銀座 ソニービルに現れる「新人類」chiaki koharaのアートとは

これまでCINRA.NETでもたびたびお伝えしてきた、今年で5年目を迎えるプロジェクト、「Canvas @ Sony」。本プロジェクトは、Sonyが主催するオーディションを勝ち抜いたアーティスト1名に、1年にわたって銀座の一等地、ソニービル壁面「アートウォール」という名の超巨大キャンバス(横6メートル、縦38メートル)を提供するというものだ。若いアーティストたちが目指す登竜門でもある本プロジェクトの今年のお題は「LOVE」。そして、ついに今年2011年のグランプリ受賞アーティストが決定した。今年の勝者は、アーティストのchiaki kohara。審査員達を唸らせ、「彼女こそ新人類」「抗し難い魅力」「都市の勢いに負けないスピード感と埋没しない存在感、そして、強烈な自己主張」と太鼓判を押させた驚異の新人だ。彼女の作品は、大きな耳に、奔放に手足の伸びた女の子たちと極彩色に彩られ、イノセントな女の子の世界観を時に毒々しいまでに赤裸々に描写し、みるみる観客を引き込む魅力がある。そんなchiaki koharaの作り上げる独特の世界観とは、一体どこからやってくるのか? 11月28日から銀座 ソニービルを飾る「新人類」chiaki koharaのアーティストとしての姿勢をじっくりと伺った。

「恋する女の子の瞳」のような、見つめる「LOVE」を表現しました

―この度はグランプリ受賞おめでとうございます。ご自身の作品が今後1年間ソニービルを飾ることが決まった今、どのようなお気持ちですか?

CK:ありがとうございます! ギョギョッという感じで(笑)、素直に喜ばしくてびっくり仰天ですが、東京で自分の作品を飾り本格的に進出することを目指していましたので、すごく嬉しいですね。

 
「Canvas @ Sony 2011 グランプリ作品」
※画像は合成によるイメージです

―早速お伺いしたいのですが、今回「Canvas @ Sony」へ作品を応募されたきっかけとは?

CK:「Canvas @ Sony」のコンセプトに大きく魅かれ、「これだ!」と迷うことなく応募しました。銀座という一等地で、しかもソニービルの壁一面がキャンバスだなんて、こんな機会は他には無いなと、自分の作品をいろいろな方に見ていただく絶好のチャンスだと思いました。

―2011年の募集は「LOVE」をテーマとした作品ということで、シンボルとしてハートを思い浮かべる人は多いと思うんですが、今回のchiakiさんの作品にはとても予想を裏切られました。非常に手足の細長い女の子が、カーテンの向こうからこちらを覗いている、という作品で、「なぜこれがLOVEなの!?」って。

CK:私も最初「LOVE」をイメージした時には、ハート、ピンク、家族、恋人といったものが浮かんできたんです。でもそれを敢えて全部取っ払ってみて、そこであらためて「LOVE」ってどんな感情の表れなんだろうと考えていくうちに、「『LOVE』とは形のないもので、一人ひとりにそれぞれの想いがあるからこそ決まった形では表せないんだ」ということに気づいたんですね。そこで、「恋する女の子」が好きな人を見つめる「LOVE」を表現したいと考えました。普段から題材として女の子を描いていることもあり、女性の「恋する瞳」=「LOVE」としたんです。

chiaki kohara
chiaki kohara

―クリスマスらしい配色の作品でもありますよね。こちらの作品は、11月28日から12月25日までソニービルを飾ります。

CK:クリスマス前の展示ということで、もちろんクリスマスの夜を意識した配色の作品になっています。向こう側に好きな男の人がいるんだけど、あと一歩の勇気が足りなくて話しかけられないっていう…恋ってそんなものだと思うんですが、この作品に描かれているのは、まさに恋焦がれる女の子のシャイな瞳そのものなんです。

2/3ページ:「気持ち悪いし、売れないよ」といわれても描き続けた学生時代

むしろ、銀座の街になじませない、という意識で

―大きな耳に、奔放に手足の伸びた女の子たち、そして独特な色使いが特徴的なchiakiさんのアートの世界観というのは、どのように生まれたものなのでしょうか?

