Light feat.JAY'ED
2. Deja vu intro
3. Deja vu feat.AISHA
4. Walk on
5. Today feat.Giovanca
6. Apathy feat.Maia Hirasawa
7. The Seventh Sense
8. Vamos la
9. Now's the time feat.Tommy Blaize
10. Dare feat.Mika Arisaka & Eliana
11. 守破離
12. Resolver
13. Humming Bird feat.Mika Arisaka & Eliana
14. Epiloque ~ march of the toys ~
15. ベッドタイムストーリー
16. BRA.Steppers feat.Rob Gallagher(ボーナストラック)

プロフィール
Jazztronik

野崎良太が率いる特定のメンバーを持たない自由なミュージックプロジェクト=Jazztronik。2003年メジャーデビュー、2006年夏Knife Edgeレーベルに移籍。DJ、サウンドプロデューサー、リミキサー、ミュージシャンなど、クラブミュージックの枠にとどまらない多岐に渡った活躍を見せる。



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