CK:私は女の子らしい服装をするのが大好きなんですけど、性格はかなり男っぽいんですよ。それこそ80パーセントくらいは男、みたいな感じで(笑)。子どものころから昆虫が大好きで、昆虫の長くて角ばった手足に魅力を感じてきました。ゴキブリもさわれるくらいですから(笑)。手足の長い作風というのは、その昆虫の手足に対する愛着からきているのかもしれないですね。また、自分に女子っぽさがないからこそ、それを補完するように、作品ではリボンといったモチーフのような女の子らしいものを登場させているんです。ボタンやレースを絵に貼ったりもするんですが、昔、バービー人形の洋服を作ったりしていて、その余った布の切れ端などを使い始めたのがきっかけでした。

chiaki kohara

―今回は銀座の街中で、しかも巨大な細長いビル全面がキャンバスという、特殊なシチュエーションで作品が展示されることになりますね。作品の制作段階で、特に意識していたことはありますか?

CK:銀座の街に自分の作品を馴染ませないように、と敢えて意識しました。「銀座の街にコレ!?」っていう衝撃を見る人に与えたくて。ソニービルの持つ独特の縦長さを生かして、ビルから女の子が覗いているような演出にしたかったんですね。ビルに自分の絵をはめ込むだけでなくて、遊び心をふんだんに使い、ソニービルでしかできないような巨大アートを創りあげるのが目標でした。

―クリスマスの銀座といえばショッピングのイメージも強いし、「試着室からこちらを覗いている女の子」というような解釈もできますね。

CK:そうなんです! 雪が降ったりしたら、さらに雰囲気が出るでしょうね。きっとこの作品は子どもからおばあちゃんまで、あらゆる方がご覧になってくださると思うんですが、各自の解釈を自由に楽しんでいただきたいですね。

「気持ち悪いし、売れないよ」といわれても描き続けた学生時代

―ではここで、chiakiさんご自身についてお聞かせいただきたいのですが、もともと絵を描き始めたのはいつ頃、どのようなきっかけだったのでしょうか?

chiaki kohara

CK:スポーツ一家に生まれたので、子どもの頃から運動系の部活に入りつつも、空いている時間はずっと絵を描いていましたね。高校卒業後も、専門学校でデザインを学びながら絵を描き続けていたのですが、在学中の2007年にUNIQLO CREATIVE AWARDという賞を頂いて、初めて自身の作品がTシャツとして商品化されたんです。そこで自分の作品が人の手に渡るということを経験し、企業とのコラボというものへの参加意識が強くなっていきました。そうした出来事が発端で、自分の作品が世の中に広まっていくことを実感するようになったんです。

―最初から、このように手足が長くて耳が大きい女の子の絵を描いていたんですか?

CK:そうではなくて、実はある絵を描いているときに偶然生まれたものだったんですよ。私は人間の顔にしてもなんにしても、「左右不対称ならではの美しさ」に魅力を感じているので、左右で微妙に目の位置が違っていたり、偶然生まれた汚れや擦れといったものも、ありのままに残しておいた姿が美しいと感じているんです。「君の絵は、気持ち悪いし、売れないからからやめたほうがいい」といわれたこともありましたが、それでも自分の絵を描き続けたんです。自分が「一番楽しい」と直感できる絵を描いて、信じて描き続けることが一番重要なんだと思っています。

3/3ページ:明日締切で、90%仕上がっているイラストがあったとしても、全部消して最初から始められるんです

明日締切で、90%仕上がっているイラストがあったとしても、全部消して最初から始められるんです

―ゴミを拾ってきて、キャンバスに貼り付けて絵を描かれることもあるとお伺いしましたが…。

CK:そうですね。あえて障害物を取り入れた環境で作品を制作していくと、自分の予想もしなかった作品が完成することがあるんです。ライブペインティングもよくやるんですが、会場にいたお客さんからその場で貰った素材を貼り付けて描いていったり、お客さんと相談しながら色を一緒に決めたりと、コミュニケーションの中で絵がどのようにして出来上がっていくのか、私もお客さんとその過程を楽しんでいます。

―今回の「Canvas @ Sony」グランプリ受賞に続いて、韓国のアートフェアにも出展されたそうですね。今後さらに挑戦していきたいことはありますか?

CK:コラボレーションを追求していきたいですね。以前もグンゼさんとのコラボで、私のイラスト入りの下着を商品化して頂いたのですが、自分の絵と他の要素が合体することで生まれる新しい存在感に魅力を感じています。今回のSonyとのコラボの後にも、ファッションブランド等とコラボをしていきたいと思っています。1枚の絵を見に来て頂くというよりも、いろいろな場所に私の作品が散らばっていて、chiaki koharaという存在をもっと身近に感じて頂けることが目標ですね。

―今回のコンテストで、審査員の方々はchiakiさんのことを「新人類」と絶賛されていますね。

CK:そうなんですか! 恐れ多いです。自分の絵が誰かの絵に似ているといわれるよりも、これから自分自身が、他の誰かの目標になっていけたら嬉しいですね。それでいて、楽しみながらやり続けていくということがとても重要で。今もまだまだ、自分の個性を追求し常に変化して、進化しているところです。

―そんなchiakiさんが、描くときの姿勢として気をつけていることとはなんでしょうか?

CK:私、今まで絵を描き続けてきて、「失敗したなぁ」と思ったことが一度もないんですよ。もし締め切りが明日で、今の時点で90%仕上がっているイラストがあったとしても、少しでも納得できない部分があれば、それを全部消して最初から始めることにも全く抵抗がないんです。自身の作品に向かいあったとき、直感で「これでは気持ちよくないなぁ」と感じたならば、思い切ってゼロの状態に戻ったほうが良いものが作れる。迷ったら止まらずに、常に進みつづけるという意識はとても重要だと思います。いつも今の自分が最高だと信じて、明日の自分はさらに今の自分より素敵であるように、ということを常に意識しています。

―それでは最後に、ソニービルでchiakiさんの作品をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いできますか?

CK:ぜひ、自由な解釈で鑑賞して頂けると嬉しいです。なぜこの絵が「LOVE」を意味しているのか、きっとそれぞれの想いや感じ方が違ってくると思うので、個々の解釈を楽しんでいただければと思います。私の絵が飾られたソニービルの正面を待ち合わせ場所にして頂けたりすると、さらに嬉しいですね! クリスマスのあとは、お正月、そして来年夏の3回に渡って、chiaki koharaの作品が銀座 ソニービルに飾られていきます。お正月の絵の内容はまだ秘密なんですが、新年の幕開けにピッタリなアートを準備していますので、ぜひ楽しみにしておいて下さいね。

イベント情報
『Canvas @ Sony 2011 グランプリアーティスト chiaki koharaアートウォール掲出期間』

1作品目:2011年11月28日~12月25日
2作品目:2012年1月1日~1月31日
3作品目:2012年夏

プロフィール
chiaki kohara (チアキコハラ)

1986年7月7日生まれ。大阪出身大阪在住。UNIQLO CREATIVE AWARD 2007 草間彌生賞受賞。イラストレーションチョイス宇野亜喜良審査入選。2010梅田〔E-ma〕で行われたFM802digmeout exhibition2010に参加。御堂筋アートグランプリで「さくらぱんだ」にライブペイント。その他ガールズバンド「ねぐりぢぇ」のCDジャケットなども制作。現在は各地でライブペイントにも挑戦中。作風としては、大きな耳に、奔放に手足の伸びた女の子たちが特徴。アクリルガッシュとボタンやレース、お菓子のパッケージなどの様々な素材で作り上げられる極彩色の世界観は、女の子なら一度は憧れたであろうワンダーランド。DMO ARTSで開催された初の個展では作品がほぼ即完。着実に多くのファンを生み出している。



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